日和聡子は中原中也賞受賞から一躍有名になった詩人です。独特の作風には数々の評価が集まり、現在は小説執筆なども行っています。日和聡子の魅力が光るおすすめの作品を4つご紹介します。
日和聡子は、2001年「びるま」による中原中也賞受賞で脚光を浴びた詩人・作家です。立教大学で日本文学を学んできた日和は、大学卒業後は自身の詩の執筆、及び作家活動を続けています。学んできた分野も活かした日本語の美しさに視点を置く作風が魅力です。民話や土着のエピソードや原風景といったものに根ざした詩も多く産んでいます。
日和聡子の世界は絵画にも通じるところがあります。著名なイラストレーターが日和の世界に対して高い評価を残すなど、分野を横断した業界からも慕われている作家です。
例えば田舎の居酒屋での出来事。酔っ払いにおっぱいを触られる作者。その出来事は、「いやだ」という感情ではなく、「私を何かと間違えている」という視点で詩になります。
日和聡子の視点は、日常のありとあらゆる光景が幻想と入り混じっています。それがわざと作品のためにそうしているのではなく、日和の目には自然そのように映っているということがわかる詩集、それが「びるま」です。
八時に帰ってくる亀を待つという不思議な情景を描いた「亀待ち」、逆立ちした男がやってくるという奇妙な冒頭から始まる「赤箱」。また、戊辰戦争に取られた駒を待つという立ち位置から過去の歴史にふける「戊辰種」。そのどれもが「これは現実なの?それとも?」と首をかしげる、けれども止められない魅力を放っています。
- 著者
- 日和 聡子
- 出版日
中原中也賞を受賞した本作は、最終選考に残った詩集たちの中で唯一私家版(出版社を通さないで自ら作り上げた本)の作品だったそうです。自らカッターとプリンターで本を作り上げるというところからしてちょっと他とは違う日和聡子の横顔に触れるような一冊ですね。
作品に対して中原中也賞の選考委員は「びっくり箱を開けたような」詩集であると大絶賛し、他と一線を画すこの詩集を世に送り出しました。コミカルなアート作品のような、五感で感じられる言葉の選び方と日和聡子にしか見えていない世界は必読です。
イザナミとイザナギが国をまとめるよう言い渡され、矛を用いて塩を積み上げ創った最初の島が舞台。日本創世の神話に登場するこのイザナミ、イザナギの行ったことを散文詩のように描いた一冊が『おのごろじま』です。
日和聡子はこの作品を「ある島で起こったことの叙事である」と言います。まだ人間すら存在しない世界における出来事をそのまま記したという設定で本書はまとめられました。小説とも散文詩ともつかない不思議なスタイルで描かれており、伝説を記録したという設定なのですから、面白いですね。
そして、私たちは自分たちに流れる血の一番奥底にある何かが共鳴することで、本作に対する懐かしさや暖かさを感じるのです。
- 著者
- 日和 聡子
- 出版日
日和聡子の美しい言葉選びが存分に楽しめる作品です。詩集では短い言葉たちの中にその魅力を発見していく面白さがある一方、『おのごろじま』では日本が出来ていくまでの情景を連綿と描くその言葉たちの中に、日和の文才を改めて感じることができるのです。
歴史の授業や何かしらのきっかけで、おそらく多くの読者はイザナギとイザナミの日本創世の流れをすでに知っていると思います。それでもこの作品が楽しめてしまうのは、日和聡子がまるでそれらを本当に見たかのような文章で書き表してくれているからです。
本作は短編集で、日和聡子の詩とはまた違った魅力を感じられる作品が詰まっています。そして、版画家金井田恵津子の挿絵が日和の魅力をさらに引き出す一冊です。
失恋した一人の女は、港町へ旅をします。その旅が自ら苦しみのあまり人生を閉ざそうとしているのか、あるいは新しい出会いを見つけるためなのか。港町を舞台に一人の女の心情を描く「岬」は、五感で彼女の見る世界を感じられる傑作です。
「放生」は作家の筆の進まぬ様子を実に美しく作品に閉じ込めています。時計の針は進み行き、煙草を燻らせ、それでもなお逃げ出したくなる思いをリズミカルな文体で表現しました。
- 著者
- ["日和 聡子", "金井田 英津子"]
- 出版日
- 2009-03-10
流れるような文章が非常に美しく、日和聡子らしい現実とやや離れた世界を描いている作風は健在です。日和聡子が異才の能力の持ち主であることに改めて気づかされる作品。長く愛される短編集としてランキングなどにも登場する、知る人ぞ知る通な短編集です。
金井田ワールドの広がる繊細な版画の挿絵も見事です。文字で綴られた世界に限定的な解釈をつけない、それでいて象徴的な絵が1枚1枚緻密に描かれています。日和聡子、金井田英津子双方のファンが楽しめる一冊ですね。
作家崩れの印南は、海辺の民宿でのらりくらりと執筆活動にふけっています。ある日古文書「螺法四千年記」を発見し、印南は謎の古文書の解読に勤しみ始めました。
すると、印南はなぜかトカゲに変化。自分たちの暮らす人間社会の足元や物陰に潜むカタツムリ、虫、コウモリたちなどが作るもう一つの世界に印南は飛び込みます。そこは混沌としたもう一つの社会であり、彼らは実に生き生きと、そして毒々しくコミカルに生きているのです。生き物だけでなく、神やなにやらとの遭遇も日常として溶け込んでいきます
やがて印南の現実とファンタジーは交錯し、人間社会と足元の世界はいったいなにが違うのか、わからなくなっていくのです。
- 著者
- 日和聡子
- 出版日
- 2012-06-23
ストーリー展開があるというよりは、印南の夢幻のような世界を実に美しく描いた長い絵巻のような作品です。ここに登場する蝸牛やタコなどは本当に可愛らしく、人間よりも人間らしい情にあふれた存在として愛着が持てます。一方、そこには生死が目の前に広がっており、人間世界よりも圧倒的に五感を刺激する世界が待ち受けています。
日和聡子の目が捉えた、私たちがズームインしても見ることのできない世界を見事に描いてくれた一冊。小説として楽しむのではなく、映像として楽しむという感覚が強いです。日和聡子のどの作品を読んでも「この人の見ている世界は他と違うんだろうな」と舌をまくのですが、特にこの作品は強烈な印象を受けます。