山本兼一のおすすめ文庫作品5選!『火天の城』で直木賞を受賞

更新:2021.11.8

歴史上の人物や出来事をテーマにしながらも独自の視点を取り入れる作風が魅力の山本兼一。今回は魅力が存分に伝わるおすすめの作品を5つご紹介します。

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直木賞、松本清張賞受賞作家・山本兼一とは

山本兼一は歴史上の人物や背景をオリジナリティ豊かに描く作家です。京都府にて国文学者の父のもとに生まれ、幼い頃から歴史に近い環境で生きてきました。途中、美学に興味を抱くことがありつつも、職業はライターや編集など執筆に関わることを選び、やがて作家としてデビューします。

『利休にたずねよ』で直木賞、『火天の城』で松本清張賞を受賞した山本は、確かな文章力と細かな資料研究から成る緻密な物語により、歴史小説作家として独自のポジションを確立しました。映画化された作品も有し、多くのファンを持つ作家です。

 

前代未聞の城の建造に挑んだ職人の生き様、山本兼一の代表作

天下統一に思いをはせる織田信長。安土に城を建設することを決めた信長は、その当時存在しえなかった五重塔を持つ、「天にそびえ立つ城」を建設せよと棟梁(大工)たちに命じます。この命を果たすべく複数の棟梁がその建築図を作成しますが、その中で唯一、城が火攻めにあった時のことまで考慮して建築図を描いたのは岡部でした。

岡部は信長からの信頼を勝ち得て安土城建設に挑みますが、「通常よりも足早に建設せよ」との命を下され、様々な工夫を凝らし、仲間たちに助けられながら建造を進めていきます。しかし、次々と病に倒れる仲間や家族の姿を見て、岡部一族になにやら不吉な影がまとわりついているのでは……と囁かれはじめました。果たして前代未聞の城は完成するのでしょうか?

著者
山本 兼一
出版日
2007-06-01

本作は松本清張賞を受賞し、映画化も果たした山本兼一の代表作。安土城の建築は、壮大なスケールで実現されたプロジェクトにもかかわらず、今やその正確な姿はわからないミステリアスな城です。

その安土城をテーマとし、かつ棟梁を主人公とした本作。華々しい有名な武将の伝説を追っているわけではないのに、エネルギーに満ち溢れているのが魅力です。仕事と生き様について多くのメッセージを読者に投げかけます。

岡部父子の関係や、信長と岡部との絆、そして何より必ずや実現させてみせるという強い思いに胸を打たれる傑作です。

一心に刀を作り続ける男と妻の生涯

長曽祢興里は甲冑を作る職人でしたが、時代は変わり甲冑の注文はほとんどなくなります。子どもを飢饉で失った興里は妻と生きていくために心機一転、刀を作る職人になることを決意しました。

同じ鉄と言えど、作り方も扱い方も全く違う刀に対して戸惑いながら、興里はその繊細な職人技を身につけていきます。妻のゆきも興里を支えるべく、病気を患う体を持ちながらも連れ添い続けるのです。そんな二人まっすぐな生き方に共鳴し、支援する者が集い始めるのでした。

刀を作ることは地道で、繊細で、緻密です。その職人技やプロセスに重なり合うような生き様をする興里は、やがて虎徹という名を刀に残す、周囲の認める刀職人となっていきます。

著者
山本 兼一
出版日
2009-10-09

刀を作るまでの事細かな表現と、人生そのものの大胆な描き方が対をなす一冊です。刀に対して興里が語る、熱い名言の数々は、人生に迷う人たちを導いてくれる強さがあります。

強く鉄を打ち素晴らしいと評される刀を作ることで、自身の強さを再確認していく興里。その興里の心境は、周囲との交わりによっても徐々に変化していき、成長していきます。やがて家綱に「日本一の刀鍛冶」と称された興里は、虎徹という名を刀に刻むようになりました。

この大成を支えたのは、ひとえに興里のたゆまぬ努力であり、そばにい続けた妻ゆきの忍耐です。現代社会人が失いつつある人間の底力を見せてくれる作品となっています。

山本兼一の傑作歴史小説、千利休に隠された恋物語

千利休は美を追求し、日本の「侘び寂び」の精神に根ざした茶道の体系化に寄与しました。しかし、あまりの発言力と存在感から豊臣秀吉の混乱を招き、切腹を命じられます。妻の宗恩は利休には恋い焦がれた相手がいたのではないかと感じており、彼の死を前にして利休にその質問を投げかけます。

利休はかつて恋をした女性が確かにいました。その女性は利休の美意識の根幹を作るのに必要な存在でした。しかし、彼女は王への貢物とされており、利休とは結ばれぬ運命にあったのです。利休は彼女と一緒にいたいがために駆け落ちしますが……。

著者
山本 兼一
出版日
2010-10-13

直木賞を受賞し、映画化も果たした山本兼一の傑作。千利休という誰しもが知り得る歴史上の人物に、斬新な恋物語を取り入れた、歴史小説でもあり恋愛小説でもある一冊です。

過去を振り返る利休は、自身の生き様やセンスを培ってきた存在について思いを馳せますが、決してその真実を明かそうとはしませんでした。

史実に基づいた緻密な情景描写や、利休のカリスマ性の根源は「叶わぬ恋」にあったという仮説が見事に調和し、一つのエンターテイメントとして完成されています。歴史上の人物を描いた小説は数あれど、歴史上の人物の見方をガラリと変えてしまう本作のような作品は、なかなかないのではないでしょうか。

日本史上最大のミステリ、本能寺の変を鮮やかに解き明かす

本能寺の変の約3ヶ月前から動き出す様々な陰謀。正親町帝は信長を天下人にしないため、自らが手をくだすことなく信長を打倒するための罠を張り巡らせます。明智光秀は帝の手の中で弄ばれながら、信長を討つという時代の濁流に巻き込まれていくのです。更に、近衛前久や徳川家康など歴史上の最重要人物たちが、たったの3ヶ月間の中で濃縮した拮抗を続けます。

ついにその時はやってきます。本能寺の変は、様々な人物の野望、葛藤、思いを経て信長の命を奪うことに。そして、三日天下の明智光秀もまた、歴史の渦に沈んでいく運命でした。日本史上もっとも激動した時期、謎に包まれた信長の死を鮮やかに描き出します。

著者
山本 兼一
出版日
2014-12-25

本能寺の変前後の小説は、日本史を扱う小説の中ではそう珍しいものではありません。ドラマティックで、登場する人物もそのままで十分読者の心を掴むものです。

しかし、その題材を描いた山本兼一は、あえて新しい帝の陰謀という基軸を入れました。これが明智光秀の三日天下をより人間くさく、切ないエピソードへと昇華します。強い権力のある発言に対して右へ左へ惑わされる人々という視点でみると、その後歴史に名を残した信長、光秀、家康を全く別の印象で楽しめますね。

仕事を心から楽しむ誠の職人像、山本兼一の遺作

鉄砲鍛冶である国友一貫斎は、常にものづくりやアイディアにワクワクする男です。故郷から江戸に赴いた一貫斎は、江戸に溢れるエネルギーや最先端の技術、そしてそこに行き交う人々と交流を重ね、鉄砲以外のもの作りに徐々に力を入れていきます。

照明器具、筆ペン、望遠鏡……ジャンルにこだわらない彼のものづくりや発明は少しずつ脚光を浴びていきました。そんな彼の魅力は、どんなに失敗してもめげないところです。新しい事をなすには失敗がつきものと割り切って次々とチャレンジを重ねていきます。

江戸で名を轟かせた一貫斎は、やがて老いた故郷を自身の技術で立て直そうと画策することに。飽くなき挑戦は果たして村を救うことができるのでしょうか?

著者
山本 兼一
出版日
2017-02-10

山本兼一の遺作です。ものづくりをすることの楽しさや、仕事に生きることの喜びをこれでもかというくらいまっすぐに表現した作品。屈託無くものづくりを賛美する一貫斎の姿は、もしかすると山本兼一自身の表れなのかもしれません。

まだ現代社会のように便利なもので埋め尽くされていなかった江戸で、どうしたらもっと良くなるのかと日々考えている一貫斎はとても生き生きしており、現代を生きる読者たちが見習いたくなる姿だと思います。『夢をまことに』というタイトルも、シンプルながら強い思いを感じるものです。

いかがでしたか?日本史が好きな方もそうでない方も、日本史や歴史を小説から感じてみると、ガラリと雰囲気が変わるはずです。山本兼一の魔法で雰囲気が変わった歴史に興味のある方は、ぜひご覧になってみてくださいね。

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