小説家としての活動はもちろん、劇作家や政治家としての一面も持っていた山本有三。大正から昭和の激動の時代に、日本芸術院の会員もつとめ、文化勲章も受賞し、文壇に貢献したひとりです。
山本有三は、1920年に発表した戯曲『生命の冠』でデビューを果たしました。小説家としての知名度がとても高い人物ですが、実は劇作家としてのスタートが文壇に登場するきっかけとなったのです。
戯曲だけではなく、かつては短歌の結社である「竹柏会」に入り、各雑誌で入選を果たしたこともあります。東京帝国大学在学中はドイツ文学を学び、学生時代から『新思潮』の創刊に参加。卒業後は、早稲田大学のドイツ語講師として働くなど、多彩な才能を持っていました。
戦後は、貴族院勅選議員となり憲法の口語化運動に取り組むなど、政治家としても活躍しています。1947年からは参議院議員となり、「緑風会」の軸として尽力しました。
もちろん小説家としても多数の作品を発表しており、新聞連載の『生きとし生けるもの』は、世間における山本の知名度をぐっと上げた作品となりました。軍の圧迫により、一時は連載中止に追い込まれた『路傍の石』なども、長く愛されている名作だと言えるでしょう。
東京都三鷹市には、旧邸宅が三鷹市山本有三記念館としてオープンしているほか、故郷の栃木県栃木市には、山本有三ふるさと記念館があります。時を経てもなお多くの人に愛され続けている山本の作品の中から、代表的な作品を5つご紹介していきましょう。
物語の舞台は、明治中期。とても貧しい家に生まれた主人公の愛川吾一は、その貧困を理由に幼いながら奉公に出されることになります。賢く優秀な成績を収めていましたが、進学をすることが叶わなかったのです。
奉公先では主人や番頭と対立してしまい、名前が読みづらいからと改名まで強いられてしまいます。かつての同級生や初恋の女の子まで、彼を見下してくる辛い日々。しかし、そんな厳しい環境においても、純真を失わず、経済的にも精神的にも自立した大人になろうとする吾一の姿を追った成長ストーリーとなっています。
- 著者
- 山本 有三
- 出版日
- 1980-05-27
本作は1937年に朝日新聞で連載を開始しましたが、1938年には新編として『主婦の友』に移行します。当時の校閲の影響は深刻で、1940年に山本は執筆を中止。事実上未完の作品となってしまいました。
小学校を出てすぐに丁稚奉公に出され、心身共に過酷な状況に置かれながらも、持ち前の知略と精神を活かして強く前を向いて生きていく主人公の姿には、胸を打たれる人も多いでしょう。勤勉さや正直さといった、つい忘れがちだけれども大切な部分を、改めて思い出させてくれる一冊です。
主人公の周作は、炭鉱夫の息子として生まれ、学業に優れた少年でした。貧しいながらも誠実に生きる父や、炭鉱で生まれる友情などにスポットを当て、周りの人々との縁を深めながら彼が成長していく様子を追いかけていくストーリーです。
同じ命を持ってこの世に生まれたのに、どうして人生にはこんなにも大きな隔たりが生まれてしまうのでしょうか。波乱万丈の周作の人生は、どのような結末を迎えるのでしょう。教材にもたびたび取り上げられる、日本が誇る名作です。
- 著者
- 山本 有三
- 出版日
本作は1955年に実写映画化もされています。山本有三の作品を当時のスタイルに焼きなおしたものでしたが、原作ファンからの支持が厚かったのは、『生きとし生けるもの』の本質が時代が変わっても重要なこととして語られていたからでしょう。
弱き者には優しく手を差し伸べ、人と人は平等でなければいけないというのは、作中でもくり返し取りあげられているテーマです。普遍的なテーマを扱いつつ、炭鉱の生活ぶりの丁寧な描写や、危うく命を落としかねない危険なシーンからの生還など、メリハリのある展開や演出も本作ならではの見どころです。
本作は、様々なジャンルの作品を21集めた短編集です。初出は1935年で、長きに渡ってたくさんの人に読み継がれてきた名作集でもあります。爽やかな感動を与え、タイトルのような勇気を与えてくれる一冊です。
「製本屋の小僧さん」は、実在した大科学者ファラデーの少年期を綴った伝記的な作品となっています。「キティの一生」は、自らも貧窮していながら、貧しく不幸な人のために人生を駆け抜けた女性の物語です。心に染みる魅力的な作品ばかりが集められています。
- 著者
- 出版日
- 1981-06-29
本作は作品ごとに舞台が大きく異なっていて、動物を取り扱った大自然の物語もあれば、遠い異国のストーリーもあり、ひと作品ごとに様々な世界に旅立つことができます。
非常に古くから読まれている作品ではありますが、何度かの編纂を繰り返すうちに、いくつかのエピソードが追加されているのもポイントのひとつです。時代ごとに追加された作品の特徴を見ながら読むのも良いかもしれません。
主人公の義夫は、厳格な父と優しい姉しず子と3人、つつましやかに生きています。心優しい彼は、自分は損をするだけでもクラスメイトを助けられるような少年ですが、様々な困難が彼の前に立ちふさがっててくるのです。
物語が進むうちに、事態は急展開を見せます。義夫は、彼の母は早くに亡くなったと聞かされていましたが、彼女の写っていた部分がくり抜かれている写真に疑問を抱いていました。やがて周囲で奇妙なでき事が相次いで発生します。母は本当に死んでいるのか、父や姉に隠された驚くべき秘密とは......?少年の成長と家族の謎に迫る感動の物語です。
- 著者
- 山本 有三
- 出版日
- 1950-06-01
曲がったことが大嫌いな厳しい父と、1度持ちあがった縁談がふいになってしまう姉、運動は得意ですが成績は振るわずに、悪い友達とつるんでしまう義夫。本作の見どころは、この家族それぞれが歩んでいく姿にあります。
決して恵まれている環境ではないものの、各々が信念を持って懸命に生きている姿は胸に迫るものがあるでしょう。
本作は、幕末期から明治初期にかけて活躍した小林虎三郎にまつわる故事をもとにした戯曲です。戊辰戦争で焦土となってしまった城下町の長岡で教育に尽力した彼の活動を、劇作家としての実績もある山本有三が書きあげ、大ヒットとなりました。
敗戦の窮状に届けられた百俵の米。しかしその米俵は、藩士に配分されるのではなく、売却して学校を建てるために使われることになります。文句を言う藩士たちを前に、小林虎三郎が告げた言葉とは?教育にまつわる歴史的なでき事を、緩急ある展開で綴った名作戯曲です。
- 著者
- 山本 有三
- 出版日
本作で取り上げられた小林虎三郎の故事は「米百俵の精神」という言葉になり、後の政界などでも大きく取りあげられるようになりました。時代を経て長く愛されている戯曲であり、自らの信念を貫き通した歴史的人物の人生をいきいきと描いている傑作です。
また、代表的な米百俵のエピソードだけではなく、この信念を実現するためにどのような模索があったのかも、本作では詳しく説明しています。彼を取り巻く藩士たちの想いや、学校を建ててからの苦難や成果などを知るのにもぴったりの作品でしょう。
いかがでしたか?山本有三の作品は、小説も戯曲も素晴らしいものばかりです。ぜひチェックしてください。