戦闘機やファンタジーで有名な夏見正隆。豊富な知識と発想を基に、様々な作品を発表してきました。今回はおすすめの4作品を紹介します。
夏見正隆は1994年に『レヴァイアサン戦記』でデビューした小説家です。いわゆる架空戦記モノで、あり得たかもしれない歴史の「if」を描いたものでした。夏見はこの「if」を描くのが非常に上手く、以後の作品でも定番の形になっています。
緊迫した現場を描く一方で、作品の背骨となっていることが多い政治の部分……現代の防衛や国家間の争いなどの、起きてもおかしくはないという絶妙なラインが与える臨場感は見事です。
そして、F15をはじめとした戦闘機の描写、そのアクション性にも注目すべきです。最も速い乗り物である戦闘機の戦いはテンポが良く、読む者を熱くさせるでしょう。
我が国に頻繁に訪れる領空侵犯機。しかし、現場にいる自衛隊の指揮官には、自らの判断で敵機を撃墜する権限がありません。
ある日、領空侵犯の国籍不明機が現れます。航空自衛隊は繰り返し警告しますが、国籍不明機はこれを無視し続けました。そして、ゆうゆうと沖縄上空を通過し、目的だったと思われる偵察任務を終えて去っていきます。
あの機が偵察任務ではなく、爆弾を積んでいたらどうなっていたのか……現行の法律の下では敵機を撃墜できない航空自衛隊の葛藤と、その隙を狙って日本を狙う外国やテロリスト。壮絶な戦いが始まります。
- 著者
- 夏見 正隆
- 出版日
- 2008-09-05
航空自衛隊の実力は一流で、他の大国と比較しても非常に高いレベルにあると言われています。本作の主役であるF15Jも、近代化に適応した改修が繰り返し施された優秀な機体です。
しかし、作者の夏見正隆は自衛隊の華麗な活躍よりも先に、現代の国防の問題点を描きました。いくら優秀な装備と練度の高い隊員を揃えたとしても、運用できなければその意味を失うのです。
現在の憲法解釈では日本は軍を持てず先制攻撃は不可能……使えないと分かっている装備は無いのと同じではないのか。そして航空自衛隊は抑止力として機能するのか。
夏見正隆の問題意識が作品として形になった、メッセージ性の強い作品です。
日本が原発ゼロを表明しました。すると、パク・ギムル国連事務総長が高速増殖炉「もんじゅ」用の貯蔵のプルトニウムの管理を国連に移すことを提唱します。これは、貯蔵するプルトニウムによって核兵器を製造するのを脅威と見たためでした。
「日本は核保有国である」という衝撃的な認定を受け日本はどうすべきか。そんな時に、航空自衛隊のF15に起きた戦闘訓練中のミサイル誤射、そして行方不明……。
これは、ただの偶然か。それとも日本に敵意を向ける何者かが起こした事件か。世界の大きな陰謀と向き合います。
- 著者
- 夏見 正隆
- 出版日
- 2014-09-01
米国の核兵器を「直接的核の傘」とすれば、日本が持つ核燃料は「間接的核の傘」と言えるでしょうか。作ろうと思えば核兵器を作れる日本が潜在的核武装大国と認定されるというのは、非常に現実味があるおもしろい設定です。
そして、国連万能論の限界もまた見所です。国を監視するのが国連という組織ですが、国連を監視する組織は存在しません。もし国連がなんらかの利益誘導によって日本に敵意を向けたらどうなるのか……これもまた現実的な恐ろしさがあります。
政治的な思想や駆け引きが絡む、スケールが大きい作品です。
「レイヴン」「ダブルバッジの男」などと様々な異名を持つ、優秀な航空自衛隊パイロットであった瀬名一輝。とある事件をきっかけに彼は民間航空会社の総務へ転職し、娘を育てながら平穏に暮らしていました。そんな瀬名の前に、国家安全保障局の萬田路人と自衛隊時代の先輩であり航空会社の社長でもある鍛治光太郎が現れます。
北朝鮮から帰ってこられなくなった経済視察団の救助のため、救助機MD87の操縦をしてほしい……国を巻き込んだ大きな危機に、瀬名は再びパイロットとして立ち上がります。
しかし、この救出作戦の裏にはもっと大きな意味があったのです。東アジア全体を巻き込んだ大きな思惑が動き出します。
- 著者
- 夏見正隆
- 出版日
- 2015-07-13
北朝鮮からの脱出という、パニックムービーやサスペンスのような緊張感溢れる題材です。主人公が操縦するのは、機動性が高いとはいえ民間機。戦闘機のような武装も無ければ、空戦に耐えられるような性能もありません。
しかしそういう限られた状況だからこそ手に汗握るアクションになっていて、近くにある北朝鮮という国の得体の知れなさも手伝ってか、先の読めない展開には驚かされます。
政治あり、アクションあり、いろんな要素が詰まった大作です。
父親と各地を旅する生活を続けていた、主人公の少年リジュー。しかし彼が12歳になった時に突然父から別れを告げられ、一人で旅を続けることになります。
そして、リジューは旅の途中で衛兵に追われ拘束されました。そこで現れたのが黒兜騎士団と名乗る謎の軍団でした。彼らは人々を殺していき、リジューにも襲い掛かります。
リジューは謎の猫ノワールに助けられ、守護騎を操ることでなんとか敵を退けたものの、今度は民衆から領主の息子・エミュールと勘違いされてしまいました。それを政治的に利用しようとした勢力に、新しい領主になるように説得されますが……。
- 著者
- 水月 郁見
- 出版日
- 2011-06-03
夏見正隆の原点であるファンタジー。偶然ロボットに乗ることになった少年の成長と、血筋の秘密……設定は極めてオーソドックスですが、楽しい要素が詰まった作品です。
ファンタジーでありながら政治的な色が強いのも特徴でしょう。血筋が政争の道具として使われ、時には嘘をつきながら国という形が保たれていく……綺麗ごとだけでは済まない「暗さ」が、本作の魅力となっているのです。
単純なロボットアクションから政治ドラマに。読む年齢によって着目点が変わっていくような、大人にも子供にもおすすめできる一冊です。
国防からファンタジーまで幅広く作品を発表している夏見正隆。シリーズ物をはじめとして優れた作品がたくさんあるので、おすすめです。