のんびり、まったり。ゆる〜く過ごしているように見える少女たちが生きるのは、終末世界? 独特な雰囲気に荒廃した世界、そこでマイペースに生きる少女たちのギャップが魅力の『少女終末旅行』。2017年秋にアニメ化し、個性的な作風にさらにファンが増えた人気作です。 この記事ではそんな本作の魅力を最終巻までご紹介!
- 著者
- つくみず
- 出版日
- 2014-11-08
本作はただの一風変わった日常漫画ではなく、世界観に隠された謎が大きな見どころとなっている本作は、2017年にはテレビアニメ化されました。
詳しい情報はTVアニメ「少女終末旅行」公式サイトをチェックしてみてください。
なぜ、世界は滅んでしまったのか。チトとユーリも、もちろん読者も知りません。かつて栄えていたであろう街の残骸を眺めてヒントにしながら、なんとなく推理するだけです。
つまり『少女終末旅行』は、ある種ミステリーのような楽しみ方も出来る漫画なのです。随所にちりばめられている世界に秘められた謎を、つぶさに考察するという楽しみもあります。
そんな『少女終末旅行』の世界観を支えているのは、描きこまれた背景。チトとユーリが何気なく歩く後ろの景色。壁や橋、傾いた鉄塔。 私たちが存在する日常風景に似ていながら、武器や兵器が転がる街。ところどころに登場する不思議な像。街で見つかる食事は、レーション(兵士に配られる食料)ばかり。
これらが読者たちの想像をおおいに膨らませてくれます。ネット上ではファンによってたくさんの考察が行われ、盛んに意見が交わされています。
今までにありそうでなかった、独特の雰囲気を持つ『少女終末旅行』。その世界の魅力を全巻お届けします!
本作はすでに滅んでしまっている「終末世界」を、チトとユーリ、ふたりの少女が、ケッテンクラートという乗り物に乗りながら、ぼんやりと生きていくというお話です。
彼女たちは特別なことはしません。食べられそうなものを求め、お風呂に入り、時に暇をつぶし、ひたすら生きていきます。チトとユーリは寂しい世界をたださすらうのです。
当初は謎だらけで何も分からず、彼女たちも目的地もなく、ただあてもない旅をするという、霧の中にいるかのような状態で始まりましたが、徐々に世界の謎、彼女たちの進む目的が明かされていきます……。
巨大都市を、キャタピラ式オートバイ・ケッテンクラートに乗って旅するふたりの少女、チトとユーリ。戦争の痕跡が大きく残る街を、探検を楽しむかのように進みます。銃で遊んだり、食料を発見したり、夜空を見たり、お魚を食べたり。何か大きな出来事はなく、ふたりはただ生きるために生きているのです。
1巻の見どころは、まるで小さな星の粒のように細かく、たくさんあるのですが、特に見ていただきたいのは、冒頭のケッテンクラートで眠るふたりの構図です。
荷台の上で、たくさんの荷物に挟まれながら身を寄せ合って眠るふたり。 夜の闇に包まれた彼女たちから伝わる、孤独感と、無力感。なんともいえない寂しさが漂うシーンは、この物語の切なさ、物悲しさを物語っています。
- 著者
- つくみず
- 出版日
- 2014-11-08
また、戦争について思いを馳せるシーンも印象に残ります。 戦争を知らない(であろう)ふたりが、なぜ戦争は起こるのか、彼女たちなりに考え、答えを出します。
3つ入りの食料を手に取る彼女たち。これを例に、一つずつそれぞれに分け、残った一つを奪い合う、これが戦争が起こった理由ではないかと考えるのです。
シンプルながら、核心を突いたふたりの答え。私たちと少女たちの思想は遠くないところにある……そんなことを考えさせられるシーンで、より作品への感情移入をしてしまいます。
奪い合うことの悲しさ、分けあうことの喜びを知っているふたりは、まったりとしながらも、お互いを支えとして生きてきたのでしょう。
チトとユーリはこれまでの階層を離れ、さらに上層を目指して旅することになります。そこでは見慣れない光景が待ち受けていました。
それは、街のいたるところにある謎の像たち。第2巻の最大の見どころは、街のいたるところにあるこの像たちと、信仰のお話でしょう。
ふたりはさらにその後、寺院と呼ばれる施設を発見します。そこには、街で見かけたものよりはるかに多く、例の像がありました。
400年前に作られた、3人の神様がいる信仰を、チトが石板を読んで解読します。しかし、それが何のためにあったのか、結局は分かりませんでした。
- 著者
- つくみず
- 出版日
- 2015-07-09
ふと、寺院のなかでランタンの燃料が切れ、ふたりは真っ暗な闇に閉ざされてしまいます。そのまま離ればなれになってしまうチトとユーリ。暗闇を脱したあとで、ユーリはこう言います。
「むしろ私はちーちゃんを見つけたときのほうが安心したけどね 暗闇のなかで」(『少女終末旅行』から引用)
神様よりも、今目の前に頼りにしている相手がいるということ。信仰すらもなくなった世界で、ふたりで生きていることを痛切に感じさせられます。
彼女たちは、ただそこにある現実を受けいれるだけです。ふたりで生きる孤独、ふたりで生きる幸せ。そのふたつが表現されているような、切ないエピソードです。
果たしてふたりの旅は、どんな形で続いていくのでしょうか。また、その絆は永遠に続くのでしょうか。
ゆっくりと、のんびりと、さらに上を目指していくチトとユーリ。大きな変化はないと思われていた物語でしたが、チトとユーリは旅のなかで少しずつ、この世界に何があったのかを知っていきます。
この3巻から、徐々に世界の真相に迫るような場所や、不思議な建物が増えてくるのです。黒い壁や食料生産施設、螺旋階段……。それらは何を意味しているのでしょうか?
- 著者
- つくみず
- 出版日
- 2016-02-09
3巻で特に印象的なのは、ふたりが食料生産施設に入るところ。四角形のイモ、さらに大きな粉のコンテナを見つけ、レーション(固形食料)を作ることを考えます。
粉に砂糖と塩を混ぜ、食べて、焼く。料理ともいえない作業ですが、ふたりが頑張ってこなし、どうにか完成させて食べる姿はとても印象的。簡単な料理なのに、レーションがたまらなく美味しそうに見えます。
甘いは幸せ。そんな当たり前のことを噛みしめるふたりの表情が素敵です。
終わってしまった世界のなかで、小さな発見と、小さな幸せを感じる姿は、日々消費社会で忙しく生きる私たちの心に気づきを与えてくれるでしょう。
チトとユーリのふたりは、列車のものとおぼしき輸送路を使って、終着点までやってくることが出来ました。そこから不思議な機械がそびえ立つ空間から昇降機を使い、地上に出ることに成功。そして再び階層を進む二人ですが、そこでさらに、世界の謎に迫ることになるのです。
4巻は、ついに終末世界の核心に触れるような内容になってきます。まず、キノコのようなマスコットが登場します。少女モノにはありがちなマスコットキャラがついに登場かと思いきや、その正体は、生命体以外を取りこみ、消去する存在でした。
これが何のために存在しているのか。生命体以外を消去ということはつまり、文明そのものの抹消のようにも感じられます。このキノコのような存在が、世界が終わりを迎えた根幹に、深く関わってきそうな気がしますね。
- 著者
- つくみず
- 出版日
- 2016-11-09
さらに衝撃的なのは、ついにふたりが地球の終わりが近づいていることを知ってしまったこと。
「ねぇ、ちーちゃん 地球終わるんだって」
「…うん まあ……どうでもいいことだろう……」(『少女終末旅行』より引用)
そう話すふたり。
永遠に終わらないように感じられた、少女たちの旅も、少しずつ結末へと向かっているのかもしれません。
4巻で地球の終わりが確実に近づいていることを知ったふたり。しかし今までと変わらずマイペース。淡々と日々を過ごしていきます。
しかしさまざまな場面で確実に「終末」が顔を覗かせます。食料や備品などが圧倒的に足りない状態で、それらが尽きるのが先か、自分たちが死んでしまうのが先か、という言葉がぽつりと口を突いて出るのです。
そうは言うものの、とりあえずは今日を生きることだけを考えるふたりは、深刻にならず、着実に上層へと近づいていきます。それにつれ、物語もどんどんと核心に迫る展開となっていきます。
- 著者
- つくみず
- 出版日
- 2017-09-08
そして5巻では、ついにふたりの旅の目的が明らかになりました。
最上階に繋がる塔を発見したふたり。そこで過去の故郷について思いを馳せます。
彼女たちが旅を始めるきっかけはやはり戦争のようなもの。ここでも詳しくは明かされませんでしたが、それはふたりが何が起こったかを把握していなかったから。
そこでチトの祖父はふたりにケッテンクラートなどを譲り、塔の最上部へ向かうよう言い残したのでした。
もちろんチトは自分のおじいさんから託された言葉なので覚えていましたが、ユーリは忘れていたようです。あっさりしたもんですね。
そしていよいよふたりが最上部付近にきたところで5巻は幕を閉じます。いよいよ物語も佳境に入ってきており、何とも続きが気になりますね!
5巻の終盤で、ふたりの旅の目的が明かされ、最上階を目指す旅は最終6巻に続きます。
上層に進むにつれ、気温が低くなっていき、吹雪に見舞われるふたり。凍えるような雪、無機質な街の情景が、彼女たちの孤独感を増していきます。
愛車のケッテンクラートに乗って進んでいくと、開発途中のロケットに遭遇。宇宙を目指した人間がいた痕跡は残っているものの、その彼らが今どこで、何をしているのかなど、肝心なことは何も分かりません。
さらに進むと、そびえ立つ大きな本棚も発見。おじいちゃん譲りの本好きであるチトは目を輝かせて、読めそうな本を物色します。
ふたり以外の生物に遭遇することなく、淡々と静かに進んでいく旅。彼女たちが最後にたどり着いた地で見つけたのは、一体なんだったのでしょうか。
- 著者
- つくみず
- 出版日
- 2018-03-09
なぜ世界にふたりしかいないのか、他の人間がどこへ行ってしまったのか。詳細が語られることは少なく、どこまで進んでもふたりだけの世界が続いていきます。
終始感じさせられるのは、「何かが始まれば、いつか終わりが来る」ということ。ふたりの旅も、少しずつ終わりに近づいているのです。チトとユーリは旅を続けながらも、どこかで「この旅が永遠に続くわけではないこと」に気づいていたのかもしれません。
「これが生きることなんだろうか
暗闇から来て暗闇の中へ還っていくみたいに」(『少女終末旅行』6巻より引用)
チトが語る言葉。まさに生きることにも必ず終わりがやってきます。
どこか儚さを感じさせられるセリフが随所で描かれている最終巻。ぜひご自身で実際に手に取り、その空気を感じてみてください。
いかがでしたでしょうか。のんびりしているはずなのに、読んでるだけで悲しい気持ちになってくる。そんな不思議な物語が『少女終末旅行』です。アニメがはじまる前に、ぜひ一度、漫画を読んでみてください。