豊田有恒のおすすめ文庫小説4選!宇宙SFを多く手掛けた作家

更新:2021.11.8

蒙古襲来にまつわるタイムスリップの物語や架空戦記のさきがけとなった大戦争小説など、豊田有恒の作品はスケールの大きさが魅力です。歴史モノやSF好き、それ以外の方も圧倒的なストーリー展開に思わず夢中になってしまうことでしょう。

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豊田有恒とは

豊田有恒は1938年生まれの小説家です。SFに造詣が深く、時間ものをはじめとした多くのSF小説をのこしています。1962年に『火星で最後の……』が第1回空想科学小説コンテストの佳作に選ばれ「SFマガジン」に掲載、デビューしました。「SFマガジン」は豊田がSFにのめりこむきっかけとなった雑誌でもあります。

小説家として本格的に活動し始める前は、アニメの脚本家をしていました。手塚治虫に腕を買われ、虫プロダクションに在籍、『ジャングル大帝』など著名な作品の脚本を手がけました。

作家として名が売れ出したため、『冒険ガボテン島』を最後にアニメの脚本を書くことはやめ、専業作家となります。本格SF作家として精力的に活動し、架空戦記のさきがけともいえる『タイムスリップ大戦争』などを執筆しました。

今回はそんな豊田有恒のおすすめ小説を4つご紹介します。歴史をからめた壮大なスケールのSF小説はどれも読み応えアリです。

謎の古文書から明かされる壮大な真実とは

脇田家に代々つたわる古文書、「退魔戦記」。そこには日本を征服しようと企む蒙古軍と、それを阻止する日本軍の攻防が事細かに記されていました。しかし、それだけではなく謎の船が蒙古襲来を阻止するために未来からやってきたといいます。

彼らはなぜそこまでして蒙古襲来を止めたかったのでしょうか。そこにはある秘密が隠されているのでした。

著者
豊田 有恒
出版日

元寇とは、鎌倉時代にモンゴル帝国と高麗王国が二度に渡って行った日本侵攻です。そして本作は、この歴史上実際に起きた出来事をモチーフにして描かれていきます。

「退魔戦記」を遺したのは蒙古襲来の時代に生きていた清治という人物。清治は若かりし頃、武士の家である河野家に仕えていました。彼はある時、未来からきたけん、りゅう、りえと出会います。三人は退魔船と呼ばれる乗り物に乗ってタイムスリップしてきた未来人でした。

彼らの目的はただひとつ、来たる蒙古襲来を食い止めることです。実はこの三人の生きる世界は蒙古によって支配されていました。そのきっかけとなった蒙古襲来を阻止することができれば未来を救うことができる、そう考えた彼らは退魔船に乗ってやってきたのです。

物語は「退魔戦記」を記した清治を語り手として進んでいきます。彼の仕える河野家は未来人と手を組んで蒙古軍と戦うことを決意しました。しかし、そこに未来を変えることを阻止する時間巡邏隊も立ちはだかり、なかなか一筋縄ではいかず……。

彼らは無事、蒙古軍に勝利して未来を変えることができるのでしょうか。主人公の清治と未来人との関わりにも注目です。

モンゴル帝国を舞台に繰り広げられる歴史改変の物語

成吉思汗(ジンギスカン)紀元838年、世界は黄色人種によって支配されていました。主人公で白人のジクルト・ラルセンは差別により厳しい生活を強いられている青年です。しかし、彼はあるとき一時の感情に任せて黄人の女性を殺害してしまいました。白人が黄人を殺めた罪は重く、ジクルトは追われる身となります。

本作はそんな境遇におかれたジクルトが過去へタイムスリップし、差別にまみれた未来を変えようと奮闘する物語です。

著者
豊田 有恒
出版日

ジクルトが黄人たちから逃げ延びることは絶望的と思われました。しかし、彼は幸運なことに黒耶蘇と呼ばれる組織に匿われることになります。この組織は白人の人権を取り戻すために裏で活動を続ける秘密結社でした。ジクルトは彼らに賛同し、その活動に加わります。

そしてついに黒耶蘇は刻駕と呼ばれるタイムマシンを手にいれることに成功。黄人の支配する世界となったきっかけの出来事が起こった時代にタイムスリップしようと企みます。歴史を改変すれば白人が虐げられる世界が終わる、そう考えたのです。

しかし、ほどなくして黄人らに見つかってしまい、喧騒のさなかジクルトだけがタイムスリップしてしまいました。たどり着いたのは14世紀、まだ白人差別のない時代です。彼はそこで一人の人間としての扱いを受け、次第に周囲の者たちを愛するようになります。刻駕寮の使いによる魔の手、別の世界からタイムスリップしてきたヴィンス・エベレットとの接触など、さまざまな出来事が絡み合い、ジクルトを翻弄していき……。

主人公が手に入れたいのは白人が差別されることのない世界です。タイムスリップがおこなわれたことにより、世界はどのような変貌を遂げるのでしょうか。白人と黄人の間に揺れ動くジクルトの心情と、彼の選ぶ結末は見逃せません。

豊田有恒の描くジュブナイルSF小説の名作

ある日、中学生の映二のクラスにアメリカからの転校生、亜由子がやってきました。彼女の父親は世界的に有名な科学者の西条博士。映二は亜由子と仲良くなり、西条博士の実験を見せてもらうことになります。

しかしその日の夜、研究所は博士と亜由子もろとも姿を消してしまいました。異変を感じとった映二ですが、彼もまたこの事件に巻き込まれてしまいます。こうして彼らは10万年前の世界へ迷いこんでしまったのでした。

著者
豊田 有恒
出版日

科学は人類の敵にも味方にもなる。これは西条博士の信条であり、この物語のテーマでもあります。博士の発見したオメガ粒子とは、物体に発射するとその物体がどこかへ瞬間移動してしまう、という代物です。使いかたによっては世界の発展に大きく貢献することができるでしょう。しかし、これを誰かが悪用し、映二たちは10万年前に飛ばされてしまいました。

噴火する火山や危険な動物たち、原始人との未知との遭遇など、映二たちはさまざまなピンチを切り抜けていきます。はたして彼らは無事に元の世界へ戻れるのでしょうか。また、意外な黒幕の存在にも注目です。

豊田有恒はアニメの脚本家をしていたこともあり、本作は子どもの冒険心をくすぐるストーリーになっています。大人の方が読めばどこか懐かしい気持ちになるでしょう。ワクワクにあふれた豊田ワールドを体感してみてください。

豊田有恒の描く架空戦記のさきがけ的作品

今でこそジャンルとして確立している架空戦記ですが、本作はそのさきがけとなった作品といえるでしょう。

時は1980年代、戦後30年以上が経過した日本をある地震が遅います。その地震というのが世にも奇妙で、震源がどこにも見つかりませんでした。まもなく彼らはある重大なことに気がつきます。信じられないことに、日本は現代の姿のまま1941年に飛ばされていたのです。

著者
豊田 有恒
出版日

1941年というと、第二次世界大戦の真っ只中。日本は急に過去の大戦争に巻き込まれてしまいました。しかし30年以上が経過し技術大国へと成長していた日本は当時とは比べ物にならない力を持っています。世界はたちまち大混乱、過去へ迷い込んだ日本は一体どうなってしまうのでしょうか。

戦争は止められるのか、また、戦うのであればどんな兵器を使い迎え撃つのか。日本の下す決断に注目です。また周りの国々の対応もユニークで見逃せません。

地震が原因で過去へ遡ってしまった日本列島ですが、タイムスリップした先でも再び地震が襲ってきます。そのとき起こる、驚きの出来事とは?結末は読んで確かめてみてください。

豊田有恒のSF作品は子どもが楽しめるものから大人が熱中してしまうのものまでバラエティに富んでいます。その日の気分に合わせてぴったりの作品を選んでぜひ一度読んでみてください。

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