百合漫画を主に描く作者・紺野キタが描く『つづきはまた明日』という作品を知っていますか?本作は男女におすすめしたい「普通」の日常を綴った優しい作品です。今回は本作の魅力をご紹介します。
『ひみつの階段』や『女の子の設計図』などで繊細で淡い百合漫画を得意とする紺野キタの日常漫画『つづきはまた明日』。本作は百合要素はなく、家族の日々の物語が綴られた作品です。
誤解を恐れずに言えば、何も起こらない物語です。ご近所づきあいがあり、学校でのちょっとした事件があり、兄妹の成長が淡々と綴られていきます。
しかし物足りないかというとそんなことは全くなく、それぞれの感情の動きが丁寧に描かれているので心の機微の様子が読者にもじんわりと沁みてきてほっこりしたり、癒されたり、時に悲しくなったりするのです。
そして「普通」の日常を描いているのにどこか壊れやすい印象を抱かせるのは、百合漫画で磨き上げられた紺野キタの心理描写の巧みさと、本作のメインで登場する家族の母親が亡くなってしまっているという設定にあります。
ぜひ何も起こらないけど心に残る、優しい世界観に癒されてみてはいかがでしょうか?
ちなみにタイトルの由来は亡き母親が寝る前の童話の締めを「おしまい」ではなく「つづきはまた明日」と言っていたことから。意味を知るとよりこの言葉にうるりとさせられます。
今回はこの作品の良さを全4巻分お伝えします!
小学5年生の藤沢杳(はるか)と清(さや)は父子家庭の兄妹。父子家庭ながらも叔母の里佳子もおり、不自由ない生活を送っています。
隣に越してきた原田家の父と娘が、亡き母と杳に似ていることや、学校での甘酸っぱい恋模様、町内のイベントなど、ありふれているけれど大切にしたい、ちょっとした日々の事件の中で兄妹が成長していく姿を描いた優しい作品です。
- 著者
- 紺野 キタ
- 出版日
- 2009-02-24
1巻の最大の見所はやはり隣に越してきた原田家の娘が杳に、彼女の父親が杳たちの亡き母親に瓜二つなところでしょう。
杳と清は母親がいない日常に慣れていながらも、彼女が登場する夢をふたりで見ては涙を流してしまうなど、まだ「今までの日常」と「現実の日常」の間を行き来している状態でした。
そんな時に隣に引っ越してきた佐保は杳に瓜二つ!さらに佐保の父親は亡き母にそっくりなのでした。
まだ傷の癒えない藤沢家は、笑いながらも時々切ない思いにかられます。彼らの痛みは見ている読者にもじんわりと伝わってきます。
本作の優しくて切ない世界観が存分に発揮された物語の始まり、1巻です。
- 著者
- 紺野 キタ
- 出版日
- 2010-02-24
本作で最もキャラ立ちしてるといっても過言ではない、叔母の里佳子。2巻では彼女が大活躍します。
まずはギャグパートから。杳が清と一緒にお風呂に入らなくなったということを聞いて彼女はニヤリ。佐保がいる前にも関わらず彼に向かってこう言い放ちます。
「チン毛が生えたな〜〜〜〜〜」
最悪です。年頃の男の子にこんなことを言うなんて……。杳もトラウマ必至でしょう。
しかし里佳子はただバカっぽい一面を残すだけでは終わりません。原田家のお母さんが急に泣き出してしまった時のことです。
もともと少し気落ちのすることがあった彼女。泣くほどまででもなかったのに急に優しい言葉をかけられて堰を切ったように泣いてしまいました。この雰囲気、誰しも共感できるところがあるのではないでしょうか。
そんな時に里佳子がこんな言葉をかけるのです。
「大人になるとさ
他人の心ない言葉や仕打ちには耐性つくくせに
思いがけず降ってきたあたたかいやさしい言葉に弱くなる」
本作でも人気の里佳子。ただのギャグキャラで終わらないところがその秘訣なのでしょう。
- 著者
- 紺野 キタ
- 出版日
- 2011-09-26
兄妹の成長の様子を描いた本作ですが、まだ存命で彼らを近くで見ていた時の母の言葉にしんみりさせられます。
ある日、杳は学校の花壇の水やりをしている時に1年生の男の子が同級生の女の子をいじめている場面に出くわします。そしてその中には清もいました。心配しながら様子をうかがっていた杳ですが、清はそのいじめっ子を追い払い、友達を介抱してあげるのです。
それを見た彼は今まで守ってあげなくてはならない小さな妹だと思っていた清の成長に驚きます。
そしてそのあと物語では里佳子が杳たちの亡き母との会話を回想するシーンが登場。里佳子が「子供ってほんのちょっと目を離しただけで変わっちゃうものだなぁ」と彼女に語りかけるところから始まるこのシーンで、亡き母は嬉しそうにこう語ります。
「成長ってすごいよ
重力に逆らって 上にのびていくんだよ」
死というどうしようもない摂理に打ち勝てなかった杳たちの母親ですが、生きている間にはその摂理に感動させられ、彼らの存在に感謝していたのだろうと感じさせられます。
表裏一体となった自然の摂理、その恐ろしさと素晴らしさを紺野キタはこの物語で語っているのかもしれません。
- 著者
- 紺野 キタ
- 出版日
- 2013-04-24
最終巻ですが、特に何の変わりもなく物語は進んでいきます。しかし少し母親との回想が多め、そして兄妹の成長を見ての父親の泣けてしまう言葉で最終巻なのだなぁとじんわりと感慨にふけさせられます。
ぜひこの雰囲気は作品で味わってみてください。兄妹の成長を見てきた読者ならではの感動が味わえるはずです。
ちなみに同時収録の短編もとてもいい作品なのでぜひそちらも読んでみてはいかがでしょうか?