なだいなだは、小説家としてはもちろん、評論家としても活躍しています。元々は精神科医として働いており、その経験や知識を活かした独自作品で大きな話題を呼んでいます。
なだいなだは、精神科医として働きながら作家活動をしているマルチな書き手です。慶応病院や東京武蔵野病院、国立療養所久里浜病院などに勤務し、1961年には医学博士号を取得しています。アルコール依存症をメインに取りくんでおり、日本で初めてアルコール中毒専門の施設を立ち上げました。
また大学時代からフランス語が得意で、フランス政府給費留学生として留学をしていた経験もあります。翻訳者としても実績があり、結婚相手もフランス人女性など、フランスは彼にとって馴染みの深い土地です。
1956年からは同人誌『文芸首都』に参加しており、1965年には『パパのおくりもの』を刊行。『海』『神話』『トンネル』『しおれし花飾りのごとく』など、6作品で芥川賞の候補にあがったこともあります。1969年には婦人公論読者賞を受賞、1975年には毎日出版文化賞を受賞するなど、多くの賞を獲得しました。
作品のなかには専門分野であるアルコール中毒をモチーフにしているものもあります。数々の作品を生み出した、なだいなだの作品から特にチェックしておきたい5作品を紹介しましょう。
書き手であるなだいなだが、校長先生という立場になり、自らの4人の娘に対し日々の生き方について伝えていく一冊です。全11回の授業という構成になっており、それぞれの章で、音楽室や読書の時間といった馴染み深いテーマから、作家や文学にまつわる書き手の人生を感じさせるテーマまで、多岐にわたって取り扱われています。
生徒に語りかける先生というスタイルを取っているため、分かりやすい文章で大切なことを学べます。「調子はずれ音楽教室」「若者と年寄のための政治教室」など、ユニークなタイトルに込められた普遍の教えが魅力です。
- 著者
- なだ いなだ
- 出版日
- 1973-09-10
「世界は、思索する人たちにとっては一つの喜劇であるが、感情にかられる人たちにとっては、一つの悲劇である」(『娘の学校』より引用)
本作はこんな文章からスタートします。時を越えて語り継がれなければいけない内容が、子どもにも分かりやすいように描かれています。一方で、大人になったからこそより深く染み入る内容もあるでしょう。親子で読むのも良いかもしれません。
差別について、本の大切さ、物事を判断する方法など、なだいなだからの重要なメッセージが詰まっています。
本作は、大学時代の友人同士であり、共に精神科医となった男性2人がこれまで生きてきた人生を振り返り、かつて交わしてきた議論をもう1度行うという作品です。カトリック信者の精神科医と、無神論者の精神科医の2人が、70歳という年齢になり、人間精神について深く掘り下げあっていきます。
三大宗教の始祖である、キリストとブッダ、ムハンマドの3人が、それぞれ何者でありどんなことをしていたのかを、精神医療の面から探っていくという独自のスタイルも特徴です。精神科医として権威のあるなだいなだだからこそ書き上がった一冊だと言えるでしょう。
- 著者
- なだ いなだ
- 出版日
- 2002-09-20
宗教と精神医療というユニークな設定は、専門知識がないとなかなか入り込めないのではと思いがちですが、そんなことはありません。基本的には旧友同士の対談集になっているため、キャッチーで読みやすく、専門用語もその都度分かりやすく解説されているため、とっつきやすい作品です。
現代の精神医療を、宗教の成立や、精神史を振り返りながらひも解いていくため、とてもためになり、知識を培うこともできるでしょう。対談相手のT氏が、実際にカトリックに入信するきっかけから追いかけていきますが、あくまでも対談であり説得調にはなっていません。誰かの意見を押し付けられることなく、読者自身の考えを深めるきっかけになるでしょう。
本作は、タイトルにある「こころ医者」になるための手引きとなっています。病気の治療をするのが精神科医であるのなら、話を聞いて、本人の心を成長させるのが「こころ医者」だと述べています。治療の歴史や症例を紹介しながら、不安や病気と付き合っていく方法を知ることができる一冊です。
全13章から構成されており、「嘘を読もう」「まず自分を知ろう」というように、章ごとにこころ医者になるためのハウツーが読みやすい文体で展開されています。
「忍耐力があれば誰でもなれる」とのことなので、誰かの不安を癒してあげたい人におすすめです。
- 著者
- なだ いなだ
- 出版日
- 2009-10-07
作者の専門分野であるアルコール依存症の症例や治療方法をベースにして、精神病との向き合い方についても、詳しく説明されています。
時代や社会の移り変わりと共に、精神病に対する受け止められ方も変わってきました。正常や異常という表現で判断されやすい病状だからこそ、精神科医に加え、こころ医者の存在がとても重要であるということが語られています。
ただ話を聞くだけではなく、忍耐力を持って相手に正面から向き合うことで、初めてこころ医者は成立します。誰でもなれるけれどその実難しい面も少なくありませんが、誰もが心に不安を抱える現代において、生きていくためのお守りになってくれる一冊でしょう。
権力と権威について、先生であるなだいなだと、生徒であるA君が熱く語り合う一冊です。権力と権威の違いや、それぞれがどこからきたものなのか、どのように向き合ってどんな立場を取っていくべきなのかを討論しています。
権力と権威というタイトルから、政治学の専門書のように受け取ってしまいがちですが、本作はもっとシンプルです。権利と権威の関係を、親子や職業をはじめとした日常生活の様々な内容に置き換えて解説しているため、より身近な問題として捉えることができます。
- 著者
- なだ いなだ
- 出版日
- 1974-03-28
対談形式で進んでいくシステムですが、それぞれの考え方や立場は少しずつ変化していきます。序盤は、先生の方が優しくリードする形で、ところどころ知識の補足をしたり、諭すような物言いをするシーンが目立ちます。
しかし後半になるにつれ生徒も次第に慣れていき、質問の仕方や、意見の言い方もしっかりしてくるのです。
権威と権力についてただ討論をするだけではなく、立場の違う2人が、少しずつ歩み寄っていく様子もまた、本作の見どころのひとつでしょう。情報過多の時代だからこそ、自ら考え、相手をよく見て、きちんと行動することが重要であると教えてくれます。
本作は子どものための心理学の入門書となっており、シンプルで読みやすい文章で構成されています。分かりやすい表現を使っているものの、内容自体は本格的な部分に触れているため、ターゲットである中学生はもちろん、大人が読んでも楽しめる一冊となっています。心理学に興味を持っている人は、ぜひ手にとってみてください。
自分で自分が分からないときや、他人の心が知りたくてたまらないことなど、誰もが日常で体験したことがある感情を取りあげ、心理学的な視点から掘り下げています。思わず共感してしまうことや、興味をそそられることなど、人間の心のメカニズムを詳細に知ることができます。
- 著者
- なだ いなだ
- 出版日
- 1992-01-01
精神科医と文筆業を両立させてきたなだいなだが、謎に満ちた心理学という分野への分かりやすい案内を書きつづった作品です。全10章から構成されており、「こころの底は深い」「人間と動物のこころ」など、自らの無意識の世界を発見させたり、人と動物の精神の違いを解説したり、多様なポイントから心理学のフィールドに入りこむことができます。
作中に、「こころは、目で見ることも、大きさを測ることも、手で触れることもできない」という文章があります。心を把握する難しさとその大切さについて、作者ならではの視点で教えてくれる作品です。
いかがでしたか?なだいなだの著作はどれも素晴らしいものばかりです。あなたもぜひ読んでみてください。