ゴシック小説のおすすめ作品5選!怖くても夢中で読んでしまう物語

更新:2021.11.9

悪魔、吸血鬼などが登場し、幻想的な雰囲気が魅力のゴシック小説。現代のSF小説、ホラー小説の走りだったともいわれています。今回は、現在も親しまれているゴシック小説の定番5作品を紹介します。

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ゴシック小説とは

18世紀末から19世紀初頭にかけて流行した神秘的テーマを扱った幻想的な作品をゴシック小説と呼びます。現代はより細分化し、ホラー小説と融合したジャンルも人気があるのです。

ゴシックの語源はローマ帝国に侵入し戦った古代ゲルマン系の民族であるゴート族だと言われています。ローマ帝国にとっては精強な軍を持った彼らは不気味で恐ろしい存在でした。そこでゴート的=不気味という言葉ができたのです。

不気味な雰囲気を持った小説。少し怖いけれども続きが気になる……そんな名作をご紹介していきます。

博士と無法者を結ぶ接点、そして疑惑。名作ゴシック小説

暴力的な人間ではなく、そういった人との付き合いもないはずの善良な紳士、ジキル博士。しかしハイドと名乗る粗暴な男がぶつかった少女への暴力行為の代償として支払った小切手にはなぜか博士の名前がありました。

さらに、弁護士のアターソンは、「博士の遺産はハイドに贈られる」という内容の遺言書を保管するよう、友人であるジキル博士に依頼されており、博士がハイドに脅されているのではないかと危惧していました。博士とハイドはいったいどんな関係なのでしょうか……。

博士は「その気になればいつでもハイドを追い払う事ができる」と言うだけでしたが、そこで事件が起きます。

アターソンの依頼人であるダンヴァーズ・カルー卿が殺されたのです。目撃証言によると犯人はハイド。しかし、凶器はアターソンがジキル博士に贈ったステッキでした。アターソンの疑念はますます深まります。

著者
ロバート・L. スティーヴンソン
出版日
2015-01-28

24の人格を持つというビリー・ミリガンで世間に知られるようになった解離性同一性障害はアメリカでは比較的メジャーな症例。彼を題材にダニエル・キイスが『24人のビリー・ミリガン』を発表し、有名になりました。しかし、日本では精神科医の懐疑的な声もあり、あまり馴染みがないかもしれません。現在ではこれを扱った作品は一つのジャンルとして成立しているものの、当時としては斬新なものでした。

本作は人格交代時に容姿まで変わるという描写がされています。これがホラー要素としてよく効いていて、病気ではなく怪奇としての人格交代の恐ろしさが現れています。

どんな人間にも悪の面は存在するし、簡単なきっかけで露出する……人間が持つ二面性に注目した作品です。

吸血鬼の原点となったゴシック小説

イギリスの弁理士・ハーカーはトランシルヴァニアを訪れます。イギリスに物件を買いたいというドラキュラ伯爵との相談のためでした。伯爵の城へ向かう途中に住民たちから引き留められ、不審に思いながらもハーカーは目的地に向かいます。

黒ずくめに白いひげ姿のドラキュラ伯爵は最初こそハーカーを歓迎するものの、彼に襲い掛かり監禁してしまいました。

一方、ハーカーの婚約者・ミナの友人であるルーシーは、原因不明の体調不良に苦しんでいました。そこで招かれたのがヴァン・ヘルシング教授です。ルーシーの首元には、謎の2つの穴が開いていました。彼は何かを知っているようで、様々な治療を施しますが……。

著者
ブラム ストーカー
出版日

黒いマントを着て、鏡に映らず、ニンニクや十字架が苦手。我々が持つ典型的な吸血鬼のイメージは、この作品によるものです。しかし、ドラキュラ伯爵のモデルになったとされるワラキア公ヴラド3世から参考にされたのは出身地と名前だけで、あとは作者であるブラム・ストーカーの創作です。

日常に潜む怪異としてのドラキュラは見た目で区別できず、ホラーとしての雰囲気を高めています。しかし、ドラキュラの弱点が明示してある点においては冒険小説的な要素もあり、古いながらもしっかりと楽しめる作品です。

悲しい怪物に隠された真実

スイスの名家出身で科学者志望のヴィクター・フランケンシュタインは、ある計画に憑りつかれていました。それは完璧な人造人間を作ること……死体を掘り返して繋ぎ合わせるという狂気を含んだ計画でしたが、ついにそれを実行してしまいます。

計画は成功し、知力・体力共に優れた「人間」が誕生しますが、フランケンシュタインは絶望します。その「人間」の容貌があまりにも醜く、怪物にしか見えなかったからです。

逃げ出したフランケンシュタインを追う怪物。周辺人物が殺されていき、ついに彼が追い詰められます。

著者
メアリ・シェリー
出版日
1984-02-24

緑色で知能が低い怪物・フランケンシュタイン。これが世間一般のイメージですが、これは間違いが多いです。そもそもフランケンシュタインは研究者の名前であり、怪物に名前は付けられていません。そして怪物は知能が高く、言語も習得しています。

フランケンシュタインの周辺人物を殺した理由も明確で極めて論理的なものでした。怪物ではあるものの、本作では悪役感は薄いです。

フランケンシュタインとはいったい何なのか……原点を知ることができる、たしかな名作ゴシック小説です。

奇妙な城を描いた傑作大長編

増築を重ね、迷宮のように広大なゴーメンガースト城。領主を中心に厳格な身分制度を維持している城の台所で働くスティアパイクは、最下層の生まれです。通常ならそこで一生を終えるはずですが、スティアパイクには野心がありました。彼は次々と権力の階段のし上がっていき、ゴーメンガーストを支配しようと画策します。

一方、タイタスはいずれゴーメンガースト77代目の領主になる子供でした。本作では生まれたばかりの赤ん坊ですが、領主となるべく育てられていきます。

正反対の環境に置かれた2人は、やがてどんな化学反応を起こすのか。続きが気になるシリーズ第1作です。

著者
マーヴィン・ピーク
出版日

膨大なボリュームに圧倒されますが、読み進めるごとに作品世界に没入してしまうほど魅力的な本作。城に関わる人々はみな病的で、どこか異常な雰囲気を漂わせていますが、スティアパイクはそれを利用するような形でどんどんのし上がっていくのです。これは悪役でありながら爽快感がある展開で、ダークヒーローの活躍を見ているような気持ちにさせられます。

人物の描写が非常に丁寧で、感情移入しやすいのも特徴です。シリーズ三部作をすべて読み終わった頃には、必ずお気に入りのキャラクターができているでしょう。

現代にも通ずる「人間の本質」を描いた名作ゴシック小説

修道院を一度も出たことがないという世にも敬虔な修道僧・アンブロシオは、スペイン中の信者から厚い信頼を寄せられています。しかし、マチルダという女の登場で全てが一変してしまいます。

戒律を忘れ、マチルダに溺れるアンブロシオ。そして今度はアントニエという美少女に心を奪われました。マチルダの邪法によってアントニエを操ったアンブロシエは無理やり彼女と関係を持ち、さらにはずみで彼女の母を殺してしまいます。

邪法である黒魔術、強姦、窃盗、殺人と背徳の限りを尽くすアンブロシオを待ちうける運命とは……。

著者
マシュー・グレゴリー ルイス
出版日
2012-03-26

やってはいけないと分かっていてもやってしまう……そんな人間の奥底に潜んだ心理を描いています。主人公アンブロシオの転落は誰にでも起こりうるもので、一度落ち始めたら止まらないというのもまたリアルなポイントです。

アンブロシオが聖職者としていられたのは、その心が信仰心に溢れていたからではありません。あくまで修道院から一歩も出ずに生活していたという「環境」がそうさせていただけでした。これは現代に生きる我々でも理解できることでしょう。

サディズムの語源となった小説家マルキ・ド・サドが絶賛した、傑作ゴシック小説です。

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