漫画『刑事ゆがみ』が最高!『弁護士のくず』作者の新作を名言でネタバレ紹介

更新:2021.12.3

『弁護士のくず』を手がけた井浦秀夫による『刑事ゆがみ』。2017年10月には実写ドラマ化することでも話題を集める井浦の新作です。今回は、作中に登場する名言とともに、本作の魅力をご紹介します。

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漫画『刑事ゆがみ』の魅力とは?

漫画家・井浦秀夫は、掟破りで破天荒な弁護士が、弁護士らしからぬ方法で依頼を解決する姿と、依頼の裏にある人間の闇を抉り出すストーリーを描いた『弁護士のくず』で人気を集めています。そんな井浦の最新作が『刑事ゆがみ』です。

普段は「適当」で冴えないおじさんの風体をした主人公・弓神適当(ゆがみゆきまさ)。個性的なキャラクターである彼が、難解な事件を解決していき、人間が持つ「感情のゆがみ」が露わにされていく物語が魅力の警察ストーリーです。

本作では、テロやハイジャック、果ては連続殺人といった大事件を解決するのではなく、どちらかと言えば、振り込め詐欺や痴漢冤罪などから派生して起こる、身近で想像しやすい事件を取り扱っています。そのため、よりリアルで臨場感ある内容になっている読みごたえも充分です。

単に事件を解決するだけでなく、その裏にある人間の感情がうごめく人間ドラマをつぶさに描き出す重厚な物語となっています。

さらに、登場人物たちの個性豊かなやりとりも見どころの1つです。

著者
井浦 秀夫
出版日
2016-10-28

漫画『刑事ゆがみ』あらすじ

物語の冒頭では、振り込め詐欺の被害に遭い、自宅で首つり自殺してしまった女性の姿が描かれています。

警察庁捜査一課強行犯係に所属する弓神とその仲間たちは、日々様々な事件に追われていますが、ある日1人の男が、マンションから転落死する事件が起きました。

その転落死した男は、弓神が以前に逮捕した元泥棒だったのです。

男の転落死に違和感を持って捜査にあたった弓神は、男がある振り込め詐欺グループと関連を持っていたことに気づきます。独自に捜査を続けた弓神がたどり着いた真相とは……?

名言1:オレがやらなきゃなかった事になっちまうんだよ!【1巻】

弓神は、昔に検挙した泥棒・猿渡が転落死した事件を解決するため、自分勝手に捜査を進めます。そんな彼に、後輩の羽生がかけた「今日は、恐喝事件の地取り捜査でしょ」という言葉への返答が、上記のセリフです。

弓神は、猿渡が出所時に「もう泥棒はしない」と誓った言葉を信じていました。

「安易に泥棒を再開して、うっかり足を滑らして転落するなんてそんな間抜けな失敗をするヤツじゃない」(『刑事ゆがみ』1巻から引用)

猿渡は確かに泥棒でしたが、「ドロボーのくせに律儀」な性格をしていて、弓神は彼の泥棒としての腕と、生真面目な姿を知っていたため、このように言ったのでした。

そんな猿渡の人となりは、実際に猿渡の取り調べにあたった弓神しか知らないのです。

だからこそ、みんなが知っている事件はじきに解決するけれど、自分しか知らない(分かっていない)事件については、自分でやらないと誰も解決してくれない、と必死になるのでした。先入観やこだわり、うがった価値観で人を判断しない弓神らしさがよく表れた名言ではないでしょうか。

その後、弓神は猿渡の転落死と多発する振り込め詐欺、そして主犯グループとの関連をつきとめ、事件は解決へと舵を切ることになります。

名言2:そんな仕事、ホントにあんのかよ? この世に…【1巻】

これは名言とも至言とも取れる弓神のセリフです。

1巻のラストシーン、事件解決後、猿渡の言葉を思い出しながら1人屋上で物思いにふける弓神が、誰にともなく問いかける言葉です。死んでしまった猿渡は、取り調べ中にこんなことを言いました。

「みんなが幸せになれる仕事を見つけて…俺はクタクタになるまで働きたい」(『刑事ゆがみ』1巻から引用)

不遇な人生を生き、泥棒以外の「仕事」に就いたことがなかった猿渡のこの言葉には、彼が持つ未来への理想と希望がたっぷり詰まっていました。

しかし、本当にそんな仕事があるのでしょうか?

どんな災難があっても生活は続きます。希望を抱いていた猿渡でさえ、結果的には死んでしまいました。幸せな人がいれば、不幸な人もいるという現実を覆すことは、なかなかできません。読者は、猿渡のこのセリフは夢物語を語っているように思えてしまうかもしれません。

しかし、事件解決に向けて奮闘し続ける弓神の姿からは、彼が猿渡同様「みんなが幸せになれる仕事」を追い求めているように感じられるのです。

それに気づくことで、いっそう心にしみる名言となることでしょう。

名言3:強行犯係にはあなたが必要なのよ!【2巻】

2巻は、17年前に起こった「連続殺人小説家事件」と類似した事件が発生したところからはじまります。上記は、捜査中に強行犯係の係長・菅能理香が弓神に対して放った言葉です。

17年前、連続殺人事件を題材とした「ロイコクリディウム」という小説を発表した小説家の横島。彼は、その小説で起こった事件と全く同じ殺人を犯したとして、「連続殺人小説家事件」の容疑者にされました。しかし捜査は、横島の焼身自殺により終了してしまいます。

当時、この事件の捜査員として捜査にあたっていた弓神は、容疑者として浮上した小説家・横島のほかに真犯人がいると考えていました。

時を経てまた同じような事件が発生し、弓神はその時担当していた仕事をそっちのけで「ロイコ事件」を捜査しはじめ、ついには謹慎処分になってしまうのです。

そんな時に菅能が言ったこのセリフは、普段の適当な弓神に手を焼いていても、実は弓神を信頼していることが如実に現れているセリフだと言っても過言ではないでしょう。

今は菅能が上司、弓神が部下という関係ですが、元は先輩後輩として事件解決に尽力していた2人の信頼関係が垣間見えます。

名言4:女の問題は私にとって世界の真理の半分以上を占めていたんだと……【2巻】

2巻に収録されている「ロボットは見た」に出てくる名言です。

弓神が以前勤務していた後添署の生活安全課に、「交際中の彼女につきまとう男がいるから取り締まってほしい」と、万田という老人がやってきたことがすべての始まりでした。

万田が付き合っていた多絵という女性は実は「後妻業」の女であり、万田は次の標的とされていたのですが、多絵の逮捕により万田は命を救われる形となります。そのときの恩義のためか、弓神は万田の遺産を受け取ることになりますが、弓神がもらったものは、お金ではなく「ワット」というロボットでした。

そのワットが、弓神を顔認識した途端に「万田です」としゃべり出したのです。しゃべり出したワットは、万田が付き合っていた30歳の里香(りこ)という女性について調べてほしいと言います。

万田の死因はいわゆる「腹上死」で、交際相手の里香が第一発見者です。万田はもともと心臓を患っており、激しい運動などは控えるように医者からも止められていました。そのため警察は、里香が遺産目当てで万田に近づき、セックスすることで死に至らしめたのではないかと疑っているのです。

気取っているようにも聞こえるこの万田のセリフ、要するに万田は「女性のことにめちゃくちゃ興味がある」ということを指しています。若い頃から「世界の真理」を解き明かすことに夢中になっていた万田が、老い先を考えた時に求めるものは「女性」だったのです。

自分が興味津々な女性の中でも、特別に好きだと思った里香が、本当に自分をおとしいれようとしていたのかどうか、弓神のフラットな目で確認してほしいというのが、万田の望みです。

男女の心理はお互いに理解されにくいものですが、男性は女性を、女性は男性を求めるものだという究極のまごころを感じることができますね。

名言からみる『刑事ゆがみ』のネタバレ、いかがだったでしょうか。人間の心のちょっとした「ゆがみ」を正す異色の刑事・弓神の活躍を、ぜひ堪能してください。

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