河合隼雄のおすすめ本5選!ユング心理学の第一人者

更新:2021.11.8

世界的な心理学者である河合隼雄。彼の探求した「心理学」の世界にはわたし達が日常を、人生をどう生きるかのヒントが多く記されています。今回はそんな河合隼雄のおすすめ本を5冊紹介します。

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河合隼雄とは

河合隼雄は1928年生まれの心理学者です。2007年に亡くなるまでに京都大学名誉教授や国際日本文化研究センター名誉教授などを務めました。

日本人として初めて最難関の心理資格である「ユング派分析家」の資格を取得。この資格はスイスなどにあるユング研究所に最低4年在籍しないと取れない資格で現在でも日本で50人程度の人しか持っていません。

また日本で初めて箱庭療法を導入。日本における分析心理学の道を切り開きリードし続けてきた心理学者です。

男女間の友情は成立するの?

相談室のカウンセラーとして勤務していた河合隼雄は、相談者の話す悩みに友情の悩みが多いことに気付きました。そんな気付きから生まれたのがこの一冊。河合隼雄が大人のための友情論を優しく解説します。

著者
河合 隼雄
出版日
2008-02-07

友情とは何なのか?男女間の友情は成立するのか?そんな素朴な友情に関する疑問に『走れメロス』や『こころ』などを引用して迫ります。人生を優しく温かく支える友情について今一度自分なりに振り返り、思考を一歩前に進めることの出来るような画期的な内容です。友情について考えることは人間について考えることであるという河合隼雄の言葉通り、友情だけでなく人生への理解も深められる一冊となっています。

語りかけるような優しい文章はまるでカウンセリング室にいるような居心地の良さを感じさせます。男女間の友情は成立するの?という答えのないテーマに立ち向かう勇気を与えてくれ、その様子を後ろでそっと見守ってくれているかのようです。

友情に関する考察は広範囲にわたり、多くの思考の種を蒔き、考えるきっかけを与えてくれる良書。忙しさにかまけて見過ごしていた自分の内面に深く向き合う時間を与えてくれるでしょう。

友情について一度立ち止まって考えてみたい人におすすめしたい一冊です。

子どもの心に寄り添う感動の一冊

心理学者として数多くの子供と接してきた河合隼雄が子どもの心の宇宙を探求し、それについて自由に考察した作品。いじめ、不登校、家出などの現代にはびこる問題を拾い上げ、子どもの成長のために大人が果たすべき役割について考察します。

著者
河合 隼雄
出版日
1987-09-21

「この宇宙のなかに子どもたちがいる。これは誰もが知っている。しかし、ひとりひとりの子どものなかに宇宙があることを、誰もがしっているだろうか。それは無限の広がりと深さをもって存在している。大人たちは、子どもの姿の小ささに惑わされて、ついその広大な宇宙の存在を忘れてしまう。」(『子どもの宇宙』より引用)

1987年に出版された本ですが、現代にも通じるところが多いのが特徴です。大人のステレオタイプを見破ったり、神の存在意義を表現する子どもの詩を引用して「子どもの宇宙」を紹介する姿勢はまさに心理学の巨匠、河合隼雄ならではの豊かな視点が表れています。

子どもの豊潤な精神世界を明らかにして現代にも通じる問題点と絡めた良書です。子育てに悩んでいる人、子どもと関わる仕事をしている人、子どもの持つ独特な豊かな宇宙を覗いて見たい人、全ての人におすすめしたい作品。年月が経っても色褪せない必読の一冊です。

人間の深奥を解き明かす

「コンプレックス」という言葉を最初に用いたのはユングだそうです。そのユング心理学にもとづいて人間の真髄に迫ったのが本書。ユング派分析家の資格を持つ彼ならではの深い考察を楽しむことが出来る一冊です。

著者
河合 隼雄
出版日
1971-12-20

自我とコンプレックスの関係を4つのパターンに分けるという着眼点が面白い本作。自我がコンプレックスを意識せず影響を全く受けていない場合や自我とコンプレックスが完全に分離して主体性が交代で現れる場合(二重人格)などのパターンを挙げて、それが起こる原因と対処法に関して彼なりの持論を展開しています。

無駄なことが一切書かれておらず、一文一文に河合隼雄の縦横無尽の知識がにじみ出ています。アカデミックな雰囲気の漂う非常に洗練された良書で、読者の知識欲を十分に満たしてくれることでしょう。河合隼雄が長い年月をかけて蓄積した心理学の知識をやさしく読者に伝えてくれるので、さらさらと読み進めることが出来ます。

コンプレックスという言葉は今や日常で使われるようになっていますが、心理学的には別のニュアンスを持っています。河合隼雄による解説をどうぞ存分にお楽しみください。

サラリと読める至極の対談集

2日間に渡って行われた河合隼雄と村上春樹の対談。この対談の内容を文章で表現したのが本書です。時事ネタや日本人の直面している問題など幅広いトピックを扱い、それについて作家界と心理学界を代表する2人が思いつくまま自由に思考を泳がせた一冊です。

著者
["河合 隼雄", "村上 春樹"]
出版日
1998-12-25

春樹作品のメインテーマとも言える「デタッチメント(無関心)」と「コミットメント(関心)」。この2つを大きな柱として村上春樹が河合隼雄に話題を投げかけます。河合は聞き手のプロ。優しく村上春樹の考えを受け止めながらも、その考えの根底に光を当て思考を一段階上へ発展させます。対談が進むにつれて解きほぐされていく春樹の心の声にページをめくる手が止まらなくなるでしょう。

作家が作品を執筆するプロセスと、カウンセラーがクライアントの心を解放していくプロセスの対比が分かりやすく描かれているのも魅力です。対談集ということもあり、学術書などでは見られない柔らかい印象の河合隼雄に触れられるのも読者には嬉しいポイントでしょう。河合が亡くなってしまった今となっては二度と見ることの出来ない幻の対談だと言っても過言ではありません。

河合隼雄ファンも村上春樹ファンもどちらも満足できる一冊だと思います。読後は心に仕えていた小さなしこりが取れるようなスッキリした気持ちになるでしょう。

常識が人の心を傷つけることもある

心が疲れてしまった時あなたはどのようにしてその心を癒すでしょうか?そんなこと言われなくても分かってる、でも出来ないから悩んでいる……と叫びたい時、何が心を慰めてくれますか?本書はそんな悩みを持つ全ての人への河合隼雄のエッセイです。

著者
河合 隼雄
出版日
1998-05-28

「人の心など分かるはずがない」「ものごとは努力によって解決しない」「『耐える』だけが精神力ではない」など、まさに現代の日本社会の疲れを癒すような55編のテーマが収められています。日常生活の中でふと頭によぎる常識への疑問。口にするほどでもないと思って心にため続けていた人は、本書でその気持ちを河合隼雄が理解してくれているような気持ちになるかも知れません。

「100%正しい忠告はまず役に立たない」では、「煙草をやめなさい」「非行をやめなさい」「試合でヒットを打ちなさい」といった100%正しい忠告は、まずその人の役には立たないと記されています。誰もが正しいと思うことを他人に押し付けることは、時にその人を混乱させ良い結果をもたらさないというのがこの章のアドバイスです。もちろんこのアドバイスも100%正しいとは限らない、という言葉を添えて。

本書で書かれている河合隼雄の言葉は、自分の心の奥の声に耳を傾けるきっかけを与えてくれるでしょう。聞こえないふりをして何度も見過ごしてきた傷ついた心の震えを彼の言葉がそっと抑えてくれると思います。心が少し疲れてしまった人におすすめしたい一冊です。


いかがでしたか?今回は日本の心理学界を代表する河合隼雄のおすすめ本を5冊ご紹介しました。最後までお読みいただきありがとうございました。

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