web上で小説を発表するためのプラットフォームが充実した昨今、多くの作品が小説化されています。現代を色濃く反映したテーマやキャラクターが魅力の作品のなかでも、特に読みやすいものをご紹介します。
伯爵家の長男で、将来は有望と期待されていたライエル。しかし彼は妹セレスとの闘いに敗北し、伯爵家の嫡男である権利をはく奪され、追放されることになってしまいました。彼のことを想った庭師が託してくれた宝玉のみを手にして、ゼロから冒険者としての道を歩みはじめます。
宝玉には、伯爵家歴代の7人の当主たちの記憶が宿っており、ライエルは7人の当主たちから様々な学びを得て危機を乗り越えていきます。彼は妹セレスに対して劣等感を抱いており、性格も歪んでしまっていましたが、冒険をしていくうちに、徐々に自信と実力を獲得していくのです。
果たしてライエルは、再び当主として自身の家に認められることができるのでしょうか?
- 著者
- 三嶋与夢
- 出版日
- 2015-12-28
最初は劣等感のかたまりで妹に敗北する、という何ともふがいない主人公が、みるみるうちに成長してカッコよくなっていく冒険譚です。
ポイントは、ライエルは実はもともと優秀だったということ。周囲の環境や自分よりも秀でた妹という存在が彼の性格を歪めてしまっていますが、自分の力で生き抜こうと覚悟を決めて歩むことで元の自分を取り戻していくのです。
彼を支える7人の当主たちのコミカルな会話シーンにも注目ですよ。
時は2010年、現実の私たちが住む世界とは別の時間軸で動いている世界が舞台です。時間軸を変えたのは、「ES能力者」と呼ばれる超能力者たち。彼らは第二次世界大戦以降に徐々に増加し、その能力が軍事に利用されることで様々な歴史が変わっていました。
主人公の博孝はごく普通の少年で、空を飛ぶのが将来の夢です。ある日「ES能力者」のテストを受けた際に潜在的な能力があると判定を受け、訓練校に入学することになりました。
思ったようには能力を開花させられない博孝ですが、教官や仲間との出会いを経験し、空を飛ぶという願いを叶えるために努力を惜しまず前へ進みます。
- 著者
- 池崎 数也
- 出版日
- 2015-02-28
「ごく普通の少年が能力を身に着ける」という王道設定の学園ドラマです。博孝がとても努力家であることに好感を持つことができ、なかなかうまいこといかないというもどかしさも読者を惹きつけます。
本作のおすすめポイントは、登場人物がみんな良い人だということ。裏切りや疑いなどに溢れた物語と違い、爽やかな気持ちで読み進むことができます。特に博孝のまっすぐな性格は読者の私たちにも見習う所が多いにあるので、ぜひ読んでみてください。
「ねこや」は、街にあるごく普通の洋食屋。しかし実は土曜日だけ、もうひとつの顔をもっています。なんと、異世界の住人たちにレストランをオープンするのです。
「異世界食堂」と呼ばれる土曜日のレストランには、様々な客がやってきます。トレジャーハンター、傭兵、伝説の魔竜……そして出迎えるウエイトレスも実は魔族とドラゴンなのです。
そんな摩訶不思議な食堂に訪れる客たちの物語が、美味しい料理を基軸に描かれる、オムニバスストーリーです。
- 著者
- 犬塚 惇平
- 出版日
- 2015-02-28
魔界や異世界というまだ見ぬ世界に私たちは憧れます。本作はごく普通のレストランが週に1回だけ異世界と繋がるという斬新な設定が魅力で、もしかするとこんな洋食屋さんが自分の街にもあるのかも……と期待させてくれます。
その上、登場する料理はどれもこれもおいしそうなものばかり。注文する客とのエピソードも相まって、楽しく料理の描写を読むことができます。
34歳、無職ニート、ダメ人間の鑑……今まで親のすねをかじって生きてきた主人公ですが、親が亡くなったことで兄弟から家を追い出されてしまいました。わずかに残った良心から、交通事故に巻き込まれそうになった高校生を救うという選択をとりますが、あえなく自分が死亡。
ところがそんな主人公が目覚めると、なんと異世界で第2の人生を授かったのです。後悔だらけだった前世の記憶をそのまま残していた主人公は、異世界での人生を本気で生き抜こうと決意しました。ルーデウスと名付けられ、幼いころから勉学に励み、ほどなくその世界での言語や魔術を習得します。
ルーデウスはやがて戦乱に巻き込まれ、自分の愛する家族を守るためにその身を費やし冒険の旅へ出ることになります。果たして彼は前世の無念を晴らすことができるのでしょうか。
- 著者
- 理不尽な孫の手
- 出版日
- 2014-01-23
「人生やりなおしたい!」こんな願い、誰もが1度は人生で持つのではないでしょうか。本作の主人公は誰が見てもダメ人間という人生を送ってきたことを深く後悔し、その後悔をくり返さないよう2度目の人生では努力を積み重ねます。
心の底にある願望をまっすぐに叶えていく主人公のサクセスストーリーは、多くの読者の共感と羨望を得るでしょう。彼が反省をふまえて賢く行動していく様子に感心し、自分もこの人生でやれるところからきちんとやり直そう、と勇気をもらえます。
黒乃真央はどこにでもいる男子高校生でした。周りと違う点と言えば、目が鋭い強面であるということ。ある日彼は、部活動の合間に唐突に頭痛に襲われ、異世界へ召喚されてしまいます。
その世界で黒乃は凄惨な人体実験を受ける残酷な運命に巻き込まれることになります。黒乃はクロノとしてその世界をもがきながら生きていくことになり、黒魔法使いとして歩みはじめました。その力で新しく出会う仲間たちを守ろうとするのですが、殺し合いの渦中で無残に命を奪われる悲しみも味わいます。
彼は理不尽に降りかかる災難に精神状態を犯されながらも、自分の身を省みずに尽くしてくれる周囲に救われながら、逞しく成長していきます。そして、冒険者パーティ「エレメントマスター」を結成し、より大きな闇と戦う運命に巻き込まれていくのです。
- 著者
- 菱影代理
- 出版日
- 2013-05-24
異世界は美しく、魅力的な登場人物たちが彩りを添えますが、その世界で血塗られた物語がくり広げられます。
人体実験に生々しい表現があったり、思い入れのある登場人物が死に至ったりと痛々しい展開が多いので、そのような物語が苦手な方は少し読みづらいかもしれません。しかし、喪われるからこそ美しいものを『黒の魔王』は見事に描いています。
ダークな世界観や生死にかかわる冒険に興味がある方は、ぜひ読んでみてください。
バルド・ローエンは58歳の元騎士。辺境のパクラを守護するテルシア家に仕え続け、豪傑として名を轟かせた英雄でした。彼は陰謀により衰退した主を救うために、旅に出ることを決意します。
家族も土地も財産もなく、ただ1頭の老馬のみが彼の相棒。人生で培ってきた大きな体と戦闘術は持つものの、老いた体は時に言うことをききません。そんなバルドは旅すがら様々な人と出会い、新たな人生を歩んでいきます。
冒険のメインストーリーもさることながら、彼は美食家です。旅でどんな厄災があろうとも、事件に巻き込まれようとも、美味しいものは必ず食べます。物語を彩るよだれもののグルメシーンも見どころです。
- 著者
- 菊石 森生
- 出版日
- 2017-03-17
『辺境の老騎士』はweb小説には珍しく、老齢の主人公が渋いハードボイルドなファンタジーとなっています。美しい風景描写と、冒険を彩るグルメなシーンが魅力です。
「山芋プディングとノゥレの鍋」、「コルルロースのシチュー」など、その世界の食材を使った料理が登場し、これがまたリアルな味を想像できる描写で、たまらなく美味しそうなのです。
料理が好きな方や、旅行のようなゆるりとした冒険を味わいたい方におすすめします。
ある日、城鐘恵は「エルダー・テイル」の世界で目覚めます。エルダー・テイルとは、恵がかねてから遊んでいたMMORPG(オンラインゲームのジャンルのひとつ)のタイトル。彼は今まで自らが操作していたシロエというキャラクターそのものになり、ゲームの世界に入り込んでしまっているのです。
彼と同じように、ゲームプレイヤーからゲームそのもののキャラクターとなってしまった人間は、なんと日本人だけで3万人。同時多発的に人間たちはゲーム内に取り込まれてしまったのです。今までゲームとして見ていた仮想世界には、仮想世界の文化や秩序があります。彼はその世界でどのように生きていくかを模索していくことになるのです。
- 著者
- 橙乃 ままれ
- 出版日
- 2011-03-11
ゲームは、現実と違った世界を楽しめるエンターテイメントコンテンツです。その世界の魅力は、現実というものがあってこそ成立します。
『ログ・ホライズン』はそのゲームの世界が自分たちの現実になってしまう、という奇想天外な設定が魅力です。私たちが追い求めるのは仮想世界そのものではなく、現実と対比することができる世界なのだということを改めて痛感します。
本作に登場する人物たちは、破壊や無秩序といった現実離れした行為の意味を、自分たちが異世界に飛び込むという受難によって知っていきます。深いメッセージ性を持ち、後にアニメやゲームなど様々なジャンルに展開された傑作web小説です。
主人公の三上はごく普通の会社員でしたが、通り魔に刺されてあえなく死亡します。彼が目覚めると、そこは異世界の洞窟でした。
三上はなんと、スライムとなって異世界に転生しており、そこで巨大な竜ヴェルドラと出会います。封印されていたヴェルドラを自身の能力を利用して外に出した三上は、ヴェルドラからリムルという名を与えられ、冒険を始めていくのです。
オーガやゴブリン、大魔王などファンタジーの世界を彩る様々なキャラクターたちが彼の前に現れます。リムルは天性の人(スライムですが)の良さを活かし、協力しあえる仲間を作っていくのでした。
- 著者
- 伏瀬
- 出版日
- 2014-05-30
本作は大ヒットweb小説で、もともと掲載されていたサイトのコンテストに応募したことがきっかけで書籍化が実現した作品です。
作者の伏瀬はTRPG(参加者が物語の進行やゲームルールを作るテーブルゲームの呼称)のプレイヤーであった経験や、過去に読んだライトノベルから本作のアイディアを得ています。そのため、本格的なファンタジーとして、壮大なスケールの物語が楽しめるエンターテイメント作品に仕上がっています。主人公がスライムという設定も斬新で、人間ではないことをうまく活かした物語の展開も見どころです。
中学2年で異世界に召喚され、魔王討伐までの長い苦難の道のりをパートナーの少女プレハとともに生き抜いた少年イサギ。物語の終幕としてプレハに想いを告げたその瞬間、再び召喚されるという強制的な展開が彼を襲います。
召喚された先は20年後の同じ世界。イサギを召喚したのは彼が討伐したはずの魔王の娘、デュテュでした。彼女は魔王候補として、イサギを含む3人の少年を召喚したのです。
今までの冒険で培った経験値や能力は全てリセットされた状態で、右も左もわからない少年たちと共に魔王候補として2度目の冒険を強制されるイサギ。彼は愛するプレハと再会を果たすことができるのでしょうか。
- 著者
- みかみ てれん
- 出版日
- 2014-06-30
平凡な学生が異世界に召喚されるという設定は、web小説に非常に多くみられるので既視感がありますが、本作のポイントは1度終わった物語を今度は真逆の視点からリスタートするという点です。
すでに異世界の設定を極めつくした主人公が、何も知らない冒険者たちを達観した目で見つめ、これまでの召喚物語とは全く異なるエンターテイメント作品として仕上がっています。召喚という強制的な行為に運命を左右されつつも、くじけずに立ち向かうイサギの姿に勇気をもらえることでしょう。
主人公のシュオウは並外れた動体視力を持った孤児です。凶暴な魔物に溢れた世界で孤独に生きていました。偶然出会った刺客が彼の才能を見込んだことがきっかけで、彼は山奥での12年間の修行生活を積みます。
成長したシュオウは天才的な能力を蓄えたうえで、冒険の旅へと出かけます。彼には幼少期独りで生きたがゆえに培った老齢を思わせる精神力と、それに反して幼いまま残された心が同居していました。
シュオウを取り巻く人々は、それぞれが自分が抱えた弱さを知るからこそ、彼の強さに惹かれていきます。出会った仲間たちと淡い恋心や熱い仲間意識をはぐくみながら、彼はさらなる高みを目指して冒険を続けていくのでした。
- 著者
- 羽二重銀太郎
- 出版日
- 2014-08-30
web小説で描かれるファンタジーの世界は一種のテンプレートが存在し、今回ご紹介した代表的な小説の中でもいくつかの共通点がありました。そしてそれぞれの作品が新たなる刺激を読者に提供するために斬新な設定を加えていきますが、それに反し『ラピスの心臓』はどこまでも王道の設定を緻密に描くことに焦点をあてた作品と言えるでしょう。
シュオウをはじめとした登場人物たちは、どのキャラクターも強さと弱さを同等に持っており、人間味があります。心の動きや行動の変化なども自然で、大げさな設定や物語の展開よりも微細な心理描写に感動するシーンが多くあります。
完成された世界観や設定にも注目の、本格的なファンタジー作品です。
1年前に交通事故で父を亡くしたユウタが、一人で父との思い出の場所を訪れる中で起こる不思議な出来事が題材に書かれた作品です。思い出の土地である山奥のダムで、ユウタは事故に遭い、意識を失ってしまいます。目を覚ましたユウタは、一人の少女と共にダムに沈んだはずの村を目撃します。なんとユウタは30年以上も前の村にタイムスリップをしていました。そこからユウタとその少女との、もう一つの夏休みが始まるのです。
- 著者
- 川口 雅幸
- 出版日
- 2010-07-08
作品内の背景描写が美しく、状況を簡単に想像しながら小説を楽しむことができます。また、わかりやすい言葉で書かれているので、子供が読んでも十分楽しめます。
最後には感動のシーンもあり、小説として起承転結がはっきりしているため、読んでいて苦にならない作品です。ぜひ親子で一緒に読んでもらいたい一冊だと思いました。
仮想空間を実体験できるVRMMOゲーム「ユグドラシル」は、長年続いたゲームのサービスが終了するはずの日に、終了時間が過ぎてもログアウトがされません。ゲームのプレイヤーたちが仮想空間に閉じ込められ皆が混乱しているなかで、常に同じセリフしか言わない町人Aのような存在であるはずノンプレイヤーキャラクターが、自ら急に意志を持ちはじめました。そして、そこに集まっていた、主人公の「モモンガ」を含める仲間たちが突然さらなる異世界に飛ばされてしまいます。
- 著者
- 丸山くがね
- 出版日
- 2012-07-30
ポイントとしては、現実世界では性格の冴えないゲーム好きな青年が、ゲームの中では最強の魔法使い「モモンガ」として変身するというギャップの面白さがあります。そして彼が率いる「アインズ・ウール・ゴウン」の冒険の旅が始まっていくのです。
ゲームが好きな方にはオススメの一作です。ゲームの世界と現実の世界が交錯するという構成で、好奇心をそそるような設定ですのでワクワクしながら読めます。
現実世界の青年がゲームの世界に、というストーリーなので、小説を読んでいると、自分がまるでRPGの世界に入ったかのような感覚を受けます。最後までハラハラな展開が続くので、すぐに読んでしまうことができる一冊です。
主人公エルが事故で亡くなったところからストーリーは始まります。しかし、死んだはずの彼は、日本人である記憶を持ったまま、異世界に生まれ変わります。生まれ変わった世界でエルは巨大な人の形をした兵器と出会い、この兵器の操縦者として生きていくことを決めます。エルと兵器の進む道の先にはなにがあるのでしょうか。
- 著者
- 天酒之瓢
- 出版日
- 2013-01-30
この作品は主人公に感情移入がしやすい点が魅力です。エルの視点で描かれた描写や心情が多く、読み手がまるで彼になりきったかのような感覚になっていきます。一人に注目して読んでみて、彼の成長物語として読み手も一緒に追体験していく読み方もしてみてはどうでしょう。
また、異世界に生まれ変わるという設定ですが、構成がしっかりとしていて設定が詳しいので、無理なく読めます。そのためロボットや機械が好きな人、ファンタジーが好きな人はもちろんですが、そうでない人にも理解しやすく、スラスラ読める作品。また、小説の途中途中に挿絵があるので、挿絵を参考にしながら読むとよりそのシーンの風景が想像できて楽しめるでしょう。
物語の舞台は、人間と魔族とがいがみ合い、戦争が続いているという世界。人間たち皆に尊敬されている勇者は、魔王の城に乗り込み、魔王を倒して人間の世界を救おうとします。しかし、勇者と対峙した魔王は、経済力が戦争に依存しているため、私を倒しても戦争がなくなることはない、と勇者に伝えました。勇者は魔王の考えに賛同し、勇者は魔王と協力し、戦争がない道を目指すことに。
- 著者
- 橙乃 ままれ
- 出版日
- 2010-12-29
勇者と魔王が武力で互いにぶつかりあうありがちな話ではなく、敵同士であるはずの二人が手を組み、様々な問題に対処していくというところが一番の魅力です。戦争をしている原因を探り、社会や経済の根本を改革していく過程は、学生の勉強面としても参考にできるくらい緻密であり、現代社会に対する皮肉も交えながら作られています。
この小説は台本のように、登場人物たちの台詞を中心とし、進められていきます。説明などの描写がほとんどなく、読み手が様々な想像をめぐらして物語を読んでいくことができるため、いろんな人たちと解釈の違いについて話し合ってみても面白いかもしれません。
ダンジョンという広大な地下迷宮を中心に栄える、迷宮都市オラリオが舞台の作品です。主人公ベル・クラネルは、「異性と運命的な出会いを果たす」ということに憧れ、冒険家となります。そんなある日、強敵モンスター「ミノタウロス」に襲われ、ベルは間一髪で冒険家として有名なアイズ・ヴァレンシュタインに助けられのです。その時にアイズに一目惚れしたベルは、彼女に見合う冒険家になろうと決心し、冒険の道を歩むことになりました。徐々に実力をつけ、仲間が増えていくベルの成長を描いた冒険の物語。
- 著者
- ["大森 藤ノ", "ヤスダ スズヒト"]
- 出版日
冒険が中心的に描かれるのでドキドキな展開が多い作品。冒険家としてのスキルがレベル1やレベル2といったように表現されているので、ゲームが好きな方には面白い設定かもしれません。
小説でドキドキしたい方は手に取ってみてください。