大学を舞台に展開されるファンタジー恋愛漫画、『恋は光』。「恋とは何か」に迫る、今までにないラブストーリーの魅力をネタバレを交えつつ、紹介していきます。
「恋」というものについて、しっかりと考える機会はあまり無いのではないでしょうか。
単純に、「誰かを好きになることだ」と割り切って我々は生活しているので、深く考えることはしないのです。
- 著者
- 秋 枝
- 出版日
- 2014-06-19
今回紹介する『恋の光』は、そんな「恋とはなにか」をじっくりと考えることのできる漫画です。作中のキャラクターたちが「うーん」と頭をひねる時は、きっと読者も「うーん」と唸っていることでしょう。
また心理描写が丁寧な分、ぐぐっと世界に引き込まれてしまいます。「そうだよなぁ」「わかるなぁ、この気持ち」と、うまく言葉にできない恋愛をしている時の感情が湧いてきます。
きっと、自身の「恋とはなにか」を見つけるきっかけになる作品でしょう。
出典:『恋は光』1巻
「恋をしている女は光る」(『恋は光』1巻より引用)
これは比喩表現ではありません。大学生の西条は、実際にキラキラと光る女性たちが視えているのです。この「恋の光」が視えることを幼馴染の北代に告白するシーンから物語は始まり、講義で隣の席になった女の子、東雲に恋をすることで西条の「恋」物語も動き始めるのです。
西条と東雲、西条を想い続ける北代、そして本当の「好き」という気持ちを知らない宿木の4人を中心に物語は進んでいきます。
それぞれの「恋」に悩むキャラクターたちと共に、自分自身の「恋とはなにか」を考えてみませんか。
出典:『恋は光』1巻
西条は「恋をしている女性が光って視える」能力を持つ大学生です。この「光」が視えることが原因で、恋愛を遠ざけて生きてきました。
自身に「光」が向けられることはない。
そう割り切ってきた彼にも、東雲との出会いによってようやく恋をする時がやってきます。
不器用ながらも東雲と友人になるために「交換日記」を提案したり、「恋の光」が視えるからこそ恋について悩んだりと、奮闘する彼の姿を読者はつい応援したくなってしまいます。
物事を深く考えすぎてしまう性格で、論理的な話し方や文章のため、周りからは少々「面倒くさい人」判定されがち。しかし、深く考えてしまう性格だからこそ、他者への配慮がしっかりとでき、付き合う人々に安心感を与えているようです。
ちなみに彼のバイトは深夜の警備員。ゆっくりと考え事ができるという理由から選びました。
西条と同じ大学に通う女の子、東雲。彼女もまた西条と同じく物事を深く考え、論理的な話し方をするタイプです。ケータイは持っておらず、TVも見なくて、パソコンも極力触りません。また服は、祖母の形見と商店街の洋品店で買っています……美人だけれども、現代を「普通」に生きる女の子とはちょっと変わっているのです。
西条の幼馴染の北代が言った「ひと昔前からタイムスリップしてきた人みたい」という表現がぴったりではないでしょうか。
東雲は、「恋とは何か」を探求していましたが、西条との出会いによって恋を経験していくことになります。「浮気の定義」「嫉妬心」……話が進むたびに新たな経験をして、知っていくのです。
「恋とは何か」という問いの答えは出るのでしょうか。そして、彼女の恋は実るのでしょうか……。
西条の幼馴染でよき相談相手の北代。美人で社交的な性格のため、男女ともに人気があります。
しかし西条のことをずっと想い続けているため、これまでに交際した人数は未だに0人なのです。
- 著者
- 秋 枝
- 出版日
- 2015-01-19
西条の「光」が視える能力について告白されたのも彼女が最初です。このことからも、彼が北代を信用していることがうかがえます。
大学の友人たちからは、2人があまりにもずっと一緒にいるため付き合っていると勘違いされることもしばしば。
彼女の西条に対する想いはハッキリしていますが、彼の「恋の光」が視える能力では北代は光っておらず、西条は彼女の想いに気づいていません。そのため、彼女の恋はあまり積極的ではなく、機会が来るのを待っている状態です。
6巻では大きな進展があったため、今後の恋の行方が気になるところです。
宿木は、他人の恋人を奪うことでしか恋愛の仕方を知らない女の子。
他者のモノを奪い、勝つことで優越感を得ているのですが、物語が進んで西条たちと関わることで、その恋愛観や生き方に少し変化が表れてきます。自身の性格や過去の恋愛を振り返るようになり、これまで人をちゃんと好きになって付き合ったことがないことに気づくのです。
- 著者
- 秋 枝
- 出版日
- 2016-02-19
東雲や北代に勝つため、西条にお試しで付き合おうと持ち掛けて交際に至りますが、別れた後に西条を「好き」になってしまい、物語が進展していきます。
彼女もまた「恋とは何か」に苦悩していると言えるでしょう。
出典:『恋は光』1巻
1巻の名シーンはやはり第1話にありました。「恋をしている女性が光って視える」と北代に告白し、「光」について話をした西条。その後2人は講義に向かいますが、すでに席がいっぱいになっており、バラバラに分かれて座ることになってしまいました。
西条は空いている席を見つけると、座っている東雲に声を掛けて隣に腰をおろします。しばらく沈黙が流れますが、熱心に本を読む彼女に興味が湧いたのか、西条は口を開きました。
「何を読んでいらっしゃるのですか?」
「『バラ物語』です」(『恋は光』1巻より引用)
すかさず東雲は答えました。それに対し西条は面白いか?と質問をぶつけます。彼女は難しい質問だと言いながらも、共感を伴っての理解が難しいためあまり面白くないと答えを出しました。
「ではなんのために読んでいるのですか?」
「恋というものを知りたくて」(『恋は光』1巻より引用)
このひと言から、彼らの「恋」が始まっていくのです。
出典:『恋は光』6巻
6巻では登場人物それぞれの想いが交錯し、物語が急加速していきます。そのなかでも最も注目すべきは、北代の告白シーンです。
ネットで知り合った、西条と同じく「恋の光」の能力を持つ女子高生の央。西条は彼女と「光」に関する話をするために、大学の学園祭で会うことになりました。西条と北代、央の3人で「光」について話をした別れ際、央が衝撃のひと言を口にします。
「今まで見た誰よりも北代さんが一番光ってて」(『恋は光』6巻より引用)
央のこの言葉で、いままで西条には「光っていない」と見られていた北代が実は1番光っていたことが判明するのです。西条は思わず北代に聞きます。
「お前は俺を好きなのか?」(『恋は光』6巻より引用)
そして、北代が初めて想いを口にするのです。
「うん」
「好きだよずっと」
「ちゃんと好き」(『恋は光』6巻より引用)
北代は長年の想いを思わぬ形で告げることになりました。
「光」については少々謎が残る展開です。西条にはなぜ北代の光が視えなかったのでしょうか。「光」の正体は一体何なのでしょうか。次巻の展開に期待です。
また、北代に告白された西条は、いつも通り深夜の警備バイトをしながら思考を巡らせます。
自分にとって彼女はどういった存在であったのか。自身の過去を回想しながら北代の存在の「意味」を確かめていきます。そして、ひとつの答えを導き出しました。
「俺にとって北代は……」
「『特別』」(『恋は光』6巻より引用)
それぞれの想いが交錯し、急加速していきます。続きが気になってしょうがないですね。
- 著者
- 秋 枝
- 出版日
- 2017-04-19
「恋」をテーマに、それが光となって見えるという設定で展開した本作も、7巻でついに最終回を迎えました。最終巻で物語を大きく転換させるのは、西条が北代に告白の返事をするシーンです。
本作最大の魅力である、感情を丁寧に言葉にし、それを登場人物たちに会話させて展開させという手法で、読者の感情を揺さぶってきます。
普通なら、何となくこういう感情になった、というところを一語一句言葉としてアウトプットすることは、相手と向き合うことなのだな、と感じさせられます。
- 著者
- 秋 枝
- 出版日
- 2017-11-17
最終回は、西条と彼と付き合うことになった女性とのクリスマスの様子が描かれました。
そしてそこはやはり西条らしく、この状況を「いかにも…というか何というか 想像し易い恋人同士の姿そのもの」だと表します。
しかし冷静に分析しながらも、当事者としての幸せを噛み締め、そのあとに「恋の光」についての自分の考えを話し始めます。
西条は東雲とともに、恋の要素である本能と学習のうち、西条が見られる光は、本能による恋をしている人物のもののみなのではないかという結論に至りました。
その仮定に沿うならば、大人になり、最愛の人と付き合うことになった自分には、もうその光を見る必要はないのではないかと西条は述べます。
それに対し、相手は西条の能力が、彼の「美しさ」に繋がっているのではないかと返し……。
西条を射止めた相手、ふたりの最後の会話、その他のヒロインたちの様子は作品でご覧ください。
作者の秋★枝は、最後まで誰と西条を結ばせるか悩んだものの、作品のテーマにふさわしい相手を選んだ、と振り返ります。この作品のテーマが「愛情」や「家族」なら、「エンターテイメント」なら、と想像したあとに、「恋」がテーマだからこの相手になったのだと語るのです。
登場人物たちの言葉から、その必然性が納得できる結末。自分も恋について考えたくなる名作をぜひご自身の目でご覧ください。