自分に正直に生きる良寛。そんな彼が近年再び注目され始めました。生前は無名だった彼は、後世で評価が高まります。人々を引きつける彼の魅力とは何でしょうか。良寛について知ることができる本を紹介します。
良寛は禅僧で、優れた歌人としても有名な人物です。越後の名主の長男として生まれ、父の後を継ぐために名主見習いをしますが、18歳で突然仏の道を志して出家しました。曹洞宗光照寺で4年間修行した後、備中玉島の円通寺に行き、国仙和尚に師事します。
円通寺での修業は12年にわたりました。その間、良寛は生涯の師と定めるほど国仙和尚を尊敬し、彼に大いに影響を受けたようです。しかし円通寺での修業時代を記したものはほとんど残っておらず、分かっていることはあまりありません。
国仙和尚の死後は諸国行脚をし、各地に草庵(僧侶や隠遁者が住む非常に簡素な住まい)を結び、48歳のとき越後国上山の五合庵に入りました。その後の生涯でも寺を持たず托鉢(たくはつ)によって生活します。托鉢とは、僧が経文を唱えながら各家に米や金銭の施しを受けて回ることです。
彼は難しい法を説くことなくわかりやすい言葉を使って感化を与えることで、民衆の教化に努めました。その姿勢にさまざまな人々が共感や信頼を寄せ、彼は深く尊敬されたようです。
彼は和歌をよく詠み、残した歌は約1200首に及びます。中央歌壇との交流がなく、生前は一般には知られていませんでしたが、明治後期から大正時代にかけて評価が高まりました。彼の平明で率直な歌は今でも親しまれています。
1. 子供と遊ぶため、常に懐に手毬を入れていた
彼は子供たちを愛し、よく一緒に遊んでいたので、このような子供たちとのエピソードが多く残っています。
手毬の話以外にも、「かくれんぼで子供たちと遊んだとき、日が暮れて子供たちが帰った後もかくれ続けていた」、「高名な人物からの書の依頼をよく断っていた良寛が、ある子供に凧に文字を書いてほしいと頼まれたときは喜んで書いた」など数多くのエピソードがあり、どれも彼に対する親しみを覚えるような話です。
このように子供好きでしたが、意外なことに最初は子供たちがむしろ苦手だったようです。
実際に、托鉢にまわる彼を子供たちが好奇の目で見てからかい、それを耐え忍ぶといったことが記述に残っています。托鉢行抜きに彼の生活は成り立ちませんから、子供たちとの関係を良好なものにする必要がありました。このことから、その後徐々に子供たちと打ち解けていき、彼は子供たちに欠かせない存在となっていったようです。
2. 酒好きだった
良寛はよくお酒を飲んでいたそうです。当然これは仏教の戒律に反しますが、戒律よりも酒を飲んで人々と交わるほうが重要だと考えていたのです。
人々と盃を交わし、互いに酒を味わい、楽しく交流する良寛。民衆はそんな破戒僧の姿に、寺の中の僧侶よりも親しみを覚えたのかもしれません。
3. 万葉集を好んだ
万葉集といえば言わずと知れた最古の歌集ですが、純粋に歌集として世の中でもてはやされるのは明治時代に正岡子規によって取り上げられてから。良寛が生きたのはそれより前の江戸時代ですが、彼は自身の見識で万葉集を高く評価し、歌を詠む際にも参考にしたようです。
4. 病気がちだった
野宿同然の住まいで、生活を托鉢行によって成り立たせ、当時としては長寿といえる74歳まで生きています。しかし彼の残した手紙などによると、しょっちゅう風邪をひくなど多病に悩まされていたようです。薬どころか食事も十分に調達できないところ、なんとか耐え抜き生きていたのでしょう。
5. 老いてから尼を弟子に迎えた
良寛は老いるまで弟子をもつことはありませんでしたが、ある日、貞心尼という女性が訪ねてきます。貞心尼は彼の名声を聞いて、仏法の教えを請うたのです。彼は、そんな彼女を弟子としました。
このとき良寛70歳、貞心尼30歳。かなり歳の離れた師弟関係ですが、互いを想う歌が多く残っていることから、恋仲にあったのではないかとも言われています。
6. 明治末期になってから世の中で評価されはじめた
郷土の民衆の厚い信頼を得ていた良寛ですが、著作を発表したり、自らの考えを吹聴したりすることがなかったので、当時は世間一般では有名な存在ではありませんでした。死後、貞心尼がまとめた彼の歌集が注目され、数々の逸話も広まって多くの人々に親しまれる存在になったのです。
欲にまみれた現代社会で不安や迷いによって疲れている人々が、もっと楽に生きるためにはどうしたら良いでしょうか。そのヒントを、良寛の詩歌や手紙、逸話から探っていったのが本書です。
この本は彼の詩歌や彼の逸話をわかりやすい現代語訳で載せていて、さらにそれを著者の観点から解説しながら、多くのことを学べるという構成になっています。
- 著者
- 松本 市壽
- 出版日
- 2008-04-04
彼の生き方には、彼自身が寡黙であったのとは対照的に、現代人にも通じるようなメッセージが含まれていました。著者はそのメッセージを読者にもわかりやすく紹介することで、現代に通用する人生論に仕上げています。
250年以上の時を経てなお語り継がれる良寛の生き方と彼の言葉は、きっとあなたの悩みもやさしく解きほぐしてくれるでしょう。
この本では、彼とその周囲の人々や時代背景(家族・宗派・政治・民衆など)を掘り下げ、それによって彼の考えや感情を描き出していきます。
- 著者
- 水上 勉
- 出版日
- 1997-07-18
他の本にはないような解釈もあり、良寛という人物について改めて考えさせられる本です。著者による詳細な記述は、読者に独特の人物像を提示することでしょう。
直木賞の受賞経験もある著者の魂のこもった、骨太な一冊です。
この本では、良寛が書いた般若心経の写経をカラー写真で楽しみながら学ぶことができます。
- 著者
- 加藤 僖一
- 出版日
- 2007-09-01
彼は、民衆にも親しまれやすい、あたたかい書風で作品を残しています。著者は、そうした彼の精神性が人の心を惹きつけて離さないものにしていると論じているのです。般若心経を学ぶにあたってうってつけではないでしょうか。
良寛の書という新しい切り口によって、数ある般若心経の本とはまた違った学び方ができる一冊です。
「愛語」とは、仏教の言葉の一つで、「相手を優しく思いやる言葉」という意味です。若き日に良寛は道元の書『正法眼蔵』を読み、それに収められていた「愛語」について学んだところ、いたく感動して以後その実践に努めます。
晩年、彼はふと筆をとり「愛語」を全文書き写しました。それが「良寛さんの愛語」として今日まで伝わっています。
この本は、いわゆる「良寛さんの愛語」の自由訳です。解説などはほとんどありませんが、現代風の文章で書かれているので、つまずくことなくすんなりと読むことができるでしょう。
- 著者
- 新井 満
- 出版日
- 2008-06-05
短い内容ですが、そこに書かれているのは生きていく上で重要なことばかり。かといって堅苦しい内容ではありませんから、そのエッセンスをすっと飲み込めるはずです。
著者は、現代の生き方や文化に対する根本的な疑いが彼の生き方に目を向けさせるのだと考えました。
- 著者
- 中野 孝次
- 出版日
この本は彼の考えや生き方を読み解きながら現代の日本人のあり方を反省し、どのように生きるべきかを考える、そんな内容になっています。
彼の思想を老子や荘子、道元らと比較し結びつけて考えることで、他にないような人物像も提示しています。
耳の痛い話も多く出てきますが、そこから目をそらしてはいけないのでしょう。生き方について悩んでいる時、この本が助けになるかもしれません。
いかがでしたか。ここで紹介した本は、どれも人生の助けになりそうなものとなっています。これらの本の中に自分に合いそうなものがあれば、ぜひ手にとってみてください。