ワクワクする魔法仕掛けが体感できるかのような、圧倒的画力で描かれる『とんがり帽子のアトリエ』はこれぞ王道ファンタジーといえる作品でしょう。今回は、おとぎ話のような世界観にどっぷり浸れる本作の魅力を、じっくりとご紹介いたします。
まるで、絵本のなかのおとぎ話のような、王道魔法ファンタジーが本作最大の魅力でしょう。卓越された画力で描かれる登場人物や背景は、読者をその世界に引き込んでしまいます。ページを捲る手が止まらなくなるほど胸躍る展開に、目が離せなくなること間違いありません。
物語に秘められた謎や、数多く登場する魔法、魅力溢れる魔法使いたち。さまざまなファンタジー要素をギュッと詰め込んだ『とんがり帽子のアトリエ』は、魅力がいっぱいです。
- 著者
- 白浜 鴎
- 出版日
- 2017-01-23
出典:『とんがり帽子のアトリエ』1巻
主人公は魔法使いに憧れる少女、ココ。ある日、彼女の母親が営む仕立て屋に魔法使いの男、キーフリーがやってきます。ココは、「見てはいけない」と言われていたのに、キーフリーが魔法を使うところを、好奇心で覗き見してしまいました。
誰も見たことがなかった魔法を発動する方法、それは何と「書く」ことで発動するものだったのです。
魔法の使い方を見てしまった後、ココは幼い時にお祭りで出会った、仮面の魔法使いから購入した「杖」と「絵本」が魔法の道具だということに気づきます。さっそく試しに使ってみたところ、なんと念願の魔法を使うことに成功してしまうのです。
何も知らず、さまざまな魔法を試すうちに、ココは「禁忌の魔法」を母親にかけてしまい……。母親を元に戻すため、ココはキーフリーのアトリエで、魔法を学ぶ決意をするのでした。
出典:『とんがり帽子のアトリエ』1巻
この世界では、魔法使いと普通の人間が共存しています。魔法使いが施す魔法は世界中に溢れており、人間も魔法に「触れる」ことができるのですが、「使用」できるのは魔法使いだけ。魔法を日常的に体感はできるものの、実際にどのようにして魔法を発動するのかは、普通の人間に知らされることはありません。
昨今「ファンタジー」を題材とする作品は多く発表されていますが、本作の魔法に関する設定は、「王道ファンタジー」と評価されるポイントでしょう。
どのように魔法を使うのかというと、銀葉樹から取ることができる「魔墨」という特殊なインクで「魔法陣」を描き、発動させるのです。魔法陣の模様にはそれぞれ特性があり、丁寧に描くほどに発動力が強くなり、アレンジ次第でさまざまな作用を施すことができます。作中や、コミックスの巻末でも丁寧に紹介されていて、緻密に練られた設定に脱帽することでしょう。
ココの推測通り、仮面の魔法使いから購入した道具は、魔法に使うものだったのです。実際に魔法を使うことができ、嬉しくなった彼女は、本に描かれた魔法陣を次々と描いていきます。
そのうちに、彼女はうっかり禁忌の魔法に手を出してしまいます。そして、禁忌の魔法が彼女の母親にかかってしまうのです。しかし、彼女は戻す術を知りません。母親にかかった魔法を解くため、そこに居合わせたキーフリーに弟子入りを嘆願します。本格的に魔法を学ぶため、ココの修業が始まるのです。
1日も早く母親を助けたいココは、持ち前の明るさと努力で、さまざまな難関を突破していきます。「書く」ことで発動される魔法は、アレンジ次第ではその用途以上の力を発揮します。そんな多様な可能性を見せる魔法はとても魅力的で、次はどんな魔法が出てくるのか、どんなアレンジで難関を突破するのかと、先の展開が待ちきれなくなること間違いなしです。
出典:『とんがり帽子のアトリエ』1巻
作者の白浜鴎は、東京藝術大学デザイン科の卒業で、確固たる実力の持ち主。デビュー作である『エニデヴィ』の頃より、その圧倒的画力で読者を魅了してきました。また、フリーのイラストレーターとしても活動しており、2015年にマーベルコミックスで「マンガバリアントカバー」シリーズの1作を担当。その他にも、アメリカンコミックスのカバーを数多く手がけています。
そんな白浜鴎が描く王道ファンタジーの世界観は、上質な絵本の世界そのもの。丁寧に描かれた背景は、異国情緒溢れる雰囲気で、ファンタジーな世界観をより一層深めています。
個性的なキャラクターたちも、この作品の魅力のひとつに挙げられるでしょう。老若男女、さまざまなキャラクターが登場しますが、しっかりと書き分けがされており、どのキャラクターも魅力的に見えるのです。
また、Twitterでも話題になった、コマが繋がっているシーンも見所のひとつ。あるようでなかったこの技法は、漫画界を震撼させました。2つのコマで描くことで、まるで動画のような動きを感じさせます。アイデア溢れる仕掛け満載の画面は、隅々まで楽しめるような工夫が施されているのです。
前述してきた通り、本作はファンタジー要素がギュッと詰まった、夢のある作品です。まさに作品のテーマといえる、作中で数多く登場する「魔法」は、誰しも1度は思い描いたことがある夢の世界でしょう。「空飛ぶ馬車」「光る道」「空飛ぶ靴」「空気中に浮かぶ水」など、それらは実際にあったら素敵だろうと思える魔法ばかりです。
キーフリーのアトリエで学ぶため、ココが使用する道具を、魔法使いばかりが暮らす街に調達しに行くシーンがあります。この街では、普通の人間たちが暮らす世界以上に魔法が浸透しているので、さらにファンタジー要素が強い印象を感じられるでしょう。魔法に使う道具も、それぞれ細かい設定が施されており、作中で紹介されるたびにワクワクする気持ちが止まらなくなるのです。
また、ファンタジーな世界観ならではの生物も登場します。圧倒的画力で描かれるモンスターは、迫力満点です。そんな脅威にも、ココは魔法で立ち向かっていくことになります。魔法によって、さまざまな出来事が目まぐるしく展開する物語に、目が離せなくなるでしょう。
- 著者
- 白浜 鴎
- 出版日
- 2017-08-23
1巻のラストで、ココとアトリエの姉妹弟子たちは突然、ドラゴンのいる魔法空間に転送されてしまいます。冒頭から大ピンチのココは、師であるキーフリーの手を借りることが許されない状況に陥ってしまうのです。
突然の出来事に動揺する仲間たち。しかし彼らは互いに協力し、工夫を凝らしてドラゴンに立ち向かいます。
「魔法は幸せを与えるもの」。それをモットーにしている姉妹弟子のテティアは、オリジナル魔法である「温かい雲」を発動できます。モチモチで温かい感触の雲は、ドラゴンまでもを虜にしてしまうはず。その考え通り、ドラゴンは彼女たちが発動した魔法に骨抜きになります。
ドラゴンが守っている柱に描かれた魔法陣を辿り、ココと仲間たちは、ついにドラゴンがいる場所から元の場所へ帰ることに成功しました。そして、初めての難関に立ち向かったココと仲間たちの関係性は、以前に比べ柔らかいものとなっていったのです。
2巻ではココのさらなる成長や活躍、新キャラの登場など、目が離せない要素がたくさん詰まっています。ワクワクするような目まぐるしい展開を、ぜひ確かめてみてください。
いかがでしたでしょうか?圧倒的画力から構成される世界観や、緻密に練られたさまざまな「魔法」。そんなワクワクするような王道ファンタジーの世界観に浸りたいなら、ぜひ本作をご覧ください。