日本のホラー小説は海外とは一味違った心底ゾクリとするような作品が多いですね。想像に訴えかけてくるからこそ、小説というメディアから得る恐怖体験は強く印象に残ることでしょう。今回は、日本のホラー小説の中でも有名な作品を5つご紹介します。
目が覚めるとそこは赤い砂漠のような大地。主人公の藤木は、どうしてこんな場所にいるのかわかりません。持ち物は飲料と携帯型のゲーム機のみ。彼はわけもわからないまま、その地で行われるデスマッチに強制参加させられてしまうのでした。
同じように無差別に選ばれた、過去に難ありの登場人物たちがその地でサバイバルを始めます。最初はお互い連携プレーで切り抜けようとしますが、やがて飢餓や環境からくるストレスによって精神は侵されていき……。
一時は夢なのではないかと疑う主人公でしたが、ゲームが進むうち、そこがオーストラリアであることが判明しました。自分はいつの間にこんな場所に来たのか、そもそもなぜこのゲームに参加させられているのか、すべての秘密が徐々に明かされていきます。
- 著者
- 貴志 祐介
- 出版日
- 1999-04-09
追い詰められた人間心理の恐怖を描いたスリラーサスペンス。貴志祐介はこの作品をじわじわと襲い来るホラーというより、映画のようなエンターテイメントとして描いたそうです。
次々と登場する伏線が、テンポよく回収されていくスタイルが心地よく、一気に読むことができるでしょう。ファンからの映画化を期待する声が多く上がっていますが、複雑ではないのに必要不可欠な要素の多い作品だからこそ、映像化が難しいのかもしれません。
ちなみに様々な知識を総動員して作られている本作は、資金さえあれば実現可能な恐怖ばかりが登場します。幽霊や超常現象などではない、いつか自分が晒されるかもしれない状況であるということが、1番の恐怖かもしれませんね。
ある女郎屋に、世にも醜い女郎がいました。ある晩彼女は客に、自分の故郷の話をします。そこでは、貧困のあまり育てられない子供は、そうそうに殺される風習がありました。
彼女は自分も殺されそうになったということを明かします。「美しい女であれば女郎になれただろうに、醜いゆえにそれもかなわない」と親から存在意義を否定され、殺されかけたのです。
結局生き延びた後、女郎屋に来た彼女は気味の悪い顔だと言われて蔑まれますが、唯一優しくしてくれた女郎がいました。しかし醜い彼女は、そんな相手になぜか窃盗の濡れ衣を着せ、罰が与えられるように仕向けたそうなのです。
なぜ彼女はそんなことをしたのでしょうか?その秘密は、引きつった片側の顔に隠されていました。
- 著者
- 岩井 志麻子
- 出版日
- 2002-07-10
「ぼっけえ、きょうてえ」は岩井志麻子の短編小説で、日本ホラー小説大賞を受賞しました。岡山の方言で「実に怖い」ということを指すタイトルは、この作品が終始岡山の方言で語られる形式であることにも起因します。
日本のホラーならではの得体のしれない恐怖が、読む間ひたひたと迫ってきます。現代ホラーにはあまり感じられない、地方の閉鎖感や時代を感じる薄暗さも相まってさらに恐怖感は増すのです。
女性ならではの視点から描かれた「恐怖」を堪能できる一冊となっています。
雑誌記者の浅川は、姪が謎の死を遂げたことをきっかけに、「呪いのビデオテープ」の存在を知ります。そのビデオは意味不明なカットが羅列された短いもので、姪はどうやら死ぬ1週間前にそのビデオを友人たちと見たようなのです。
そして、それを見た浅川自身も、自分の死へのタイムリミットが1週間であることをビデオから宣告されます。
浅川はそのビデオの謎を突き止めるため、大学講師の高山に助けを求めました。推理力と恐れ知らずな性格を活かし、高山はビデオに収められた収録内容からその謎を解き明かしていきます。
やがて、浅川と高山は、そのビデオが撮影されたものではなく、超能力の念写によって作られたものだという結論にたどり着くのです。果たして彼らは呪いから解放されるのでしょうか。
- 著者
- 鈴木 光司
- 出版日
- 1993-04-22
日本のホラーブームの火付け役となった有名な本作。映画、テレビドラマ、ゲームなどさまざまなメディアで発表され、なんとハリウッドでのリメイクも実現しました。「呪いのビデオを見たら1週間後に死ぬ」というシンプルな設定は、世界中の人を震えあがらせるものだったのでしょう。
ちなみにこの『リング』には、『らせん』と『ループ』という続編も存在します。それぞれ呪いのビデオテープの真相に紐づく物語で、遺伝子のように人の心に食い込んで逃れられない恐怖を描いていることから、このタイトルがついたそうです。
ちなみに『リング』は井戸の輪郭を表したタイトルで、井戸から出てくる貞子の衝撃的なシーンは映画によってより色濃く印象づけられました。貞子の姿はムーブメントになり、今では様々なホラー系のコンテンツで登場する人気者になりましたね。
生命保険会社に勤める若槻は、ごく一般的な優しいサラリーマンです。近頃は不当に保険金を奪おうとする顧客も多く、その対策に追われています。
ある日彼のもとに謎の女から「自殺でも保険金は出るのか」という問い合わせの電話がありました。若槻は一応規約などの説明をしますが、本当に自殺する気ならば思いとどまるよう説得します。その後、重徳という男性から指名で自宅に呼ばれ、そこで重徳の息子が首吊り自殺しているのを目の当たりするのです。
その日から、若槻は重徳から日々「保険金はまだ出ないのか」と追い詰められるようになります。やがて重徳がサイコパスで、保険金目当てに息子を殺したのではないか?という疑いが上がり、事態は急変していくのでした。
- 著者
- 貴志 祐介
- 出版日
日本を代表するホラー作家の貴志祐介によって描かれた、日常ホラーの金字塔ともいうべき作品です。貴志は本作で日本ホラー小説大賞を受賞しました。
日本の誰もが思い描ける生命保険という安心・安全な印象の業種と、殺人・人格破綻というアブノーマルな世界が交錯する設定が背筋を凍らせます。また、人格はどうあれ紛れもない「人間」が相手であり、じわじわと迫りくる点も「恐怖」の本質をつくポイントです。
本作は日本・韓国それぞれで映画化され、ホラーファンから絶大な人気を集めました。韓国版の設定は日本のものとは少し違うので、別の作品としても楽しむことができます。いずれも「理屈が通じない」相手との対峙が与える心理的ストレスを描いた傑作と言えるでしょう。
「わたし(男性)」は、喫茶店にサングラス姿の女性と入り、「何故昼間はずっとサングラスをかけているのか」と質問します。すると女性は、しぶしぶながら過去の秘密を語りはじめました。
幼いころ、「玩具修理者」と呼ばれる子供たちだけの秘密の存在がいました。玩具修理者は、子供たちが壊してしまったオモチャを無料で直してくれるのです。
玩具修理者は子供たちから「ようぐそうとほうとふ」と呼ばれ、複雑なオモチャでも正確な要求さえすれば元通りにしてくれることで評判でした。ただしその時、複数のオモチャを分解し、再構築する手順が必要です。
ある日、彼女は弟とおつかいに出かけた際に事故に遭い、弟を死なせてしまいました。これまで「ようぐそうとほうとふ」には1度も頼ったことがなかった彼女は、死んだ弟を修理に出すことにします。
弟は、直るのでしょうか。
- 著者
- 小林 泰三
- 出版日
日本ホラー小説大賞短編賞を受賞した本作は、著者の小林泰三のデビュー作でもあります。斬新な設定と、毒々しい内容を淡々と語るスタイルが、多くの読者に強い印象を残しました。
また、本作は発売後にコミカライズや映画版が発表されています。映画ではドリンク付きの低料金上映というスタイルで話題を呼び、2週間という短期間ながら多くの観客が足を運びました。
ちなみに「ようぐそうとほうとふ」という名前は、クトゥルフ神話に出てくる神、「ヨグ=ソトホース」からとられています。形をとどめない謎の存在である「玩具修理者」のイメージを象徴するネーミングとなっていますね。
ホラー小説とひと言で言っても、いったい何で恐怖を与えるかは作品によってそれぞれです。人間が1番怖い生き物なのか、はたまた呪いが怖いのか、得体のしれない存在が怖いのか……。あなたの好みにあわせて、ぞぞっとするような読書タイムを楽しんでくださいね。