繊細かつ緻密な絵で描かれる、王道魔法ファンタジー漫画『とんがり帽子のアトリエ』。子どものころに誰もが夢見た「魔法使い」の物語を、ネタバレを交えつつご紹介します!
本作の作者は白浜鴎(しらはまかもめ)。漫画家としての活動のほか、アメリカン・コミックスの表紙を手がけるなど、活躍は多岐にわたっています。『とんがり帽子のアトリエ』は、前作の『エニデヴィ』に続く、白浜の2作目です。
この作品の魅力は、「美麗な絵」「王道なファンタジー要素」「主人公」の3つでしょう。
人物、背景、道具、動物……ありとあらゆるものが細かく描き込まれているのです。そこに王道なファンタジー要素が加わることで、さらに夢のような世界となっています。
また魔法使いに憧れる主人公のココは読者の気持ちを投影しやすく、彼女が過ごす新鮮な日々を我々は追体験できるでしょう。
まるで幼いころに夢中になって本を読んでいた時のような、ワクワク感が蘇ります。子どもの気持ちに戻った読者は、「主人公」となって「美麗な絵」で描かれる世界を冒険していくことができるのです。
- 著者
- 白浜 鴎
- 出版日
- 2017-01-23
出典:『とんがり帽子のアトリエ』1巻
本作の舞台は、魔法使いが存在し、魔法が無くてはならないものとなっている世界です。しかし魔法使いには、「魔法使いとして生まれた人」しかなれません。
そんな世界の小さな村に住む少女、ココは、昔から魔法使いに憧れを抱いていました。
ある日、ココの母が営む仕立て屋に、魔法使いのキーフリーがやってきます。当初彼は魔法使いであるということを伏せていましたが、ひょんなことから魔法を使うことになってしまいました。
実はこの世界、魔法使いが魔法を使う瞬間を見てはいけないという決まりがあります。そこには魔法使いの「重要な秘密」が隠されているからなのです。
しかしココは、キーフリーが魔法を使うところを見てしまい、魔法使いの秘密を知ってしまいました。そして幸か不幸か、キーフリーの弟子として「魔法使い」になる1歩を踏み出してしまうのです。
出典:『とんがり帽子のアトリエ』1巻
ココは幼いころから魔法使いに憧れを抱いている少女です。キーフリーとの出会いによって「魔法使いの秘密」を知ってしまい、「秘密」を持つ側、つまり「魔法使い」になる1歩を踏み出すことになります。
性格は明るく、母想いの優しい女の子で、魔法が大好き。誰かを憎むなんてことは決してしません。魔法の勉強も欠かさず、努力家でもあります。
元々魔法使いとして生まれてきたわけではないため、ココにとって魔法は身近な存在ではありません。しかしキーフリーに弟子入りをしたことで魔法に触れ、新鮮な毎日を過ごしています。キーフリーや、姉妹弟子であるアガット、テティア、リチェが使う魔法にキラキラと目を輝かせている姿がよくみられます。
出典:『とんがり帽子のアトリエ』1巻
ココを魔法使いの世界へと導いた魔法使いです。ココの他にアガット、テティア、リチェという弟子がいます。
優しい性格で物腰は柔らかく、弟子の考え方を尊重してさりげなくヒントを与えるなど、自発的な成長を促すタイプの先生です。弟子をとても大事にしており、彼女たちに危険なことがあると真っ先に行動に出るなど熱い心の持ち主でもあります。
また、使用を禁止されている魔法、「禁止魔法」を独自に調べていることも分かっています。
キーフリーのアトリエに連れてこられたココ。まずは姉妹弟子のテティア、リチェと挨拶を済ませました。続いてキーフリーから、昔は魔法がもっと人々に身近な存在で、だからこそ争いが起きてしまい、争いを防ぐために一部の人間だけにしか魔法が伝えられなかったという事実を伝えられます。
その後ココは割り当てられた部屋へと案内され、ルームメイトである姉妹弟子・アガットと出会います。彼女はココに対して良い印象を持っておらず、通常であれば弟子入りのために合格しなければならない「試験」を明日受けろとココに言い放ちました。
翌日、キーフリーが用事でアトリエを留守にすると、さっそうアガットがココに言います。
「『試験』を始めるわよ」(『とんがり帽子のアトリエ』1巻から引用)
試験の内容は、ダダ山脈と呼ばれる山の頂上に生えている「王冠草」という植物を取ってくること。文章だけで見ると単純な試験に見えますが、やはり魔法の世界、その山は空中に浮いているのです……。
ココがどうやって試験を合格するのか、それは皆さんの目でお確かめください。
何とか自分の魔法で「王冠草」を手に入れることに成功したココ。アトリエに帰ってきたキーフリーに怒られてしまいますが、
「君はもう僕の弟子だ」(『とんがり帽子のアトリエ』第1巻から引用)
と優しく声をかけられ、魔法使いにとって大切な「とんがり帽子」を受け取りました。
出典:『とんがり帽子のアトリエ』1巻
アトリエでの生活に慣れてきたころ、ココは「見張りの眼」を務める魔法使い、オルーギオと出会います。
「見張りの眼」とは、魔法使いの本拠地である「大講堂」や、魔法使いが集まる街以外に住んでいる魔法使いが、問題を隠匿しないよう見張っている魔法使いのことです。
ココは元々魔法使いではない普通の人間であったことから、オルーギオに目をつけられ、魔法の秘密を守るために結成された「魔警団」に引き渡されそうになってしまいます。
キーフリーの説得により、ひとまずアトリエに留まれることになりますが、オルーギオに対する印象は近づきにくい人となりました。しかしこの後、意外なことから、ココのオルーギオに対する印象がガラリと変わることになるのです。
「魔警団」に関する話がひと段落した時、1巻でココと出会った「フデムシ」という生き物が、オルーギオの部屋に入っていってしまいます。ココは連れ戻すために恐る恐る部屋に入りますが、オルーギオに見つかってしまいました。
- 著者
- 白浜 鴎
- 出版日
- 2017-08-23
彼に出て行けと言われた時、ココはあることに気がつきます。彼女の足元の床が光っているのです。
「私が最初に魔法を好きになった魔法」
「これなんです」
「踏むと光る石畳……!」」(『とんがり帽子のアトリエ』2巻から引用)
実はこの踏むと光る石畳の魔法「灯石道」は、オルーギオが作った魔法だったのです。
ココは続けます。
「私にとってこの光は特別なんです」
「この魔法は私に夢をくれたんです」
「ありがとうございますオルーギオ先生!」(『とんがり帽子のアトリエ』2巻から引用)
夢をくれた魔法を作った魔法使いと出会えたココ。このシーンは、ココとオルーギオのお互いの印象が変わり、心が通じた名場面であるといえるでしょう。