金子みすゞの知られざる5つの事実。短命の名詩人について知る4冊もご紹介

更新:2021.11.9

独特のリズム感と、優しく繊細な視点で人々の心をとらえる作品を多く残した女性童謡作家、金子みすゞ。彼女は、26歳で悲劇の死を遂げてしまいます。「若き童謡詩人の中の巨星」と評された彼女が残した作品と人生の真相に迫ります。

ブックカルテ リンク

金子みすゞとは

金子みすゞの本名は金子テルといい、1903年4月11日に山口県の仙崎という村で生まれました。

家族は両親と祖母、兄弟を合わせて6人でしたが、彼女が3歳の時に父が亡くなります。父は書店の支店長、彼の死後は母も書店で働くようになったため、幼少期から本に囲まれて育ちました。読書が大好きな彼女は、小さいころから本をたくさん読み、親戚の家に行くにも本を離さなかったといいます。

20歳の時、西條八十という童謡作家に影響を受け、童謡を書きはじめるようになります。そして西條が選者であった雑誌に作品を応募したところ掲載され、彼に「若き童謡詩人の中の巨星」と評されました。それ以降、次々と作品が発表されていきます。

明るい将来が約束されたかのように思えた彼女の人生でしたが、そこからの日々はあまりに苦しいものでした。

1926年に結婚をしますが、夫が女性問題で職場を追われ、移住を余儀なくされてしまいました。ヤケになった夫は遊郭に頻繁に通うようになり、みすゞの他に愛人までつくってしまうようになります。また、彼女には詩作と詩人仲間との交流を禁じ、遊郭でもらった淋病を彼女にうつすまでになってしまうのです。

その後離婚が成立しますが、心身ともに弱ったみすゞは、ついに毒を飲んで自殺し、26歳という短い人生の幕を閉じたのです。

金子みすゞの知られざる5つの事実

 

1:名作「こだまでしょうか」は不幸のどん底の中で書かれていた

「遊ぼう」っていうと
「遊ぼう」っていう。

「ばか」っていうと
「ばか」っていう。

「もう遊ばない」っていうと
「遊ばない」っていう。

そうして、あとで
さみしくなって、

「ごめんね」っていうと
「ごめんね」っていう。

こだまでしょうか、
いいえ、だれでも。(金子みすゞ「こだまでしょうか」より引用)

ACジャパンのCMでもとりあえげられた彼女の名作「こだまでしょうか」。

彼女らしい繊細さが感じられる作品ですが、実はこれは放蕩の限りを尽くす夫との苦しい結婚生活の間で書かれたものなのです。

絶望した状況にあって、彼女は詩を書くことによって自らを奮い立たせ、励ましていたのかもしれませんね。

2:魚など、海をテーマにした作品が多い

「大漁」「おさかな」など、彼女の作品には魚や海をテーマにした作品が多くあります。

彼女の作品は全部で512編存在しますが、そのうち海に関連する名詞をタイトルに含むものは50編以上あり、タイトルになくても、作品の素材や背景となったものもあわせると約130編にのぼります。

これには、彼女が生まれた仙崎という場所が、今も昔も漁師町として栄えていることが関係しているのです。特に捕鯨で有名で、彼女の作品のなかにも捕鯨の様子が窺えるものが残っています。

3:彼女の死後、作品を世に広めたのは弟の奮闘があってこそだった

弟は上山雅輔(本名:正祐)といい、「劇団若草」の創始者でもあります。

若くして悲劇の死を遂げたみすゞは、死の直前に遺稿集を弟である雅輔に託しました。そこには、彼女が不遇の生活を送っている間、世に出ることなく書き溜めていた数多の作品が記されていました。これにより、彼女の作品の全貌を知ることができるようになったのです。

そして彼女の死後、雅輔は遺稿集にある作品の一部に注釈をつけました。彼女の作品において、彼女の生活のどんなところが反映されているのか、実際に見聞きしていた彼が詳しく記したのです。

遺稿集は1984年、『金子みすゞ全集』として出版され、ほかにも彼女の作品集が次々と世に出されました。

後に彼女の作品が世に広まるにあたって、遺稿集の出版、弟による注釈は大きな力になったのです。

4:東京大学の国語の問題にも出たことがある

『金子みすゞ全集』が出版された翌年の1985年、「大漁」「積もった雪」という2つの詩が東京大学の国語の問題として出題されました。2つの詩に共通している作者の見方・感じ方について感想を述べよ、という問題だったそうです。

5:女学校時代、学校の学芸会にて自作の話を皆の前で披露した

女学校時代の学芸会にて、先生や生徒が講堂で集まっているとき、彼女は自作の話を披露したそうです。しかもできたばかりの話を、原稿も見ずにすらすらと話したのですから、みんなびっくりしてしまったのだとか。

彼女はとても優秀な生徒でしたが、他人の悪口は一切言わず、とても優しかったといいます。頭も良く、性格も良い彼女は、学校中の皆から慕われていました。

 

金子みすゞ研究の決定版!矢崎節夫による短命詩人の生涯記録

彼女の作品が世の表舞台に出てくるには、弟のみならず矢崎節夫の類稀なる努力と情熱がありました。

彼は児童文学者・童謡詩人であり、大学1年生の時に「大漁」を読んで感銘を受け、その生をみすゞ研究に捧げます。その情熱は、ついに彼女の遺稿を発掘して、全集の出版にまでいたるようになったのです。

彼は、その後も熱心に研究を重ね、彼女の近くにいた知人・友人たちにインタビューをし、弟・雅輔の記録と合わせて、一冊の本にまとめあげました。

著者
矢崎 節夫
出版日
1993-02-28

この本では、著者の徹底した調査に基づいて、生い立ちから女学校時代、家族関係、悲しい結婚生活、そして服毒自殺に至るまで、彼女の生涯記録が書かれています。

多くの人に影響を与え、記憶に残った短命詩人の金子みすゞ。彼女の記録から見えるのは、彼女の優しい人柄です。その短くも美しい人生の全貌が本書で明らかになっています。

 

金子みすゞについて詳しく知りたいという方におすすめしたい、みすゞ研究の決定版です。

 

弟から見た、みすゞの生涯をたどる伝記小説

弟である上山雅輔は、実は金子みすゞの義弟という関係でもありました。 みすゞと雅輔の母ミチにはフジという妹がおり、上山家に嫁ぎました。そして雅輔は幼くして上山家に養子に出されます。フジの死後、ミチは雅輔の養父と再婚することになり、こうして実弟であり義弟という関係ができあがったのです。

そんな雅輔の70年にわたる生涯の記録が発見されるようになりました。そのなかには、みすゞについての記録もあり、それまでの通説がひっくり返るようなことも書かれていたのです。

著者
松本 侑子
出版日
2017-03-03

膨大な記録を松本侑子が解読し、それをもとに書いた伝記小説が本書です。

弟という近い立場からみた、みすゞの知られざる生涯が記されています。

金子みすゞならではの優しさと繊細さを感じられる詩集

作品に込められた優しさと繊細さが、今もなお人々を魅了してやまない金子みすゞ。彼女の詩を味わいたいときに最適な一冊をご紹介します。

著者
金子 みすゞ
出版日
1984-08-30

巻末には簡単な生涯記録・紹介が載っています。

児童書なので、子供向けにひらがなで書かれており、難しい漢字にはルビが振ってあります。そして、その平易な表記がかえって彼女の詩の優しさを強調しているのです。

忙しく心の落ち着かない現代において、ひと息つきたい、そんなときに心のオアシスとなってくれるのではないでしょうか。

子供向けではありますが、大人でも十分に楽しむことのできる一冊です。

「永遠の詩」シリーズの筆頭。現代人の心に深く刻まれる言葉

「永遠の詩」シリーズは全8巻あり、現代でも評価されている詩人をとりあげ、代表作を厳選した詩集となっています。宮沢賢治、八木重吉などが肩を並べるなか、その筆頭を飾ったのが金子みすゞでした。

著者
金子 みすゞ
出版日
2009-11-25

本書では、各作品に対して、矢崎節夫による詳細な解説がついています。

また、目次には詩の冒頭が載っているので、「あの詩なんだっけ?」と探したいときにも使うことができてとても便利です。

日常に隠れた物事を、意外な視点で見つめる彼女の作品を味わうことができます。

いかがでしたでしょうか。現代人の心に深く刻まれ、忘れられることのない永遠の詩人・金子みすゞ。人間が生きていくうえでなくてはならない優しさや、忘れ去られてしまいそうなことにも気付ける繊細さは、いつまでも多くの人に影響を与え続けることでしょう。たまには日常から1歩離れて、彼女の詩に触れてみませんか?

  • twitter
  • facebook
  • line
  • hatena
もっと見る もっと見る