バートランド・ラッセルにまつわる逸話5つ!パラドックスで有名な哲学者

更新:2021.11.9

言語表現に問題があれば正しい答えは得られないと考えたのがバートランド・ラッセルです。命題を論理学的に処理することを目指した分析哲学の祖であり、また熾烈な反戦活動を展開したヒューマニズム溢れる人物でした。そんなラッセルを今回は取りあげます。

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バートランド・ラッセルとは

バートランド・ラッセルはイギリス出身の論理学者であり哲学者で、政治活動家としても活躍した人物です。

貴族の出身で、早くに両親をなくし、イギリスの首相を務めた経験もある祖父の家で育てられました。11歳の頃兄からユークリッド幾何学を学び、それに関して納得ができないと怒り、同時期に宗教に関しても疑問を持っている、そんな聡明な少年でした。

18歳の頃ケンブリッジ大学のトリニティ・カレッジに入学し、数学と哲学を専攻します。大学時代はヘーゲル主義に傾倒しますが、卒業後にそこから脱却。そして28歳頃『プリンキピア・マテマティカ』の初稿を完成させます。

その後ケンブリッジ大学で教鞭をとるものの、反戦活動のために解雇され、さらには有罪判決まで受けて投獄されました。

59歳のとき、祖父の跡を継いでいた兄の死を受け、伯爵の称号を受けます。

第二次世界大戦後は核兵器の拡散を止めるべく活動を展開。70歳をゆうに超えていたラッセルですが、彼の反戦活動は常にアクティブで、1950年にはノーベル文学賞を受賞しています。彼の人道的な思想が評価されたものでした。

97歳で亡くなる最後の最後まで、彼は政治運動家として活動を続けました。

バートランド・ラッセルにまつわる逸話5つ!

1:育ての親、ジョン・ラッセルは2回も英国首相になった人だった

バートランド・ラッセルは貴族でしたが、父親が早くに亡くなり祖父の家で育てられました。その祖父がジョン・ラッセル伯爵です。彼は、自由党の前身にあたるホイッグ党の党首であり、2回も首相を経験した大人物でした。

2:4回も結婚していた

彼は非常に恋多き男で、さまざまな人と恋愛関係を結んでいました。そして結婚も4回経験しています。最初の結婚は22歳の頃、近所に住んでいた5つ上のアリス・スミスとのものでした。最後の結婚はエディス・フィンチとの結婚で、彼はなんとそのとき80歳でした。

3:日本にも来たことがある

1921年にラッセルは来日しています。7月半ばから月末まで約2週間滞在し、会見を行なったり大学関係者と会ったりと、毎日忙しい日を送ったようです。もちろん京都や奈良へ見物にも行きました。

4:アインシュタインと親交があった

アインシュタインとラッセルは核兵器に関する考え方で同調しており、親交がありました。1955年には「ラッセル=アインシュタイン宣言」を発表し、核兵器の廃絶を訴えます。

この宣言を発表する3ヶ月前にアインシュタインは亡くなっていましたが、その1週間前に署名をしており、この宣言はアインシュタインの最後のメッセージともいえます。

5:89歳でデモ、96~97歳でソ連のチェコ侵攻に抗議した

90歳になってもラッセルの政治活動は鈍らず、ベトナム戦争に対する反対運動をはじめとして活発に動いていました。

従来の哲学にバートランド・ラッセルが物申す

『哲学入門』は、従来の哲学が持つ諸問題を解決するにはどうすればよいのか、という問いに、ラッセルが答えた作品です。分析哲学を使って哲学を再構築する試みであり、数学者としての論理主義を推し進め、ヘーゲルの観念論に異を唱えています。

1912年に発表された本作品は、まずラッセルが命題を提示し、それをどう解いていくかという流れになっているのですが、彼の論理展開を丹念に追跡することにより、物の考え方を学ぶことができる内容となっています。

翻訳が非常に正確かつ丁寧なので、最近哲学を学びはじめた人にもわかりやすくなっており、決して簡単ではありませんがじっくりと取り組んでみたい作品です。

著者
バートランド ラッセル
出版日
2005-03-01

最終段落でラッセルは、哲学の価値について定義しています。それは質問そのもののために哲学は研究すべきという結論で、思考を止めるなという彼からのメッセージとなっています。

哲学的に自由で公正な考えができれば、それが行動や感情にもつながっていく、という彼の主張は、すでに後の反戦運動を予想させるでしょう。公平性はユニバーサルな愛であると締めくくられています。

分析哲学が到達する、抽象的で普遍的な知識を追求した彼の哲学を学ぶのにおすすめです。

幸福になるための理論

幸福になるにはどうしたらよいのか。なぜ人は不幸になるのか。それを解決するのが『ラッセル幸福論』です。冷徹なまでの理論家ラッセルが幸福を語るので、これは読まずにはいられません。

本書では、「自分の中身が重要なのである」ということが述べられています。まず不幸に関してその種類や内容を列記し、次の章でその解決法を提示しているのですが、今回は哲学書ではないので内容も平易でわかりやすいものとなっています。

幸福になる方法を単刀直入にずばりと語るその展開は胸をすくものがあるでしょう。すべてが自分に当てはまるかどうかは別として、彼の幸福論に反駁する気が起こらない、爽快な論説となっています。

著者
B. ラッセル
出版日
1991-03-18

幸福のメインテーマは「愛」であり、その「愛」は「与える愛」であると彼は語っています。思考を自分に向けず絶えず外に向けよ、とも述べていて、さまざまな人物をケーススタディとして挙げながらラッセル流の明快さで解説しているのです。

不幸だと感じたら外に目を向けよ、熱意を持って生きろ、愛を与えよう、という彼の幸福理論は、分析哲学の巨人としての理論として納得のいくもので、疲れたときに読みたい一冊になっています。
 

神秘主義を論理的に解説する

『神秘主義と論理』は、彼の論文を集めたもので、もっとも神秘主義から離れた立場にいると思われるバートランド・ラッセルが何を論ずるのかが興味深い一冊となっています。

全10章で、科学や論理から俯瞰する世界内でどのような形而上学的事象が現れうるかを論じています。難解な内容となっており、読み応えのある一冊です。

名作と名高い宗教について述べた「自由人の信仰」もこの論文集に収録されています。

著者
バートランド・ラッセル
出版日
2008-09-20

ラッセル本人は知的情熱のある人に読んでほしいと考えていたようで、読み進めると段々と難解になっていくという構成になっています。前半部分が後半のバックボーンとなっているといってもよいでしょう。

宗教を持たぬ人はどうやって生きるべきか、という明確な命題が本書のテーマで、徹底した合理主義者であるラッセルが合理主義の立場から神秘主義を考えるという形を取っており、読み進めると意外と彼も非合理的なことを考えているのでないか、と思わせる瞬間もあります。

しかしあとがきにもある通り、「合理主義者とは解決法を合理的に行なう者である」という観点から本書を読むと、彼の、常に非合理を認識し、神秘主義から理論で脱出するという強い信念を感じます。

バートランド・ラッセル珠玉の論文集

有名なラッセルのバラドクスについての解説を交えた、ラッセル哲学を解き明かす作品が本書です。パラドクスを提示してそれを分析哲学で解決するその手法をわかりやすく解説してくれます。

世界を記述するにはどうするかという命題を、さまざま角度から検証しており、特にラッセル哲学の前半部分についてクローズアップして取りあげています。

有名な「記述理論」の部分は難しいものがありますが、納得できれば相当強烈な武器になるでしょう。ここまでファジーなものを許さない彼の厳格さも相当なものですが、それを理論にまで仕立てあげた知性に脱帽すること間違いなしです。

著者
三浦 俊彦
出版日
2005-10-20

パラドクスを取りあげてそれを解説するというよりも、彼の考え方を取りあげて分析しているもので、言語哲学をキーにして、存在論や意味論までいかに発展させたか、という点が興味深く追及されています。

この手のパラドクスはギリシャ時代から使われてきましたが、少年時代にすでに数学分野で疑問を抱くほどの知性の持ち主だったラッセルは、鮮やかにパラドクスを解決してみせてくれ、彼の魔術にかかった気になります。

日本語の例も多数出てくるので、記述理論とは何かを知りたい人、記述理論を身に着けてみたい人は必読の書といえるでしょう。

バートランド・ラッセルの言語哲学を最初から考える

そもそも言語哲学とは何かをもう1度考えると、結局何もかも最終的には言語でアウトプットされるので言語をまず理解しないといけない、ということになります。その言語を哲学の核として考えたのがラッセルやフレーゲで、本書はその2人を取りあげています。

両者とも数学者で哲学者ですが、量化理論をベースにした意味論を展開する必要性が理解できる内容です。

なぜ彼らはこういう哲学を打ち立てたのか、ということが丁寧に解説されていて、これまで哲学にあまり馴染みがなかった人も読み進められるようになっています。

著者
飯田 隆
出版日
1987-10-20

ラッセルの哲学を知るにはその前段階のフレーゲに関して理解することが必要ですし、その後彼がどうフレーゲの論理学を進展させたかという部分を認識するのに非常によいテキストとなっています。

辛口の題材を熱意を持って解説する作者の筆力は強力で、時間をかけても読破したいと思わせられる充実した内容です。

ラッセルの弟子、ウィトゲンシュタインは第2巻に登場しますが、言語論的転回を知るにはそちらも格好の題材となっています。興味を外に向けよ、というラッセルの言葉どおりに、好奇心を持ち続けていきたいと思わせてくれる一冊です。

ラッセルの徹底した合理主義とそれに裏打ちされた彼の政治活動を鑑みるに、熱意を持って外に目を向けようという彼の心情は現代にこそ必要なのではないかと思わせてくれます。

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