アニメ化に続き映画化までされた『アクセル・ワールド』。アクセル・ワールドとは首につけた装置で仮想世界へダイブできる世界で、デブでいじめられっこな主人公のハルユキは、ある日美少女な先輩にゲームに誘われ、思考が1000倍に加速される世界へダイブすることになります。バトルと青春、ゲーム攻略と、夢あふれるライトノベルです。
オンライン小説サイトで人気を博し、電撃小説大賞において大賞を受賞し出版された『アクセル・ワールド』。電撃小説大賞を受賞した作品で、略称「AW」で親しまれている人気ライトノベルシリーズです。
仮想ネットワーク上でくり広げられるゲームを舞台にした近未来SFで、2011年にはアニメ化、ゲーム化がされました。
作者の川原礫(かわはられき)は、人気ライトノベルシリーズ『ソードアート・オンライン』でも知られる小説家です。2つの人気シリーズを抱える小説家ゆえに実現した「アクセル・ワールド」と「ソードアート・オンライン」とのクロスオーバー作品も発表されています。
「もっと先へ……≪加速≫したくはないか、少年」(『アクセル・ワールド』1巻より引用)
ニューロリンカーという、脳を仮想ネットワークに接続するシステムにより、体験型授業やゲームなど、生活の半分が仮想世界で行われている世界。しかし、現実の生身の身体で中学校に通わなくてはいけないことや、現実の身体が太っているというだけでいじめが発生することはニューロリンカーのない世界と変わりません。
いじめから逃げるため、学内のローカルネットワークに設置されたスカッシュ・ゲームでひたすら高レベル・高得点を更新し続けていた主人公ハルユキは、ある日、自分よりも高レベルを叩きだす生徒会副会長の「黒雪姫」に出会います。
黒雪姫はハルユキに美しい笑みを向け、明日の昼休みにラウンジに来い、と言い放つのです。
- 著者
- 川原 礫
- 出版日
主人公のハルユキは小学5年生の段階で体重60キロを超しており、小学生のときはもちろん、中学に入ってからもパシリや暴力でのいじめを受けています。そんな彼の逃げ場所は昼休みの普段使われていない校舎の男子トイレでした。
ハルユキはそこで校内の仮想ネットワークへ「完全ダイブ」し、現実の身体の感覚を全て切り離すことで束の間の安らぎを得ていたのです。彼が得意とするのはマシンガンを抱えて戦場を駆け回るような射撃ものですが、さすがに学内ローカルネットワークにあるのはスカッシュ・ゲームくらいです。
今作の魅力は、現実では冴えないハルユキが、スカッシュ・ゲームの驚異的なレベルを契機として黒雪姫に見いだされるところにあるといえるでしょう。その後、彼は黒雪姫から「ブレイン・バースト」というゲームをニューロリンカーの直接有線接続でインストールされることで、ゲームの世界に飛び込むことになります。
「ブレイン・バースト」は思考を1000倍に加速しながら戦う格闘ゲームアプリです。そのゲームの中の世界「加速世界(アクセル・ワールド)」でハルユキは黒雪姫を守る戦いに身を投じることになります。
現実のコンプレックスを振り払いきれないハルユキが、それでも黒雪姫を守るために立ち上がり、戦い、翼を手に入れる展開は興奮度100%といえるでしょう。
「あの……、勝手にお台所使っちゃってごめんなさい。ハルユキお兄ちゃんが、お腹空かせて帰ってくると思って……それで……」(『アクセル・ワールド』2巻より引用)
「お帰りなさい、お兄ちゃん」と学校から帰ったハルユキを迎えたのは、11歳の少女でした。ひとりっ子であるはずのハルユキはうろたえ、その少女が仮想現実のものではないかと頬に触れ……彼女が現実の存在であることを知るのです。
- 著者
- 川原 礫
- 出版日
- 2009-06-10
2巻では、ハルユキのハトコであり父親が海外出張となったせいでハルユキの家に預けられた、という「設定」でハルユキのもとに訪れた少女ニコが登場します。彼女はハルユキの家に訪れたその日のうちに彼に「ブレイン・バースト」のプレイヤー、バーストリンカーであることを見抜かれてしまうのです。
ニコの正体は「ブレイン・バースト」で最強のレベル9のひとりであり、6大グループのひとつである「プロミネンス」の2代目首領である赤の王でした。彼女は可愛らしい外見に似合わず強化外装を育てあげており、多種多様の遠距離砲撃を得意としています。
なんとその砲撃火力は都庁を一撃で吹っ飛ばすことが可能なほどなのです。しかし、彼女は過去の体験から世界そのものに恐怖を覚えており、自分は弱いと知っていました。そのため、それが能力の向上に歯止めをかけていたのです。
今作で、ハルユキたちは災禍の鎧をまとった暴走アバターの討伐を目標としてタッグを組み、戦いに挑みます。そのなかで、黒の王である黒雪姫だけでなく、赤の王であるニコ、そして理屈を組みあげ汚い手を使うことも辞さない黄の王が登場するなど、最強キャラがどんどん出てくるのです。
ハルユキに懐くニコに対する黒雪姫の嫉妬や、息を呑むような赤の王の戦闘シーンなど、単純なハーレムに落ちつかせずしっかりおこなわれる戦闘や人々の葛藤にご注目ください。
「バーストリンカーになるために……すっごい頑張ったんだから……。これで……また、あたしたち、戻れるよね。あの頃みたいに……三人で、毎日、日が暮れるまで遊んでた……あの……頃に…………」(『アクセル・ワールド』3巻より引用)
ハルユキの幼馴染であるチユリはそう言って、ハルユキの膝の上で身体を丸めます。昔ハルユキを枕にしたらよく眠れたからという彼女に、ハルユキは思うところもがありながらもその膝を貸すのでした。
- 著者
- 川原 礫
- 出版日
- 2009-10-10
中学2年に進級したハルユキは、新たにチユリをバーストリンカーに加え、さらにチユリの彼氏でありバーストリンカーでもあるタクムと同じクラスになりました。これで2年生の間はいじめもなく安心……かと思いきや、そうはいかなかったのです。
今作の魅力は、ハルユキの前に現れた奇妙な新入生、能美の登場にあります。彼はバーストリンカーでありながら、「ブレイン・バースト」のプレイヤーとして表示されないという奇妙な存在でした。
能美は、入試や剣道部での試合でフィジカル・バーストという加速能力を用いることで現実世界での成功を収めています。さらにはハルユキを罠にはめ、チユリを差し出すように要求し、ハルユキに対して「ゲームオーバー」だと言い放つのです。
弱みを握られ、自身の必殺技でもある「飛行アビリティ」を奪われたハルユキは再びスクールカーストの最下層へと落ちてしまいます。しかし、彼はもうひとりではありません。「ブレイン・バースト」を通じて仲間を増やし、新たな技を習得するなど再戦の機会を探るのです。
3巻と4巻は連作になっています。3巻を読むときには4巻も用意しておくことがおすすめです。
「あたしから能美に頼んだの。仲間にしてって。あんたの専属ヒーラーになるから、ポイントをきっちり供給して、って。別にいいでしょ、あたしはまだハルたちのレギオンに入ったわけじゃないんだから」(『アクセル・ワールド』4巻より引用)
能美との再戦の最中に、突如現れたアバター。タクムが能美に必殺技を放ち、能美の撃破まであと1歩……というところで、そのアバターは能美のダメージを全回復してしまったのです。そのアバターの正体は、なんとチユリでした。
- 著者
- 川原 礫
- 出版日
- 2010-02-10
今作の魅力は、「心意技」を手に入れたハルユキたちが、自分の意思の力を信じ、意思の強さを力に変えて戦うところにあります。なんでも自分で抱え込もうとするハルユキが周りを信じ、力を貸してもらいながら強く立ちあがっていく姿には胸をうたれること間違いありません。
さらに今回、修学旅行で沖縄に行っている黒雪姫が神獣級エネミーを乗りこなして15時間走り続けてハルユキたちを助けに来るなど、彼女の活躍にも目が離せません。ハルユキたちは無事に能美を倒し、チユリを取り返すことができるのでしょうか。
今作で注目すべきは戦闘だけではありません。「ブレイン・バースト」でポイントをすべて失うとソフトがアンインストールされ、「ブレイン・バースト」に関する記憶をすべて失ってしまうことが判明するなど、世界観の謎が増していく一冊になっています。
「そーだハル。あたしと運動しよ」(『アクセル・ワールド』5巻より引用)
下校途中、何かを思いついたようにまばたきしたチユリは、ハルユキの腕に手をかけます。そしてハルユキの顔を覗き込んだチユリは、からかうような笑みを浮かべました。
- 著者
- 川原 礫
- 出版日
- 2010-06-10
今作の魅力は、「軌道エレベータ」に日本の「ソーシャルカメラ・ネットワーク」が導入され、新たなゲームステージが加わるところにあります。軌道エレベータとは、熱圏と低軌道を周回する宇宙ステーションを結ぶシステムのことをいい、これにより「宇宙」ステージが増設されたのです。
黒雪姫が率いるハルユキたちのグループは、宇宙ステーションを目指すF1レースにグループの威信をかけて参戦することになります。大勢のバーストリンカーがギャラリーとなり観戦しているなか、加速能力を最大限に生かし、それぞれのグループが宇宙ステーションへと向かうのです。
今作では、ハルユキたちの仲間であり、生まれた時から両膝より下を義足で暮らしてきたバーストリンカー、フーコの過去と、心の傷を乗り超える場面が描かれます。もっと高く、遠くまで飛びたいと願う彼女でしたが、彼女のアバターには短時間猛烈な推力で推進するという能力しかありませんでした。
強くなろうと努力し、その結果として周囲に愛想を尽かされていたフーコ。しかしハルユキは彼女の意識が大空のさらに先にあることに気づき、彼女の能力は大気のない宇宙空間での戦闘のためにロケットエンジンを積んでいることを確信します。
宇宙を自由に飛び回ってほしいとフーコを投げあげるハルユキと、それまでの心の傷を受け止めてヘルメス・コード最高度の宇宙ステーションへと飛び立つフーコの姿をお見逃しなく。
「思えば、私は最初からキミに守られてばかりだったな……」(『アクセル・ワールド』6巻より引用)
「ブレイン・バースト」の世界で「七王会議」に呼ばれた黒の王である黒雪姫と、ハルユキたちは会議のアクセスポイントへと向かっていました。
会議に怖気づくハルユキに対し、黒雪姫は自分自身がこれまで助けられてきたと言い、今度は自分がハルユキを守ると言うのでした。
- 著者
- 川原 礫
- 出版日
- 2010-10-01
今回の七王会議の議題は、能美が所属していた謎の破壊組織「加速研究会」への対応策と、「災禍の鎧」の6代目の所有者となってしまったハルユキの処遇でした。そこで、ハルユキに寄生する「災禍の鎧」を解除しようと話し合いがおこなわれます。
「災禍の鎧」は、その装着者の精神に干渉して破壊衝動を抱かせる鎧です。災禍の鎧を装着したバーストリンカーは、やがて鎧に精神を支配され周囲を殺戮し続ける存在になってしまいます。
そのため、七王会議で王たちがくだした結論は、浄化によって災禍の鎧が外れなければ、ハルユキを加速世界から追放するというものでした。黒雪姫は浄化のため、以前の仲間の力を借りることを決めます。
実は、その浄化をできる人物とは、ハルユキが飼育委員会で仲良くなった小学4年生の少女、謡でした。運動性失語症であり、読み書きはできるものの話すことのできない彼女は、さまざまな悲しい過去を持っています。
そんな謡の加速世界での体は、皇居に位置する最高難易度のダンジョン「帝城」に封印されているというのです。果たしてハルユキたちは謡のアバターを取り戻し、彼女を呼び戻すことで「災禍の鎧」をハルユキから引き離すことができるのでしょうか。
6巻は7巻、8巻、9巻との連作になっています。6巻を読む際は次巻以降のご用意をお忘れなく。
「私はこの加速世界で、他の人の一生ぶんをちゃんと生きてみせる。可愛くて素敵な家を買って、大好きな人とふたり、いつまでも一緒に……。」(『アクセル・ワールド』7巻より引用)
製作者不明のフルダイブ型対戦格闘ゲーム「ブレイン・バースト」が、東京都心の小学1年生約100名に配布されてから約1年。バーストリンカーとなった少年少女たちはそれぞれ冒険をし、ある難病の少女もまた、ひとつの恋と幸せを見つけていたのでした。
- 著者
- 川原 礫
- 出版日
- 2011-02-10
今作の魅力は、災禍の鎧がどうしてできあがったのかが明らかになるところにあります。「災禍の鎧」は、本来は災禍などない最強の防具であり、ファルコンとブロッサムという2人の恋と、他のバーストリンカーたちによる罠、そして絶望が、その根源となっていたのです。
ファルコンは「ブレイン・バースト」の中でブロッサムという少女に出会います。彼女は現実世界では難病に侵されており、大人になることはできないといわれていました。それゆえに、ゲームの中で精一杯生きることを望んでいるのです。
そんな彼女と相思相愛となったファルコンは、偶然、裏技のような手法で帝城内への侵入に成功してしまいます。彼は防御力の低いブロッサムがゲームを安心して楽しめるよう、帝城内のアイテム全身鎧「ザ・ディスティニー」を選んで持ち帰ってくるのです。
これで2人はこれまで以上に安全にゲームを楽しめる……と思いきや、バーストリンカーたちの罠にかけられてしまいます。それによりファルコンはブロッサムが無限に殺され続けるのを見せつけられることになってしまうのです。
見ていられなくなったファルコンは、ブロッサムのため、自分の手で彼女にとどめをさします。しかし彼は、愛する者を失った絶望と他者への怒りから暴走し、強制退場となってからも彼の憎悪が鎧とともに加速世界に残留することになりました。
その絶望と憎悪の残留から、最強の防具であったはずの鎧「ザ・ディスティニー」は「災禍の鎧」となり、それを装着した者を操り破壊衝動に駆らせるようになったのです。
偶然帝城に侵入することになったハルユキが、ファルコンとブロッサムの夢を見て、彼らを憎悪から解き放つべく進んでいくシーンはお見逃しなく。
「あとは、君に託すよ、ハル。ぼくは、たとえ首謀者との戦いでポイントを全損しても、記憶を消される前に、解ったことを何が何でも君に伝える。だから、君がこの世界を救うんだ。君ならできる……そして、君にしかできない。ぼくはそう信じている」(『アクセル・ワールド』8巻より引用)
ゲームのポイントを全損するということは、「ブレイン・バースト」のプレイヤー資格を失うことを意味します。そして資格を失ったプレイヤーは、ゲームの記憶一切を失ってしまうことが知られているのです。
タクムの残した言葉に、ハルユキが頷くことはありません。タクムだけを犠牲にはしない、一緒にゲームを続けようと言うハルユキに、彼は辛そうな笑みを向けるのでした。
- 著者
- 川原 礫
- 出版日
- 2011-06-10
今作の魅力はタクムの活躍にあります。彼は謡のアバターを救出する作戦の合間に、マゼンタ・シザーというバーストリンカーに出会うのです。
世田谷エリアでタクムはマゼンタからISSキットという装備品を受け取り、直後に他のバーストリンカーから対戦を申し込まれ、やむなくISSキットを起動・着装しました。その結果、彼は元からあった罪悪感や劣等感により強い侵食を受け、圧倒的な戦闘能力を得る代わりに、キットのもつ破壊衝動にのみ込まれかけてしまいます。
ISSキットはそれぞれクローンをつくり、さらに親(クローン元)とクローン同士が連携することで負のイマジネーションを共有し相乗的に力を強めるという特徴がありました。それに気づいたタクムはアクセルワールドが負の感情と破壊衝動で支配されることを予見し、それを防ぐために戦いに行くことを決意するのです。
グロテスクな眼球を発現させ、その眼から憤怒や憎悪を訴えかけてくるISSキットはまさに災厄そのものといった姿をしています。それにのみ込まれかけたタクムは、レベルが等しいハルユキさえも一方的に打ち払うほどの力を得てしまうのです。
「災禍の鎧」のもつ負の感情を抑え込むことで最強の鎧「ザ・ディスティニー」として呼び出すことを試みるハルユキに、ISSキットに感情を乗っ取られないように苦心するタクム。2人の自分との戦いは必見だといえます。
「……それが、お前らの望みなんだろう?争い合い、殺し合うのが。その果てに、自分自身と、この世界さえも消し去ってしまうのが。──なら、叶えてやる。オレが、お前らを消してやる」(『アクセル・ワールド』9巻より引用)
かつて対戦したことのあるアッシュ・ローラー。彼の正々堂々としたプレイスタイルに好感をもっていたハルユキは、彼がISSキットを装着したバーストリンカーたちに襲われていることを知り、助けに向かいます。
しかし、ISSキットを使って無茶苦茶に人を殺戮するバーストリンカーたちへの怒りがハルユキを捕え、彼は「ザ・ディスティニー」を再び「災禍の鎧」としてしまうのです。「災禍の鎧」をまとったハルユキは破壊衝動に支配されてしまいます。
- 著者
- 川原 礫
- 出版日
- 2011-10-08
6巻から続いた「災禍の鎧」編が今作で終結します。そんな今作の魅力は、「災禍の鎧」と深部まで融合してしまったハルユキの行方と、アッシュ・ローラーの正体にあるのです。
まず、冒頭でハルユキはアッシュ・ローラーが痛めつけられているのをみて、「災禍の鎧」に身を任せることになってしまいます。そしてその破壊衝動はISSキットと、その製作者である加速研究会に矛先が向けられることになるのです。
もともとただでさえ強い鎧。それがさまざまな人の憎悪を取り込んで「災禍の鎧」としてレベルアップしています。それが人思いのハルユキの憎悪と合わさり、さらに彼の意思の強さもあいまって、「災禍の鎧」をまとった彼は誰も制止できない最強の狂戦士となってしまうのです。
そんなハルユキの前に立ち塞がったのが、最強の大盾をもつ絶対防御の「緑の王」でした。果たして「災禍の鎧」は完全に浄化されることになるのでしょうか……。最後まで予想を裏切る展開となっています。
また、今作のもうひとつの魅力であるアッシュ・ローラーの正体ですが、男性型ガイコツのアバターをとるアッシュの中にいたのは、実は女の子だったのです。彼女は幼いころから事故で眠ったままの兄のニューロリンカーを使用しており、その関係で兄の感覚を受け継いだ存在となっていたというのでした。
今後アッシュがどのようにハルユキたちと関わっていくことになるのかも目が離せません。
「≪用心棒≫を雇うんだ。ポイントが、もう一度安全圏に回復するまで」(『アクセル・ワールド』10巻より引用)
10巻は、3篇の短編集となっています。そのうちの1篇目「遠い日の水音」では、レベル1からレベル2にレベルアップできることを知ったハルユキが安易にレベルアップしていきます。
しかしその結果、彼の手持ちのポイントが著しく少なくなってしまい、1度でも対戦で負けると即座に「ブレイン・バースト」のアカウントを失ってしまうという危機に瀕するところから話が始まるのです。
- 著者
- 川原 礫
- 出版日
- 2011-12-10
10巻に収録されているのは「遠い日の水音」「最果ての潮騒」「バーサス」の3篇です。1篇目では用心棒という制度が存在することで世界観の広がりを感じさせ、さらに用心棒となってくれたアクア・カレントは近い将来別の形でハルユキたちと関わることが示されます。
2篇目では、今作初の黒雪姫視点での物語となっています。修学旅行で沖縄を訪れた黒雪姫が、東京でハルユキやタクムが能美と戦っている間、どんな戦いをし、さらに何がきっかけで東京へと駆けつけることになったのかが明かされるのです。
3篇目では、著者の別の小説『ソードアート・オンライン』の登場人物キリトがハルユキの前に現れ、2人が対戦をする姿が描かれます。『ソードアート・オンライン』を知らない読者にとっては唐突ですが、作者の作品を追い続けている読者にとっては楽しめるものだといえるでしょう。
「チユリ君はごはんをよそってくれ!タクム君とフーコは冷蔵庫からサラダを出す!ういういはカレーを温め直せ!麦茶の用意は私に任せろ!!」(『アクセル・ワールド』11巻より引用)
杉並区のハルユキの住むマンションの一室。そこには黒雪姫率いるレギオン(グループ)「ネガ・ネビュラス」のメンバーが集まっていました。黒雪姫の指示でそれぞれが動き出し、そこに迎え入れられたのは「赤の王」のニコと、赤のレギオン「プロミネンス」の副長であるパドでした。
- 著者
- 川原 礫
- 出版日
- 2012-04-10
今作の魅力はハルユキたちがみんなでカレーを作ってカレーパティーをするところ……ではありません。なんと七王会議は、加速研究会をつぶすため、伝説の技「理論鏡面」の習得をハルユキに課したのです。
「理論鏡面」とは、光を反射させて誘導し、受け流す技のことをいいます。加速研究会の総本山には、加速研究会を守護する神獣レベルのモンスター「大天使メタトロン」がおり、これをを倒すには「理論鏡面」の習得が不可欠だと考えられたのでした。
この理不尽な要求を受け入れざるを得ない状況にあったハルユキたちは、ニコの協力のもと、理論鏡面の獲得にむけて特訓を始めます。今作の魅力は、そんな彼が予想外の強敵の登場により敗北し、試練を乗り越えるべく葛藤するところにあるのです。
また、ハルユキが強くなるために、と謡が自身の悲しい過去を語ります。彼女には昔夢があり、それが断たれたことで絶望し、しかしその絶望を兄が「ブレイン・バースト」を教えてくれたことで乗り越えられたこと、その兄が死んでしまったことで言葉を話せなくなってしまったことを語るのです。
「さっきの、『親が誰か』っていう質問には答えられないけど、そっちには答えてやるよ。あんたが奪ったのは、俺の《存在目的》とでも言えばいいかな」(『アクセル・ワールド』12巻より引用)
突如現れたメタルカラーのアバター。彼に敗北を喫したハルユキはひと晩で何とか立ち直り、特訓を経てリベンジマッチに挑んでいました。
対戦相手はウルフラム・サーベラス、アバター名にケルベロスを持つ彼は、戦いの最中、急に人格が変わったような行動を始めるのです。
- 著者
- 川原礫
- 出版日
- 2012-08-10
今作の魅力は、加速研究所の手により生み出された、3つの人格をもっているウルフラム・サーベラスにより、彼らのたくらみが一部明かされるところにあります。さらに、ISSキットをタクムに渡したマゼンタにより、ISSキットがどのようにして存在するに至ったかも語られるのです。
また、加速世界でいじめられ続けたことが原因でISSキットに手を出すことになった人物、アボカドの過去がくわしく描写されます。それにより、ISSキットが一方的な悪ではないのではないか、と考えさせられる展開になっているのです。
また、世界観としては、加速世界における無制限フィールドでの空腹感や味覚、食事などが登場してきました。ニューロリンカーを使用してアクセスする仮想世界では現実世界で感じているはずの痛みや空腹を一切感じないはずですが、加速世界では痛みなどが存在することなどで、仮想世界の上位互換に近いものとなっており、現実との曖昧さがより強調された形になっています。
本編に加え、短編も収録された今作。本編は次巻に続きます。
「……現実世界のこの場所、ルック商店街の青梅街道側入り口まで来てくれ!僕はそこで君を待ってる!!」(『アクセル・ワールド』13巻より引用)
ウルフラム・サーベラスとの対戦中、ハルユキはサーベラスがただ加速研究会に従っているだけではないと考えるようになります。彼はサーベラスと会話をしようとしますが、加速研究会のアルゴン・アレイのバトル乱入により遮られてしまうのです。
タイムアップまで残り数十秒というところで、なんとかアルゴン・アレイの離脱にもち込んだハルユキは、サーベラスに現実世界で会おうともちかけるのでした。
- 著者
- 川原礫
- 出版日
- 2013-02-09
今作では、10巻の短編でハルユキの用心棒をしてくれたアクア・カレントが再登場します。しかし、ハルユキはそれをあまり覚えておらず、ぼんやりとした記憶のなかで、以前タッグを組んだことがある、とだけ思い出すのです。
アクア・カレントはレベル1でありながら手練れた戦闘を行い、アルゴン・アレイを苦戦させます。また、2人のやりとりから、どうやら以前からの知り合いで犬猿の仲であることを思わせられるでしょう。
また、アクア・カレントが謡同様に、本体が帝城に封印されていることも明らかになります。そのなかで、ハルユキの用心棒を引き受けた時点では、水の「四元素」である自分がネガ・ネビュラスに加入すべきではないと考え、「記憶滴下」という技で自分に関する記憶を封じていたことが明らかになるのです。
さらに今作では、現実世界において、中学校の文化祭をひかえています。周りと協力しながらクラス展示の仕事をおこなうハルユキの姿は、いじめられて孤独だった1年生の時とは違うのです。
「ブレイン・バースト」の中で精神的成長を遂げているハルユキの、現実での成長も感じられるシーンに安心と心強さが得られるでしょう。
「恋愛はブレーキのない車のようなもの、と言うけれど逆の比喩は難しいわねえ」(『アクセル・ワールド』14巻より引用)
加速研究会に奇襲と速攻をかけ、メタトロンを叩くとともに加速研究会本部にあるISS本体を破壊するという計画は、監視者アルゴン・アレイに気づかれないようひっそりと進行していました。しかし道中、ちょっとした面白いミスが重なるなど、本作ではどこか平和な部分も描かれています。
- 著者
- 川原礫
- 出版日
- 2013-06-07
加速研究会に挑むネガ・ネビュラス&プロミネンス連合軍の戦いでのモンスター討伐が今作の見所でしょう。ハルユキたちは、ISSに寄生され倒れてしまったアッシュ・ローラーを助けるために加速研究会を急襲します。そこで彼らは強大なモンスター「大天使メタトロン」を倒すことになるのです。
また、侵略不可能といわれる帝城でアクア・カレントを封印している「四神のセイリュウ」を倒しにいく討伐シーンも見逃せません。ネガ・ネビュラスとプロミネンスという2つのレギオンが連合を組むということは、普段は協力し合わないバーストリンカーが力を合わせるということを意味します。
これにより、それぞれが自分の役割を果たし補いあう戦いとなっているのです。そのため、両レギオンともが自分の特技を特化させて伸ばしていく方針にあることも影響し、各人の特徴が最大限に発揮される内容となっています。
それは、心の傷をもとにアバターが作成され特技が決まる「ブレイン・バースト」において、お互いの過去を知りあうことがお互いの技を知ることにつながる、という世界観によるところも大きいでしょう。それぞれがひとりの人格として分かりあうことで、より強力に協力することができる……それゆえに、熱い展開がくり広げられるのです。
「ハルユキは、バイスを追って飛び立つ直前、仲間たちに向けて叫んだ。最寄りのポータルから離脱して、ニコのケーブルを抜いて、と。」(『アクセル・ワールド』15巻より引用)
加速研究会のバイスにニコをさらわれたハルユキは、彼女を物理的に加速世界への接続から引き離して救うよう仲間に叫び、自身はバイスを追ったのです。
- 著者
- 川原礫
- 出版日
- 2013-10-10
今作では、真なる加速世界である無制限中立フィールドの特徴により、ハルユキたちに危機が迫ります。なぜなら、無制限中立フィールドから自分の意思で現実世界へ戻る方法はたったひとつしかないからです。
それは、ランドマークとなる大型建造物の設置されている離脱ポイント「ポータル」に飛び込むことでした。それ以外の方法で現実に戻るには、フィールドに飛び込む前に、自動的にニューロリンカーの接続が切れるよう、現実世界で設定をしておくしかないのです。
今作の魅力は、ニコを守ると約束したハルユキの孤独な戦いと、彼女の接続を物理的に切断するために駆け抜ける黒雪姫たちの戦いにあるといえるでしょう。しかしそれだけではなく、ハルユキには強力な仲間が増えることになります。
その仲間とは、強大な敵であった大天使メタトロンでした。ハルユキがメタトロンを撃破するなかで、メタトロンは彼を加速研究会の支配から救ってくれた存在として認定し、飛翔力を貸してくれるようになるのです。
敵だったメタトロンが携帯化し、ハルユキの相棒のような存在になるところは、強敵だったがゆえにその戦力が自分のものになるという点でかなり心強いものとなります。さらに、敵を目に怖気づきそうになるハルユキを振動と光で励まし、翼型でありながら自由度高く敵を撃破するメタトロンの活躍は目を見張るものがあります。
一方、フィールド内を駆け抜ける黒雪姫たちも、意外な場所でミッションの目的であるISS本体を発見。果たして全員が無事に現実世界に戻ってこられるのか、ページをめくる手がとまらない一冊です。
「いつか、もう一度、アイツらに会いに行こう。ワタシたちがしてきたコト……しようとしたコトの意味を、知るタメに」(『アクセル・ワールド』16巻より引用)
ISSを作りあげたマゼンタは、ISSキットの力では黒雪姫たちに勝てなかったことを噛みしめ、ISSが消滅するのを見守ろうとしていました。
それは、平等とされるアバターのもつ力の不平等さを憎んだ彼女が、不平等さは努力と鍛錬の強化で乗り越えられると理解した瞬間でもあったのです。
- 著者
- ["川原 礫", "HIMA"]
- 出版日
さらわれたニコを救い出すと約束したハルユキは、タクムやチユリと合流し、とうとう加速研究会の本拠地に突入しました。そして、バイスやアルゴンと対峙したのです。
しかし加速研究会との最終決戦が始まる……と思われたところで、突如空から降り注いだ謎の赤い光によって、「災禍の鎧」マークⅡが誕生してしまいます。最凶最悪の力を持つという「鎧」は、ニコが奪われた外装をもとに作られたものでした。
そんな今作の魅力は、「ブレイン・バースト」が作られた理由と、バーストリンカーが存在する意味が提示されるところにあるといえるでしょう。
ハルユキは「鎧」との戦いで絶体絶命のなか、メタトロンと完全にシンクロし、メタトロンの能力によりハイエスト・レベルへと導かれます。ハイエスト・レベルとは通常人では入り込むことが不可能な高位世界をいいます。メタトロンは、時間が静止したその世界で、「ブレイン・バースト」がなぜ存在するのか、その意味について疑問を提示するのです。
それは、メタトロンがかつて「七の神器」の守護者だったことに由来していました。さらに、黒雪姫の親でもある「白の王」が姿を現します。そして白の王は、不可侵領域である帝城の中にある、最後の七の神器である「揺光」をバーストリンカーたちが手に入れることがこの「ブレイン・バースト」というゲームの終着点となると推測するのです。
メタトロンとの別れと再会、そして最終的な敵といえる「白の王」の登場と、盛りだくさんの一冊となっています。
「我がしもべシルバー・クロウ、いますぐあの無礼者どもを半殺しにしてきなさい」(『アクセル・ワールド』17巻より引用)
メタトロンを倒し、ISSを破壊したことを七王会議に報告しにきたハルユキたちは、そこで他の七王たちがメタトロンを「デカブツ」や「モンスター」と呼称するのを聞きます。怒ったのはハルユキの肩に乗っていたミニアバターのメタトロンでした。
メタトロンはハルユキのアバター「シルバー・クロウ」に七王たちを半殺しにするよう要請するのです。
- 著者
- ["川原 礫", "HIMA"]
- 出版日
今作の魅力のひとつは、加速研究会の真の姿である白のレギオン「オシラトリ・ユニヴァース」の壊滅と白の王「ホワイト・コスモス」の打倒にむけてハルユキたちが動き出すところにあります。赤の王であるニコも、これまで「ネガ・ネビュラス」のメンバーと一緒に戦ってきたこともあり、もはや一蓮托生といった様子です。
また、今作のもうひとつの魅力として、現実世界でのハルユキたちの動きがあります。まず、ニコはハルユキたちが現実世界で通う中学校を受験しようとしており、ゲームの中だけでなく現実でもさらに近しい関係になることが予想されるのです。
さらに、ハルユキとタクムがクラス委員の女の子から来年度の生徒会役員に立候補するよう誘われます。もっとも、ハルユキは初め、生徒会役員になることに渋りました。
しかし、副会長経験者である黒雪姫の応援もあり、自分を見限って去ってしまった父親や仕事ばかりで目を向けてくれない母親との関係の再構築にも、生徒会役員になることは有用だと考えられるようになります。ハルユキの現実世界での成長を感じられる場面だといえるでしょう。
レギオンメンバーが増えたり、ハルユキが自分の心からの願望が「飛びたい」ということだと再認識したりと、戦いに向けて準備が進む今作。次巻でどう動くのか楽しみな一冊となっています。
「あなたの疑問に答えることは簡単よ。でも残念ながら、わたしたちの体験と信念以外に、その答えが正しいと証明する根拠は存在しないわ。つまり、聞けば、あなたたちは選択しなくてはならなくなる。わたしたちを信じて全面的に協力するか……あるいは信じずに今後一切の交渉を断つか」(『アクセル・ワールド』18巻より引用)
緑のレギオンと会議の場を持つことになったネガ・ネビュラス。そこで保護者的存在であるフーコが問いたのは、交渉に応じるか否かの二択でした。
- 著者
- ["川原 礫", "HIMA"]
- 出版日
今作では、約3年前に起こった大規模な戦いと、第1期ネガ・ネビュラスの消滅事件がもたらす現在への影響が明らかになります。白のレギオンを倒すため、本拠地に密接するエリアを「返還」してくれないかと持ちかける黒雪姫に、緑の王は「補償」はもう受け取っていると答えるのです。
そんな今作の魅力は、初登場するグラファイト・エッジの、先見の明と兄貴らしさにあります。彼は元ネガ・ネビュラス所属で、真っ黒な装いをした双剣の男です。
元ネガ・ネビュラスでありながら、新しいネガ・ネビュラスには入っておらず、緑のレギオンでナンバーツーとなっています。実は彼は、エリア譲渡や、第1期ネガ・ネビュラスのメンバー移籍がうまくいくよう、王になれるほどのポイントをすべて緑のレギオンに譲渡していたのです。
黒雪姫から離れても彼女のことや元いたレギオンのことを考えていたエッジの姿は、カッコいいのひと言に尽きるでしょう。また、緑のレギオンの一般メンバーへの体面のために、緑のレギオンとネガ・ネビュラスで戦闘をするのですが、そこでの彼の強さは目を見張るものがあります。
グラファイト・エッジは、剣がすべてを切り裂くことで矛と盾を内包するとし、「矛盾存在(アノマリー)」という二つ名を持つ存在だったのです。それはかつて、黒雪姫の全力をもってしても勝つことができなかったという強大な力でした。
まもなくといわれていた宇宙ステージがついに実装され、宇宙型アバターが出現するなど、いよいよ物語も大詰めへと近づいている様子です。
「まったく、なぜおまえたちはそんなふうに、できなかったことに囚われて思考を停滞させるのですか。実に非生産的です。そんな時間があるなら、これからできるであろうことを考えて思考回路を活性化させなさい。残念ながら私の言語ライブラリに、その状態を的確に表現する言葉はありませんが」(『アクセル・ワールド』19巻より引用)
帝城に侵入したハルユキたちは、内部が気になりながらも、飛行能力がないゆえに留守番せざるをえなかった黒雪姫のことを思い、ため息をつきます。しかし、メタトロンはきっぱりと前を向けというのです。
彼らの「加速世界の果て」たるゲームクリア条件を探す計画がいま、はじまろうとしています。
- 著者
- ["川原 礫", "HIMA"]
- 出版日
今作の魅力は、中学卒業を目前としたハルユキたちが、「ブレイン・バースト」のクリア条件を見つけようと奮闘するところにあります。彼らの世界では、正式な労働年齢が16歳に引き下げられ、運転免許も16歳になれば取れるなど、中学卒業が大人へと近づくひとつの区切りともなっているのです。
「ブレイン・バースト」が子どもたちにむけて配布されたゲームであることから、大人になるとゲームプレイヤーでいられなくなるという可能性も存在しています。それが今回、「ブレイン・バースト」のクリア条件を見つけるという目標に至った直接の原因だといえるでしょう。
「帝城」にやってきたハルユキとフーコは、そこでグラファイト・エッジとトリリード・テトラオキサイドに出会います。なんとこの2人は帝城に住みついているというのです。
みんなで深部へと進んでいくうち、ハルユキは「揺光」こそが、このゲームの開発者2人が奪い合っていたものであると知ります。この「揺光」を封印するための施設が帝城であり、「揺光」を解放しようとした側が帝城を攻略することを託した存在が、バーストリンカーだったのです。
さらに、白の王を打倒するために、ネガ・ネビュラスとプロミネンスが合併する計画が持ちあがったり、加速研究会のマゼンダが仲間になったりと、今作では一気に仲間が増えていきます。サブタイトルの「暗黒星雲の引力」の通りの展開に、次巻が楽しみになる一冊だといえるでしょう。
「今日の領土戦は、決して白のレギオン、そして《加速研究会》との最終決戦じゃない。これから長く続いていく戦いの、最初のひとつ。負けられない戦いだけど、もし負けたってやり直せるの、何度でも」(『アクセル・ワールド』20巻より引用)
白のレギオンに勝つため、赤のレギオンとの領土戦をおこなうことにしたハルユキたち。ネガ・ネビュラスの戦いが、今始まります。
- 著者
- ["川原 礫", "HIMA"]
- 出版日
今作の魅力は、黒のレギオンであるネガ・ネビュラスと赤のレギオンであるプロミネンスの合併交渉という名の……じゃんけん大会にあります。もともと合併についてはうちうちで検討済みなこともあり、平和に進んでいくのでした。
しかしそのなかでハルユキに戦いを挑んでくるバーストリンカーがいるなど、ちゃんと戦闘シーンもあるのが『アクセル・ワールド』らしいところでしょうか。なお今作では、ハルユキはレベルアップをし、レベルアップボーナスで剣を得ることになります。
これまで、戦闘中にピンチになると、「親」である黒雪姫や師匠であるフーコの声が脳内に聞こえていたハルユキですが、今回はなぜか男性の老人の声が聞こえてくるのです。声の主が何者かは謎のまま、素手と頭突きで戦ってきたハルユキは、剣士としてのスタートを切ることになります。
そしてついに、白のレギオンとの領地戦が始まります。白のレギオンが敵だとわかったのが16巻でしたが、やっと準備が整いました。緑のレギオンと青のレギオンの協力も得て、あとは突き進むだけです。
「アッシュさん、いったん引きましょう!
ここは本物の無制限フィールドです!
もし死んだら、無限EKの可能性が……」
(『アクセル・ワールド』21巻より引用)
白のレギオンとの戦いの最中、突如現れた謎のバーストリンカー。それが発した心意技「パラダイム・ブレイクダウン」により、ハルユキたちは通常のフィールドから、無制限中立フィールドへと転移させられてしまったのです。
- 著者
- ["川原 礫", "HIMA"]
- 出版日
今作では、「事象の上書き」ができる心意技のうちでもかなり高度に空間を書き替え、「ブレイン・バースト」のシステムを捻じ曲げる力の持ち主が登場します。さらに、メタトロンと状況の確認をするため、無制限中立フィールドよりさらに上の階層に位置するハイエスト・レベルへやってきたハルユキを襲ってくる人物が現れるのです。
それが、白のレギオン陣営の中のスノー・フェアリーという人物でした。可憐な少女でありながら、他者に干渉することができ来ないはずのハイエスト・レベルで、ハルユキとメタトロンの絆を切ろうと干渉してきたのです。
やっとのことでハイエスト・レベルから無制限フィールドに帰ってきたハルユキたちでしたが、無制限フィールドは離脱ポイントであるポータルへ行かない限り、そこから脱出することはできません。ハルユキたちはそこで、白のレギオンが仕掛けた「死の罠」にはまっていることに気づくことになるのです。
それは、圧倒的な力をもつバーストリンカーが対象者を殺し続けることによって、対象者の持ちポイントをすべて消滅させ、それにより、対象者を「ブレイン・バースト」から永遠に退場させることができるという恐ろしい罠でした。
今作の魅力は、1度ポイントを全部失ったバーストリンカーは記憶をなくし、「ブレイン・バースト」をアンインストールされてしまい消えてしまう、と思われていた事実が覆されるところにあります。なんと、ポイント全損により消えたはずの黒雪姫の生徒会仲間だった若宮恵が、白のレギオンメンバーとして復活していたのです。
加速「研究」会というだけあって、ゲーム開発者サイドの視点から「ブレイン・バースト」を検証してきたことが窺える白のレギオン。果たして黒雪姫とニコによるハルユキたちの救出は成功できるのか、また白のレギオンの壊滅ができるのか、ドキドキが止まらない一冊です。
……わたし、リプレイカードで録画したんです。
アイボリー・タワーが、ブラック・バイスに変身するところを
(『アクセル・ワールド』22巻より引用)
白のレギオンと加速研究会の繋がりを突き止めようという作戦に失敗してしまったハルユキたちでしたが、一転、決定的な証拠を手に入れることができます。切り札を手に、彼らが向かった先は七王会議でした。
- 著者
- ["川原 礫", "HIMA"]
- 出版日
ハルユキたちの手に入れた証拠によって不利だった状況は一変、一気に周りを味方につけることに成功します。しかし敵もさることながら、真相を突き付けられた途端、会議に参加していた王たちは全て無制限中立フィールドへと転移させられ、白の王と加速研究会を相手にした戦いに突入してしまうのです。
会議に参加している王の力は、1人1人がこの世界では伝説といわれるほどのもの。その王たちが、ハメられたとはいえ、共闘の道を選び互いに協力して戦うことにするバトルシーンは、本巻の見所の1つです。
長く続いてきている白のレギオン編ですが、そろそろクライマックスのよう。そのためか日常を描くシーンなどはあまりないのですが、事件解決に向かって一気に進展しそうな雰囲気がただよう一冊になっています。
……頼む……今夜は、私と一緒にいてくれないか
(『アクセル・ワールド』23巻より引用)
白の王の正体を暴いたものの、その代償として黒雪姫たちは、無限エネミー・キル状態に。そんななか、黒雪姫の秘密が明らかになり……。
- 著者
- ["川原 礫", "HIMA"]
- 出版日
黒雪姫や王たちが代償を受けることになってしまったものの、白の王の正体を暴くことができたハルユキたち。前巻では、白のレギオン編もそろそろクライマックスだと作者が述べていましたが、本巻では、本筋の進み方はややゆっくりになります。
本巻の見所は、やはり黒雪姫の秘密が明かされるところ。ハルユキと彼女が一緒に食事をしたり食べ物の取り合いをしたりなど、ちょっとワチャワチャとしたところがあるのも楽しいですね。
黒雪姫の秘密が明かされるのは、ハルユキと一緒にお風呂に入っている場面です。このシーンはイラスト化もされていて、ドキドキしながら読むこともできるのではないでしょうか。
もちろん大切なのはそこだけではなくて、黒雪姫が自分のニューロリンカーをハルユキに外させたことで、彼女のうなじの辺りにバーコードと数字があることが明らかになったこと。これらこそが彼女の秘密であり、隠された過去なのです。
それがどういったものであるのかは、実際に本編を手に取って確認してみてください。新しく明かされた要素に、さらなる展開が期待できそうです。
太っちょのいじめられっこが特殊なゲームに招待されることで、めきめきと頭角をあらわしてゆく『アクセル・ワールド』。最終決戦の終わりまで目が離せません。