映画化された『blue』や『strawberry shortcakes』など、数々の人気作を発表している漫画家の魚喃キリコ。この記事では、女性からの共感度がとくに高く、2017年に映画化され、『南瓜とマヨネーズ』の魅力を紹介していきます。
『南瓜とマヨネーズ』は1998年から宝島社の「CUTiE Comic」にて掲載されました。大切な恋人と、忘れられない昔の彼氏とのあいだで揺れる女性の心情が、日常をとおして繊細に表現され、魚喃キリコの作品のなかでも「恋愛マンガの金字塔」と評されている作品です。
淡々と過ぎていく日々や人間模様のリアルさを引き立てている、モノトーンの力強いコントラストが特徴のイラストも魅力のひとつ。90年代から現在まで愛され続けて、2017年には映画化が決定しました。
なぜこんなにも多くの人から支持を集めているのでしょうか。この記事では、漫画『南瓜とマヨネーズ』の魅力を徹底考察していきます。
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- 著者
- 魚喃 キリコ
- 出版日
- 2004-03-08
主人公のツチダは、彼氏のせいいちと同棲して1年半。ミュージシャンの夢を追いかけるせいいちのために、無職の彼を養いなが暮らしています。しかしアルバイトだけの生活は苦しく、ツチダは水商売をはじめるものの、だんだんと不満がたまりせいいちと喧嘩をしてしまいました。
そんなある日、彼女は忘れられない昔の彼氏、ハギオに街で出会います。彼は女遊びも激しく、付きあっていた当時もツチダは大切にしてもらえませんでしたが、なぜだかすごく好きな人でした。
せいいちに負い目を感じながらも、ツチダはハギオとの関係におぼれていきます。2人のダメ男のあいだで揺れる彼女の選んだ道は……?
『南瓜とマヨネーズ』はセリフのないシーンも多く、その「間」が淡々とした日々のリアルさを引きたて、登場人物たちの現実的で人間的な「痛い」部分が描かれています。
そもそも「ヒモ彼氏と女癖の悪い元カレの間で揺れる女」という設定が痛々しいですよね。しかし、吸い込まれるように読み進めてしまう魅力は何なのでしょうか?
魚喃キリコの作品は彼女の実体験をもとにしたものが多く、『南瓜とマヨネーズ』もそのひとつです。なかでも本作は心の暗い部分を繊細に表現していて、痛い部分をついてくる「共感」が得られます。
「せいちゃんが音楽やりたいなら好きなだけやらせてあげようと思って だから あたしがこんなことまでするんじゃん」(『南瓜とマヨネーズ』より引用)
ツチダが生活費のために体を売っていたことが、せいいちにバレてしまったシーンです。注目すべきなのは、この気持ちがツチダの一方的な気遣いであるところ。「相手が好き」なのではなくて「相手に尽くしている自分が好き」という、恋に恋している現象……。形は違えど、誰しもが経験のある感情なのではないでしょうか。
物語のなかでとても重要な人物がハギオです。主人公のツチダが過去に思いを寄せていた男性で、貢いで、尽くして、さらには妊娠・中絶まで経験したあげく別れてしまった遊び人です。
ツチダの働くキャバクラで知り合った先輩のリカも、実はハギオの元彼女で、ツチダとリカは同時期に彼と交際していたことが判明する場面もありました。
わかっているだけでも2人の女性を虜にし、不幸にさせているハギオですが、彼の魅力は一体どこにあるのでしょうか。
そもそも本作では、登場する2人のダメ男がポイントになっています。自分の存在が悪だと気づかず、無意識のうちに共依存関係(つまりヒモ)を築くのが上手なせいいち。
一方のハギオは、自分の存在が悪だと気づいていながらもそれを肯定し、自由気ままに、自分のやりたいように動いています。そのため、きっかけはどうあれハギオを好きになった女の子たちは、自分だけのほうを向いてくれるよう、関係をつなぎとめられるように尽くしてしまい、ダメ男の沼に深くはまっていってしまうのです。
「情じゃなかったらどうやってハギオをつなぎとめておけばいいの?」(『南瓜とマヨネーズ』より引用)
「楽させてあげたらあたしを必要と思ってくれるのかなって」(『南瓜とマヨネーズ』より引用)
ひとつめは、ツチダがハギオに問いかけた言葉です。ふたつめは、リカが彼との過去をツチダにこぼしているところ。どちらを見ても、ツチダもリカも彼に夢中になっていたことがわかります。
2人とも、ハギオがどれだけ最低な男かを知っているにもかかわらず、離れられません。だめんずを好きになってしまう女性の読者は、痛いほど共感できるのではないでしょうか。男性の読者は「あなたはせいいちとハギオ、どっちのタイプ?」と問われているように感じるかもしれません。
何気ない日常は脆くて壊れやすいということを、本作を通じて痛感させられるでしょう。
ツチダはハギオとの関係を続けるにつれて、せいいちと一緒にいるのが申し訳なくなり、彼から別れを告げてくれれば苦しまずにハギオのところへ行けるのに……と考えてしまいます。
そのタイミングでせいいちは、お互いのために、とツチダへ別れを告げますが、するとツチダは、これまでハギオのことが好きだと思っていたのに、本当に好きなのはせいいちだったと気づくのです……。
『南瓜とマヨネーズ』は、どこにでもありそうな恋愛の、暗い部分を切り取った話です。主人公のツチダは日々に流されることによって自分の気持ちを見失っていましたが、その何気ない日常自体が、脆く、尊いものであること、そしてせいいちが大きな存在だったことに気づくことができました。
リアルな人間模様には共感しやすく、ツチダを通して自分の日常を振り返ることができるでしょう。きっとそこには隠れた幸せがあるはずです。
人の暗い部分をテーマにした『南瓜とマヨネーズ』。読者によって受け止め方は違い、さまざまなことを考えさせられる作品です。読むと少し心が痛くなりますが、あえて落ち込んでいるときに読むと、もっと物語に入り込めるのではないでしょうか。本当におすすめなので、ぜひ読んでみてください!