『いないいないばぁ』だけじゃない! 松谷みよこの民話の世界

更新:2015.5.14 作成:2015.5.14

2015年2月28日。89歳の天寿を全うされた松谷みよ子さん。 『いないいないばぁ』、『ちいさいモモちゃん』など児童文学作家として知られている松谷みよ子さんですが、夫と共に民話研究家として全国を旅した研究家でもありました。 日本の片隅にひっそりと息づいていた民話を拾い上げ、ひとつの「物語」として再生し、全国の子どもたちに「日本の物語」という宝物を与えてくれました。 読み聞かせにぴったり!とっておきの「民話絵本」をご紹介いたします。

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[長野県] 恋に身を焦がしたむすめのあわれな顛末

いくつもの山を越えた先にある村に住む恋人のために、毎夜山を越えて会いに行くむすめ。出発時に両手に握りしめたひとにぎりの米は、恋人の元に着くときにはつきたての餅となり、来訪を喜ぶ恋人の口へと運ばれます。ある日友人からそのむすめの行動は化けものだ、と言われ、疑い始める恋人。以来むすめを恐れた恋人はあることを決意します。

このお話の元は、長野県に伝わる『つつじの乙女』という民話です。松谷さんご本人が長野へ行き、地元の人から直接話を聞くことで『つつじのむすめ』という絵本が誕生しました。

ただ聞いたことを書き起こすだけでなく、「松谷みよ子の視点と言葉」で描かれた『つつじのむすめ』。彼女の「語り」を感じることができる作品です。

 

著者
松谷 みよ子
出版日

[島根県] カニをつぶして後悔したサルがとった行動とは

ある日、山での暮らしに嫌気がさしたサルが海へ出たときのお話で、島根県に伝わる民話です。

初めて見る海に感嘆し、ひとりで「海はええなぁ」と呟いていると、「うん」と答えるカニに出会います。ひとりを満喫していたサルは、返事をしたカニを「ぴしゃん」とつぶし、一安心。そしてまた「海はええなぁ」とつぶやきますが、誰の返事も聞こえません。急に寂しさを覚えたサルは、泣きながらつぶしたカニを拾い上げ、団子にします。そしてまたサルが語りかけると……

人間、誰しも取り返しのつかないことをやってしまうもの。このお話は読む人によって様々な感情を与えてくれるような意外な結末を迎えます。

懲罰のわかりやすい絵本よりも、さり気なく寂しさや後悔を子どもに伝えたいとき、一緒に読んでみてはいかがでしょうか。

 

著者
松谷 みよ子
出版日

[東北] 強い男とやさしい男のあいだで揺れる女神の心

津軽海峡にまつわる民話です。民話と言うより、東北の神話といった方が正しいかもしれません。

舞台は、十和田湖。竜飛岬に住む男神と男鹿半島に住む男神が、十和田湖に住む女神をかけて大勝負に挑むお話です。黒神は竜を飛ばし、赤神は大勢の鹿で加勢します。見物に来た神様たちは岩木山に集まり、やんややんやと大騒ぎ。勝負の結果が出たとき、ついに女神の思いが明かされます。

女神が選んだ男神については、女性として考えさせられます。岩木山の地形の由来にも触れているこのお話は、津軽海峡ができた由縁を語る神話として、東北の方々に知られているお話です。

日本神話と言えば『古事記』や『日本書紀』など難しい名前の神様が多く登場しますが、こちらは赤神と黒神と呼びやすい名前なので、親子で気軽に読める神話絵本となっています。

 

著者
松谷 みよ子
出版日

[平家物語] 傲慢な僧が島流しに遭い、ひとり取り残される

芥川龍之介や菊池寛など多くの作家が独自の視点で伝えてきた『俊寛』ですが、松谷みよ子さんは『俊寛』を絵本として、子どもたちに伝えました。

「俊寛」とは、平清盛への謀反を企てた罪により島流しにされたお坊さんのこと。流罪の後、しばらくして赦免(しゃめん)の船が来ますが、俊寛だけが取り残されます。彼は大声で叫び、喚き、発狂しながら一人島に取り残されてしまい、その生涯を伝えるお話です。

島流し、発狂、孤独、絶望……恐いイメージが多いこのお話ですが、司修さんの絵が、その恐さを和らげています。定点観測的な描き方で物語のシーンを見せてくれる司修さんの絵は、客観的な絵巻物のような印象を与えてくれるので、一定の距離感を持って『俊寛』と接することができます。

『俊寛』を絵本にした作品は少なく、松谷みよ子さんならではの作品といえます。

 

著者
松谷 みよ子
出版日

[全国各地] 村を救うため、ひとりの龍の子が立ちあがる!

松谷作品の中でも、この作品を知っている方は多いのではないでしょうか。児童文学としてのイメージが強い作品ですが、絵本版は少し、ストーリーを変えて出ています。

『たつのこたろう』とは、祖母に育てられたたろうが、貧しい村を救うためにりゅうであるおっかさんに会いに行く冒険譚。松谷作品を代表するひとつです。

このたつのこたろう、実は各地に残る民話を集めて松谷さん独自の視点で「再話」したものなのです。長野県の「小泉小太郎」という伝説を元に、各地に伝わる民話をたろうの冒険譚として取り入れています。

おっかさんに会い行く過程の中で、様々な出会いを繰り返し、力をもらいながら成長し、母龍に会えた時、その知恵と力を発揮し、村を救うこのお話は、絵本版と小説版で少しストーリーが違っています。お子さんの成長に合わせて絵本から書籍へ移行しやすい作品です。

 

著者
松谷 みよ子 朝倉 摂
出版日
2010-08-25

松谷みよ子さんの民話絵本の特徴は「読む」よりも「語る」方が似合うので、読み聞かせにぴったりです。読み聞かせが苦手な方も、自分の地方に合わせた民話絵本を見つけて語ってみるのはいかがでしょうか。

東北の人は『赤神と黒神』、島根の人は『さるのひとりごと』、長野の人は『つつじのむすめ』…… 
「聞かせる」よりも「語る」こと。語りやすい絵本として、民話絵本はお薦めです。