『終わりのセラフ』や『紅』のイラストを手掛けていることで有名な山本ヤマトは、まるでスポットライトを浴びているかのような光影の美しいカラー表紙を描く大人気イラストレーターです。今回は山本のイラストが存分に堪能できるライトノベルを5冊ご紹介しましょう。
山本ヤマトは1983年生まれのイラストレーター兼漫画家です。ライトノベルや雑誌の挿絵を中心に活躍する傍ら、自らのHPでオリジナルイラストを多数公開していることでも有名です。
また代表作ともいえる「終わりのセラフ」シリーズや「紅」シリーズでは、小説の挿絵とともにそのコミカライズ作品も手掛けています。
「大豆食品が好物。納豆があればご飯何杯でもいけます。」(『9S』裏表紙より引用)という発言がイメージするとおり、茨城県出身です。
原作・鏡貴也の作品です。同じく鏡と山本のコンビが制作したコミック版「終わりのセラフ」シリーズの8年前の世界、人間社会が滅亡する直前の世界を描いています。
主人公は呪術組織「帝ノ月」の次期当主候補である一瀬グレン(いちのせぐれん)。彼は敵対し合う「帝ノ鬼」の配下にある「呪術師養成学校」に入学させられます。校内は敵だらけ。罵倒されたり蔑まれたりする散々な毎日を大人しく受け身で送るグレンですが、実はかなりの実力を隠していて……。
- 著者
- 鏡 貴也
- 出版日
- 2013-01-04
本シリーズはライトノベル、コミック、ヴォイスコミック、テレビアニメなどさまざまな媒体で楽しまれている作品です。コミック版とライトノベル版は、シリーズ累計発行部数700万部を超える大ヒット作となりました。
また、コミック版とライトノベル版では描かれている時代が違うため、両方楽しんだという方が多い作品ともいえるでしょう。山本ヤマトはその双方で作画を手掛けています。
小説版の主人公・一瀬グレンは、学校差別を受けるなど、かなり不当な扱いを受け続けていますが、実はかなりな実力者。そしてグレンの相手役となるヒロイン・柊真昼(ひいらぎまひる)は敵対する集団の次期当主候補です。設定はシンプルですが、主人公の葛藤がしっかりと描かれているため、読みやすくも深く考えさせられる内容です。
ライトノベル版はコミック版に比べて山本ヤマトの絵が少ないですが、表紙や扉絵などでは、光影に優れたとても美しいイラストが楽しめます。ここぞ!というシーンに登場する挿絵はコミック版よりも印象強く、読み手の心をグッと捉えるでしょう。
ぜひコミック、ラノベともに堪能していただきたい作品です。
原作・葉山透のハードアクション系ライトノベル。山本ヤマトは本編9巻までと短編集『9S SS』『9S memories』のイラストを担当しています。
主人公は17歳の高校生・坂上闘真(さかがみとうま)。春休みを利用した割のよいバイトのつもりで、海上の閉鎖実験施設「スフィアラボ」へにやってきました。
しかし彼は、謎の男・峰島勇次郎(みねしまゆうじろう)の遺産を強奪しに来た「蜃気楼(ミラージュ)」という武装集団の襲撃に遭います。多くの犠牲者が出る中、何とか1人だけ難を逃れ、通報することに成功しますが……。
- 著者
- 葉山 透
- 出版日
- 2003-09-01
『9S』とは本当のタイトルである「The Security System that Seals the Savage Science Smartly by its Supreme Sagacity and Strength.」の略となります。
主人公の坂上は一見普通の高校生ですが、実は巨大な権力を有する真目家の継承者。物語冒頭の舞台はスフィアラボと呼ばれる大規模研究施設です。武装集団ミラージュに奪還されたスフィアラボにあるのは、峰島勇次郎が発明した遺産技術・LAFでした。
現代社会から遠くかけ離れた『9S』の世界観は設定がしっかりしている上、中途半端に現代社会を彷彿とさせる要素もないため、心置きなくストーリーの中に入り込むことが出来るでしょう。ストーリー上、シリアスなシーンや戦闘シーンも多数存在しますが、適度にギャグを交えた軽快なやり取りが含まれているため、ラノベらしく読みやすい文章です。
山本ヤマトの挿絵は装備や空間は非現実的ですが、そこに生きる人々は現代の読者たちと変わらない「人間」であることを上手に表現しています。挿絵を堪能することによって、非現実的な世界観をしっかりと味わいながら、よりリアルな想像を膨らませることができるでしょう。
非現実世界を堪能したい方におすすめの一冊です。
原作・片山憲太郎のサスペンス系ライトノベル。同じく片山と山本のコンビで刊行されている『紅』と登場人物が重複しています。『電波日和』というタイトルで「スーパーダッシュ小説新人賞」の佳作を受賞した作品です。
ある日、高校2年生の不良少年・柔沢ジュウ(じゅうざわじゅう)は体育館裏に呼び出され、見知らぬ少女に「私はジュウ様の下僕です」と忠誠を誓われます。彼女の名前は堕花雨(おちばなあめ)。それ以来自分につきまといはじめてた雨に理由を問うと、彼女にとってジュウは「主(あるじ)」だからだと言うのですが……。
- 著者
- 片山 憲太郎
- 出版日
本作はコミック版『紅 kure-nai』3、4巻のアニメDVD付き予約限定版としてアニメ化された人気作品です。
長身で金髪という目立つ容姿をもったシュウは、警察官にまで目を付けられるような不良扱いをされていますが、家庭環境の複雑さから、自立した考えの持ち主です。そして気味の悪い妄想のような雨の話にもしっかりと向きあい、彼女のまっすぐな目を見て「タダの妄想少女ではなさそうだ」と察知できるほどの洞察力もあります。
一方、雨は丁寧な言葉づかいでジュウに対しては常に敬語。元々高校では成績優秀な生徒です。そして普通の女子高生であり、友人の前でも比較的言葉遣いはきれいです。ライトノベルですが、やや一般小説に近い作風のため、ライトノベルに馴染みのない方でも難なくストーリーに入り込むことが出来るでしょう。
本作品における山本ヤマトの挿絵は髪の毛、洋服など他の作品よりもベタ塗を多用。登場人物に女性が多いので必要以上にハーレム感が漂いがちな分、白・黒というハッキリしたコントラストが本来のストーリーを引き立てています。
前世という少し幻想的なものと、しっかりとした頭脳の両面を堪能できる、読みごたえのある一冊です。
原作・ 片山憲太郎の「紅」シリーズ6作目です。同じく片山作の『電波的な彼女』と世界観、登場人物がクロスオーバーしています。
主人公は揉め事処理屋・紅真九郎(くれないしんくろう)。新年、裏十三家の一つ、「崩月家」で夕乃たちとのんびりした正月を過ごしていた真九郎の元にお見合いの話が舞い込みます。その相手とは裏十三家の筆頭「歪空家」の一人娘で……。
- 著者
- 片山 憲太郎
- 出版日
- 2014-12-19
小説だけでなく、漫画、ドラマCD、アニメ、インターネットラジオなどたくさんの媒体で発表された作品です。山本ヤマトは小説版とコミック版でイラストを担当しています。
「紅」シリーズとは、自分が被害者となったとある事件がきっかけで揉め事処理屋となった主人公の紅真九郎が、世界屈指の大財閥にして表御三家の御令嬢である小学生・九鳳院紫(くほういんむらさき)と絡みながら、大きな勢力・裏十三家などと闘っていく物語です。
本作『紅 ~歪空の姫~』には、裏十三家の一つである歪空本家、そしてその一人娘である歪空魅空(ゆがみそら みそら)が登場。
シリーズものですが、1作品ずつ完結するストーリーとなりますので、途中からでも十分楽しむことが可能です。一方で財閥である登場人物の名字や関係性などが若干入り組んでいるため、1作目から読み進めたほうがストーリーに入り込みやすい作品でもあります。
山本ヤマトの挿絵は無駄がない的確なもので、ヒロインの紫が特に愛らしく描かれています。彼女の小学生らしくいやらしさのない純粋な面と、年の割に人生経験を積んでいる少し大人びた面がうまく共存したイラストです。
ぜひシリーズを通して少しリアルで少し非現実的な壮大な世界観を堪能してみてくださいね。
原作・ 多崎 礼によるSF系ファンタジー小説。ストーリーは1巻で完結せず、「第二巻へ続く」という文言で終了します。
この物語の主人公は2人。姫の幻影とともに「文字」を探して旅を続ける本を修繕する少年・アンガスと、1666年にたった1人だけ生まれ「悪魔の子」と呼ばれた「俺」です。
1節ごとにストーリーが切り替わる、2人の目線から紡がれる冒険物語となっています。
- 著者
- 多崎 礼
- 出版日
本作の世界において、文字(スペル)は世界を蝕む邪悪な存在。主人公の1人であるアンガスは、本を修繕するための文字を回収すべく、本の中から現れる「姫」とともに旅を続けています。つまりこの作品の世界観は「本」と「文字」によって成り立っているのです。
……と聞くと、やや文学的で堅苦しいイメージを感じられるかもしれません。しかし、「本」がテーマになっているだけで、登場人物たちの会話は若者的な雰囲気であり、ジャンルはSF系冒険ファンタジーです。
堅苦しそうな題材を使いつつ、ライトノベルの世界観を存分に生かした読みやすいストーリーとなっている本作は、活字に苦手意識のある方でも気軽に手に取ることができるでしょう。
ちなみに山本ヤマトのイラストは、本文中には登場しません。表紙、そして登場人物紹介のみです。人物紹介では鉛筆で描いたラフ画のようなイラストが楽しめます。またカラーで描かれている表紙と口絵は、少し暗めな世界観を演出する、贅沢な書き込みのイラストとなっています。
ぜひ全4巻で文字の世界を堪能してみてくださいね。
コミックも手掛ける絵師・山本ヤマトが挿絵を手掛けるライトノベルを5作ご紹介しました。文章の中で要所にグッと入り込んでくるラノベの挿絵は深く心に差し込んでくる極の画であり、ぜひ堪能していただきたい作品となっています。ぜひ、ライトノベルで山本ヤマトの画を楽しんでみてくださいね。