安部譲二のおすすめ本5選!元暴力団員の著者が描く作品

更新:2021.11.9

代表作は刑務所内での出来事をモデルとした『塀の中の懲りない面々』。16歳で任侠の世界に足を踏み入れた安部譲二のディープな5作品を紹介します。

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安部譲二とは

安部譲二は1937年に東京都で生まれました。日本郵船に勤務する父を持ち、幼少期からロンドンやローマなど海外を転々とする生活をしていたといいます。

小学生にしてシェイクスピアや夏目漱石の全集を読み漁り、名門・私立麻布中学校へ入学。優秀でしたが、この頃から暴力団幹部の人物と交友を持ちはじめます。このことが原因で麻布高校への進学は認められませんでした。その後、安部は傷害事件を起こし国外逃亡します。15歳でした。

正式に暴力団構成員となったのは16歳のときです。日本に戻り慶應義塾高校に入学しましたが、再び暴力事件を起こしてしまい、除籍処分となりました。それからはたびたび暴力事件を起こし、少年院や刑務所に入っていた時期もあります。

23歳で日本航空に入社し、客室乗務員として務めますが、前科が明るみに出て退社。その後新たな暴力団に加わります。何度か服役をした後、完全に暴力団関係から足を洗ったのは40歳を過ぎてからでした。

1987年に発表した代表作の『塀の中の懲りない面々』には、そんな作者の経歴が生かされています。

波乱万丈な人生を送ってきた安部譲二。その活動の幅は広く、小説家としてはもちろん、漫画原作者やタレントとしても活躍しています。今回はそんな作者のおすすめ作品を5冊ご紹介します。 

安部譲二原作、愛と勇気の青春ドラマ

安部譲二は漫画原作者としても有名です。本作はその代表ともいえる作品で、2005年に小学館漫画賞を受賞しています。

作画は柿崎正澄が務め、2002年から2008年までは「週刊ヤングサンデー」、2009年からは移籍先の「ビッグコミックスピリッツ」にて連載されていました。

暴行や殺人未遂、窃盗などさまざまな罪に問われ少年院に入所した7人の青年たち。アニキ的存在である「アンちゃん」を中心に、深い絆で繋がっている彼らの、泥臭くも愛にあふれた青春ドラマです。

著者
安部 譲二
出版日
2003-04-05

この作品は少年院を舞台にした物語ということで、ある意味で安部譲二の自叙伝だともいわれています。罪を犯した人間に対する社会の目や、それによってもたらされる不条理に向き合いながらも、彼らにはそれぞれ夢があるのです。

ボクシング選手になり母に恩返しをしたいアンちゃん、アンちゃんの意志を継ぎボクシングの世界チャンピオンを志すマリオ、歌手になりたい金髪混血児のジョーや、「父は軍人だ」といわれて育った自衛隊に入隊志望のヘイタイ、また終戦後の激動の時代を舞台にしていることから、広島の戦争孤児という境遇のキャラクターも登場します。

彼らは逆境に傷つきながらも、自らの幸せを手にしようと泥臭くもがき続けます。そんな姿が読者に勇気を与え、本作は累計発行部数330万部を超えるベストセラー作品となりました。2010年にはアニメ化もされ、より多くの人に作品が知れ渡っています。

1度罪をおかした人間でも幸せを手にできるのか、手にしてもいいのか、考えさせられる物語です。登場人物は乱暴者、でも実は仲間思いで不器用な性格であるなど、憎めないキャラクターばかり。アツい気持ちになりたい方におすすめの作品です。

安部譲二の自叙伝的デビュー作

安部譲二は16歳にして任侠の世界に足を踏み入れ、少年院や刑務所に服役した過去があります。

本作には、その刑務所での生活やそこで出会った人々とのエピソードがつづられており、たちまち大ヒットとなりました。

著者
安部 譲二
出版日
2004-04-01

物語の舞台は府中刑務所です。再犯者が多く集まることで有名な刑務所で、安部自身もここで刑を勤めました。

集められた懲役囚は、頼りにされるニセ医者や、紙食いの男、革命派の闘士など、クセのある人物ばかり。すでに数々の前科を持つ主人公の安部は、恐喝と銃刀法違反で府中刑務所にやってきます。

1987年には藤竜也主演で映画化もされた本作。刑務所内での生活が、時に厳しく、時にユーモラスに描かれているので、そのリアルなストーリーに多くの人が惹き込まれました。小説はベストセラーになり、デビュー作にして安部譲二の名はたちまち広まります。

本作では個性豊かな懲役囚のほかに、看守の様子なども細かく描かれていて、たとえば口笛を吹くことを注意されたことから、懲役囚全員でわざと口笛の大合奏をするなど、ブラックな笑いを誘うシーンも多々あります。

続編として、『塀の中のプレイボール』もあるので、気になる方は合わせてチェックしてみてください。

安部譲二が闇に葬られた不可解な事件に迫る

任侠の世界を渡ってきた安部譲二だからこそ暴ける、裏社会の闇。未解決の怪死事件を取りあげ、彼独自の視線から事件の真相を究明していきます。

本作はプロレスラー力道山の死や、豊田商事会長刺殺事件、日航機墜落事故など、世間を騒がせた出来事に切り込んでいきます。一般人にはない独特の仮説を立てて論じることで、多くの人の関心を集めました。

著者
安部 譲二
出版日

「こんなことを本にしていいのかな?」と思うほど衝撃的なことが書かれていますが、これはあくまで安部の推測にすぎません。ですが、日航機が実は自衛隊の無人標的機とぶつかったのではないか、といった筋書きには思わず惹き込まれ、夢中で読んでしまいます。

日本の闇に葬られた事件に興味のある方にはぜひ読んでいただきたい一冊です。安部の主観も多く入っており人柄も伝わる文章なので、作者自身に興味を持ったら、別の作品にも目を通していただくことをおすすめします。

70歳を超えた著者が自身を振り返る一冊

第二次世界大戦前に生まれ、戦後の激動の時代に日本と世界を行き来し、闇社会にも身を置いていた安部譲二。そんな自身を「絶滅危惧種」と称し、反省文として綴ったのが本作です。

波乱万丈なその人生を、あなたものぞいてみませんか?

著者
安部 譲二
出版日
2009-07-15

麻布中学に進学したエリートだったにもかかわらず、安部は在学中から暴力団員と舎弟として交友を深めていました。事件を起こし、10代で国外逃亡した際の秘話も語られています。

かの有名な文豪、三島由紀夫との交流についての記述も興味深いものばかりです。安部は中学時代、三島主宰の雑誌にアングラ小説を寄稿していて、その頃から文才に恵まれていたことは明らかでしょう。

刑務所時代につけていたノートの内容も公開されています。彼の獄中での生活をよりリアルに体感することができ、代表作『塀の中の懲りない面々』とはまた違った印象を受ける内容になっていて見逃せません。

また、3億円事件の裏側や真犯人についての言及もあり、ページをめくれば驚愕の事実ばかり。真相はあなたの目で確かめてみてください。

猫愛にあふれた安部譲二のほのぼのエッセイ

「僕は女の人より猫のほうが好きかもしれない」(『もう、猫なしでは生きていけない』から引用)

派手な経歴を持つ安部譲二ですが、実は大の猫好きで、猫への底抜けの愛を語る本も出しています。何十匹もの猫との出会いと暮らしに、心が温まること間違いなしです。

著者
安部譲二
出版日
2013-06-14

直吉、みいみ、シッポナなど、登場する猫たちには名前が付けられています。安部は猫を人間か、それ以上の存在として扱っており、彼のまわりに集まるのは個性豊かな猫ばかり。

さらに安部譲二らしいのは、猫と絡めて女性とのエピソードを描いているところです。あわせて語られている作者の女性遍歴にも目を向けてみてはいかがでしょうか。

この作品から安部譲二のことを知ると、その穏やかさに驚いてしまうかもしれません。猫好きの方はもちろん、作者の新たな一面を知りたい方にもぜひおすすめしたい一冊です。

刑務所内での生活を綴ったデビュー作から猫愛について語ったエッセイまで、濃い人生経験を活かした読み応えのある名作揃いです。まずは一冊、手に取ってみてはいかがでしょうか。

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