主人公・リクと自称金星人の恋人・ニノを中心に、荒川の河川敷に住む個性的な住人たちがいつも好き勝手に騒ぎまくって過ごしています。アニメ、実写ドラマ、実写映画と展開した名作ギャグマンガです!スマホの無料アプリから読むことができるので、久々に読みたい!と思った方は、まずはそちらからどうぞ。
『荒川アンダーザブリッジ』は累計発行部数600万部、2010年にはアニメ化もされました。更には2011年に実写ドラマがほうそうされ、2012年にその映画版が公開されました。
・ギャグ漫画
『荒川アンダーザブリッジ』といえばギャグマンガです。主人公がツッコミ担当、そのほかのキャラはすべてボケという珍しいタイプの作品となっていてギャグ要素は満載ですが、下品さはなく女性作家ならではの独自の面白さが本作では楽しめます。
・個性豊かなキャラクター
本作では個性豊かなキャラクターが多く登場しています。カッパの格好をした者や星の被り物、元傭兵のシスター等々ギャグマンガならではの謎に包まれた人物が多く登場します。
青春・恋愛・ギャグ満載の本作はギャグはもちろん、登場人物たちの成長や人間模様なども含めて楽しめる作品です。
『荒川アンダー ザ ブリッジ』は、『聖☆おにいさん』などでも知られる漫画家・中村光によるギャグ・ラブコメディ作品です。
ふとしたきっかけから荒川の河川敷に住むことになってしまった主人公・市ノ宮行(いちのみやこう)。その河川敷にいたのは金髪の美少女・ニノと、ひと筋縄ではいかない住人たちでした。
アニメ化、テレビドラマ化、実写映画化まで果たした本作。その魅力はなんといっても、主人公をとりまくユニークなキャラクターたちにあります。時に笑わせ、時に泣かせる彼らのセリフには、いくつもの名言が含まれています。
ここでは主な登場人物たちを紹介しながら、彼らの名言を見ていきましょう。
- 著者
- 中村 光
- 出版日
- 2005-07-25
主人公の市ノ宮行はT大に在学している、財閥「市ノ宮グループ」の御曹司です。
市ノ宮家に伝わる「他人に借りを作るべからず」という家訓を必死に守って生きてきたのに、ある日彼は溺れかけていたところを「ニノ」という女性に救われてしまいます。自称金星人の彼女は、荒川の河川敷を住まいにしているようでした。
「命の恩人」という多大な借りを作ってしまった行。この借りを返すべく、彼女の「私に恋をさせてくれないか」という願いを叶えるため、自らも河川敷に住むことを決意しました。そして、村長と呼ばれる人物から「リク」と名付けられます。
こうしてリクと、河川敷に住む個性的な人物たちとの日々が始まったのでした。
市ノ宮行、通称リクは、市ノ宮財閥の跡取り息子です。「他人に借りを作るべからず」という家訓があるにも関わらず、川で溺れたところを助けられたことで、ニノを「命の恩人」にしてしまいました。
彼は借りを返せないとストレス性の喘息を起こし、生活に支障をきたします。そのため、なんとしてもニノへの借りを清算しなくてはなりませんでした。そんな彼がニノから引き受けたのは「恋をさせてほしい」という願いです。
これが普通の少女相手ならまだよかったかもしれません。しかし二のは、口数も少なく、表情も乏しく、おまけに「金星人」を自称するような不思議な女の子だったのです。
そして「離れれば顔を忘れてしまう」という彼女の要望をうけ、河川敷で暮らすことを決意しました。また、河川敷で暮らすにあたり「リクルート」という新しい名前を与えられ、周囲からは「リク」と呼ばれるようになります。
リクは「頭よし」「顔よし」「家柄よし」と、さまざまな才能と環境に恵まれた勝ち組(自称)です。しかしそれらを鼻にかけているため、当初はあまり性格のよくない青年でした。そんな彼が河川敷で暮らし、ニノや他の住人たちと交流を深めていくにつれ、言動や価値観が徐々に変化していくのです。
14巻あたりから、物語は大きく動きます。それまでの伏線が回収されていき、リクとニノの「恋人ごっこ」と呼ばれた関係も変わっていくことに。ニノがとある人物によって河川敷から連れ出されてしまい、リクは彼女を取り返そうと奔走するのですが、誤解が重なって失恋を覚悟する事態に直面します。
さらに、これまで楽しく賑やかに過ごしてきた住人たちにとっての楽園、「河川敷」もなくなってしまうのです。
その時、リクをはじめとしたキャラクターたちは、どんな選択をするのでしょうか。
- 著者
- 中村 光
- 出版日
- 2015-11-20
ある日リクの父・市ノ宮積(いちのみやせき)が河川敷にやってきます。父親は、「市ノ宮の人間」としてのリクを守るため、たびたび彼を連れ出そうとしていました。しかし、それでも自分の元に戻らなかったリクに「お前がこの女性を選び、市ノ宮の人間としてはこれで終わったという事がよくわかった」と言うのです。
そして、借りを作ったままで過ごすと持病の喘息を薬で抑え続けなければならなくなるため、ニノとの関係を清算するよう迫ります。しかしリクは、河川敷で暮らし始めてから発作に悩まされたことなどないと返しました。
そして、ニノへの感謝の気持ちが大きくなり、自分の行動では精算できていないだけでなく、何かを受け取っているのだと気づいた、と言うのです。そして、ニノの手をしっかりと握り、こう伝えました。
「俺はそれを清算したくないって思った」(『荒川アンダー ザ ブリッジ』10巻から引用)
このやりとりは、ニノが本物の金星人だったことが判明し、リクを含む希望者たちがいよいよ金星に向かおうとしていた時にされました。
これまでのリクは他人に頼らないことに必死で、親にすら頼らずに独りで戦ってきました。うかつに「ありがとう」とも言えなかったことでしょう。そんな彼がニノと、そして河川敷の仲間たちと過ごしたことで、「与える」ことと「与えられる」ことの自然さを身を持って知り、損得のない絆を持つ幸せを知ったことがわかる言葉になっています。
そんなリクの魅力といえば、随時炸裂するキレキレのツッコミです。着ぐるみやマスク、ちょんまげヘアーに男性シスターなど、ボケ要員が溢れる河川敷のツッコミ役を、彼が一手に引き受けています。とはいえ読者からすればリクも、本人が思っているほど常識人ではないため、ボケに回ることもしばしば。
また、突然始まった関係とはいえ、ニノへの誠実な態度は一貫して好感が持てるでしょう。「清算」のためにはじめた恋人関係に、リクはどのような決着をつけるのでしょうか?
長い金髪のワンレングスが特徴の美少女・ニノ。彼女は自身を金星人だと言いますが、見た目はまったく地球人と変わりません。ほぼ無表情で、しゃべる言葉もぶっきらぼうです。
いつも「2-3」というゼッケンのついたジャージを着ていますが、どうやらこの「2-3」が「ニノサン」と読まれ、彼女の名前になったようでした。リクや周囲の人間からも「ニノ」あるいは「ニノさん」と呼ばれて親しまれています。この漫画での主なボケ担当も彼女です。
ニノの行動の多くは謎めいていて、それを追及されてもほぼ「金星人だから」のひと言で押し切ってしまいます。彼女は一体何者なのでしょうか?
- 著者
- 中村 光
- 出版日
- 2015-11-20
ある日、河川敷でリクの誕生日を祝うことになりました。しかし彼は「他人に借りを作るべからず」という家訓ゆえ、拒否反応を起こしてしまい、逃げ回ります。そんなリクをつかまえて、ニノはこう言ったのです。
「お前が嬉しすぎる時 口が言う事をきかなくなる習性があるのは皆知ってる」(『荒川アンダーザブリッジ』14巻から引用)
そして「今日はお前がそこにいる事に皆がありがとうを言う日だ」と続けます。この時のニノの表情はとても優しくて、読者も思わず釘付けになってしまうでしょう。無表情だった彼女は、リクと一緒にいるようになってから、ずいぶん感情を表すようになっていたのです。
このセリフが胸を打つのは「皆知ってる」というところ。ニノだけが知っているのではなく、河川敷の皆がリクのことをわかっている、そんな彼を皆で祝おうという気持ちでいる……それぞれの事情で偶然集まった河川敷の人々の間に、家族のような絆が芽生えていたのだということが、この言葉から伺えます。
謎だらけの美少女ニノは、いつも必死で一生懸命です。無表情でもぶっきらぼうでも、ぼーっとしているように見えても、相手を信じる純粋さと、思いやる気持ちを持ち合わせています。
そんな彼女ですが、物語が進むにつれて、ある「大きな不安」を抱えていることが明らかになっていくのです。
ニノは本当に金星人で、いつかは故郷に帰ってしまうのでしょうか?また、恋をすることはできたのでしょうか?真実が明かされる最終巻まで目が離せません!
リクたちが住む河川敷には村長がいます。
初めて村長に会った時のリクは目を疑いました。その姿が緑色の河童だったからです。しかし村長が後ろを向くと、首元には肌色が、背中にはチャックが見えます。水からあがった彼の腕と足は、着ているものの中に水を溜めてタプタプと揺れていました。
リクがどれだけそのことを指摘しても、村長は自分を河童だと言い張ります。そればかりか、ニノをはじめ河川敷の皆も彼のことを河童だと信じ切っていました。
村長には「大イリュージョン」という一発芸があります。まずダンボール箱の中に入り、フタを閉めてから10秒後、箱の中からジーンズの似合う好青年が現れる!というもので、リクは当然「脱いだ」とツッコミを入れますが、河川敷の皆は誰も聞いてくれません。
物語が進んでいくうちに、どうやら村長とニノの間には長い因縁があることがわかってきます。そして、この河川敷そのものに、不思議な力が働いているらしいということも……。彼は、はじめからすべての謎を知っていました。
- 著者
- 中村 光
- 出版日
- 2007-05-25
ある日リクは、ニノの秘密の一端を知ろうと、彼女が大切にしまい込んできたある「カセットテープ」を勝手に持ち出して聞こうとします。そんな彼に、ニノは初めて怒りを見せました。
リクは「ニノさんの事ならどんな事でも受けとめる」と訴えるのですが、そんな彼を諭すように村長が言ったのです。
「人間の心ってもんは 重い上に割れもんだ」(『荒川アンダーザブリッジ』6巻から引用)
どんなことでも受けとめるなんて、口で言うほど簡単じゃないという彼の言葉は、物語の秘密をすべて知ったうえであらためて読むと、非常に重いセリフだったということがわかります。
普段はマイペースで、のんびりとボケ役を務めている村長ですが、時にはこのような核心をつく言葉で読者をハッとさせます。この二面性こそ、彼が持つ魅力なのです。
また、河川敷やニノに関わる秘密が明かされると、彼はすべての責任を取って皆の元を離れていこうとします。河川敷の住人たちは、もう村長とは会えなくなってしまうのでしょうか?決意した村長の姿とその結末を、しっかり見届けてください。
星のマスクをかぶった青年で、名前はそのまま「星」です。
彼はよくギターを抱え、河川敷で自作の歌を歌っています。村長とは違い、自らを「星」だと主張する様子は見せず、人間であることも否定しません。そしてリクには、自分の正体はロックスターで、サードアルバムはオリコン1位をとったこともあるのだと話していました。
彼の語る過去がリアルなので当初はリクも信じかけますが、「マブダチのジョン・レノン」とか「エルビスに電話」と言い出したあたりで、やっぱり妄想かもしれないと疑うのでした。
星はニノに好意を寄せているため、彼女とリクを何度も別れさせようとします。また、しばしばリクと張り合い、邪魔をするのに余念がありません。しかし、リクに失恋の可能性が出てからというもの、彼は態度を180度変え……。
恋のライバルとして対立していた2人の間に、友情は生まれるのでしょうか?
- 著者
- 中村 光
- 出版日
- 2005-11-25
ある時、人気漫画家の「くわばらぽてち」が、描きたい漫画が描けない鬱憤を抱えて河川敷にやって来ました。そんな煮詰まった彼の前に現れたのが村長と星です。河川敷の事情を一切知らないぽてちは2人のことを「幻覚だ!」「こんな生き物がいてたまるもんか!」と真っ向から否定しまが、そんな彼に星が返した言葉がこちらです。
「だめとか違うとか言ってくるやつらは 人数いるだけで神様でも何でもねーんだぜ」
「自分のハートが言ってる事を一番親身になって聞いてやんなきゃいけねぇぜ」(『『荒川アンダーザブリッジ』5巻から引用)
星は河川敷で好きな格好をし、好きなことをして暮らしています。どれだけ他人に否定されても、自分が信じたように行動しているのです。偏った他人の意見や偏見に流されず、ポリシーを貫きとおす星の姿は非常に輝いています。
そんな彼ですが、最終回では「星」でいることをやめてしまうのです。
そもそも、なぜ彼は「星」だったのでしょうか。この理由は、彼が思いを寄せる「ニノの願いを叶えたかった」という理由にあります。流れ星に唱えた願い事は叶う、という有名なジンクスがありますよね。つまり彼はニノにとっての「流れ星」になりたかったのです。
しかし叶えたい願いがなくなったニノにとって、「星」はもう必要ありません。星でいることをやめた彼は、どんな道を歩んでいくのでしょうか。
河川敷には教会があり、そこにはシスターもいます。シスターとは本来、教会で神に仕える修道女のことですが、この河川敷でそんな常識は通用しません。
教会にいるのは、修道女の衣服を着た「ごつい男性」です。傷だらけの顔を持ち、すぐに銃を乱射します。物騒なことこのうえありませんが、それでいてクッキー作りの腕は確かで、彼のクッキーはニノの好物でもあります。
- 著者
- 中村 光
- 出版日
- 2006-05-25
ふところが深く、皆んなから慕われて頼りにされるシスター。そんな彼が唯一敬語を使い、深く慕っている人物がいます。それが村長です。事情がまったくわからず、「シスターは村長に脅されているのでは?」と疑ったリクに、彼はこう答えました。
「村長は尊敬できる 尽くすだけの価値のある男だよ」(『荒川アンダーザブリッジ』4巻から引用)
リクからすれば、尊敬できる点も尽くしたくなるような点も見当たらない村長ですが、シスターは彼の器の大きさをきちんと理解していました。
シスターというだけあって、普段は子供に優しく穏やかな人物です。しかし、時々昔話(傭兵時代の戦場話)をして、大人たちまで怯えさせることがあります。また河川敷でも、どこからともなく取り出した爆弾などを爆発させてはリクにツッコまれています。そんな両極端なところが、シスターの何よりの魅力でしょう。
終盤の大騒動ではあまり出番がありませんが、リクとニノのことをとても心配している様子が描かれており、彼が本当に他人思いの優しい人柄であることがわかります。
物語の最後で見せた笑顔も、とても穏やかなものです。彼はこの河川敷がなくなっても、絆を強めた「家族」たちとともに幸せに暮らしていくことでしょう。
シロは、本名を白井通(しらいとおる)といい、見た目は普通のおじさんです。しかし、この河川敷に住んでいるからには中身が普通ではありません。
幼い頃、道路などを歩きながら「白線から出ちゃダメ」というルールのゲームをしたことはありませんか?このシロは、かつて一流の営業マンとして活躍していた頃、出張先でこのゲームを「白線から出たら妻が白色コーニッシュになってしまう」というルールで始めてしまったがために、白線から出られなくなってしまったのです。
しかし、家族からは変わらず愛されています。
- 著者
- 中村 光
- 出版日
- 2008-04-25
ある日、シロは村長に「転職相談所を作ってくれ」と言われて「河川敷ハローワーク」を開設しました。
そこを訪れたリクに「他人をサポートする前に自分をサポートした方がいい」「あんたこそ無職なのだから」とさっそくツッコまれてしまいます。するとシロは、リクにこの言葉を返したのです。
「一流の無職は神に近い存在となりうる!!!」(『荒川アンダーザブリッジ』13巻から引用)
このあたりの論理のぶつかり合いは、作者の中村光ワールドが全開です!ぜひ、このスピーディーかつ白熱したやりとりの全貌を、その目で確かめてください。
ちなみに彼は、ニノの謎や河川敷の謎とはあまり関係をもたず、物語終盤では出番が少なくなってしまいます。しかし、最終回にはちゃんと姿を見せているので、きっとまだどこかで白線を引きながら歩いていることでしょう。
鉄仮面を常にかぶっている「鉄人兄弟」の鉄雄と鉄郎。自称超能力者で、研究材料にされていたところを逃げ出してきたのだといいます。
リクは鉄人兄弟と彼らを舎弟においているステラという少女の教師となり、常識と学業の基礎を教えようとします。その授業がうまくいくことはなかなかありませんが、いつしかリクを尊敬するようになり、よく慕っている様子を見せるようになりました。
鉄仮面を被りながらも豊かな表情を見せ、子供らしい言葉や行動もあわさり、とても愛らしい兄弟です。しかしその純粋さからか、相手の心を打ちのめすような辛辣な言葉を悪気なく言うこともあり、リクもしばしば胸を痛めています。
- 著者
- 中村 光
- 出版日
- 2013-04-25
兄弟はニノから泳ぎを教わっていた時、頭の重さで沈んでしまいました。鉄の仮面をかぶっているのだから当たり前で、リクからも脱ぐように言われますが、兄弟は拒否します。そして「仮面を取れば泳げるのは知っていた」と、寂しそうに話し出すのでした。
「仮面さえとれば空も飛べるし時空も超えられるけど……」(『荒川アンダーザブリッジ』3巻から引用)
彼らが頑なに仮面を外そうとしないのは、仮面をとったことで自分たちのエネルギーを察知され、再び研究所に連れ戻されることを恐れていたから。どこまでが真実かは測りかねますが、怯えている子供の姿は読者を切ない気持ちにさせることでしょう。
しかし兄弟は、リクだけではなく、シスターやマリア、ステラとも交流を深めていくうち、すっかり心を開いて恐れる気持ちを克服していきます。
最終回では、河川敷がなくなってしまう不安に涙を流します。しかし、そんな彼らに優しい言葉をかけてくれる人が。兄弟はついに、自分たちの居所を見つけることができたようです。
そこで彼らが仮面をとって幸せに暮らせることを祈りましょう。
P子は河川敷の畑で野菜を栽培しており、収穫できたものを住人たちに配っている少女です。恐ろしいほどのドジっ娘で、悪気なく他人の命を危機にさらすこともあります。村長に恋をしており、何度か告白できそうになりますが、なかなかはっきり言うことができません。
最終回の彼女はたくさんの活躍を見せます。窮地に陥っているニノを助けようと奮闘し、河川敷の謎への説明役も務めてくれるのです。もちろん、村長に思いをぶつけるシーンもあります。
河川敷にまつわるすべての責任を背負い、住人たちのもとを離れようとする村長を「一人で苦しい方に行かないでよ」と切実に呼び止め、感動の展開を予感させるのですが……。
- 著者
- 中村 光
- 出版日
- 2008-11-25
ある日突然、村長が「妊娠した」と言い出します。リクは中年太りの茶番だと思っていますが、河川敷の皆は村長の言葉をまったく疑いません。この時、P子はちょうど河川敷から離れていた時期でした。そしてついに出産の日が訪れます。
リクの目に映ったのは、スーツを着た子河童の姿。はじめから妊娠を嘘だと疑っていたリクは「やっぱりか」といった風なのですが、河川敷の人たちはその河童を「前の村長が命と引き替えに産んだ子供」だと認識してしまうのでした。
そこに、P子が帰ってきます。大好きな村長がいなくなったことと、子供の河童がいるという大事件に錯乱した彼女でしたが、「村長の忘れ形見を立派な妖怪に育ててみせる」と決断し、なぜか自分が育ての親をかって出たのでした。
P子に育てられた河童は常識とマナーを身につけ、女性の望む言葉まで口にするようになります。それは、以前の村長とは似ても似つかないキャラクターでした。それをニノに指摘された時、P子は目に涙を浮かべてこう叫んだのです。
「あんな妖怪が二人といるなら連れてきてよ!!」(『荒川アンダーザブリッジ』12巻から引用)
強い決意のもと「立派な河童に育てる」と決めた彼女でしたが、やはり大好きな村長がいなくなってしまったという事実は最後まで受け止められなかったのでしょう。「人にはそれぞれの価値があり、誰かの代わりになる人などいない」ということを教えてくれる名言です。
このように迷走することもあるP子ですが、村長にだけ恋をし続ける芯の強さと、野菜にかける情熱は見あげたもの。度を超したドジっ娘っぷりも一見の価値アリです。
また、河川敷がなくなった後のP子の動向ははっきり描かれませんが、村長と野菜への強い思いがある彼女ですから、きっとたくましく生き抜いていることでしょう。
ステラはまだ乳歯の生えている幼い少女です。シスターからは「イギリスで孤児院をしていた時の娘の一人」と紹介されます。
リボン付きツインテールの可愛い少女ですが、その正体はドスの効いた広島弁のコワイ女の子。リクは彼女にタイマンでぼろぼろにされて以来、舎弟と認定されてしまいました。そんな彼女が時々披露する屈強な巨体と、破壊的な戦闘能力は必見です。
ステラは「この橋の下の皆と新しい家族になれタライイナと思ってマス!」と健気なことを言うのですが、リクだけは、彼女が狙っているのは首領(ファーザー)の座だと気づいてしまうのでした。
- 著者
- 中村 光
- 出版日
- 2010-04-24
ある日、ステラの乳歯が抜けてしまいました。彼女はその歯を荒川上流に捨てに行くため、鉄人兄弟を誘います。なぜ川に歯を流そうとしているのかというと、「抜けた乳歯に願いをかけて水に流すと、その願いが叶う」というジンクスを信じていたからでした。
ステラは「シスターに好かれたい」という望みを叶える一心で川へ向かいますが、彼女は泳げません。そこで、浮き輪が流れないように持っていてくれと鉄雄に頼みます。シスターのために危険を顧みないステラの姿に疎外感を覚えた鉄雄は、なぜ自分に手伝わせるのかと問いました。
すると、凄みを利かせた彼女がこう言ったのです。
「きさんになら……わしの命を預けられるからじゃろ!」(『荒川アンダーザブリッジ』13巻から引用)
「きさん」とは広島周辺の方言で「あなた」という意味です。乳歯を捨てるというエピソードに似合わない、まるで任侠映画のようなセリフですが、彼女が鉄人兄弟のことを心から信頼していることがわかります。
ステラは、見た目の可愛いさと中身のおそろしさの調和が魅力のキャラクター。愛くるしいツインテールの少女が広島弁でコワいセリフを吐くというギャップの虜になる読者も多いはずです。
かつては孤児院という、「家族」といえる存在のいない寂しい環境で過ごしていたステラ。しかし彼女も河川敷の皆と過ごすうちに「ファミリー」を得られたようです。最終回には、みんなの輪のなかで笑う彼女の姿を見ることができます。
河川敷の牧場主のマリアはきれいな女性ですが、口を開けば相手の心をへし折る言葉を垂れ流す、毒舌家です。
過去に因縁のあるシスターから思いを寄せられていますが、彼女は手厳しい言葉ばかりを返しています。
- 著者
- 中村 光
- 出版日
- 2007-11-24
ある時、村長の思いつきで「王様ゲーム」が開催されました。王様は「戦いに勝ち抜いた者」がなるという、ゲームという名の最強決定戦です。そして王となった人物は、河川敷の住人全員の力で叶えられることなら、ひとつだけ命令できるという権限を得ることができます。
予選は川に浮かべたイカダから落ちた者が負け、という程度のかわいい戦いでしたが、決勝戦はシスター対マリアというカードに。2人の戦いは、武器も出てくる本格的なバトルとなりました。そしてついに、マリアが優勝します。
普段のマリアのイメージから「河川敷を破滅に導く恐怖政治が始まってしまう」と恐怖した住人たちでしたが、彼女の望みはいたって平凡なもので、逆にリクたちを驚かせました。その理由をマリアはこのように語ったのです。
「今までの人生からじゃ考えられない位 今がとても幸せだものね」(『荒川アンダーザブリッジ』6巻から引用)
どこかの国のスパイだったという過去を持つ彼女。この河川敷に流れ着くまでの人生は、壮絶で血なまぐさいものだったのでしょう。また、マリアが感じている河川敷の「幸せ」は、リクが感じている幸せと同じものでした。
「姐さん」と呼びたくなるような人柄のマリア。人をいじめていないと禁断症状が出るという恐ろしい性格ですが、河川敷でのんびりとすごす彼女は基本として穏やかで、よく見れば確かに幸せそうです。
そしてマリアもシスター同様、この河川敷とニノの秘密を知っているひとりでした。
終盤の騒動では、シスターとともにフォローに回ります。この2人が協力しあうなんて意外だと思われるかもしれませんが、実は事前に村長に頼まれていたから、このような行動をとっていたのでした。3人の間にある、深い信頼関係をあらためて感じることができます。
最後まで厳しい毒舌を吐きながら、マリアもまた最終回では家族を見つけたようです。
Tシャツにジーンズというラフな格好をしていますが、頭はちょんまげというラストサムライ。河川敷では美容師を営み、日本刀を使って髪をカットします。
そして彼は、P子に恋をしていました。河川敷の人間関係はなかなか複雑です。
- 著者
- 中村 光
- 出版日
- 2009-09-25
ある日P子は、村長から「人間相手の恋愛とか本当考えらんない」と言われ、すっかり落ち込んでしまいます。村長への恋を諦め、彼のことを忘れようとして奇行をくり返すP子。そんな彼女にラストサムライは言ったのでした。
「村長への気持ちを絶対に曲げない そんなP子殿だから拙者は──……」(『荒川アンダーザブリッジ』9巻から引用)
言葉が途中で途切れてしまうあたりに、ラストサムライが自分の気持ちを押し込めている様子がうかがえ、読者を切ない気持ちにさせます。
河川敷では、星やシロと一緒にいることが多い彼。たまに人を見下すような態度もとりますが、見かけとは裏腹に案外普通の人で、彼の常識的な言動にほっとすることもあります。
そして終盤に活躍するP子の横には、ラストサムライの姿が。彼の場合はニノや村長のためというよりも、頑張るP子を支えたいという気持ちがあったのかもしれません。
ビリーは、タイハクオウムのマスクを被った男性です。
彼には、かつては関東最大の「国鳥会」に属していた伝説の男だった、というハードボイルドな過去があります。しかし組長の女・ジャクリーンと深い仲になり、逃げ出して今に至ります。
酔狂な格好をしてはいますが、彼の言動や思考はまさに「男」。リクや星から「アニキ!」と呼ばれることもしばしばあります。ジャクリーンへの愛情表現はぶっきらぼうながらまっすぐで、2人は常にラブラブです。
- 著者
- 中村 光
- 出版日
- 2011-07-25
相思相愛カップルのビリーとジャクリーン。ある日ビリーは彼女から「アイシテル」という言葉をねだられます。そんな彼女に、彼はこう言ったのでした。
「他人の言葉を借りる人生なんて……俺はもう卒業したんだよ……」(『荒川アンダーザブリッジ』5巻から引用)
ジャクリーンだけでなく、読者までもシビれさせてしまいそうなセリフです。
またビリーはとにかくカッコよく、闇の世界から足を洗うため、「国鳥会」にもケジメをつけています。すべてを投げ打ってでも惚れた女性と一緒にいようとする彼の姿に、憧れる女性読者は少なくないはずです。
最終回でも、2人はラブラブのまま。お互いさえいれば、場所がどこであろうときっと幸せなのでしょうね。
ジャクリーンは、河川敷のエステティシャン。かつて「国鳥会」の組長の女だった、ということ以外、彼女が何者なのかは最後まで謎のままです。
恋人のビリーと常にラブラブですが、ジャクリーンはこの関係を「不倫」だといって悩んでいます。なぜならジャクリーンは「女王蜂」だから……。
- 著者
- 中村 光
- 出版日
- 2014-05-24
「巣にいる3万匹の子供と1万匹のダンナに知れたらって思うと……!」(『荒川アンダーザブリッジ』5巻から引用)
村長とビリーに同じく、人間以外の存在であるという設定を頑なに貫こうとする姿勢が見られます。ちなみに、この大量の子供たちとダンナは結局登場はしません。
ジャクリーンの魅力は、「愛されている自信に満ちた大人の女性」という点にあります。自分が持つ魅力をひけらかすことも否定することもせず、自然体でビリーと接する彼女の姿は、理想の女性像と言っても過言ではないでしょう。
片思いが多い河川敷のなかで、リクとニノ以外の唯一のカップルです。ラストの騒動には関わりませんが、最終回にはちゃんとビリーと並んだ姿を見せてくれます。
国民的No.1アイドル「カツーン」のメンバー・亀有。彼はファッションを強制されすぎた反動で「ヌーディスト」と化してしまった男性です。以前は住人たちの間で語られる「憧れのアイドル」というだけの設定でしたが、13巻でついにその姿を表します。
「誰も僕自身の事なんて見ていない…まるでマネキン人形だ…」(『荒川アンダーザブリッジ』13巻から引用)
常に最先端のファッションを追わされていた彼の苦悩が、このひと言に現れています。そして彼も、河童や星、サムライまでいる、この自由な河川敷に住みたいとリクに懇願します。ついに村長から「甘食」という名前もつけられ、いよいよ住人に……!というところまでいきますが、河川敷の人間たちもまた自分に勝手な夢を抱いていたと知り、去っていくのでした……。
この後亀有は、ニノを巡る終盤の大きな物語の最重要人物となっていきます。
彼が最後に選んだ道は、誰もが驚くものでした。でもきっと、彼にとってそれが最大の幸せであることは間違いありません。
アマゾネスは、荒川の上流、埼玉の河原に住む屈強な少女です。アメコミの戦う女性ヒロインのような出で立ちですが、自分では華奢だと思っています。また、1度はひょんなことからリクに恋をしますが、しだいに別の人に惹かれていくことになりました。
アマゾネスの周囲には天狗3人衆がて、常に彼女を守っています。天狗といいながら、ただの仮面をつけた青年たちですが、なぜかアマゾネスは彼らを女性として認識している様子です。実は彼女たちは、ある重要な秘宝を守るために荒川にいた存在で、ストーリー中盤における重要人物なのでした。
いつも厚化粧をしているアマゾネスの「すっぴんが可愛い」ということを知ったリクは、それを他の住人たちにも披露させようと企みまます。その時、彼女が言ったセリフがこちらです。
「スッピン見ラレル位ナラ……皮マデハイダ所見ラレタ方ガマシダヨ…!」(『荒川アンダーザブリッジ』13巻から引用)
女性にとってのすっぴんの重要さが現れたひと一言です。
大きくて逞しいアマゾネスですが、性格はとてもピュア。実は少女マンガのヒロインのようにいじらしく、か弱い女の子だったのです(外見以外)。
残念ながら14巻の途中が最後の出番となっているため、最終回以降の彼女の居場所はわかりません。でもきっと、天狗たちと元気で暮らしていることでしょう。
破壊力のあるギャグと電波な設定ではじまる漫画ですが、読んでいくうちにシリアスなストーリーに泣けてしまうでしょう。他に類を見ないユニークなキャラクターたちは、やがて忘れられない存在となっていきます。