テンポのよいギャグと重厚なストーリーが織りなす冒険ファンタジー漫画『Helck(ヘルク)』。今回はその魅力をネタバレを含むキャラ紹介でご紹介致します。
- 著者
- 七尾 ナナキ
- 出版日
- 2014-08-18
2014年5月より七尾ナナキのプロデビュー作品として連載を開始した冒険活劇ファンタジー漫画『Helck(ヘルク)』。筋肉隆々のマッチョな勇者ヘルクが、人間であるにも関わらず魔界にのり込んで新魔王を決める大会に出場してしまう、というハチャメチャな始まりから、世界の命運をかけた大冒険の幕が上がります。
ギャグ多めの軽いノリの作品かと思いきや、その背景にはとてつもなく重厚なストーリーが隠れている本作の魅力を、キャラ設定から掘りさげてネタバレ紹介していきます。
ある勇者によって魔界の王が倒されたことにより、魔界では新魔王を決める大会が開催されました。
帝国四天王のヴァミリオは、そんな大会の大会責任者(代理)として、運営状況を見守っていましたが、そこに現れたのは圧倒的な力を持つ人間の勇者ヘルクでした。
魔界の敵とされている人間に優勝されまいとあらゆる妨害をおこなうヴァミリオ。そんな折に魔界のウルム城が謎の勢力「翼の兵士」によって攻め落とされたという知らせが入り、大会種目の名目でヘルクを含む大会出場者たちとともに、城の奪還に向かうことになります。
まさかの設定から始まりますが、その魅力は王道にあります。ぜひ最初のつかみも、その後のファンタジー展開も抜群に面白い本作の魅力を体感してみてください。
物語の主役は人間の勇者ヘルクです。まるで巨大な岩のような体格をしており、お世辞にも顔立ちが整っているとはいえない彼ですが、その魅力は一言では言い表せません。ここでは、印象的な場面の解説をまじえてご紹介していきます。
まず、今作で真っ先に印象に残るのが、その圧倒的な実力の高さです。新魔王を決める大会に颯爽と登場した彼ですが、驚異的な実力差によって猛者揃いであるはずの他参加者の追随を許さず退けます。それもそのはず、彼の戦闘レベルは99であり、とにかく強い。
そのうえ、完成させにくい細工が施されたトランプでタワーを完成させる器用さや、ヴァミリオも思わず唸る料理の腕前など、完璧超人を地で行っているのが彼です。
物語のなかで現れる強敵たちも、大体の場合はヘルクに瞬殺されてしまうため、作中でも彼がピンチに陥る場面を探す方が難しいほど。そんな強い彼が主役として存在していることによる安心感は、読んでいてとても心地よいものです。
そんな絶対無敵の強さを誇るヘルクですが、彼の本質的な魅力は勇者と呼ばれるに相応しい優れた人間性と、それゆえの苦悩にあるといえるでしょう。
普段の彼はニコニコと笑顔を絶やさず、新魔王を決める闘いでも対戦相手の健闘を称える姿勢を見せるようなスポーツマンシップに溢れたナイスガイです。またとても仲間思いで、仲間が窮地に立たされた際には怒りを露わにし、自分の身を挺して戦うことができる心根の優しさを持っているのです。
しかし、そんな彼が魔界にたどり着くまでには、とても辛く悲しい過去があったのでした。
大会の決勝戦にてウルム城を奪還しようとする際、空間移動術が発動されたことによってヴァミリオとともにゲートに吸い込まれてしまったヘルクは、彼女とともに冒険の旅に出ることになります。その道中で彼がヴァミリオに語ったのは、新魔王を決める大会に出場し、人間を滅ぼそうと考えた理由でした。
驚異的な力によってウルム城を攻め落とした翼の兵士たちですが、その正体はなんと元は普通の人間たちだったのです。彼らは、人間の王によって勇者としての力を持った存在へと強制的に覚醒させられた姿だというのでした。
そして、そのなかにはかつてヘルクの仲間だった人たちもいました。王の命令だけに従う生物兵器となってしまった翼の兵士たちが、これ以上他の種族たちにとって脅威となる前に、同じ人間である自分が終わらせたい、それが彼の真意だったのです。
仲間を思いやる優しい彼が、かつての仲間たちを手にかけることになると知りつつも、人間の王に縛られ続ける苦しみから解放するために悲しみを飲みこんで戦い続けます。そんな悲哀と自己犠牲に満ちた彼の志は、まさに勇者と呼ばれるに相応しいのではないでしょうか。
最終局面では、彼の人間たちを救おうとする戦いもいよいよ終盤にさしかかります。はたして彼の苦難の道のりは報われることになるのでしょうか?
ヘルクとともに冒険の旅に同行するのが、魔界の帝国四天王である赤のヴァミリオです。まるで少女のような風貌の彼女ですが、魔界における階級は皇帝や帝国守護王に次ぐ位であり、新魔王を決める大会でも責任者を任せられるなど、かなり偉い立場なのです。
実力も折り紙つきで、炎の能力を駆使した集団戦闘を得意としています。また戦闘レベルは78と、ヘルクほどではありませんが、ほぼ作中最強クラスとなっている人物です。
ただ、実力と階級の高さに反して、ギャグシーンの多い大会ではヘルクの無茶苦茶な強さに振り回されたり、他のキャラクターの奔放なふるまいにツッコんだりと、作中での立場はわりと不憫な子でもあります。
しかし、周囲のノリに頭を抱えている彼女は見た目相応の少女らしさがあり、戦闘時とのギャップがアクセントとなって、その魅力を際立たせているといえるでしょう。
そんな彼女ですが、ヘルクの旅の相棒としてとても頼もしい存在といえます。基本的に力押しでのり切ろうとする彼(大体力押しでどうにかなってしまうのですが)に対し、ヴァミリオは豊富な知識で敵の戦力を分析し、弱点を突いて戦闘を有利に進めようとするため、戦闘の補佐役としてはこれ以上ない活躍を見せます。
戦闘面のみならず、ヘルクにとっての彼女の存在は、メンタル面でのアシストにもなっているのです。
過去に仲間たちを翼の兵士たちに変えられ、自身は人間の世界から追われることになったヘルクにとっては、人間たちを滅ぼそうとする戦いはとても孤独なものであったことでしょう。
ヴァミリオも最初はヘルクが魔界にとって脅威となるのではないかと疑ってはいたものの、過去の事情を知ってからは、彼の境遇に心を痛め、共感し、本当の意味で信頼のおける人物であると感じるようになります。
そして、彼女はいつしか辛く苦しい運命に立ち向かうヘルクを支えたいと考えるようになり、時には叱咤し、時には苦悩を分かち合うようになるのです。
人間の王に支配された翼の兵士たちとの戦いでは、かつての仲間たちを手にかけることになるヘルクの苦しみを軽減しようと、自分一人で敵を相手取ろうとするなど、もはやヘルクの側に彼女がいることは当たり前であり、相棒としては欠かせない存在だといえるでしょう。
- 著者
- 七尾 ナナキ
- 出版日
- 2015-05-12
魔界の帝国四天王のひとり、青のアズドラ。彼は初登場時に満身創痍の全身包帯姿で現れます。しかも現れてすぐに吐血して倒れてしまうので、初期は間違いなくギャグ要員のネタキャラなのではないかと思ってしまうのではないでしょうか。
実際、ヴァミリオとのやりとりでは天然なのか狙いなのか分からない小ボケをかますことが多く、彼女が頭を悩ませる一因となっているのは間違いありません。
しかし彼も帝国四天王であり、青のアズドラの名は見掛け倒しではなく、植物を操る強力な能力を持っているため、戦闘力は非常に高いです。
そんな彼の本当に凄いところは、戦局を変えるほどの策を巡らすことのできる、智謀に富んだところであるといえるでしょう。
彼はヘルクとヴァミリオの旅路には同行しないため、物語の登場頻度もそれほど多くなく、前線に出向くこともあまり多くありません。その代わりに、翼の兵士たちとの戦いに備えて、自国の猛者たちのパワーアップを図り、猛者たちを率いての翼の兵士たちとの戦いで全軍を指揮するなど、軍事参謀と指揮官を兼任することができるほどの能力の高さがあります。魔族と翼の兵士たちとの戦いは、彼がいなければ成立しないといっても過言ではないでしょう。
そんな彼は、実は過去にヘルクと邂逅しており、魔族が本当は人間と共存したいと考えていることをヘルクに伝えたという経緯がありました。この時にアズドラがいなければ、ヘルクが魔界を訪れることもなく、ヘルクはヴァミリオと出会うこともないまま、辛く苦しい戦いに孤独に挑むこととなったかもしれません。
そういう意味で、彼はストーリーにおいてとても重要な役割を担っているといえるでしょう。最終決戦の場においても、彼の登場によって絶体絶命の局面に希望の光が差すことになるので、その活躍に注目です。
ヘルクの過去パートで登場するのが、傭兵団のリーダーであるアリシアです。彼女は過去に傭兵団として、彼とともに肩を並べて戦った仲間のひとりでした。そして、彼にひそかに恋心を寄せていた女性でもあります。
もちろん、彼も(おそらくは異性としてではなく仲間として)そんな彼女に絶対的な信頼をおいていたため、特別な存在だったことでしょう。
しかし、彼女は人間の王によって人間たちが翼の兵士に覚醒させられてしまった際に、ヘルクの目の前で姿を変えてしまいました。そんな時でも、彼に笑顔でいることの大切さを伝え、人々の希望となることを願った彼女の存在は、後の勇者ヘルク誕生のきっかけをつくったといえるでしょう。
5巻ではそんな彼らのやりとりを読むことができますが、お互いを思いやる2人の別れには感動せずにはいられないことでしょう。ヘルクは果たして彼女を救うことができるのか、物語の結末に期待が高まります。
- 著者
- 七尾 ナナキ
- 出版日
- 2015-08-12
ヴァミリオとよく似た風貌の女性で、とある島で魔女と呼ばれていた人物です。その正体が、初代赤の四天王の姉であり、ヴァミリオの伯母にあたる、シュノーヴァです。
初登場時は魔界からゲートによって人間の世界に飛ばされたヘルクとヴァミリオの前に、魔界への帰り方を知っているといわれる魔女として現れました。
彼女は物語のなかで登場することはほとんどなく、キャラクター背景が描かれることもほとんどないため、その正体は謎に包まれていました。しかし、最終決戦では彼女の登場により、戦局が大きく変わることになります。
ヴァミリオと同程度の実力を有しているため、翼の兵士たち相手に一騎当千の働きを見せる彼女は、戦力としても頼もしい限りなので、活躍を期待したいところです。
魔界からゲートによって人間の世界に放り出されたヘルクとヴァミリオの前に現れた謎の生物、それがピウイです。一見、小鳥のような見た目なのですが、鳥ではないらしく、正体は正直ずっとよく分からないままストーリーは進みます。
基本的にはテンションが高く、大体の受け答えが一言で終わります。そのため、シリアスな展開にはあまり出番がなく、登場するのはギャグシーンが多いです。
しかし、彼(彼女?)の存在が、ヘルクとヴァミリオの旅路を明るく楽しいものにする一助となっていたことは確かで、要所で登場しては突拍子もない行動を起こし、読者を楽しませてくれます。一種の癒し系マスコットキャラクターだと考えるといいかもしれません。
そんなピウイも物語が終盤にさしかかるにつれて、徐々にストーリーの表舞台に立って活躍する機会が増えてきます。そして最終決戦の場では、誰しもが思いも寄らなかった方法でヘルクたちの助けとなってくれるのです。
彼の正体は何なのか、そして彼が活躍することによりどんな出来事が引き起こされるのか、作品で確認してみてください。
- 著者
- 七尾 ナナキ
- 出版日
- 2015-11-12
10巻で人間軍側のトップともいえるミカロスが殺されるというまさかの展開、人間王の暴走からピンチに立たされた帝国側。
「世界の意思」とは、幾度となく生まれ変わることが自然な流れである世界の消滅、誕生が滞った時に現れる調停者のようなものだといことも分かりました。
そしてミカロスを殺した人間王が古代文明の末裔だということ、彼らは世界の意思から星を守ろうとしていることも判明。一見ヘルクたちとは戦う必要がないようにも思えますが、王はヘルクの肉体を差し出すよう言ってきたのです。
- 著者
- 七尾 ナナキ
- 出版日
- 2017-07-19
実は世界の意思に触れてこの世の消滅を願うようになってしまった人物はミカロス以外にもいるであろうことが考えられ、その相手を倒すために、王の身体では歯が立たないと言うのです。
しかしヘルクもこれまで戦ってきて、まだやり残していることがあります。それを断ると王は無理やり肉体を奪ってこようとするのですが、なぜか世界の意思らしき力に跳ね返されてしまいます。
まさか、ヘルクまでも世界の意思に侵されたものだったのでしょうか……?
これまでのヘルクの強さを見ているだけに、彼が世界の意思に侵されているなら、と考えるだけで冷や汗ものですね。どんどん世界の真実が明かされてきており、物語も結末に向けてどんどん動き出しているのを感じますね!11巻が楽しみです!
王の気づきのとおり、ヘルクは世界の意思に触れた者でした。ヴァミリオの諜報員であるアスタは、いつから彼が自分たちを裏切っていたのだろうかと青くなります。
しかしヴァミリオは冷静にヘルクに「いつから『世界の意思』に触れていた?」と聞きます。それにヘルクはこう返すのです。
「多分…幼少の頃
王都に向かう途中、心身ともに疲弊しきっていた頃、
俺は、『世界の意思』に触れた」
ヘルクもミカロス同様、新世界誕生を目論む思想に染まっていたのだ、とヘルクと戦うことを想定しながら彼の言葉を聞くアスタ。しかし……。
- 著者
- 七尾 ナナキ
- 出版日
- 2017-11-15
「だけど正直、世界のことなんてどうでもよかった(中略)
あの感覚が世界の意思だっていうのなら、俺はそれをずっと…
無視していた」
【悲報】世界の意思、ガン無視される……。
おおい、ヘルク、それでいいのか!さすがだな!!
アスタは世界の意思の強さから彼を危険視しますが、ヴァミリオは笑っちゃってます。そして自身もいつ暴走するか分からない部分がると不安がるヘルクに、こう言います。
「なら私と約束しろ お前のすべての仲間に誓え
皆が困るような事は絶対にしないと」
ヴァミリオ、男前です。ヘルクもそれに対し、強くうなずきます。
そんななか、辺りは雪が降り始め、世界の意思に触れてしまった人間王は怪物化し、ヘルクたちを倒そうとしてきます。
化け物になった人間王の様子はグロテスク。しかし人間を守ろうとする自我が世界の意思と戦うさまには少し胸にくるものがあります。
そもそも雪は人間を翼の兵士に変えてしまう力を持ったもので、ミカロスの企てによって降っていました。しかしミカロスを倒した人間王に勝っても、なぜかその雪はやみません。
そして次々と翼の兵士たちが闇の兵士のようになってしまいます。そして同じく翼の兵士になっていたアリシアが……。
ここからさらにまさかの展開、絶望につぐ絶望が用意されています。読んでいて辛いものの、最高に熱くなる流れでもある11巻。山場となる展開がどんどん詰め込まれています。
実はミカロスは存命であることが明かされた11巻。12巻では再びヴァミリオたちがピンチに陥ります。彼はかつてヘルクが世界の意思に触れていたことに気づいており、自我を無くさせることでその意思に従わせようとしているのです。
ヴァミリオですら手こずるヘルクが敵側についてしまえば、もうこちらの勝利の見込みはありません。ヘルクはそれに抗うように、次々と増える敵を相手に勇敢な戦いを見せますが、それは同時にいつもの彼の優しさからはかけ離れた恐ろしい姿にも見えます。
ヴァミリオは彼をこれ以上戦わせないために、自分の魔力が限界になるまで戦いますが、ついにヘルクによってそれを止められてしまいます。
そして彼は彼女に自分を殺してくれ、と頼むのです。まだ自我のあるうちに、敵に利用されないように。それをしたくないヴァミリオの心からの言葉は心にくるものがあります。
しかもヘルクの不安になる言動はこれだけでなく、彼は弟であるクレスやシャルアミが閉じ込められている亜空間の入り口である光の柱に向かうことを決意するのです。しかもそこにはかつて道を違えたラファエドの姿があり……。
最終回は前編、後編に分かれています。ここまで何度も涙腺を崩壊させそうなシーンが多数でてきますが、このラストは今まで追いかけてきた読者ならば絶対に泣いてしまうことでしょう。
退場かと思われたあのキャラとの抱擁シーン、終盤にかけて盤石の友情を見せたヘルクとヴァミリオの別れのシーンは、言葉にできないものがあります。最終回ではあるものの、再びどこかで道を同じくするであろう彼らの絆が感じられる結末です。
ぜひ手に汗握る展開に、涙が止まらない感動に溢れた様子をご自身でご覧ください。
- 著者
- 七尾 ナナキ
- 出版日
- 2014-08-18
ファンタジーの設定、キャラ造形、彼らの絆の描写の完成度の高さが感じられる本作。読めば読むほどに単行本が欲しくなるという声が多い名作です。
当初は不信感を持ちながら付き合ってきたヘルクとヴァミリオ。彼らの友情がどんどん深まっていく様子に心が熱くなること間違いなしです。
王道ゆえに魅力を伝えにくいところがあるので、ぜひこの魅力をご自身で体感していただければと思います。
物語の冒頭だけで軽いノリの作品だと侮ることなかれ、実に読みごたえのあるファンタジー漫画『Helck(ヘルク)』。胸躍る冒険ファンタジーを読みたい方は、ぜひ手に取ってみてくださいね。