各種ゲームだけでなく、少年少女向けライトノベルのイラストも手掛けるイラストレーターのカスカベアキラ。背景や服飾に至るまで細かに描きこまれ、見る者を魅了するイラストはラノベの世界観をあらわすのにぴったりです。
少年少女向けのライトノベルを中心に、アーケードゲームやオンラインゲームなど、さまざまなイラストを手掛けるカスカベアキラ。そのイラストは細部まで書き込まれた服飾や背景、輝きをもつ髪の表現など、美しいものです。
中世ヨーロッパ風、和風、中華風などさまざまな作品を手掛けていますが、今回はそのなかから中世ヨーロッパ風の世界観を中心としたライトノベル5作品をご紹介します。
「ルティアは俺にとってとても大切な存在だ。とても、とても大切な──」(『聖剣が人間に転生してみたら、勇者に偏愛されて困っています。』より引用)
剣と冒険が身近にある、中世ヨーロッパ風の世界。そこで主人公の少女ルティアは、水の勇者アシュアルドに優しい笑顔を向けられています。
ルティアに愛をささやくアシュアルドですが、それは単純な好意によるものではありませんでした。
- 著者
- 富樫聖夜
- 出版日
- 2017-06-15
薬師として働くルティアには前世があり、さらに前世の記憶もあります。彼女は前世において「水の勇者」アシュアルドが持つ「水の聖剣エクセルティーア」だったのです。
アシュアルドは18年前、討伐のため魔王と対峙していましたが、そこで絶体絶命の危機に陥ります。しかし、そのアシュアルドを守ったものがありました。それが水の聖剣エクセルティーアです。
聖剣独自の力を発揮して魔王の攻撃をはじいたエクセルティーアは、その結果真っ二つに折れてしまいました。それによって力を失い転生したのが、ルティアだったのです。
アシュアルドは魔王城での出来事をきっかけに、それまで以上に自分の剣に偏愛ともいえる情熱を注ぎ、他者が少しでも剣に触れるようであれば激怒するになりました。そして、ルティアが聖剣エクセルティーアの生まれ変わりと知ると、彼女にもまた並々ならぬ執着をみせるようになるのです。
今作の魅力は、少しねじれた愛を抱く水の勇者アシュアルドと、彼の愛が聖剣に対するものであると知りながらも、自分自身を見てほしいと望むルティアの、もどかしい恋愛関係にあります。そんな2人の心情を描き出すカスカベアキラのイラストは、丁寧に書き込まれた魔物や剣、服飾品によって、さらに世界観を深めるものとなっています。
「チーコ……俺……どうしたらいいんだ……? 独りでは……おまえがいないと俺…………」(『俺のペットは聖女さま』より引用)
主人公の山形辰巳は、高校入学直前に交通事故にあい、両親と妹を失ってしまいます。そんな彼に残されたのは、唯一の「家族」であるオカメインコのチーコでした。
しかしそのチーコも、老衰でこの世を去ってしまいます。途方に暮れていた辰巳は、奇妙な夢をみるようになるのです。
- 著者
- ムク文鳥
- 出版日
- 2015-11-10
石造りで薄暗い部屋の中、一心不乱に祈る20歳前後の女性。ロウソクの揺らめく赤い光が彼女を照らし、その長い髪が朱金に輝いている――。そんな夢を連日みるようになった辰巳は、ある日異世界に召喚されてしまいます。
中世ヨーロッパ風の剣や魔法、聖女といった存在が日常として存在する世界で、辰巳は自分が「聖女」に召喚されたことを知るのです。
しかもその聖女の正体は、辰巳が大切にしていたオカメインコのチーコが人間として生まれ変わった存在だったのです。
チーコは魔法のある異世界に人間として転生できたことを最大限に生かし、魔法の天才となって辰巳をその世界に召喚したのでした。
民に慕われる美しき聖女は辰巳と結婚しようとしますが、それを良く思わない大人たちがいました。そして彼らは、聖女の力を利用しようとする大人たちの陰謀に巻き込まれていくことになるのです。
今作の魅力は、初めから相思相愛な2人が異世界で出会い直し、2人で逆境を乗り越えていく純愛ストーリーにあります。カスカベアキラの挿絵によって室内の装飾や建造物のデザインがきめ細やかに描かれることで、異世界の様子をリアリティをもって感じられるのも見どころのひとつでしょう。
さらに特徴的なのが、聖女のイラストです。はちきれんばかりの大きな胸や健康的な太腿を露わにした衣装が、純愛ストーリーでありながらもセクシーさを醸し出しており、ヒロインの愛らしさを前面に押し出しているといえるでしょう。
「ようこそ。穢歌の庭に堕ち、そして浮遊大陸へと昇り帰った者よ。千年、凍てついた楽園がお前を待っていた」(『氷結鏡界のエデン 楽園幻想』より引用)
皇姫と5人の巫女による結界によって守られた浮遊大陸「オービエ・クレア」。かつて、その大陸の下にある凍てつく氷海「穢歌の庭」(エデン)に落ちてしまった少年がいました。それが主人公のシェルティスです。
「穢歌の庭」に落ちてしまったことで世界から反発される力を宿してしまったシェルティスは、幼馴染であり巫女のひとりであるユミィとの約束を果たすため、動き始めます。
- 著者
- 細音 啓
- 出版日
- 2009-09-19
今作では、2つの魔法の力が登場します。ひとつめがオービエ・クレアにおいて巫女が宿している「沁力」です。この沁力はオービエ・クレアを守る結界に使われていることから、大陸全体に存在しています。
もうひとつが、シェルティスが宿すことになった幽幻種の力「魔笛」です。これは「沁力」と反発する性質をもちます。そのため、シェルティスが道を歩けばその跡が強力な酸を浴びたかのように溶けるなど、彼はオービエ・クレアで生きるのが困難な身体になってしまったのです。
幼馴染のユミィを守るために、巫女を守る「護士」となったシェルティスでしたが、彼は穢歌の庭に落ちたことで護士から追放されてしまいました。しかし彼は、ユミィを守るという約束を果たすため、再びユミィの元に戻ることを決意するのです。
今作の魅力は、人を脅かす存在「幽幻種」の恐ろしさや美しさ、そして魔法や機械人形が存在する架空世界での戦闘シーンにあります。勢いがありながらも洗練された戦闘シーンは、カスカベアキラにイラストとして描かれることで、よりリアルに感じさせるものとなっているのです。
また、常に風が吹いている美しいオービエ・クレアの世界と、ユミィの守りたくなるような愛らしい姿も見どころのひとつです。
「きみに伝えるのを忘れていたが、ベネディクト、私は明日、結婚する」(『キスと帝国 漂流王女ヴァージニア・ナイトの結婚』より引用)
バレンディア王国の若き国王カルロスは、ある日突然部下にこう言い放ちました。混乱する部下を前に、カルロスは余裕の表情で、相手は相応の身分のある素晴らしい相手だと続けます。
その相手とは、吟遊詩人の間で歌物語となっている「漂流王女」でした。漂流王女であるアルビオン王国の第2王女ヴァージニアとの、ドタバタ結婚生活が始まります。
- 著者
- 響野 夏菜
- 出版日
- 2009-01-30
主人公の王女ヴァージニアは、アルビオン王国の第2王女として育ちました。しかし第1王女からは敵意をむき出しにされていたのです。それは、第1王女の母親である第1王妃の葬式も終わらないうちに嫁いできた、第2王妃への憎しみによるものでした。
国王がこの世を去り女王となった第1王女は、自分の保身のため、ただちに第2王妃とヴァージニアを国外に追放します。そしてそれだけでは飽き足らず、仕事のうっぷんがたまるたびに暗殺者を派遣し、ヴァージニアの命を狙ってきたのです。
命を守るため、隣国からさらに隣国へ国を転々とする王女は、やがて「漂流王女」と呼ばれるようになります。しかし7つの国を渡り歩いたころには、彼女の母親である第2王妃も、忠実な家臣も財産も、すべて失ってしまっていたのです。
今作の魅力は、悲劇の王女であるヴァージニアが、バレンディア国王のカルロスの無愛想で冗談も言わない堅物さを信用し、結婚するところにあります。カスカベアキラのイラストではカルロスの無表情な姿が凛々しく描かれ、その一方でヴァージニアの趣味である園芸の可憐な花々も表現されています。
王宮に渦巻く陰謀をとおして2人の精神的距離が徐々に近づき、やがてお互いに思い合う姿は、その文章だけでも心ときめくものですが、イラストと一緒に楽しむことでより一層作品に入り込むことができるでしょう。
「たしかにわたしは二百七十四年前に生を享けました。しかし十八の時に呪われ、以降の二百五十七年はただ小刻みに生きてきただけです。」(『鳥籠の王女と教育係―魔法使いの選択』より引用)
呪いのせいで生まれたお城を1歩も出ることができなかった王女エルレインは、「触れた男性すべてカエルになる」というさらなる呪いにも悩まされていました。
そんななか、魔法大国の王子であり婚約者であるアレクセルが、彼女にゼルイークという魔法使いを贈り、その呪いは解かれることになるのです。
- 著者
- 響野 夏菜
- 出版日
- 2011-03-01
「鳥籠の王女と教育係」シリーズは全12巻。呪いを受けた王女が魔法大国の王子と出会い、恋に落ちる……とみせかけて、自称24歳で実年齢274歳の大魔法使いゼルイークと恋仲になるというのがこのシリーズの魅力です。
幼いころから、呪いによりお城から1歩も出ることができなかったエルレインは、読書好きであり、皮肉屋で、口ばかりが立つ王女へと成長してしまいました。そんな王女に対し毒舌と皮肉で華麗に応戦するゼルイークは、まさに彼女にぴったりの存在なのです。
1巻では2人の恋はなかなか進みませんが、巻が進むなかで、エルレインが時を駆けて過去の戦争を見たり、王子の頭の弱さや奔放さが如実に描写されていき、徐々に彼らの仲が深まっていきます。
格好良く前面に現れるゼルイークに、少し後ろにいながらも優しい笑みを浮かべるアレクセル。さらに可愛らしい顔をしながらも笑顔で皮肉を吐くエルレインのイラストはそのギャップで読者の心をつかんで離しません。アレクセルを含めた三角関係がどのように終着していくのか、見逃せません。
中世ヨーロッパ風や和風、中華風などさまざまな世界観を手掛けるカスカベアキラ。イラストをきっかけに小説に引き込ませるのはライトノベルならではの特徴だといえるでしょう。ぜひ色々な作品を手に取ってみてください。