「キノの旅」シリーズのイラストを手掛けたことで有名な黒星紅白。その絵は淡くやわらかな色彩が特徴的で、見る人に癒しと安らぎを与えます。今回はライトノベルから大人向けの絵本まで、「キノの旅」シリーズ以外の魅力的な作品を5作ご紹介しましょう。
黒星紅白は1974年生まれ、「飯塚武史」名義でも活躍する男性イラストレーターです。
九州産業大学芸術学部に在学中にイラストレーターの仕事を開始。その後大学を中退し、プロのイラストレーターとなりました。代表作には、ゲーム「サモンナイト」シリーズののキャラクターデザインや、「キノの旅」シリーズの挿絵などがあります。
黒星紅白のカラーイラストは主線がほとんど目立たず、淡い同系色で優しく柔らかい色彩が特徴です。一方で、「スクリーントーン(一定の柄を簡単に描くためによく利用される画材)」をほとんど使用しない、白黒ハッキリとした鉛筆画のようなイラストが目を引きます。
秋田禎信の小説に黒星紅白がイラストを付けた、冒険要素の強いミステリー作品です。
舞台は巨大なショッピングモール「プラーザ」。金額計算が合わず残業中の論悟は、鳩時計と格闘しながら確認作業を続けていました。
その途中、閉店後のプラーザが突如停電します。シャッターも下り、中にいた人々は閉じ込められてしまいました。そこに残っていたのは、プラーザの従業員である論悟と香澄、そして高校生の康一と教子の4人でした。
- 著者
- 秋田 禎信
- 出版日
本作は閉館後のショッピングモールを舞台とした、2時間程度の出来事を描いた物語です。主人公の論悟が気にして止まない鳩時計が登場したり、章が分刻みで表現されていたりするため、かなり緊迫感のあるストーリー展開が味わえるでしょう。
一方、その内容は推理ミステリーでなく冒険ミステリーに近いもの。ドキドキと読み進めて最後には、意外な結末に驚かされてしまうかもしれません。
本作における黒星紅白のイラストは、ミステリーの雰囲気を深める黒が多用されています。他作品ではあまり見ることの出来ない濃い色のカラーイラストは必見です。また作中の挿絵においても、はっきりとした白黒コントラストで描かれています。
ミステリーならではの黒星紅白の珍しい色彩が味わえる一冊です。
メディアワークス文庫より刊行された、ちょっと大人向けの心が動かされる短編集です。
「あなたはイスに座って、
ウェイターが注文を取りにきました。
あなたは一番好きなお茶を頼んで、
そして、この本を開きました。
お茶が運ばれてくるまでの、
本のひととき―」
(『お茶が運ばれてくるまでに』冒頭より引用)
- 著者
- 時雨沢 恵一
- 出版日
- 2010-01-25
「キノの旅」シリーズや「一つの大陸の物語」シリーズなど、大人気シリーズを手掛けた時雨沢恵一と黒星紅白のコンビによって描かれたものです。しかし本作にライトノベルらしさは一切なく、大人のための上質な物語として楽しむことができるでしょう。
ストーリー性のある短編集ですが、エッセイや詩に近いため大変読みやすいものです。しかし、その短文に込められた思いにハッとさせられたり、深く考えさせられたりすることでしょう。
黒星紅白のイラストは本作ではすべてカラーで描かれています。どこか絵本作家の「いわさきちひろ」を思い起こさせるような、主線のない淡く優しい色調の挿絵は心を温かくするものです。特に最後の「鏡」の挿絵は何が映るのか、読み手の想像を膨らませる素敵なものとなっています。普段の作画とはまったく違う黒星紅白の世界が味わえますよ。
ラノベファンだけでなく、すべての大人に手に取っていただきたい作品です。
沢村鐵が小説を書き、黒星紅白が表裏紙のイラストと人物紹介画を担当した児童書です。
ある日、主人公の和喜が通う学習塾の経営者であるお爺さんの孫がいなくなります。実は近頃、和喜の住む町では「いなくなった人の靴だけが地面に残っている」という、奇妙な神隠しがたびたび起きていたのです。
昨日の時点では笑い飛ばすことの出来た神隠しの噂。しかし、身近な人物がいなくなったことによって少なからず恐怖を覚え始めた和喜は翌日、図書館で失踪事件に関する記事を調べ始めます。その帰り、和喜は公園でとある人物と出会い……。
- 著者
- 沢村 鐵
- 出版日
- 2011-09-27
本作は「神隠し」という都市伝説に絡めて、子どもの貧困や自殺問題にも切り込んだ児童書です。文章の煩雑さもあり、小学校高学年以上におすすめの作品となります。
人々の失踪が重なり、神隠しの噂がささやかれる中、主人公である和喜は公園にいつく人々と出会います。この時の和喜の行動には、他人を見た目で判断しがちな人々へ向けた警告の意味も含まれていますので、注目してみてください。
登場する子供たちはそれぞれの家庭の事情を抱え、少なからず貧困に喘いでいます。最後にはすっきりとした気持ちで読み切れる作品ですが、現代社会における子供、そして大人たちの在り方を問う深く考えさせられる一冊です。
本作は文中に挿絵がありませんので、黒星紅白は表裏紙画と人物紹介のみ担当しています。カラーイラストは淡く丁寧な細かい絵となっていますので、近寄ってぜひじっくりと見てみてください。特に裏表紙の色づかいは絶妙です。
そして、人物紹介は鉛筆のラフスケッチのような絵です。登場人物の絵の中にふと紛れ込んだマンホールと靴の絵は、シンプルながらゾッとするものがありますよ。
黒星紅白による社会派の児童書、ぜひ手にしてみて下さいね。
時雨沢恵一の小説に黒星紅白がイラストを描き、電撃文庫より刊行された作品です。同じ著者による「アリソン」シリーズ、「リリアとトレイズ」シリーズ、「メグとセロン」シリーズの続編であり、完結編となります。この「一つの大陸の物語」シリーズのイラストは、すべて黒星紅白が手がけました。
「ロクシアーヌク連邦」の首都空港で、ロクシェ空軍の少女でテストパイロットのアリソンに見送られながら、軍用機で旅立ったスー・ベー・イル陸軍の少佐・トラヴァス。軍用機がルトニ河に差し掛かった頃、荷物が爆発して墜落してしまい……。
- 著者
- 時雨沢恵一
- 出版日
- 2013-03-09
一つの大きな大陸を舞台に、さまざまな既存ストーリーが夢の競演を果たす作品です。
そのため、前作までを完読されている方には大変興味深く入り込みやすいストーリーとなりますが、本書から手にした方には少々内容が把握しずらいかもしれません。ただしストーリー自体は独立していますので、十分に読み進めることができますよ。
黒星紅白のカラーイラストは、ファンタジー作品らしく淡いパステルの色調で描かれています。映画のポスターを思わせるような表紙画だけでなく、ラノベらしい愛らしい登場人物たちの絵も楽しむことができるでしょう。
また、作中の挿絵はしっかりと描いたラフ画のような黒星紅白らしいものです。銃に関してもスクリーントーンなどは一切使わない、躍動感溢れる絵となっていますので、一見の価値があります。
ぜひ、気になるシリーズから手に取って黒星紅白の絵を堪能してみてくださいね。
岡本賢一の小説に、黒星紅白がイラストを添えた作品です。『放課後退魔録』の続編となります。ちなみに黒星紅白は、その『放課後退魔録』のイラストも手掛けています。
主人公は紅椿学園中等部に通う狛止米子。ある日、何かがぼんやりと見えた気がした米子は、幼馴染の瀞牧兼とともに、ウサギの耳がついたカチューシャ、通称「ウサ耳」を拾いました。
米子がウサ耳を手にしたとたん、何かのスイッチが入ったように彼女の頭上に変な物体が現れて……。
- 著者
- 岡本 賢一
- 出版日
- 2004-12-25
本作品は同コンビで刊行された『放課後退魔録』の続編となりますが、前作の2年後が描かれており、登場人物などは基本的に変っていますので、前作を読んだことのない方でも問題なく手に取れる作品です。
また、サブタイトルの「ワラキズ」とは「笑う鬼神と傷のある少女」の略であり、「る」に関しては、特に意味がないとの事。
本作品のカラーイラストも、黒星紅白の特徴的な淡い色調が使われています。ただしそのポイントポイントに原色の赤、緑などが効果的に用いられていますので、優しい絵でありながらも、どこか怪奇的な雰囲気が感じられるでしょう。
ゲームデザイン、ライトノベルから児童書の挿絵まで手掛ける黒星紅白の注目作品を5作品ご紹介しました。どれも淡い色彩と、丁寧な作画が引き立つものばかりです。さまざまなジャンルで楽しめるのも良いですね。
ぜひ普段は手に取らないようなジャンルも黒星紅白の挿絵をきっかけに手に取ってみて下さいね。