文芸

山田詠美おすすめ短編集6選!青春小説から大人の恋愛まで

更新:2020.12.2 作成:2015.10.19

直木賞作家であり、芥川賞の選考委員も務める山田詠美は、女性たちからの支持の多い作家です。登場人物たちの心理を包み隠さず描き、その圧倒的な世界観に知らず知らずのうちに引き込まれてしまいます。

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直木賞作家山田詠美

山田詠美は1959年生まれ、東京出身の小説家です。

明治大学在学中に漫画家としてデビューした山田は、大学を中退し、20代なかばまでアルバイトをしながら漫画家としての活動を続けました。

1985年『ベッドタイムアイズ』で文藝賞を受賞しデビュー。その後、純文学を対象とする芥川賞の候補に3度あがり、1987年に『ソウル・ミュージック・ラバーズ・オンリー』でエンターテイメントを対象とする直木賞を受賞しました。

山田詠美が描く。恋がもたらすケミストリー

著者
山田 詠美
出版日

様々な人間関係の中で起こる化学反応(ケミストリー)を題材とした作品です。9つの物語からなる短編集になっていて、どの物語も山田詠美の独特な感性や言い回しが随所に見られる、魅力的な作品になっています。

“男が長いことつかっていたバスタブの湯は、はたして、スープか。”この短編集は、表題作「4U」の、そんな印象的な書き出しでスタートします。桐子の彼、マルは、はるばる長野まで毒キノコを食べに出かけてしまうような変わり者。そんなマルを好きでしょうがない桐子と、桐子の女友達がカフェレストランで“男”についての軽快なトークを繰り広げます。大人の女が本音で語る恋愛観は、なかなかの読み応えですよ。

その他、過去に交流のあった、自殺してしまった少女のことを思い出しながら、当時の自分自身のことも思い返す「眠りの材料」。ニューヨークへ移り住んだ主人公の、風変わりな同じアパートの住人たちとのやり取りを綴る「メサイアのレシピ」など、9つの人間関係が起こす、不思議なケミストリーに引き込まれる作品になっています。

こんな恋愛キュートすぎる!

著者
山田 詠美
出版日
1994-10-28

日本人女性・ゆりと、黒人米兵・ロバートの、キュートで甘くてラブラブな日常を描いた連作短編集です。

両親が亡くなり、天涯孤独のゆりは親の遺産があるため桁違いのお金持ち。とっても美人な彼女ですが、ワガママで仕事も家事もせず、自由気ままな毎日を送っています。ロバートは横田基地で働くアメリカ軍人で、大きな体に似合わず怖がりで泣き虫な優しい青年。いたって常識人な彼は、ゆりの奇異な行動に翻弄されっぱなしです。まるで無邪気な子供のようにワガママを言い、駄々をこねるゆりを、真剣に思いやり優しい母親のように諭すロバートの姿がたいへん可愛らしく、女性なら誰でもこんなお姫様あつかいをされてみたい、と思うのではないでしょうか。

「ローバちゃん」「ゆーりちゃん」と呼び合い、ウサギのようにいつもぴったり寄り添う二人。周囲も戸惑うほどのラブラブっぷりで、時にせつなく、時におかしく、ドタバタと一生懸命恋をしている姿が印象的です。

たまらなくキュートな2人にほんわかと癒され、自然と頰が緩む作品になっています。

少女は女へと姿を変える

著者
山田 詠美
出版日
1997-02-28

第96回芥川賞の候補作品にもあがった「蝶々の纏足」、第1回ベストフットワーカーズ賞・第17回平林たい子文学賞を受賞した「風葬の教室」など、大人の女へと成長を遂げようとしている少女の姿を描く、3編の物語が収録されています。

「蝶々の纏足」は、小さい頃から、可愛くて人気者のえり子の影に隠され続けてきた瞳美が主人公。“親友”という言葉を使った、えり子からの束縛から逃れようと、瞳美はクラスメイトの麦生と肉体関係をもち、少女期に別れを告げる。少女時代に感じる、なんとも言えない窮屈さや、時々顔を出すずる賢さが、隠すことなく繊細に描かれています。

「風葬の教室」の主人公・杏は転校生。5年3組の教室、という牢獄の中でいじめにあいます。そんないじめに屈しないために、杏は自分をいじめるクラスメイト達を、心の中でそっと殺し風葬させていくのです。語り部となっている杏の口調があまりにも大人びていて、小学生であることを忘れてしまいそうになるほどです。

思春期の少女の危うさや、成長していくたくましさが描かれている、女性におすすめの素敵な一冊になっています。

日常に漂う罪と罰

著者
山田 詠美
出版日

誰もがふと陥って犯してしまうかもしれない罪。その罪に個人的にそっと下される甘い罰。この作品は、そんな9つの罪と罰の物語が収録された短編集です。

付き合っている男が“人を殺してきちゃった”と言ったらどうするのか。「熱いジャズの焼き菓子」の主人公・黒木は彼を匿います。黒木にはみどりという名前がありますが、彼は自分の女を下の名前で呼ばない主義。彼は人を殺した罪よりも、黒木にとってはもっと重要な別の罪を犯していました。

ある夜、バーで知り合ったバーテンダー門田をお金で買った美加。その後の美加と門田の交流が描かれる「YO-YO」や、覗きが趣味で、双眼鏡で向いのビルを覗いて楽しんでいる、彼と彼女に訪れる顛末を描く「瞳の致死量」など、魅力的な作品が続きます。

表題作の「マグネット」では、主人公・由美子が、中学校のとき資料室で受けていた教師からの猥褻行為を回想します。この教師に由美子から下された罰とは…。

罪の意識や後悔というものが、ときに人間関係を甘く官能的なものとし、ときに強烈な罰になる。そんな様々な罪と罰が詰まった、極上の短編集になっています。

恋を知ることの代償は心の痛みを知ること

著者
山田 詠美
出版日
1995-03-01

主人公の少女はまだ男性と付き合ったことがなく、気になる男の子を目で追いかけている程度ですが、友達のカナは同じ17歳なのにすでに複数の男性との性体験があります。カナは決して目立つタイプの女の子ではなく、他の女の子たちが恋の話をしている時は静かに聞いているか、そっと席を立ってしまうのですが、少女には自分の経験を正直に打ち明けてくれます。周囲の女の子たちが男の子の気を引くために流行の服を着ている中、シンプルな黒いセーターを身にまとい彼からもらったアンクレットを靴下で隠して登校するカナに、少女は「大人の女」を感じていました。

今は年上の男性と恋をしているというカナは、ある日少女と過去の男性について話をしていると、突然しくしくと泣き出してしまいます。男のために泣いたことなど一度もない少女は、男の人と愛し合うということは時々その人のために泣かなくてはならないのだろうか、王子様のそばいるために声を失った人魚姫のように、恋をした女性は何かを失わなければならないのだろうかと思うのでした。

本作は8つの作品からなる短編集で、主人公の少女が関わった少女たちが描かれています。多くの同級生たちは性への好奇心や憧れを抱きつつ、羞恥心や罪悪感も抱いており、一歩先に性を知った者に対しては「いやらしい」と蔑んだり疎外したりするのです。主人公の少女はそんな同級生たちに馴染めず、性への興味と正直に向き合いながら自分の恋愛を模索していきます。そんな主人公の姿勢に、同級生たちから疎外された少女たちは信頼を寄せ、それぞれの経験や恋愛観を語ってくれるのでした。

男の子を好きになることの延長線上に性行為があることを知ってしまった年頃の少女たちのとまどいや葛藤、そして恋人を得ることの喜びが描かれたこの作品は、少女期の限られた瞬間を見事に捉えています。

学校で教えてくれないことは、山田詠美が教えてくれる

著者
山田 詠美
出版日
1996-03-01

20年以上も前の作品であるにもかかわらず、今もなおたくさんの人に読まれ続けている、不朽の青春小説です。現役高校生たちにもぜひおすすめしたい作品になっています。

主人公・時田秀美は、勉強はできませんがとにかくよくモテる、人気者の高校生です。バーで働く年上の美人と付き合い、成績のことで嫌味を言ってくる勉強のできる生徒にも、「でもおまえ女にもてないだろう」とばっさり言い返してしまうような正直な少年。様々な出来事や人間関係を通して、成長しようとしている等身大の高校生の姿を描きます。

主人公の秀美がとにかく魅力的で、勉強はできませんが頭の回転は速く、固定観念にとらわれた教師の考えを粉砕していく姿は圧巻です。秀美の家庭は母子家庭ですが、母親と祖父もなかなかのつわもので、秀美とのやり取りはとても微笑ましいものになっています。

まだ成長の途中にいる、高校生だからこその輝きや失敗があり、大人が読めばあの頃の自分を思い出さずにはいられないでしょう。

山田詠美おすすめ短編集をご紹介しました。どの物語も主人公が魅力的で、1度読み始めるとクセになる作品ばかりです。興味のある方は、山田詠美が創り出す独特の世界観へ足を踏み入れてみてはいかがでしょうか。