主にライトノベルのイラストレーターとして活躍する碧風羽は、スポットライトが当たったような色鮮やかさと細部までこだわり抜いた画が特徴的で、ファンタジー作品を多く手掛けています。今回は彼女のさまざまな画風が味わえる作品を5つご紹介しましょう。
碧風羽(みどりふう)は埼玉県出身、1984年生まれの女性イラストレーターです。小学生時代から絵を描くことが大好きで、美術大学に進学し、美術の高等学校教諭1種免許状も取得しました。
2004年よりフリーランスのイラストレーターとして活躍中。SFやファンタジー関連のライトノベルの挿絵や、オンラインゲームのイラストを中心に活動していますが、過去には隔月刊漫画誌「Fellows!」の表紙を担当していたこともあります。
また、漫画イラストを描くための指南書ともいえる『なぞって上達!マンガキャラ描き方・デッサン』も刊行しました。
その作風は、人物にまるでスポットライトが当たっているかのような美しい色づかいと、細部までこだわった繊細さが特徴です。
小説投稿サイト「小説家になろう」の「歴史・文芸」ジャンルで年間1位に輝いた作品です。サイト上には続編が掲載されていますが、本の刊行は出版社の意向により1巻のみで打ち切りとなりました。またそれに伴い、作者であるまふまふはサイト上での続編執筆も停止しています。
製陶業を営む32歳の主人公は、経営難から職場で倒れてしまいました。目を覚ますと、そこは明治維新を間近に控えた江戸時代の美濃(岐阜県)。まだ立つこともままならない赤ん坊・草太として転生してしまったのです。
- 著者
- まふまふ
- 出版日
- 2017-05-25
本作品は現代に生きる32歳の記憶を保持したまま幕末世界に生きる赤ん坊へと生まれ変わってしまった主人公が、持ち合わせた陶磁器の知識を駆使し、神童として成りあがっていく物語です。陶器業界が置かれている現状や、陶磁器に関する知識がしっかりと描かれている骨太なストーリーとなっています。
イラストを手掛ける碧風羽は、主に表紙カラー画を担当しています。表紙には主人公たちと共に陶磁器製の皿が6枚描かれていますが、そのどれもが繊細で美しいものです。さらに、よくよく近づいてアップにして見ると、皿の絵が単なる模写でなく本物っぽさを残したオリジナリティ溢れる絵柄であることに気が付くでしょう。
また光の使い方も絶妙で、転生という不思議な現象に対する雰囲気と、明るい未来の両方を感じとれる背景となっています。
自分だったらどの時代に行って何の分野で成功できるか、想像しながら読んでみてくださいね。
2007年に公開されたフリーのRPGゲーム「タオルケットをもう一度」を小説化した作品です。ゲームの原作者である水野輝和が原作を、 ひびき遊がストーリーの執筆を、碧風羽がイラストを手掛けました。
不思議な島に閉じ込められた男の子・もーちゃすと3人の女の子コンチェル、ラザニア、ぱりぱりうめは、とある島からの脱出に失敗し、島へと連れ戻されてしまいます。4人がもう1度脱出を試みた際、もーちゃすはひとりで大きな冷蔵庫へと向かい……。
彼が深い眠りから覚めると、そこは200万年後のロボットの世界でした。
- 著者
- ひびき遊
- 出版日
- 2016-01-07
原作となるPC用フリーゲームのストーリーや世界観がそのまま生かされていて、ゲームのファンも違和感なく読めるファンタジー作品です。またゲームシリーズでは強めの暴力シーンなどがありましたが、小説ではそのような描写はすべて省かれており、小学生でも安心して読める内容となっています。
また原作は、絵を構成する点(ドット)が目視で識別できるくらい荒い「ドッド絵」という技法で作成されています。そして碧風羽が描いた小説のイラストは、なめらかな曲線で描かれた色彩美しいものでありながらも、そのドット絵の世界観を壊さないものなのです。
ドット絵との融合を試みた本作は、碧風羽がイラストを描いた他作品ではあまり見かけない作風ではないでしょうか。
イラストで表現されているのは、一見幼くも見える、丸みを帯びた愛らしい風貌の少年少女や女の子型ロボットです。美しい色づかいによってそれらの登場人物が幻想的、近未来的に描かれていますよ。
また、綺麗で繊細な画を描くことが多い碧風羽の画とは正反対な、動物型ロボットたちのマスコットキャラクターのような愛らしさも、珍しくて見ごたえのあるものとなっています。
原作を壊さないという碧風羽の信念を感じる、見どころの多い作品です。
異世界を舞台とする渡瀬草一郎の小説に、碧風羽がイラストを描いた作品です。全10巻で完結しています。
物語の舞台は、持ち主の魔力によって動く道具、魔導具が普及した世界です。世界屈指の魔導具職人の孫であり、見習い薬師の主人公セロは、なぜか魔導具をつくることも使うこともできません。
ある日、セロと幼馴染である貴族の令嬢フィノが住む田舎の町に、王立魔道騎士団のハルムバックがやってきます。ハルムバックはセロの祖父が残した3つの魔道具のうち、名前すらわからない硬いだけのみすぼらしい石に興味を示して……。
- 著者
- 渡瀬 草一郎
- 出版日
- 2007-11-01
本作品のサブタイトル「闇語りのアルカイン」のアルカインとは、物語に登場する魔導士の名前であり、彼は呪いによって2本足で歩く黒猫の姿となっています。
ちなみに作者の渡瀬は大の猫好きとして知られており、本作のあとがきでもその多くを割いて猫愛を語っています。その大好きな猫を「長靴をはいた猫」のようにカッコよく美しい登場人物として描いたのがこの「輪環の魔導師」シリーズです。
挿絵を手掛けた碧風羽も猫派とのことで、アルカインに関しては特に凛として美しいヒーローのような姿が描かれています。文章内にあるアルカインが笛を吹く姿を描いた白黒の挿絵も妖艶で、見惚れてしまうでしょう。
また魔術や戦闘などの多い本作では、碧風羽の陰影を上手に使った躍動感のあるイラストが効果的に利用されています。異世界ならではの装具品の繊細さはもちろん、登場人物の心の葛藤にまで想像力の広がるような、趣あるイラストがたくさん楽しめますよ。
小説投稿サイト「小説家になろう」で2016年に総合四半期ランキング1位となったルンパルンパの小説を加筆、修正して刊行された、異世界ファンタジー作品です。
主人公の藤原信秀は、通勤途中に電車の脱線事故に遭遇します。そして彼は、事故車両に乗り合わせた人々と共に白い空間へと導かれます。その世界で会ったのは、自らを神と名乗る老人でした。老人に言われるがまま不思議なカードを引く乗客たち。信秀の引いたカードに描かれていたのは……。
- 著者
- ルンパルンパ
- 出版日
- 2016-09-10
信秀が引いたのは、星10個とレア度の高い「町をつくる能力」のカードでした。町の設定は江戸時代からスタートし、1000億円を元手に現代の町を目指します。
ただし信秀の町にやってくるのは、人間に恨みを持つ獣人たちばかり。あなたならどのような方法を生み出すでしょうか。自分だったら……と信秀の行動と照らし合わせながら読むと面白いですよ。
本作では碧風羽が描く、歴史的でありながらもどこか独特な衣装や、限りなく人間なのにどこかが違う獣人たちのイラストが堪能できます。第一町人(動物?)となるラクダは、碧風羽の巧みな陰影技法のもとにカラーで見ると、どこかセクシーで色気さえも感じてしまいますよ。リアルと完全異世界のファンタジーが上手に織り交ざった挿絵も見逃せません。
ぜひ妄想を広げながら読み進めてくださいね。
小説投稿サイト「小説家になろう」で2014年のMFブックス部門を受賞した作品です。Web版の小説を作者の三田弾正が加筆し、碧風羽がイラストを手掛けました。
山葵漬けを買うついでに、ふらっと勝沼城址付近(現在の東京都青梅市)に立ち寄った主人公。ご先祖様に想いを馳せながら歩いていると、突然目の前の土塁に柵が……。そして周りには鎧兜を着て、自分のことを「若」と呼ぶ人々。さらに柵の外では槍を持った人に襲われた人が、血しぶきをあげています。
何かの撮影の邪魔をしてしまったのかと思った主人公ですが……。
- 著者
- 三田 弾正
- 出版日
- 2015-05-25
本作は、実際の史実をもとに描かれた歴史転生ファンタジーです。歴史に詳しい方は、ベースとなる知識を生かしながら読むことができ、特に面白く感じるでしょう。
戦国武将を描いた作品のため、碧風羽の描くイラストも硬派でがっちりとした武将画が多く取り入れられています。表紙のカラー画も隅々まで繊細に描かれていて、陰影の使い方と合わせて躍動感のある強健な武将が堪能できますよ。刀や鉄砲などの装備品も、細かいパーツの模様までとても丁寧に描かれているので、顔を近づけてよく見てみてください。
一方で、文章内に描かれている白黒挿絵の鎧兜はラフに描かれています。ストーリーの途中で絵が邪魔にならないようにという碧風羽の書き分けと心遣いが垣間見えますね。
ぜひ歴史好きの方に手に取っていただきたい一冊です。
ファンタジー小説の挿絵を得意とする碧風羽のイラストが楽しめる人気作品を5作をご紹介しました。碧風羽は同じファンタジーというジャンルのなかでも歴史ものや魔法ものなど、趣がまったく違う作品を多数手掛けています。ぜひ色々な作品を手に取ってその違いを感じ、お気に入りのイラストを探してみて下さいね。