ふゆの春秋はライトノベルのイラストだけでなく、漫画やCDジャケット、コミケなどマルチな活躍をみせるイラストレーターです。細い線と淡く幻想的な色彩が特徴的で、女性が多く登場する作品を多数手掛けています。 今回はそんなふゆの春秋が手掛ける特に人気の高い作品を5作ご紹介します。
ふゆの春秋(ふゆのはるあき)は主にライトノベルなどの挿絵を手掛けるフリーのイラストレーターです。2008年に『ぜふぁがるど』というライトノベルの挿絵担当として商業デビューを果たしました。
ライトノベルのほかに、コミック、CD、雑誌などのイラストも手掛け、同人サークル「テクノふゆの」を主宰してコミックマーケットにも参加しています。
ふゆの春秋が描く画は、細い線と透明感のある淡い色づかいが特徴的です。その作風から、特に可愛くて美しい可憐な少女のイラストが好評を博しています。2012年には同人誌の画やライトノベル画を集めた、ふゆの単独の画集も出版されました。
2013年にオランダロッテルダムのワールドミュージアムにて開催された漫画展にも出展するなど、世界的に認められた実力の持ち主です。
2013年に刊行された『部活アンソロジー2「春」』に収録されている野村美月の短編、「鑑賞部の不埒な倫理」を1話として再録し、その続編となる2話を新たに執筆、長編小説としてひとつの作品に仕あげました。
短編のイラストは千田衛人が手掛けており、ふゆの春秋は今作からイラストを担当しています。
主人公の真田大輝は美術部でありながら、自他ともに認める芸術音痴な男子高校生です。実は大輝が美術部に所属した真の目的は、美術室の窓から見える合唱部の美園千冬を見ることでした。
いつもどおり大輝が窓から千冬を見つめていると、青く深い目と金髪を持つ美少女、藍本ルチアが自分と同じように頬を染めながら窓の向こうを見つめていることに気が付きます。
- 著者
- 野村 美月
- 出版日
- 2015-07-24
タイトルのSはサディスティックのS。筋金入りのドS主人公、大輝とルチアを指しています。
大好きな人を見つめる彼らの行動は至って純粋で、青春ラブストーリーそのものです。ただしSな2人の妄想は、「泣かせたい」とか「意地悪したい」といったちょっと風変わりなものばかり。あまりのサドっけに妄想が爆発する部分では感情移入しづらい方もいるかもしれません。
しかし基本的に、2人のやり取りは軽妙かつ妄想のみです。相手の窮地を身を挺して救うなど、実際の行動には好感が持てます。
この作品では、ふゆの春秋の水彩画のように淡くて繊細なカラー画や、愛らしくはにかんだ表情を見せる繊細な女の子の挿絵を堪能できます。特に大輝やルチアを描いたカラー画は目の描き方が絶妙であり、最大のポイントであるといえるでしょう。相手を困らせたいという願望が溢れ出している眼光を持つ、生き生きとした主人公が堪能できますよ。
一方で、S心をくすぐるような困った表情の萌える少女の画はもちろん、妄想で萌えている主人公2人のミニ画も何とも愛らしく描かれています。
ぜひ主人公の表情をストーリーと合わせてご堪能ください。
直井章の小説にふゆの春秋がイラストを添えた、純粋で骨太な高校生の青春ストーリーです。直井章は本作品がデビュー作となります。
幼いころに両親が離婚し、引き取られた母親も行方不明となった主人公の真世杏花は、高校進学を機に叔父の助けを借りて東北地方の小さな町でひとり暮らしを始めます。しかし不動産屋のミスにより、新居を出て行かなければならなくなる杏花。大ピンチの彼女に手を差し伸べたのは、隣に住む同じ高校の不良少女、澄多有住でした。
- 著者
- 直井 章
- 出版日
- 2011-11-10
本作品は、主人公2人がさまざまな行動を共にし、困難に立ち向かいながら日常生活を共有しあって前向きに生きていく、純粋で奥の深い青春ストーリーとなっています。
ライトノベルで「女の子2人が同居」の場合には、ただならぬ関係を連想されたり、期待したりする方も多いかと思いますが、本作で「百合」と呼ばれるような2人の恋愛要素はほぼ見られません。
主人公である真世杏花と澄多有住は、両親の離婚、暴力、育児放棄という重荷を背負った女子高校生です。2人の心に負っている傷や、置かれている現状には、とても深く考えさせられます。読みながら自分ならどうするだろうか、自分の身近に彼女たちのような子はいないだろうかと思ってしまうでしょう。
一方でライトノベルらしい読みやすい文章となっているので、読書や深いストーリーが苦手な方でも気軽に手に取っていただけますよ。
ふゆの春秋の挿絵は、ストーリーの重みを妨げないシンプルで愛らしい線の細いものです。華美すぎる背景などが一切描かれていないので、人物描写を存分に楽しむことができるでしょう。
その分、カラーの巻頭イラストでは桜の花びらなどを巧みに活用した、ちょっぴり儚く、ちょっぴり未来の明るさを感じられる美しく繊細な画が楽しめます。
主人公と同じ現役高校生にも手に取っていただきたい一冊です。
土橋真二郎の小説にふゆの春秋がイラストを手掛けた、ライトノベルらしい気軽に読める冒険アクション作品です。ストーリーは次巻となる『楽園島からの脱出II』にて完結します。
ミニイベントから、イベントホールを貸し切っておこなうような大イベントまで、多数のゲームを開催する「極限ゲームサークル」に所属している高校3年生の斉藤進一と神楽坂愛菜は、自分たちの主催するいくつかの脱出ゲームにて最速記録を叩き出している沖田瞬のゲーム時の行動に疑問を抱き、注視していました。
次に極限ゲームサークルが開催するゲームは、スポンサー主催の大規模ゲーム企画。普段は主催者として見守る立場にいるサークル員たちもプレーヤー側にまわるというこのゲームの名前は、「ブリッツ」です。その参加人数は100人。孤島から脱出するゲームだというのですが……。
- 著者
- 土橋 真二郎
- 出版日
- 2012-05-10
内容不明、開催場所も不明というほぼ状況が理解できない状態でスタートする「ブリッツ」の参加人数は100人です。よって、登場人物がとても多いということが本作の特徴となります。キャラクターそれぞれに個性があり、その性格に基づいて「ブリッツ」時の行動も違ってくるので、興味深く読むことができるでしょう。
また「ブリッツ」には、女性のみに与えられる謎の機器があります。拘束具を連想させるような右手首の腕輪と太ももの棒状の器具がそれに当たり、女性の初期装備は白のワンピースです。若干差別的ではありますが、男女それぞれに別の役割があることは現代社会の縮図ともいえますね。
本作品でふゆの春秋が描くカラー画は、真骨頂である淡い色づかいと柔らかい表情が楽しめる、美しいものです。登場人物紹介のカラー画も、本人たちの特徴をうまく取り入れたわかりやすくも繊細で見やすい画となっています。
一方で文章内に散りばめられた挿絵は、白のワンピースをはじめ限りなくエロティックなものです。誇張し過ぎている巨乳や曲線美でなく、当たり前にクラスに居そうな少女たちの、恥ずかしそうで、しかし強さも秘めた、美しくもどこか儚い画を堪能できるでしょう。
自分ならどのように「ブリッツ」を攻略するか、登場人物でいうと誰と同じタイプか、考えながら楽しんでくださいね。
スニーカー大賞奨励賞を受賞した『3H2A 論理魔術師は深夜の廊下で議論する』を改稿、改題した土屋つかさの小説に、ふゆの春秋がイラストを描いた作品です。タイトルである『放課後の魔術師』は「ほうかごのメイガス」と読みます。
北凰学園の2年生である播機遙(はりはたはるか)は、4月8日の朝、学園内にある中央通りの坂道で秋津安芸(あきつあき)という少年に出会います。遥はスーツ姿で1歳年上だという安芸を、イギリスからの編入生だと思い、職員棟へと案内。しかし安芸は遥の担任教師で……。
- 著者
- 土屋 つかさ
- 出版日
- 2008-09-01
本作品には、物体が持っている可能性を、呪文を唱えることで実現する論理魔術というものが出てきます。これによって引き起こされるさまざまな事件を、主人公の播機遙と秋津安芸が解決していくミステリー&ファンタジー小説です。
物語は、遥と安芸の双方の目線から交互に展開していきます。ストーリーの語り部がひっきりなしに変化する作品に読みづらさを感じてしまう方もいるかもしれませんが、本作では目線の切り替わりを文字の大きさと太字でわかりやすく表現しています。
また2人は基本的に同じ出来事を見ているので、目線が切り替わることで、読者はさらに状況を把握しやすくなるでしょう。
ふゆの春秋のカラー画は、珍しく濃色です。主人公2人の髪の毛の色、そして制服の色は、比較的ハッキリとした茶色と青色を使用しています。一方、巻頭カラー画の人物紹介においては、人形でありながら安芸の義理の妹として生活している笠木香音をふゆのらしい淡い色合いで描いています。
ふゆのの珍しい作風と、真骨頂ともいえる作風の双方を同時に堪能できるでしょう。
またふゆの春秋の繊細で細い線が、ちょっとセクシーなシーンを引き立てています。エロくなりすぎず、美しさもあわせもった挿絵に注目してくださいね。
『シリアスレイジ』の作者として有名な白川敏行が手掛けた小説に、ふゆの春秋がイラストを描いたSF系学園ファンタジーです。
主人公の少年ユウは、背が低く栗色の髪をした童顔であることから、幼い女の子に間違えられることが悩みの種でした。
ある日、フラムスティード学院の入学式に向かったユウは、子供をかばって不良に絡まれている自分と同じ学園の制服を着た少女と出会います。不良たちの暴言、そして少女側の言い分を聞いたユウは、少女たちをかばいますが、不良はユウたちに向かって、私闘で他人に使用することを禁じられている超常能力「換象」を使ってきて……。
- 著者
- 白川 敏行
- 出版日
- 2010-06-25
本作品は、主人公のユウ、不良から男の子を助けていた貴族の少女カティア、強力な「換象」能力を持ち、血のような鮮赤の髪色が特徴的なクリスの3人が、それぞれの秘密を抱えながらもお互いを信頼し、助け合って成長していく学園ファンタジーです。
登場人物が特殊能力を持っていたり、人種によって上下関係があったりする設定なので、深く考えながら読むと少し難しく感じる方もいるかもしれませんが、冒頭で理解に迷っても中盤からは世界観に馴染んでスラスラと読み進められるようになります。
繊細な細い線の作画を得意とするふゆのが描く主人公のユウは、文章内に出てくる中性的なイメージそのままで、絶妙な可愛さと少年らしい芯の強さが垣間見えるものです。
そして全体的に淡い色彩で描かれた巻頭のカラー画では、血のようだと叙述されているクリスの髪色と、生徒会であるアレットとフローラの鮮やかなスカーフの黄色が美しい挿し色となり、人目を惹きます。
文章ページに描かれている白黒の挿絵では、フラムスティード学院の中世ヨーロッパ的な凝った制服が十分に堪能できますよ。また能力を用いる時の緊張感、躍動感、主人公たちの心が葛藤する際の表情にも注目です。
美しいカラー画に、表紙買いしたくなる一冊です。
ふゆの春秋がイラストを手掛ける代表的な小説を5作ご紹介いたしました。気になる作品はありましたか?ふゆののイラストは青春時代の葛藤を描いた物語にピッタリな、繊細で淡い色づかいが特徴的です。ぜひ、淡く切ない思いをイラストとともに堪能してみてくださいね。