『ミナミの帝王』でも知られる天王寺大が原作を務める任侠漫画、それが『白竜』です。いくつかシリーズがありますが、今回は無印に焦点を当ててご紹介していきます。スマホで無料で読むことができるので、そちらもぜひチェックしてみてください。
『白竜』は原作を天王寺大、作画を渡辺みちおが手がける作品です。天王寺大は、これ以外にも『ミナミの帝王』など有名作を担当しているので、聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。
渡辺みちおは『白竜』の他に、全75巻にもおよぶ超大作『まるごし刑事』などでも有名です。
- 著者
- 天王寺 大
- 出版日
- 1997-06-01
さて、今回紹介する『白竜』はヤクザもの。主人公の白竜が、腕っぷしの強さだけではなく知力を活かした立ち回りをくり広げるのが最大の魅力です。その人気は、俳優の白竜が主演を務めたオリジナルビデオがシリーズ化していることからもうかがえます。
無印の『白竜』は全21巻で完結しているものの、その後も『白竜LEGEND』が全46巻、『白竜HADOU』は2017年現在既刊2巻と、作品はいまも続いています。
六本木に進出した白竜たち「黒須組」と関東最大規模の暴力団「王道会」との抗争や、白竜の過去を描く『白竜LEGEND』、何かと話題の「市場移転問題」を題材にした『白竜HADOU』と、それぞれが魅力的かつ面白い作品です。
しかしそれでも、特におすすめしたいのはやはり無印の『白竜』。主人公である白竜の魅力を随所に感じることができます。ヤクザという設定もあり、社会的な事件や問題を取り扱ったエピソードも数多く描かれていて、それが本作に深みを与えているのも見落としてはいけないポイントです。
この記事ではそんな本作の続編である『白竜LEGEND』、『白竜HADOU』の魅力を簡単にご紹介したあとに、無印の作品の魅力をしっかりとお伝えしていきます!
ちなみに本作は『白竜』、『白竜LEGEND』、『白竜HADOU』すべてがスマホアプリで無料で読むことができるので、ご自身の目でその魅力を体感していただくのもおすすめです。
組員総計40人ほどの小さな組織ですが、渋谷に事務所を構えるなど調子のいい暴力団「黒須組」。そんな黒須組の若頭が、白竜こと白川竜也その人です。
「練馬の田んぼの中に事務所を構えていたような」と言われるほど弱小暴力団だった黒須組の最大の稼ぎ頭であり、他の組員からの信頼も厚く、また非常に聡明でもあります。
そんな彼は今日も、知力と暴力を尽くしたさまざまな手段で金を稼ぎ、組をデカくし、組長を盛りあげようと、抗争をくり広げていきます。
無印の作品が抗争がメインのドンパチものだとすれば、「LEGEND」はさらに規模を大きくした内容。その時々の時事問題の闇にヤクザとして切り込んでいきます。
鉄道会社に投資ファンドなどの巨悪に立ち向かい、動いてくるお金の額も大きくなる本作。白川の生い立ちについても知られるのも見所です。
- 著者
- 天王寺 大
- 出版日
- 2008-04-09
その中でもこのエピソード単体で単行本化もされている「原子力マフィア編」はかなりの見応え。当時の「LEGEND」の連載が東日本大地震のあとに一時休止し、このタイトルをひっさげて連載再開したこともあり、かなり現実への問題意識を感じさせる内容となっています。
放射線被曝を考えられていないずさんな運営本部の管理に、それを地元全体で隠蔽しようとする村気質から始まり、そこから国、電力会社、有識者たちが一体となって活断層の存在を隠しているという大きな問題に繋がっていくのです。
白川がその問題の核心に容赦無く突っ込んでいく様は見事。大きくなった分、リアリティが欠けた部分がありますが、その分完全な正義とは言い難いものの勧善懲悪のカタルシスが大きくなっているので、ぜひご覧ください。
「LEGEND」を経て、始まった「HADOU」シリーズ。勧善懲悪的な流れが強くなっていた前シリーズに比べて無印のようなダークヒーロー感が戻り、巨悪へと立ち向かっていく姿に本作最大の良さを感じます。
- 著者
- 天王寺 大
- 出版日
- 2017-03-09
これはもう好みの問題になってしまいますが、より洗練された物語になっているのが「HADOU」、荒々しいもののパワーがあるのが無印といったところでしょうか。2018年1月現在で連載が続いており、これからがますます楽しみな作品でもあります。
本作の魅力が時事問題を扱うことなので、気になる社会問題を本作で読んでみるのもいいかもしれません。「個人的には」無印がおすすめですが、そこまで大きな違いはないので、ぜひ「HADOU」も合わせて読んでみてはいかがでしょうか?
背後から話しかけてきた人間に容赦なく拳銃を突きつけようとしたり、決闘を挑んできた元格闘家を呼び出して射殺したりするなど、自他ともに認める根っからの極悪人である白竜。
その社会のルールに縛られない、自分や組の益のためなら何でもするというパワフルなところも確かに魅力なのですが、それだけではただのどこにでもいるアウトローです。
白竜を彼たらしめ、またさらに魅力的なキャラクターとしているのは、その知力に裏付けされた先見の明でしょう。
白竜はシノギのため、さまざまな企業や他組織と抗争をくり広げるのですが、その都度初めから事態がどう動くかを解っていたかのような発言をくり返します。そして、物語は彼の思い描いていたように進んでいくのです。
もちろん白竜も人間。不測の事態から窮地に立たされることも無いわけではありません。しかしそうなったらヤクザである彼の真骨頂。インテリヤクザでありながら武闘派としても恐れられている彼は、知力、体力双方を巧みに駆使して対抗組織を蹴落とし、多額の金を手にしていくのです。
このように、従来のヤクザ漫画やヤンキー漫画とは違う、知力と先見の明をクローズアップして描かれていることが、『白竜』の最大の魅力でしょう。
- 著者
- 天王寺 大
- 出版日
- 1998-12-01
もちろん『白竜』はヤクザ漫画。白竜のシノギだけでなく、組同士の抗争の様子も描かれていきます。
1巻から、かつては渋谷最大勢力だった「天和会」と険悪な関係になってしまった黒須組。シノギの成り行き上、彼らは天和会の組員を自殺にみせかけて殺害するのですが、敵はそれを白竜が殺した可能性が高いと判断。黒須組を襲撃してきます。
1度は組長自らが天和会の息のかかった雀荘へ「平和の使者」として赴くものの、短気を起こして暴れてしまい、失敗。組織間の溝は決定的なものとなってしまいます。
戦争はなんとか回避したい黒須組は、関東最大級のヤクザ「関東総連合会」に仲裁役を頼みます。しかし白竜はこう言うのです。
「この戦争を収めるにはもう一つの搦め手が必要でしょう」(『白竜』1巻より引用)
仲裁役として立ってくれた関東総連合会の会長ですが、大義名分はこちらにあるから戦争を止めるのは無理だと一点張りの天和会会長。交渉は決裂かと思われたその瞬間、白竜の搦め手が炸裂!天和会は一気に窮地へ陥り、土壇場の大逆転劇で黒須組は抗争を収束させることができたのです。
このように、抗争という窮地に立たされながらも、白竜の頭脳を駆使してそれを脱していくワクワク感が描かれています。
それでなくても、組事務所が銃撃を受け、嵐のように弾丸が飛び交うなかで
「射撃訓練もしたことの無いチンピラのタマなんか至近距離でない限り当たりはしません♪」(『白竜』1巻より引用)
と図太い神経を発揮する白竜がとても格好良く、ただのドンパチやりあう戦いではないのが魅力です。
- 著者
- 天王寺 大
- 出版日
- 2008-02-18
白竜はヤクザではありますが、暴力だけがすべての人物ではありません。先述のように、圧倒的な先見の明をもっている彼は、非常に知力に優れた人物であることが見受けられます。
たとえば土地入札という、素人には皆目見当もつかないようなシノギにおいても、それを生業にしている建設業の人間を言い負かし、方針の支持を与えていくほどなのです。学問だけでなく、さまざまな分野に精通していることがわかります。
もちろん学もかなり積んでいるそうで、どうやら都内にある一流大学の法学部をトップで卒業しています。そのため法律関係には特に強く、それ以外にも、ソクラテスの言葉の意味を誤って受けとっていた女性教師に教えを施すなど、哲学関連も強いようです。
敵対している人間への情け容赦の無さから、冷酷な人物であるとの印象を受けますが、仲間への対応はかなり優しい人物です。
たとえば、組の金を浪費し、あまつさえヤクはご法度であるというルールを自ら破ってしまった組長に対してさえ「俺はどこまでもオヤジを盛りあげていく」だけだと明言。
また若頭補佐を勤めている田代を何かと気にしている描写があったり、組員の代わりに子どもの受験の面接に行ってあげたりと、仲間を大切にしている描写は各所で見ることができます。実際、彼が意味なく組員に暴力をふるったシーンはまったくありません。
またそれ以外にも、幼い子が手を放してしまった風船を取ってあげたりと、子ども好きでもある様子。強くて冷酷な人間ながら、仲間や子どもに対して見せる優しさとのギャップもまた彼の魅力となっています。
- 著者
- 天王寺 大
- 出版日
- 1997-06-01
暴力だけではなく、知略でヤクザ界を制圧していく白竜。本作は彼の男気溢れる様子と、漫画ならではの現実離れした展開に引き込まれる作品です。
最大の魅力であり、主人公の白竜に惹かれない男はいないのではないかと思えるくらいに彼は最高にかっこいい。人間的にできた人物で、頭がキレて冷静ではあるものの、情に深い部分もあり、最後にはビシッと決める才能を持っているのです。
そんな男が成し遂げる数々の偉業に、読者は圧倒されるばかり。ありえない展開、お約束ではあるものの、毎回感動してしまうし、分かっていてもその毎度の結末を待ちわびてしまうのです。
そんな男が惚れる男が描かれた本作の魅力である彼の人柄をぜひ作品で体感していただければと思います。スマホアプリで無料で読めるのでそちらからその世界を覗いてみるのもいいかもしれません。
ただ強いだけではなく、知力にあふれ、また冷酷ながらも仲間思いである白竜。そんな彼の活躍を描いた漫画が『白竜』なのです。暴力だけではないひと味ちがうヤクザの活躍を見ることができる名作です!