「週刊漫画ゴラク」にて連載されている『麻雀飛龍伝説 天牌』。派手な場面や特殊能力などはないものの、等身大の麻雀が描かれており、見るものに共感を促します。麻雀に対する独自の感性や思想を本作から感じとってみましょう。
最強の麻雀打ちを目指す主人公・沖本瞬が、数々の仲間や敵との対局を交わしながら成長していく漫画『麻雀飛龍伝説 天牌』。焦点が当てられるのは瞬とその仲間だけでなく、敵、さらには瞬の知らぬ場所でおこなわれている麻雀にまでおよびます。
そのすべてが繊細に描かれており、誰と誰が対局しようとも高クオリティの勝負を読者にお届けしてくれるのが魅力でしょう。
原作者である来賀友志は、麻雀にどっぷりはまり、雑誌「近代麻雀」の編集部へと入った人物です。そこで経験を積み、編集長まで務めました。麻雀を愛し、麻雀をよく知る彼だからこそ、緊迫した勝負を描くことができるのでしょう。
また本作には、主人公に匹敵する存在感を放つキャラクターが多々出現し、思わず肩入れしてしまう人物も出てきます。今回はそんな彼らを紹介しながら、作品の魅力をお伝えしていきます。
麻雀のルールを知っている方も知らない方も、ぜひ読んでみてくださいね。
- 著者
- 来賀 友志
- 出版日
沖本瞬は本物の最強の麻雀打ちになるため、新宿の雀荘を転々としていました。そんな時、自分の実力をはるかに上回る黒沢という男と、その弟子の谷口、伊藤と出会います。
その出会いが瞬の麻雀のレベルを上げたのはもちろん、人生観においても多大な影響を与えたのです。瞬が各地の猛者たちと闘い、麻雀打ちとしても人間としても成長していく物語です。
沖本瞬は、本作の主人公。明るい性格の青年です。大学に在籍していましたが、黒沢と出会い、彼の麻雀と人物像に惚れて弟子入りをすることに。麻雀を愛する心は誰よりも強く、実力も運もかなりのモノです。それに加えて、幼少期の教育により脳細胞のシナプスが異常に多く、驚くほどの記憶力の持ち主でもあります。
一見謙虚で温和な青年ですが、自身の誇りのためなら誰からも退かない頑固さを持っていて、それゆえ衝突を避けられないこともありますが、多くの強敵たちからも認められているのです。
全国を旅打ちして回り、現在は大阪を拠点に活動しています。
- 著者
- 来賀 友志
- 出版日
- 2012-05-09
関西に移動した瞬は、牌のマジシャンと呼ばれる男、鳴海と出会います。自分との次元の違いを見せつけられ、鳴海のもとで修業を積むこととなりました。そして彼の提案で、京都の「ウェスト」という雀荘で店員として麻雀の腕を磨くことになったのです。
そんな瞬のもとに、ライバルともいえる影村と北岡が現れます。東京で雀荘の事業を広めている2人は関西への進出を考えており、その拠点を求めてウェストを奪いに来たのです。鳴海に託されたウェストを守るため、瞬は影村と北岡を迎えうちます。事業拡大ばかりに目を向けて麻雀から離れていた2人に、瞬はこの言葉を告げるのでした。
「俺は昔から1日24時間のうち25時間は麻雀のこと考えてるから」(『麻雀飛龍伝説 天牌』63巻より引用)
幾多の猛者たちの想いを背負って、瞬は麻雀と向き合います。麻雀に対する愛は作中でもトップ。誰もがそんな彼のことを、頂点を獲れる男として期待と畏怖を抱いています。
そんな瞬の魅力は、麻雀には決して嘘をつかないこと。どんな苦境でも牌と自分を信じ、現状を打破する力を持ちます。その堂々たる姿はまさに「王の素質」といってもよいでしょう。
谷口隆は黒沢の弟子で、瞬や伊藤の兄貴分にあたる人物です。運という要素では瞬らに劣りますが、イカサマなどの牌の操りは黒沢一派のなかでトップ。しかし、黒沢に才能の限界を告げられ、荒れてしまいます。
その後瞬と闘って大敗したことで才能の差を痛感し、実家の酒屋を継ぐことを決意したのでした。
- 著者
- 来賀 友志
- 出版日
- 2000-09-01
「俺より麻雀を愛している奴らに……麻雀のことは任せておけばいいってね」(『麻雀飛龍伝説 天牌』4巻より引用)
黒沢の一番弟子として過ごしていましたが、自身でもこの世界で生きていく何かが圧倒的に欠けていることを自覚していました。そのことを認めて、違う生き方を選んだことを黒沢に報告します。
どれだけ本気で取り組んでも限界はある、そのことはわかっていたのでしょう。しかし、麻雀を愛するがゆえに、谷口はどれだけみっともなくても最後まで足掻いたのでした。
彼の魅力は、努力を怠らないこと。もちろん、誰しもが努力をしているのですが、彼のように限界が見えているのに努力をできる人は、少ないのではないでしょうか。
伊藤芳一は黒沢の弟子で、現役の東大生です。兄弟も東大出身、親も医者というエリート家庭で、その頭脳は麻雀にも活かされ、全国学生麻雀選手権優勝というかなりの腕前を持ちます。瞬のことをライバル視しており、それが恨みに似た感情に変わり、後にヤクザの波城組と関係を持つようになるのです。
とある人物から、一流ではあるが超一流にはなれないと評され、その言葉を払しょくするために必死でもがきます。
- 著者
- 来賀 友志
- 出版日
- 2007-09-07
「その神様を殺してでもこの世界にしがみつきたかった」(『麻雀飛龍伝説 天牌』40巻より引用)
波城組の一員として、同じく裏の組織である黒流会と麻雀勝負に挑んだ伊藤でしたが、三國という黒流会一の打ち手に完膚なきまでにつぶされてしまいます。
限界を迎えてその場を去る伊藤に対し、三國が「こんなくだらない世界にいるべきじゃないと神様が判断した」と告げます。自分に何かが欠けていることがわかっていながらも、伊藤はこの世界にしがみつくためにもがいていたのでした。
運と実力を兼ね備えた伊藤ですらもこの世界で生き残るのは難しく、そして本人も生き残るための何かが自分には欠けていると自覚しています。それでもしがみつきたかったのは、麻雀に対する深い愛情があるからだったのでしょう。
クールな外見からは想像もつかない熱い思いを秘めています。それが怨念にも似た何かだとしても、自分のすべてを投げ出すことは難しいのです。クールな面と、麻雀の神をも殺したいという黒い面、その極端な二面性が彼の魅力です。
黒沢義明は日本一の麻雀打ちとして裏の世界に名を轟かせている人物。作中で最強として描かれていますが、麻雀の師である新満正吉には、唯一生涯で負け越しているといいます。非常に情に厚く、仲間のためなら死をも恐れない行動をすることもある人物です。
重い病気を患っており、咳に血が混ざるほど体を壊しています。「天狗」での勝負の後姿を消し、生死は不明です。
- 著者
- 来賀 友志
- 出版日
- 2001-07-01
ある人物が殺害されたことで、黒沢の心に火が付きます。その関係者に詫びをいれさせるため、黒沢は「元裏プロ会の帝王」と呼ばれる入星と闘うことになりました。
劣勢に追い詰められた黒沢でしたが、心の中にある人物の顔が思い浮かび、微かに笑顔を見せるのです。
「最後にはちゃんと笑顔を見せてやるよ」(『麻雀飛龍伝説 天牌』9巻より引用)
作中最強と称される人物ですが、百戦百勝というわけではありません。また、麻雀ではそうならないことも理解しています。しかし、今回は何が何でも勝たねばならない勝負。そんな賭けに勝ちきれる者こそ、真の勝負師なのです。
そして、真の勝負師に最も近い男である彼は、実は常に他者のために闘っていたのでした。その姿は麻雀の化身にも見え、牌に己の魂を注ぎ込むことができた彼だからこそ、この世界で生き残ってこれたのでしょう。
後藤正也は伊藤の同級生で、同じく東大に通っています。麻雀の腕もそれなりですが、瞬や伊藤には及ばずです。学生麻雀選手権の際に、結果として伊藤に裏切られる形で予選敗退したことから逆恨みし、伊藤に復讐するために生きるようになります。
東大を辞め麻薬の売買に関わっていたところ、その頭脳を買われて新興ヤクザの組に身を置くようになりました。
- 著者
- 来賀 友志
- 出版日
- 2003-10-09
新興ヤクザの代打ちとして、影村、北岡、一心会の奥寺と卓を囲みます。咬ませ犬と見くびられていた後藤でしたが、運気が最高潮の彼がトップを突き進みました。
「何百人かかったって今日の俺の勢いは止められねえ」(『麻雀飛龍伝説 天牌』21巻より引用)
この勝負の最中も彼の意識は伊藤に向けられており、6億もの勝負を任された自分はすでに伊藤より勝っていると感じています。麻雀の実力にも磨きがかかり、影村や北岡などの猛者までも焦らせるまでに進化していたのです。
伊藤に勝ちたいという怨念ともいえる姿勢が、彼を強くしました。どんなものであれ、強い想いは人を変えることがよくわかります。
津神元は波城組ナンバーワンの実力者で、その実力は黒流会の三國をも凌ぐといわれています。傲慢で唯我独尊な性格をしており、どんな相手、どんな状況でも自身の勝利を疑いません。
しかしプライドが非常に高く、組の利益よりも自分の勝利を優先するといった暴走をすることもあります。
- 著者
- 来賀 友志
- 出版日
- 2017-04-19
「麻雀に引き以外の何が必要なんだ」(『麻雀飛龍伝説 天牌』88巻より引用)
こう豪語するほど己の運に絶対の自信があります。そして、その運を操れるほどの実力と、僅かなチャンスを鷲掴みにできる才能を持っているのです。
作中きっての実力者として描かれる津神は、読者にその圧倒的な力をまざまざと見せつけてくれるでしょう。
運のみに頼らない腕もあわせ持った、まさに最強の人物である彼の魅力は、やはりその圧倒的な自信です。なんでも可能にしてしまうのではと錯覚を起こすほどで、読者をも従えてしまいそうな強さに憧れてしまいます。
新満が求める最強の8人による戦い。黒流会の4人による出場者を決める闘いは白熱したものとなっていました。しかし、三國だけはまだ肩が温まっていないのか、他の3人にやや遅れをとる形となります。
そこへ黒流会若頭・貴生が現れました。麻雀打ちではないものの、鋭い感覚を持つ若頭はこの対局に厳しい一言を投げかけます。「このままじゃ他の参加者に負ける」。本腰をいれていた4人でしたが、魂を賭けるほどに勝負に入りこんでいなかったのです。
そこからはさらなる熱戦が開幕。三國も徐々にエンジンがかかってきます。
- 著者
- 嶺岸信明 来賀友志
- 出版日
- 2017-12-29
一方、ウエストへと帰ってきた瞬は鳴海に頼まれ、共に切磋琢磨をすることに。大阪を離れてからの成長をみせつけるように、瞬は圧倒的な力と繊細な読みを発揮するのです。
「最強の8人」がいよいよしぼられてきました。黒流会からは2人が選出されることは確定しているので、勝負の行方が非常に気になります。
そして、瞬の成長がまざまざと感じられる巻になっているでしょう。あれほどまでに圧倒的な力量差があった鳴海と今や互角の勝負を繰り広げます。
各所で熾烈な戦いがおこなわれる92巻も見所が満載となっています。
貴生からの言葉でさらに加速する勝負。93巻では、これでもかというほどに三國の見せ場が繰り広げられます。
情が深い人物だということで、彼は弟分や亡き黒沢、入星に思いを馳せます。そして気を取り直し、また勝負が始まるのでした。
序盤からの流れは変わらず、三國がどんどん力を増していきます。しかしその陰でいいポジションにいたままトップを走る八角。果たして勝負はどうなるのでしょうか?
- 著者
- 来賀友志
- 出版日
- 2018-03-29
93巻ではラストにまさかの人物がアガります。ここまでの流れからは意外な人物。とはいえ未だ3位なので、今後の上位にどう組み込むかが彼の見せ場で気になるところですが、そんな主線から外れているある人物の哀愁が漂います……(笑)
さすがに4人という少人数の戦いなので、スポットライトがまったく当たらない人物はいないと願いたいですが、どうでしょうか?
主線の白熱する戦いと、応援したくなる日陰キャラのあがきを、ぜひご覧ください。いよいよ次巻94巻で、この出場者を決める戦いもひと段落するのではないでしょうか?
- 著者
- 来賀 友志
- 出版日
麻雀をこよなく愛する来賀友志が原作をつとめる本作。1995年から連載が始まり、2017年現在も連載は続いている長寿麻雀漫画です。黒沢を主人公とした「天牌外伝」も連載されています。
ここまで、登場人物たちが発する作中のかっこいい名言を紹介してきました。他にも、核心をつくような名言は多数登場します。
静寂ながら、真剣な眼差しから熱さを感じるような物語が描かれます。主人公だけでなく、敵のキャラクターに至るまで、こと細かな描写が魅力のひとつです。
誰も彼もが麻雀に熱い思いを持っており、その熱量を感じさせてくれます。『麻雀飛龍伝説 天牌』を読むことで、麻雀に対する見方が変わることでしょう。