『山と食欲と私』は「単独登山女子」を自称する鮎美の、登山と山中での食事を描いた作品です。その場の湯気やにおいまで伝わってきそうな料理の描写に登山についての丁寧な説明が挟まれており、未経験者でも楽しめる内容になっています。レシピがしっかり書かれているところも魅力です。 この記事ではそんな本作の全巻の見所をご紹介!ネタバレを含みますので気になる方は無料で読めるスマホアプリもおすすめです。
本作は一般企業に務めるOLの日々野鮎美(ひびのあゆみ)の物語です。彼女は山に対して並々ならぬこだわりを持つ、自称「単独登山女子」なのですが、登山における彼女の何よりの楽しみは、登頂した際に食べるご飯の数々です。
シンプルなものから手の込んだものまで幅広く紹介されるメニューは、登山中に食べる料理なだけあり、どれもボリュームと栄養が満点。単独での山登りの魅力や、登山にまつわる豆知識、あるあるネタも注目してほしいポイントです。
この記事では各巻の見どころを紹介していきます。
- 著者
- 信濃川 日出雄
- 出版日
主人公の鮎美は、単独での山登りが大好きなごく普通のOL。彼女は山を登ることでしか得られない静謐な雰囲気や、都会の喧騒から離れた自分の時間が大好きです。
そんな鮎美の何よりの楽しみは、山で食べるご飯。シンプルなものからこだわりのメニューまで幅広く楽しんでいます。本作は下ごしらえの方法や持っていき方なども丁寧に描いているので、実践しやすいレシピ本としての役割も果たします。
鮎美のこだわりや、山の素晴らしさ、そして体力を使った登山の後に食べる絶品料理の魅力を、存分に味わってください。
作中では、さまざまな登山飯が描かれています。山登りで参考にしたいレシピが多く取り上げられていますが、山に登らなくとも活かせる料理の知識も満載です。
例えば、4話で登場するカーボローディング弁当。ナポリタンにたまごサンド、おにぎり1個がメニューという、炭水化物のオンパレードです。背徳の弁当をひとり、仕事の昼休みに食す主人公は逞しすぎます。
カーボローディングって?という読者のために、作中では詳しい解説がされています。カーボローディングとは、食事内容をコントロールして、一時的に筋肉にエネルギーを蓄えておくことを指します。エネルギー源となるのが、分解されて糖になる炭水化物。主人公は、登山の前日にエネルギーを蓄えられるような食事計画を入念に立てているのです。
単に美味しそうなご飯、表情が描かれているだけではない点が本作の魅力。実践しやすく、勉強になるレシピが見どころなのです。
もちろん、山に登ってこそ味わえる登山レシピはどれも垂涎もの。ぜひ、本作を手に山に登り、掲載されている料理を試してみてくださいね。
1巻では、鮎美がどういう人物で、なぜ登山が好きなのかが丁寧に描かれています。登山経験はそれなりに豊富ですが、「山ガール」と呼ばれることは嫌いな様子。またマイペースな性格で、単独行動を好みます。
1話で取りあげられる料理は、シンプルな梅干し入りおにぎり!おにぎりは登山において、エネルギー補給食として欠かせない一品です。
本当にただの梅おにぎりなのですが、それを山中で栄養補給のために美味しそうに頬張る鮎美を見ていると、異様に食べたくなってきます。また、運動中に食べるということを考慮して塩分量を調整したり、あえて立ったまま食べたりするなど、シンプルながらも細やかなこだわりが紹介されています。
この話を読むと、山でおにぎりが食べたくなること間違いなしです!今後もたくさんの料理が出てくる本作ですが、シンプルな料理であっても、自らの状態や環境次第で、何倍にも美味しく感じることができるのだということが伝わってきます。
登山そのものにも、山中でのご飯にも興味をもつきっかけになる1巻を、ぜひ読んでみてください。
2巻では、お手軽かつ鮎美のこだわりの詰まった一品が登場します。
料理に足せば彩りを加えてくれて、かつ長期保存も出来るという理由から「乾物」にハマった彼女ですが、特に「天かす」がお気に入りなようです。
- 著者
- 信濃川 日出雄
- 出版日
- 2016-08-09
2巻では、天かすとご飯を組み合わせたお手軽料理が紹介されるのですが、ここである調味料が必要になります。しかし山に持っていくには適切な容量がなく……。一体彼女は、どのように解決をするのでしょうか。
美味しい料理を作るため、自分好みの調味料を山に持っていこうと試行錯誤し、思いどおりの品を食べることができたときの鮎美の様子は、読者にも満足感と満腹感を与えることでしょう。
お手軽な満足料理が紹介される2巻も、ぜひご覧ください!
3巻では、これまで頑なにひとりで登山を行っていた鮎美が、会社の同僚である小松原鯉子(こまつばらこいこ)と一緒に山を登ります。お互いのことをあまり知らぬまま当日を迎えた2人でしたが、山を登るうちに、徐々にお互いのことを話すようになりました。
そして山頂に到着した鮎美は、なんと「ジャンバラヤ」を作り始めます。下ごしらえから調理の仕方まで丁寧に紹介してあるので、興味があれば実際に作ってみてはいかがでしょうか。
- 著者
- 信濃川 日出雄
- 出版日
- 2016-11-09
美味しいジャンバラヤの作り方だけでなく、料理にまつわる豆知識や歴史まで解説される興味深いエピソードです。
また、誰かと人間関係を築くのに、山登りが適していることもわかる内容です。近しい方と友情を築きたい人、ちょっと凝った料理を覚えたい人、料理の歴史に興味のある人にはぜひ見ていただきたい一冊となっています。
4巻の鮎美は、小松原とともに「山コン」に参加します。山コンとは、登山をしながらおこなう合コンのことで、いわゆる婚活イベントのひとつです。この日の鮎美は、幸せを掴めるように、幸せが続くように、という願いを込めて「多幸(たこ)うどん」を作りました。
体調が優れないときや食欲が湧かないときでも食べられるものとなっているため、ぜひ皆さんに知ってもらいたいメニューのひとつです。
- 著者
- 信濃川 日出雄
- 出版日
- 2017-03-09
現に作中でも、鮎美は寝不足のなかでこの料理を食しますが、お腹に優しいメニューなのに栄養もしっかり摂ることができ、エネルギーの補給にうってつけです。ゲン担の役割も果たす料理なので、ぜひ彼女と同じ境遇にある方に試していただきたい一品となっています。
また、参加した山コンでも素敵な出会いが訪れて……⁉︎ますます磨きのかかる山料理と、鮎見&小松原の恋の行方に要注目です!
5巻では鮎美の母の猪口いるか(いのぐちいるか)と一緒に山に登ります。いるかが遅刻してきたことで、口論になりながらも山頂に到着した2人。そんな彼女たちが食べたのは、「桜でんぶ」入りのお弁当です。
このお弁当はいるかが用意したもので、鮎美にとっては幼い頃から学生時代まで食べた、馴染みの品です。母の優しさがこもった栄養満点のお弁当となっています。
ちなみに鮎美の父は彼女が6歳のときに亡くなっており、いるかの「猪口」という苗字は再婚相手の苗字です。
- 著者
- 信濃川 日出雄
- 出版日
- 2017-07-07
いつも変わらぬ内容のお弁当に愚痴をこぼす鮎美ですが、結局ペロリとたいらげました。
素直に感謝の気持ちを伝えない彼女でしたが、普段と違う環境で親子の時間を過ごすことで、絆が深まったようです。母親の愛情を感じながら食べる弁当が、たまらなく美味しそうに見えるエピソードとなっています。
5巻までに比べ登山ネタが多いとはいえ、どんどん展開していく人間関係が面白くなってきた最新巻。小さな山から名峰まで、お年頃女子が登山するということで、男性絡みのエピソードにドキドキさせられるところに妙なリアリティがあります。
そんな様子はぜひ作品でご覧いただくとして、今回6巻の見所のエピソードとしておすすめしたいのが最後に収録された「風と味噌汁」です。
- 著者
- 信濃川日出雄
- 出版日
- 2017-12-09
今回の主人公は鮎美のようでちょっと違います。何とこの最終話のメインはおばけの山岳隊!
彼らは登山好きということが高じて、死後もみんなで定期的に登山しているようです。現実の人間が来たら見つかって変な噂にならないようにするなど、細かな配慮も行き届いています。
そんな彼らが見つけたのが鮎美。今日の彼女はどこか目が虚ろで、息も荒く、フラフラとしています。
そしてその虚ろな目のまま、崖の端からそのまま一歩踏み出してしまうのです。落ちていきそうになる彼女を、幽霊たちが必死に止め、そのまま崖の上へと戻します。
「こっちに…来るんじゃねぇ バカ野郎」
大きな力で押し戻された鮎美は、呆然としたまま1時間そこで固まってしまいました。寝不足と疲労で一瞬寝てしまったことで命の危機に遭ってしまったようで、すぐそこにあった死への恐怖感に圧倒されています。
その動揺が静まって来た時、鮎美はおもむろにバックパックからやかんを出してお湯を沸かし、天かすを入れた味噌汁をつくります。
そしてそれを一口飲むと、大きな声でひとりで泣き出すのでした。
ぼうっとしたところからやっと感情を発散できた彼女を見て、幽霊の山岳隊はその場を去っていきます。
「あ〜〜〜あ
俺も久しぶりにあったかい味噌汁飲みてぇなぁ」
彼らの笑い声が山にこだまします。
味噌汁と人情に心まで温まるエピソードです。まさに本作を表しているかのような、人の繋がりを感じさせさせられる内容となっています。
ちなみに今回は巻末のおまけ漫画も単独登山のあるあるを描いていてかなり面白い!ひとりの悲哀、うまくいかないこともまた旅情?であるというネタは共感度抜群です。
- 著者
- 信濃川 日出雄
- 出版日
登山のリアルな様子、山の絶景、そこでの食事の温かな様子、それを取り巻く人間関係……。本作ではすべてが優しく、時に自然の恐ろしさを感じながらも、それによってより人情を感じさせられます。
登山ブームで行きたいと思いながらもなかなか腰が重い人におすすめの、さらに登山に行きたくなる、でも行かなくてもその空気感を感じることのできる良作です。
どんどん人間関係が深まっていき、繋がりのあるストーリーも面白くなってくるので、ぜひ最初から最後まで味わい尽くしていただきたい内容となっています。
本作はスマホアプリで無料で読むこともできるので、そちらからこの優しい世界を覗いてみるのもいいかもしれません。
『山と食欲と私』は登山をしたことない人から、実際に山を登っている人まで楽しめる作品です。作中で登場するメニューは本当に美味しそうなものばかりで、思わず山に登って食べたくなってしまいます……。
数々のお手軽料理も登場するので、単純に料理レシピを探す漫画としてもおすすめ。登山あるあるも交えながら、料理の楽しさを再確認させてくれる物語になっているので、ぜひ読んでみてくださいね!