「パラダイス・キス」は、平凡な女子高生である主人公が、矢澤芸術学院のメンバーと出会い、改めて自分の生き方を考える作品です。恋、勉強、仕事、生き方など、思春期の悩みや成長を描き切っています。単なる恋愛漫画ではなく、それぞれの人物の人生にフォーカスをあてた名作です。
- 著者
- 矢沢 あい
- 出版日
- 2000-04-07
平凡な女子高生である早坂紫(はやさかゆかり)が、ファッションの専門学校である矢澤芸術学院のメンバーと出会い、自分を変えていく物語です。
本作の魅力は、個性あふれるキャラクターたちが思春期特有の悩みを抱えている姿と、ぶつかり合い、そして成長していく姿を描ききっているところにあります。それぞれの悩みや願望にも焦点が当てられているため、さまざまな角度から物語を楽しむことができるでしょう。
恋愛のみならず、生きる姿勢まで考えさせてくれる作品です。
作者の矢沢あいは『NANA』や『天使なんかじゃない』などのヒット作をいくつも世に送り出している人気漫画家。彼女の描く恋模様、人間心理の機微は多くのファンを魅了しています。
今回は「パラダイス・キス」の魅力を、登場する個性豊かなメンバーと合わせてご紹介しましょう!
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女子高生の紫はある日、矢澤芸術学院のメンバーからファッションショーのモデルとしてスカウトされます。はじめは見た目も独特で価値観も違う彼らを蔑む紫でしたが、しだいに、自分の目標に向かって真っ直ぐに生きる彼らの姿に惹かれていきます。
さらには、メンバーのリーダーであるジョージこと小泉譲二(こいずみじょうじ)との、不器用同士の恋も加速していくのでした。
早坂紫は進学校に通う女子高生です。親からの期待でレベルの高い高校に入ったはいいものの成績は伸び悩み、学校と塾の往復の毎日に悶々としながら生きていました。
そんなある日、矢澤芸術学院の生徒である嵐に声をかけられ、「ショーのモデルをやってみないか?」と誘われます。最初は渋っていた紫でしたが、滅多にないチャンスと、メンバーの情熱に押され、モデルを引き受けます。
さらには、メンバーのリーダーである譲二とも恋に落ちてしまうのでした。
- 著者
- 矢沢 あい
- 出版日
- 2000-04-07
恋とモデルショーの準備にのめり込み、塾もサボり始める紫。罪悪感を抱く一方で、これまで感じたことのなかった充足感にも満たされはじめていました。
紫はその端正なルックスとモデル体型以外は、夢も目標もやりたいこともないただの女子高生でしたが、何もないところから自らの頭で考え、道を切り開いていく姿がとても格好良い女性です。譲二たちと触れ合うことで、不安と戦いながら数々の決断を下していく彼女は、その際の成長が目を引きます。
そんな希望と不安が入り乱れる最中、紫が口にした名言がこちらです。
「誰のためでもない、自分の人生を歩くって決めたんだから」
(『Paradise Kiss』2巻から引用)
生まれてはじめて「やりたいことをやろう」と思った彼女の、決意を表した一言です。
その後、プロのモデルを目指すこととした紫の前には、事務所問題や親との確執など、さまざまな壁が立ちはだかります。譲二との恋も一筋縄ではいかず……。
最終回では、この名言にも表れている彼女の意志の強さによるビターな展開が描かれます。少女漫画らしからぬ大人な展開に、当時の少女たちはかなりの衝撃を受けたことでしょう。
しかしそのリアリティある終わり方こそ、歳を重ねても楽しめる作品となっているゆえんでもあります。
果たして紫はプロのモデルになれるのでしょうか?そして譲二との恋の行方は?誰しも一度は抱いたことがあろう、紫の悩みに共感すること間違いなしです。
小泉譲二は、矢澤芸術学院のメンバーのリーダーにあたる人物です。
容姿端麗の御曹司で、自称バイセクシャル。自らが作る服への妥協なき姿勢に、時折見せる冷酷な言動。唯我独尊で掴みどころのない性格……などといったように、本作に出てくるキャラクターの中でも、かなり濃い個性を持った人物です。
- 著者
- 矢沢 あい
- 出版日
- 2001-01-01
容姿・社会的評価・財力の全てを持っている、まるで王様のようなキャラクターです。心に決めた事は必ず成し遂げ、天才と形容される美的センスも披露します。一方でその有り余る才能から、人には分からない苦悩や感覚を持っており、時折見せる切ない表情や冷酷な表情もまた魅力です。
はじめは、そんな掴み所のない譲二にうんざりしていた紫ですが、徐々に彼のことが気になり始めていました。そんなとき、譲二が口にした言葉がこちら。
「おれ お前にほれてんのかな?」(『Paradise Kiss』1巻から引用)
これは女性読者を痺れさせます……!作中屈指の胸キュン場面といっても過言ではありません。
これを機に紫と両想いになり同棲までし始めますが、その間も幾度となく衝突を繰り返します。譲二の行動はし紫だけでなく他のメンバーのことまで振り回すのですが、それでも彼は常に自らの道を突き進むのでした。
そして物語の後半、譲二は自らの進路のために海外に渡ることを決意します。そして紫に「ついてこないか?」と誘うのでした。
その誘い方、その後の紫への贈り物、最終回での息な演出などは、どこまでいってもTHE譲二。超かっこよく、それでいて物語の切なさを小粋に演出します。
櫻田実和子(さくらだみわこ)は小さくて愛らしい女の子で、新進気鋭のデザイナーとして活躍する姉の実果子(みかこ)を尊敬しています。
矢澤芸術学院のメンバー全員に可愛がられる妹キャラで、嵐とは恋仲にあります。紫がメンバーに馴染めるようになったのは、いつも明るい実和子のおかげといっても過言ではありません。
人の悪口も言わず、笑顔を忘れない彼女は、この作品において最も読者を安心させてくれるキャラクターといえます。
- 著者
- 矢沢 あい
- 出版日
- 2001-11-01
そんな実和子は、実は嵐と付き合い始めた頃、彼から無理やり体の関係を迫られたことがありました。 真面目な嵐は後にそのことを悔やみ、しばらく後ろめたさを感じていましたが、全てを察した実和子は彼に暖かな言葉をかけます。
「大丈夫だよ、嵐。もう痛くないから。みわこも嵐のこと大好きだから。」(『Paradise Kiss』4巻から引用)
心の中ではたくさんの思いを抱えながらも、みんなの前では明るく気丈に振る舞う実和子は、メンバーの中である意味最も大人で、ブレない生き方をしてる子なのかもしれません。
物語が進むにつれ、幼馴染であり昔実和子に思いを寄せていた徳森と再会します。この再会は、実和子と嵐の関係にどんな異変をもたらすのでしょうか?
さらに、就職に際して尊敬する姉を追いかけた実和子は、自らの夢を叶えることが出来るのでしょうか?理想と現実のギャップを乗り越えながら突き進む彼女の強さに注目です!
最終回の数年後の展開には本人は出演しませんが、紫の会話で幸せな日々を送っていることがわかります。
永瀬嵐(ながせあらし)は実直で現実主義な男性です。メンバー内ではツッコミ役として立ち回ることも多く、よく暴走しがちな譲二や大助にブレーキをかけています。
また服に対しての情熱も人一倍強く、理想主義の譲二に対して、やや現実的な考えの持ち主。そして実和子の恋人であるものの、徳森と実和子との関係を疑って悩んだこともありました。
強がりながらも弱さを隠しきれない彼は、とても人間臭いキャラクターといえます。 また当初は紫との衝突も多かったのですが、ショーを手伝ったり、意思を持って行動したりするようになった紫の様子を見て、彼女のことを仲間として認めていくのでした。
- 著者
- 矢沢 あい
- 出版日
- 2002-06-27
そんななか紫のクラスメイトの徳森が、学校に登校しなくなった彼女のことを心配して嵐の元を訪れました。しかし嵐は紫を庇い、次のセリフを口にします。
「てめぇみたいな優等生に紫の苦悩が分かってたまるか!頼むから親や教師にチクったりすんなよ!あいつはあいつなりに色々がんばってんだ!よけーなおせっかいはやめてくれ」(『Paradise Kiss』3巻から引用)
紫の頑張りや苦悩を間近で見ていた彼だからこそ言える熱い言葉です。仲間のためなら体を張ることもできる彼は、物語の最初から最後まで一貫して、思いやりをもった優しいキャラクターといえます。
嵐と実和子との恋の行方、そして幼馴染の徳森との関係は、物語を通して注目してほしいポイントです。果たして彼は、実和子への愛を貫き通せるのでしょうか?そして、どんな進路を進んでいくのでしょうか?
最終回で紫によって語られる、成長した嵐と周りの人間関係も要チェックです!
山本大助(やまもとだいすけ)は、メンバー内で1番ミステリアスなキャラクターです。幼少期より自らが男性であることに違和感を覚えており、常に女装をして女言葉を話します。仲間内での呼び名は「イザベラ」。
はじめは、男の自分が女装するのはおかしなことだと思っていましたが、その感性を譲二に認められたことにより、自らの道を進むことを決意します。
裕福な家庭の子供でしたが両親は不在にしていることが多く、執事に育ててもらったという複雑な家庭環境の持ち主です。
- 著者
- 矢沢 あい
- 出版日
- 2003-08-01
面倒見がよく、メンバーへのまかないなどは彼が担当することが多くなっています。時にはメンバーの相談に乗って姉御(兄貴?)肌な一面を見せることも。
彼と譲二は非常に長い付き合いで、2人がくり広げるコミカルあり、シリアスありなやり取りは、毎度読者を楽しませます。服に限りない情熱を捧げる譲二に、終盤ではドキリとする発言を向けました。
「あなたのドレスのパターンを引くのよ。死ぬまでずーっとね。」
(『Paradise Kiss』5巻から引用)
物語の後半、就職活動なども行っていましたが、譲二の海外行きを知った彼が取った行動とは……。独特のポジショニングで最後の最後までミステリアスだった彼の、驚きの行動から目が離せません!
最終回での譲二とのオシャレすぎる会話もお見逃しなく。
早坂紫は進学校に通う高校3年生。塾に向かう途中、突然派手な格好をした男性に「モデルをやらないか」と声をかけられました。気を失ってしまったうちに、地下室へと連れていかれてしまいます。
そこは、矢澤芸術学院のメンバーが集うアトリエ。彼らは、学園祭でおこなわれるファッションショーのため、モデルを探していたのです。
奇抜なファッション、明るい髪の色、ファンシーな部屋……。受験勉強に勤しむ紫にとっては、住む世界が違いすぎる人々でした。
モデルなんて、勝手なこと言わないで!と飛び出してしまいますが……。
- 著者
- 矢沢 あい
- 出版日
- 2000-04-07
後日、たまたまアトリエのメンバーに再会してしまう彼女。一度矢澤芸術学院に赴き、衣装をフィッティングしてみることになります。
衣装はぴったり。髪も切ってもらい、彼女は別人になったような心地でした。狭いと感じていた自分の世界が、一気にひらけたような、そんな清々しささえ感じられたのです。
目標や将来の夢がなく、漠然と受験勉強をして大学進学を目指していた紫。彼女にとって、ファッションデザイナーという夢を追うメンバーたちは輝いてみえました。
未知なる世界、新しい人間関係を通して、彼女は何を学んでいくのでしょうか。新しい一歩を踏み出した紫の姿に注目してみてください。
2巻では、冒頭からジョージと紫のラブラブシーンが描かれています。ジョージとの年の差はそう離れていないはずはないのに、どこか大人の余裕があるのです。その余裕のある愛し方に、紫はどんどん飲まれていってしまいます。
ジョージに好かれたいと思う気持ちが先走り、布にビーズを縫い付ける作業をやらせてもらえないか、と頼むシーンがありました。
さらに、「もう受験勉強しない!衣装作りを手伝うって決めた!」と意気込む場面も。
- 著者
- 矢沢 あい
- 出版日
- 2001-01-01
そんな姿を陰ながらみていたイザベラは、受験勉強に対する現実逃避では?と心配していました。しかし紫は、「勉強だけでなく、広い視野を持っていろんな人と関わり、人間的に成長したい」と呟くのです。魅力溢れる人になれば、ジョージにも愛されるだろう、と。
前向きに自分の将来と向き合いはじめた紫。ジョージやアトリエのメンバーとの交流から、進むべき道を見つけることはできるのでしょうか?
幼い頃から受験勉強をさせられてきた紫は、母をがっかりさせたくない一心で努力してきました。頑張っても、結果がでなければ認めてくれない母。家には、自分の居場所がないと感じていました。
「あたしはあたしの存在価値を認めてくれる居場所が欲しかった」(『Paradise Kiss』3巻より引用)
アトリエのメンバーに出会ってから、彼らとファッションショーに向けて一緒に活動しています。衣装を作る人、ヘアメイクの担当、撮影してくれるカメラマン。たくさんの人と作り上げる作品に、自分も関われていることが嬉しかったのです。
やっと自分の居場所を見つけられた紫。仲間との絆を深めていくなかで、ジョージへの愛はより一層増していくのです。
- 著者
- 矢沢 あい
- 出版日
- 2001-11-01
特に3巻の見どころは、車で送ってもらった帰りに、恥ずかしがりながらも紫が家に寄ってって、と誘うシーン。不器用なところが可愛らしく、「お茶でも一杯?」とジョージには下心見え見えのセリフを告げるのです。
本当にお茶一杯で帰ろうとする彼に、「帰らないで…」と涙ぐむ紫の愛らしさといったら!初めから素直になればいいものの……ただ、そこが胸キュンなポイントでもあります。
さて、ジョージに出会うまで、キスもしたことがなかったウブな女の子は、大人の恋を知ってしまうのでしょうか?悶絶必至の甘〜いラブラブシーンは、ぜひ本編でお楽しみください!
やっと家出から帰り、母にモデルを目指す夢を認めてもらった紫。久しぶりに学校にも行き、試験を休んでいた分を取り戻すために勉強を再開します。
頭の中では、ジョージに言われたことが思い出され、寝付けない夜が続いていました。
「自分がモデルになる事より
おれと寝る方が大事だって考えたなら
ふざけた女だと思っただけだよ」(『Paradise Kiss』4巻より引用)
ジョージを好きなあまり、モデルとしての道より、彼と一緒にいられることを幸せに感じていたところがありました。一流を目指す彼にとって、恋に溺れる彼女の姿は魅力的ではなかったのです。好かれすぎることも、重荷だったのでしょう。
彼の一言でハッとした紫。愛情が薄れるわけではありませんが、モデルとしての道を真剣に考えるようになるのです。
- 著者
- 矢沢 あい
- 出版日
- 2002-06-27
そんな彼女に、ささいな成長が見られたシーンがありました。
学園祭前日、ジョージに「キスしていい?」と言われ、「グランプリ取れたらね」と涼しい顔で答えるのです。いやぁ、余裕のある女になったもんだ!
ただ、モノローグではこんな一言が書かれています。
「甘やかしてあげるフリをして めちゃめちゃ甘えてやるんだから」(『Paradise Kiss』4巻より引用)
やっぱりまだ可愛らしい女の子の一面があるんです。紫のツンデレが可愛すぎるシーンでした。
無事に学園祭でのファッションショーを終えたメンバーたち。結果は準グランプリでしたが、紫はこの経験がモデルへの第一歩となり、将来の道へと着実に進むことができました。
ジョージの元には、ロンドンからカオリという女性が訪ねてきます。彼女は矢澤芸術学院の卒業生で、もともと交流がありました。ロンドンに来なよ!としきりにジョージを誘います。
その頃、世の中はクリスマスの時期真っただ中。紫はジョージとともに、聖夜を過ごす予定でした。いい感じのムードになっているところで、ドアのチャイムが鳴ります。
- 著者
- 矢沢 あい
- 出版日
- 2003-08-01
ドアの向こうにいたのは、カオリでした。誰よこの女!と険悪なムードになってしまいます。
とりあえず中で落ち着いて話すことになり、そこで衝撃の事実が判明するのです。なんと、ジョージがデザイナーではなく、ヘアメイクアーティストを目指すことを決めたようで……。
ファッションショーも終わり、それぞれの進路に注目が集まる最終巻。紫がモデルとして活躍していけるのか、またジョージとの恋愛事情はどうなるのか?結末は、ぜひ本作で確かめてみてくださいね。
- 著者
- 矢沢 あい
- 出版日
- 2000-04-07
平凡な女子高生が、ファッションデザイナーを志す個性的な学生たちに出会い、自分の夢を抱くようになる物語。『NANA-ナナ-』や『ご近所物語』などの名作少女漫画を描いてきた矢沢あいの作品です。
奇抜で我が道を行くタイプの登場人物たちが登場し、彼らが織りなすラブストーリーは少女漫画好きの女子だけでなく、男性も憧れるような洗練さがあります。
恋愛だけにとどまらず、自分の夢に向かってしっかりと歩みを進めていく彼ら。夢を持っていない、将来について悩んでいるという方にとっては、背中を押してくれるような存在になり得るでしょう。
「パラダイス・キス」は、誰もが抱く不安や葛藤を見事に描き切った作品です。全5巻と短い内容ながら、各キャラクターのパーソナリティや人間関係も丁寧に描いており、非常に読み応えのあります。迷ったとき、悩んだとき、恋が上手くいかないとき、ぜひ手に取ってみてください!