矢沢あいの漫画は繊細なイラストと、何より「女の子の夢見る世界」がとても丁寧に描かれていることが最大の特徴。『NANA』をはじめ、どの作品にも読者の胸がキュン!とするシーンが盛り込まれています。今回はそんな女性のハートを掴んで離さない、矢沢あいのおすすめ5作品をランキング形式でご紹介!
作者は1967年生まれ、兵庫県尼崎市出身です。1985年「りぼんオリジナル早春の号」に掲載された『あの夏』で漫画家デビュー。甘く切ない乙女心を表現させたら天下一品と言っても過言ではないほど、さまざまな女子の恋心を描くのを得意としています。
『ご近所物語』では被服学校に通う女の子を主人公にしていますが、矢沢あい自身も被服学校に通っていたことがあります。「漫画家になっていなかったらスタイリストになっていた」と公言している程のファッション好きで、なかでもヴィヴィアン・ウエストウッドの大ファン。『NANA‐ナナ‐』の主人公も好んでこのブランドを身につけています。
2002年、りぼんマスコットコミックス付属「Cookie」に連載された『NANA‐ナナ‐』で、小学館漫画賞を受賞。本作は後に映画化もされ、名実ともに少女マンガ界トップの漫画家の1人となりました。
矢沢あいの描く漫画には女子なら1度は夢見たことがあるであろう、おしゃれでキラキラした世界が溢れています。そんな世界観の中で、ある作品では恋をする主人公の甘く、切なく、揺れ動く恋心が丁寧に描かれ、また違う作品では、夢に向かって生きる主人公の葛藤や、うまくいかない現実が描かれています。そのどれもが「夢のような」世界でありながら、どこか「リアル」。それが矢沢あい作品の魅力なのです。
だからこそ、どの作品でも読者が共感でき、たくさんの女性たちに支持され続けているのでしょう。
集英社「りぼん」にて1998年から1999年に連載されていた本作。後に映画化もされた本作。主人公は笹原女子高校に通う高校の・望月美月です。父親の浮気が原因で母親が自殺し、後にその浮気相手と父親が再婚して、母違いの妹である唯と暮らしています。
家に居場所のない美月がいつものように街をふらついていると、ふと耳に美しい旋律が届きます。音の先には美しい青年、アダムの姿がありました。弾き語りをする彼に話しかける美月。そこから急速にふたりの距離は近づき、美月は家を飛び出して、アダムと暮らすようになります。
- 著者
- 矢沢 あい
- 出版日
- 2013-03-19
「どこへ向かうのかはわからない
これが愛なのかもわからない
あたしとアダムは弱い者同士
そんな2人が寄り添い合ったところで
行き着く先は天国なのか地獄なのか
だけど止められないんだ
どうしても止められないんだよ」(『下弦の月』より引用)
17歳の衝動、純粋であるがゆえの危うさが、とてもよく表現されています。大人になるにつれて、なかなかこういう衝動的な想いに駆られて後先考えずに行動するということはなくなっていくのではないでしょうか。読めば、そのどこか懐かしくて強いエネルギーを感じられます。
本作の魅力は、美月の純粋さゆえに傷つきやすい心と、辛い過去を背負ったアダムの心が惹かれ合い、お互いを傷つけてしまう程の強さで想い合っているというところでしょう。
「17年間この街で生きてきて
嫌なこといっぱいあったけど
いい事がひとつもなかったわけじゃない
だけど全部捨ててついて行く
あんたがいれば他に何もいらないよアダム
あたしの残りの人生はあんたあげる
好きにしていいよ」(『下弦の月』より引用)
こんなにも覚悟を決めて誰かに一生ついていくって思えるような人に出会えた美月は、この瞬間、最高に幸せだったかもしれません。しかし、人生は決して甘くはありません。この直後、美月は交通事故に遭ってしまうのです。
矢沢あいの作品のなかでも、本作はミステリアスでシリアスな雰囲気。少し非現実的な要素も入っていて、彼女の描く作品の中では毛色の違う作品といえるでしょう。しかし、ここでも矢沢あい節は健在。誰かを純粋な気持ちで愛する心を軸に、少女漫画らしいストーリーが展開されていきます。
物語を読み進めていくにつれて、アダムが奏でる美しい旋律がどこからともなく聴こえてきそうな不思議なラブストーリーです。
集英社「りぼん」に1989年9月号から1992年1月号まで連載されていた本作。主人公は、海辺のカフェ「Wave」でウェイトレスとして働く高校生の橘遥。
遥の心には、ずっと忘れられない存在がありました。小学生のときに同じクラスだった同級生、有川亨の存在です。彼とはひょんなことからすれ違い、亨に遥の気持ちを誤解されたまま、ふたりは離ればなれになってしまったのでした。
- 著者
- 矢沢 あい
- 出版日
ある日、従兄の一平がサーフィンで対決して負けたという話しを聞き、その対戦相手を見つけたというので、そこに行ってみると、なんとそこには亨の姿が……。亨との再会に心を躍らせる遥。しかし、一平も、遥に特別な想いを寄せいました。
「あいつ本気だから
おれも負けたくない
だからおまえも目をそらさないで見てて」(『マリンブルーの風に抱かれて』より引用)
遥への想いを賭けて、亨と一平がサーフィンで勝負することになったときに、亨が遥に向かって言う台詞です。出ました!矢沢あいの真骨頂!と言いたくなるようなキュンキュンしちゃう台詞ですね。
「遥、うらやましー!!」と、心の中で叫んだ読者も多かったのではないでしょうか。本作以外でも作者は、このような「女子が好きな男子に言われたい台詞」を、最高のシチュエーションで、最高のキャラクターに言わせるのです。そりゃ女子のハートを掴んで離さないわけだ……という感じです。
「俺がどんなに幸せにしてやりたくても
惚れてる男でなきゃ意味なんかねーんだよ」(『マリンブルーの風に抱かれて』より引用)
本作を読んだ女子たちの間では、必ずと言っていい程、「亨派」か「一平派」か、という議論がくり広げられます。誠実で優しい亨と、ぶっきらぼうだけど一途な一平。
上記の台詞は一平のものですが、前述した亨の台詞と比べると、2人のキャラクターの違いがよく出ていると思います。タイプは違えど、2人ともとってもいい男です。矢沢あいは、このように魅力的な男性キャラクターを描く技術にも非常に長けています。
果たして、遥は自分がずっと想い続けていた亨と、自分をずっと想い続けてくれていた一平のどちらを選ぶのか……!?最近、恋愛にはご無沙汰という女性にも、再び恋する気持ちを呼び戻してくれる名作です。
2017年に休刊となったファッション雑誌、祥伝社の「Zipper」にて1999年5月号から2003年5月号まで連載された本作。矢沢あいの代表作『ご近所物語』の続編で後にアニメ化、映画化もされています。主人公は、進学校に通う優等生の早坂紫です。
平凡な毎日の繰り返しに疑問を抱きつつ、将来の夢を模索していた紫。ある日、街中で服飾学校に通う永瀬嵐にショーモデルとしてスカウトされます。そこから、モデルという経験を通して、平凡だった紫の日々が輝きだしていくのです。
- 著者
- 矢沢 あい
- 出版日
- 2000-04-07
「おれたちゃ遊びでミシン踏んでるわけじゃねぇんだよ!
大学受験がそんなに偉いんか!」(『Paradise Kiss』より引用)
大学受験という現実に追われていた紫が、夢のために真剣にショーモデルになってほしいと頼む嵐たちに向かって、「あんた達の遊びにつき合ってる程ヒマじゃない!」(『Paradise Kiss』より引用)と言い放った言葉に対する嵐の台詞です。
夢を持って生きている人たちはいつだって真剣で、本気です。その夢を馬鹿にするような発言をする人の言葉は許せないし、深く傷つきます。大人になると、傷つきながらも「言いたい奴には言わせておけばいい」と強がる術も身に尽きますが、まだまだ10代後半である嵐たちは、熱い。夢を持っている人間ってかっこいいな、と思わせてくれる名シーンです。
「それまであたしは
毎日わき目もふらずに走ってきた
暗いトンネルの中
ひたすら出口に向かって
だけど出口はただの出口でしかなく
真っ白な空虚がぽっかり口を開けているだけだ
それがとても怖かったんだ」(『Paradise Kiss』より引用)
人生に何の目標や夢もなく生きた経験がある人ならとても共感できるであろう紫の言葉です。こんな風に不安定だった彼女は、矢澤芸術学院で本気で夢を追いかける人達との出会いによって、人生が変わっていくのを感じます。人生に夢を持つことの大切さを教えてくれるとても素敵な作品です。
「パラダイス・キス」については<漫画「パラダイス・キス」を読もう!登場人物の魅力を名言からネタバレ紹介!>の記事で紹介しています。気になる方はぜひご覧ください。
「りぼん」で1995年2月号から1997年10月号まで連載されていた本作。主人公は、矢澤芸術学院の服飾デザイン科に通う、高校1年生の幸田実果子。隣の家に住む幼馴染の山口ツトムとの恋愛と、デザイナーになるという夢を追いかける青春を描いたラブストーリーです。
- 著者
- 矢沢 あい
- 出版日
- 2005-09-16
「心の中まで降り込んで来る雨に
凍えないように体をたたんで
助けてもらうのを待ってた
パパでもママでもなくて
ツトムを待ってたんだ」(『ご近所物語』より引用)
小6の冬、実果子の両親の離婚が決まったとき、反発心から家出をした実果子を、ツトムが見つけてくれます。ずっと我慢してた涙を流す実果子がいじらしく、読むものの心を締め付けるシーンです。兄妹のように側にいて、でも決して家族ではない、男と女である幼馴染という存在の心強さ。しかし、幼馴染の関係はそれだけで終わるものではありません。
「胸の奥がつぶれそうに痛い
これが切ないって気持ちなら恋なんかしたくない
あたしにはとても耐えられない」(『ご近所物語』より引用)
些細なことから言い争いになってしまった2人。幼馴染という身近な存在であるからこそ、他人にはしないような形で相手を深く傷つけてしまうのです。出会ってすぐ「恋人関係」になった2人にはない「幼馴染という関係」が前提にあるからこそ起こりえることなのかもしれません。
『ご近所物語』というタイトルにちなんで、実果子とツトム以外にも、2人を取り囲むさまざまな人間関係の恋愛模様も描かれています。彼らの複雑な恋心が丁寧に描かれた作品です。読めばその切なさに心を打たれることでしょう。
また、デザイナーを目指す実果子や友人たちの個性的なファッションも魅力。彼らのスタイリッシュな服装を、矢沢あいの美しいイラストとともにお楽しみください。
『ご近所物語』については<『ご近所物語』のキュンとする名言ランキングベスト10!【ネタバレ注意】>の記事で紹介しています。
堂々の第1位は、集英社「りぼん」にて1991年9月号から1994年11月号まで連載されていた本作です。主人公は、私立聖学園に通う冴島翠。創立されたばかりの本校の第1期生として、生徒会役員候補に任命されます。
緊張しながらスピーチをするために講堂に行くと、そこには以前から気になっていたリーゼントの青年、須藤晃の姿が……。純粋でまっすぐな翠と悲しい過去を背負う少し屈折した晃との学園ラブストーリーです。
- 著者
- 矢沢 あい
- 出版日
- 2000-10-30
「あたしは冴島翠みたいになりたい」(『天使なんかじゃない』より引用)
翠たちと一緒に生徒会役員となった初期担当の麻宮裕子が、翠に向かって言う台詞です。友達にこんな台詞を言われたら、とっても嬉しいですよね。そう、『天使なんかじゃない』最大の魅力は、なんと言っても翠のキャラクターにあります。明るくて、優しくて、思いやりがあって、誰にでも好かれてしまいます。そんな彼女に、心を閉ざして生きていた晃が魅かれていくのも納得です。
「おれがおれの手で幸せにしてやりたいと思うのは
おまえだけだ」(『天使なんかじゃない』より引用)
『天使なんかじゃない』を第1位にした理由は、この台詞にあり!と言っても過言ではありません。全国の恋に恋する女子たちが1度は言われてみたい台詞ベスト10には入ってきそうなこの名言。これは言うまでもなく、晃が翠に言う台詞です。男らしい力強さと純粋さが感じられ、思わず胸キュンしてしまうものではないでしょうか。
また須藤晃自身のキャラクターも、ヒロインが恋する相手役の人気ランキングがあるとしたら、かなり上位に食い込んでくるであろう設定。矢沢あいは、晃のような「不良だけど心根が優しい」青年を描く技術が非常に長けています。「草食系男子」という言葉が根付いた昨今で、男気のある男を描かせたら天下一品なのです。
この他にも、数えきれないほどの名言が溢れている本作。矢沢あいを語るなら、まずは手に取ってほしい一冊です。素直に、純愛の素晴らしさに気づかせてくれる傑作となっています。
みんなの「こんな青春時代を送りたかった!」が詰まった、眩しいくらいの青春恋愛漫画です。
『天使なんかじゃない』については<矢沢あい『天使なんかじゃない』名言を全巻熱く語る!【最終回ネタバレ注意】>の記事でも紹介しています。気になる方はあわせてご覧ください。
「どうせ少女漫画なんてどれも同じでしょ?」とあなどるなかれ。矢沢あいの作品は他の漫画家には決して描くことのできない、独自の女子が憧れる世界が広がっています。「恋」にご無沙汰なあなたも、今まさに絶賛恋愛中のあなたも、矢沢あいの世界に浸ってみてはいかがでしょうか。きっと、もっともっと恋がしたくなります。