日々の生活のなかで欠かせないという人も多いであろう、コーヒー。その奥深さが、ほっこりとするストーリーとともに、漫画となりました。スマホで読めるアプリ「マンガUP!」で配信中の『夜の珈琲』の魅力を紹介していきます。
『夜の珈琲』は、とある田舎の駅の近くにある喫茶店「夜」が舞台となった物語です。コーヒーの知識に富んだマスターと、若いウエイターの2名で切り盛りされるこの店にさまざまなお客さんがやってきて、出されたコーヒーを巡ってストーリーが展開していきます。
物語が進んでいくにつれて、ウエイターの過去や、マスターが店をやっている理由などが明らかになっていき、しだいに読者ものめり込んでしまうでしょう。
この作品の魅力は、コーヒー好きにはたまらない豆知識が豊富であること、そしてゆったりとした優しい雰囲気に満ちていることです。忙しない毎日に疲れている人にこそ、読んでいただきたい癒しの作品となっています。
- 著者
- 左東 武之
- 出版日
- 2014-07-22
『夜の珈琲』の主人公は、回ごとに違います。お客さん目線で語られることもあれば、ウエイター目線で語られることもあるのですが、どの回も、喫茶店でマスターの淹れる珈琲をめぐったお話となっています。
「夜」はコーヒー専門店で、それ以外の飲み物や食べ物は扱いません。メニューも置いておらず、お客さんの要望を聞いて、マスターがそれに合わせてコーヒーを入れるという一風変わったスタイルです。
物語が進むにつれ、お店の常連さんやウエイターのアキミツ、マスターの過去についても迫っていく展開になるので、コーヒーの知識がない方も十分楽しめる内容になっています。
『夜の珈琲』の魅力といえば、読んでいて癒される点であることは間違いありません。癒しの要素として1番に挙げられるのは、作品全体を包み込んでいる、優しい空気感です。
ではこの空気感は、どのようにして作り出されているのでしょうか。それは、マスターのキャラクターと、時間をかけてゆっくりコーヒーを淹れる彼の愛情が、物語の随所で散見できる点でしょう。
マスターはのんびりしていて、誰かを否定するような発言は絶対にしません。どんなお客さんでも受け入れてくれる人柄の彼が、優しい空気間を作りだしているのです。
またマスターをはじめとして、コーヒーを愛する登場人物たちが、じっくりとこだわりをもってコーヒーを飲む様子は、1分1秒を争うような現代社会のなかで、あえて立ち止まることを教えてくれているようです。
「夜」で流れるゆったりとした時間の流れも、物語全体を包む優しい雰囲気をつくっています。
『夜の珈琲』の癒し要素としてもうひとつあげられるのは、読者の心をほっこりと温めてくれるようなエピソードの数々だといえます。ここではそのうちのひとつ、「Cup12 君追う紫煙」をご紹介いたしましょう。
喫茶店「夜」にその日訪れたのは、初老の男性。彼は入店すると同時に、「シガー」、つまり葉巻の灰皿を求めます。どうやら、男性は家で奥さんに喫煙を禁止されている様子。昨今の禁煙ブームで喫煙できる店は少なく、あっても「シガー」のための灰皿がないことがほとんどです。
そんななか、彼は「夜」を見つけて来店しました。レトロな雰囲気のある喫茶店に、シガー好きの渋い男性、という相性ピッタリの組み合わせも見どころのひとつです。
さて、いつもはお客さんの要望を最優先するマスターが、このときばかりは男性に「ドミニカ」のコーヒーを強くすすめます。
男性が嗜んでいたシガーも「ドミニカ」。ハバナみたいな強さはないけれど、全体的にソフトなものです。ドミニカのコーヒーは個性が強すぎず、酸味や甘みのバランスがシガーにぴったりで、男性はぴったりだと気に入った様子でした。
実はマスターがドミニカのコーヒーをすすめたのには、理由があります。3年前に亡くなった男性の奥さんが、いつも「夜」でドミニカの豆を買う常連さんだったのです。亡くなる直前、最後に来店した際に奥さんは、いつかシガーを吸う男性がコーヒーを飲みに来たらドミニカを出してくれ、とマスターにお願いしていました。
マスターはこのことを、「とあるシガー好きの旦那さんをもった女性が」とたとえて男性に伝えました。そして男性もそれに気づき、
「そいつの旦那もきっとドミニカシガーを吸ってたんだろうよ」(『夜の珈琲』2巻より引用)
と、シガーを吸いながら返すのです。直接的ではないものの、奥さんの思い出を共有する男性とマスターのやりとりは、まるで映画のワンシーンのような渋さがあります。
余白を感じとれる、素敵なエピソードでした。
- 著者
- 左東 武之
- 出版日
- 2015-12-22
癒し要素としてやはり外せないのは、コーヒーに関する豆知識でしょう。コーヒーは、よく飲む人にとってもそうでない人にとっても、身近な存在です。自動販売機やコンビニでも売っていますし、お湯を注ぐだけで簡単にできるものもあります。
しかし、自分で豆を購入し、挽いてから飲むという人はなかなか少ないのではないでしょうか。
こんなに便利な世の中なのに、わざわざ挽く必要あるの?と思っている人も考え方を見直してしまうほど、この作品ではコーヒーの魅力が丁寧に説明されています。
淹れ方や、豆の種類、そして時間のかけ方などが事細かに、しかし明日にでも実践できそうな簡単な手順で紹介されているのです。
そうして丁寧に時間をかけて淹れられたコーヒーを、登場人物たちが笑顔で飲むシーンは、この作品の1番の見どころだといえるでしょう。思いをこめて淹れられたコーヒーが、人の心をほぐすのだと教えてくれます。
もしあなたが「夜」のようなお店に行ったなら、淹れてくれた店員さんやそのコーヒーを大切に思えるかもしれません。
いまやコーヒーはチェーン店や自動販売機でも手軽に飲めるもの。でも『夜の珈琲』はそういったものではなく、豆を挽き、1杯ずつお湯を注いで丁寧に淹れるコーヒーです。こだわりをもって淹れられた珈琲を飲みたくなりますよ。漫画アプリ「マンガUP!」で無料配信中ですので、この機会にぜひ本作の魅力に触れてみてください。