貴志祐介作品の巧みなまでの伏線の数々は読む人を圧倒させ、ページをめくるごとに物語が繋がっていく快感があります。また、広いジャンルを取り扱っている作者でもあり、色々な世界観を味わうことができるのもこの作者の魅力です。 貴志祐介の作品からおすすめをジャンル別でご紹介いたします。
貴志祐介は1959年生まれ、大阪府出身の小説家です。1996年に『ISOLA』で日本ホラー小説大賞佳作入選を果たしデビューしました。
その後も2005年に『硝子のハンマー』で日本推理作家協会賞を受賞、2008年に 『新世界より』で日本SF大賞を受賞するなど、多くのジャンルをまたにかけて活躍しています。
貴志祐介のファンタジー小説が読みたいなら「新世界より」がおすすめです。物語の舞台は1000年後の世界・・・人類を取り巻く環境は変わり、現代のような科学技術が滅びてしまいました。
おどろおどろしい生き物や植物が繁栄する傍らで、人々は新しい力を手に入れてひっそりと暮らしていました。彼らが手に入れたものは、PK(サイコキネシス)と呼ばれる超能力です。この念じる力で人々は外界から身を守り、村に結界を張っているのです。
物語はこの村でのほのぼのとした生活から始まります。安全に守られた村の中で、大事に育てられる子供たちは徹底的に管理され、教育されるのですが、ひょんなことから子供たちは大人たちの隠すこの世界の秘密を知ってしまうのでした……。
- 著者
- 貴志 祐介
- 出版日
- 2011-01-14
2008年に日本SF大賞を受賞した作品でもあり、一時代のSFジャンルを牽引した一冊です。主人公の一人称でテンポよく進められる文体は読みやすく、ページを繰るたびにその世界観にはまってしまいます。
湘南のとある名門高校に通う櫛森秀一(17)がこの物語の主人公です。素直で明るい妹・遥香と秀一を支えるのは、母・友子。父はなく、女手ひとつで櫛森家をまとめ上げてくれたおかげで、3人の暮らしは温かいものでした。
そんな櫛森家に悲劇が訪れます。10年前に母と離婚した養父・曽根が、突然転がり込んできたのです。傍若無人にふるまい、友子や遥香に毒牙をかけようとする曽根に秀一は家族の危機を感じました。そこで、法的手段で曽根を追い出そうとしますが、大人たちは耳も手も貸そうとはしませんでした。
何も頼ることができないと悟った秀一。その眼にはある決意の炎が宿っていました。秀一は決めたのです。家族を守るために、その手で曽根を葬り去ることに-。
周りの人間のことを考慮して完全犯罪をもくろむ秀一ですが、そこに鋭い目を向ける存在がいました。秀一と親しくしている、クラスメイトの福原紀子です。秀一の様子がどこかおかしいと不審がる紀子……、果たして秀一の計画は成功するのでしょうか。そして、櫛森家の運命は……。
- 著者
- 貴志 祐介
- 出版日
- 2002-10-25
秀一に罪の意識がまったくないわけではありません。それでも曽根や周りの無力な社会・大人たちへの激情は収まることを知りません。秀一の行いは正義でしょうか、悪でしょうか。無力な社会は悪でしょうか、正義でしょうか。もし秀一と同じような立場に自分が立ってしまったとしたら、その時自分はどう行動するんだろうかと想像せずにはいられません。
17歳のある少年の心の叫びを通して読む、みずみずしくもどこか悲哀のこもった渾身の青春ミステリーです。
映画化もされている作品ですが、原作の方が、秀一の人となりや学校生活などの描写が豊富にあります。秀一への共感や理解がより深いものになるため、映画を観た人にもおすすめですよ。
突然ですが、真黒な家って見たことありますか?そうそう見かけませんよね、黒い家なんて……(ドイツにはあるみたいですが)。この物語も黒い家の話ではありません。でも、そこに住む人々の心は暗く、奥深くに沈殿したような黒い何かを感じずにはいられません。
主人公はある保険会社に勤める若槻というサラリーマン。ある日、女性の声で「自殺の場合、保険金は下りるのか」という電話がかかってきます。その女性が家族のために自殺するのではないかと危惧した若槻は、「金は下りるが、早まることのないように」と話して電話を切りました。
しばらくして、自殺による保険金の申請が入ります。それは先日電話をかけてきた家の子供が亡くなってのことでした。それから父親だという菰田重徳が、毎日のように会社にやってきては「保険金はまだ下りないのか」と詰め寄るようになります。その異常なまでの態度と不審なふるまいを窺うに、若槻は殺人事件の可能性を捨てきることができずにいました。
警察は重徳のことを調べていましたが、若槻は独自に調査を始めます。すると、菰田夫妻のおかしな点が次々と浮上してくるのでした。
しばらくすると、この事件に関わった人たちが次々に亡くなっていきました。重徳の異常性を危ぶんでいた若槻は、自分も危険にさらしながらも真相に近づいて行っていると感じていました。しかし、その予想は重徳が両手を切断するという事件で霧散してしまいます。事件の真相は?そして、真の黒幕は誰なのか―。
- 著者
- 貴志 祐介
- 出版日
1997年に日本ホラー小説大賞を受賞している当作品。映画化もされている作品ですが、映画よりも小説の方が怖い、と評判です。映像を凌駕するリアルな描写の数々には思わず脱帽です。
人が自らの欲望に身を任せてしまったらどうなってしまうのか。そんな人間の狂気性・猟奇性を垣間見ることのできる一冊です。
主人公の榎本径は防犯プロフェッショナルで、「F&Fセキュリティショップ」の経営者。しかし、この榎本の本業はなんと泥棒なのです。自らの防犯テクニックを逆手にとり、盗みを働く現代の大泥棒。彼には、盗みはするが絶対に殺人は犯さないという、少々都合のいい自分ルールがありました。
そんな榎本の相棒は弁護士の青砥純子。どこか天然の気があって大胆な発想を持つ彼女と、冷静沈着で論理的な頭脳を持つ榎本のコンビは、謎に包まれた密室殺人事件を次々と暴いていきます。
- 著者
- 貴志 祐介
- 出版日
シリーズとしては、「硝子のハンマー」「狐火の家」「鍵のかかった部屋」と続いていきます。天然だが時に鋭い推理をする純子と、論理的で詰将棋のようにひとつひとつ謎を解いていく榎本のやり取りは、貴志作品の中でもめずらしくコメディ要素の強い物語となっています。
「泥棒は許すが殺人は許さない」というポリシーを持つ榎本が最後に犯人を追い詰めるシーンなどは圧巻です。心理描写の少ない作品ですが、それだけにミステリーの要素が洗練されています。
以上、4点の異なったジャンルの作品をご紹介いたしました。どの作品も、物語が進むごとに点と点がつながってゆき、最終的にすべてが線で結ばれるという爽快感があるものです。この機会にぜひ一読してみてください。