司馬遼太郎というと作品を読んだことのない方の中には難しそうと思う方もいるかもしれませんが、そんなことはありません。歴史小説入門としてこれ以上ふさわない作家はいないと言えるでしょう。
近代日本の荒くれ者、新選組。今でこそ権力に立ち向かう彼らの姿は人気を博していますが、この人気の立役者が司馬遼太郎だったことはご存知ですか?司馬は彼らの姿に美学を感じ、それを文章にして世の中に広めることで新選組の世間の評価が変わっていったそうです。
そんな歴史小説の大家・司馬遼太郎の著作は新選組に関するものだけではありません。歴史小説というとなんとなく重いイメージもあるものですが、彼の文体は会話主体で進められるものが多く、非常に読みやすいです。これを機に、歴史小説の世界に踏み込んでみてはいかがでしょうか。
※ちなみに、史実に忠実なもの歴史小説、史実をアレンジしているものを時代小説といいます。
数多くの素晴らしい時代小説を遺し、歴史とともに生きた作家・司馬遼太郎が、21世紀を生きる子供たちに向けて送るメッセージ『二十一世紀に生きる君たちへ』。小学校高学年の、国語の教科書にも掲載された本作は、表題作の『二十一世紀に生きる君たちへ』と『洪庵のたいまつ』の2つが収録されています。
「私には二十一世紀のことなど、とても予測できない。」とし、それでもいつの時代も変わることのない、人が生きていく上で、大切にしなければいけない心構えがあるのだと司馬は言います。「科学と技術がいくら発達しても、それが人間をのみこんでしまってはならない。」という言葉には、どきりとさせられ、「自分にきびしく、相手にはやさしく」という言葉には、背筋の伸びる思いがします。
- 著者
- 司馬 遼太郎 (しば りょうたろう)
- 出版日
- 2001-02-12
「『未来』という町角で、私が君たちを呼びとめることができたら、どんなにいいだろう」と綴る司馬。もしも町角で出会い、「二十一世紀とは、どんな世の中でしょう」と聞かれたとき、私たちはなんと答えたら良いものでしょう。二十一世紀をもっと良くしていくために、私たち1人1人に何ができるのか、ということを考えさせられます。
子供たちに向けて、分かりやすい文章で綴られていますが、大人にもぜひ読んでいただきたい作品です。厳しくも温かい、司馬遼太郎からのメッセージに、心が熱くなることでしょう。短い文章の中に、子供たちに伝えたい司馬の想いが凝縮された、渾身の一冊になっています。
中国の「史記」に記された内容をもとに、司馬遼太郎独自の、時代考察を加えて描かれた長編小説『項羽と劉邦』。政権争いのため戦うことになる、全くタイプの異なる2人のリーダーの姿が、全3巻に渡って濃密に描かれた作品です。
舞台となるのは紀元前3世紀の中国。中国を統一していた、秦の始皇帝がなくなり、息子が皇帝を引き継ぎますが、国は次第に乱れ、反乱軍の活動が活発になっていました。
そんな中抜群の軍事力を持ち、頭角を現したのが、項梁とその甥の項羽です。そして、その他多くの将軍の中には、後に中国を統一し、漢帝国を築くことになる男、劉邦の姿があったのです。
項羽は、腕力のある大男です。軍の采配に長け、優れたリーダーシップを発揮し、戦では負け知らず。自分に厳しく、部下にも厳しい勇敢な男で、敵に対する残忍な行為も厭いません。一方の劉邦は、これといってなんの取り柄もなく臆病で、項羽を恐れ逃げてばかり。それでも唯一持っていた才能は、優秀な人間を惹きつける力です。劉邦の周りは、彼を慕い様々な才能の持ち主が集まってくるのです。
- 著者
- 司馬 遼太郎
- 出版日
- 1984-09-27
真逆な個性を持つ2人のリーダーが、中国統一を目指し戦う、という壮大なストーリーになっています。主人公の2人だけでなく、周りを固めるキャラクターたちも個性的で、絶妙な存在感を放っています。登場人物1人1人について細かく丁寧に描写され、歴史の中に確かに存在していた人物たちの、考えや感情が手に取るように伝わってくるでしょう。
ピンチの時にも陽気さが漂い、憎めないキャラクターの劉邦が、人望を集め軍の力を強くしていく様子には、人々をまとめるにあたって、何が必要なのかを考えさせられます。中国の歴史に興味があり、「三国志」などが好きな方であれば、夢中になって読み進められるこの作品。ストーリー展開が面白いので、中国の歴史小説が初めての方でも充分に楽しめるでしょう。司馬遼太郎が唯一の中国古典を描いた作品です。その世界観に、ぜひひたってみてはいかがでしょうか。
歴史上最大の合戦と言われる「関ヶ原の戦い」を軸に、当時の武将たちの人間模様を、司馬遼太郎が濃密に描く『関ヶ原』。全3巻からなるこの大作は、岡田准一主演で映画化が決定し、2017年8月公開予定とあって、注目が集まっています。
戦国時代もいよいよ終盤。豊臣秀吉亡きあと、未だ戦乱の続く状態の中、行動を起こしたのは徳川家康です。様々な策を講じて、徐々に支配力を高めていく家康ですが、それを阻止しようとするのが、豊臣家に忠誠を誓う男・石田三成。物語はこの2人を軸に、天下分け目の「関ヶ原の戦い」がどのようにして開戦され、どのような結末を迎えたのかが描かれます。
たった1日で決着がついた、という「関ヶ原の戦い」ですが、そこに至るまでの経緯には、双方の様々な策略と人間ドラマが複雑に絡まりあっています。司馬遼太郎の今作では、その経緯やお互いの心情が巧みな文章で描かれ、歴史を詳しく学べるのと同時に、そのストーリー展開に心を強く惹きつけられます。
- 著者
- 司馬 遼太郎
- 出版日
- 1974-06-24
魅力的なのは、西軍の大将・石田三成。この作品を読んで、石田三成が好きになった、という方は多くいることでしょう。多くの武将から嫌われていた三成ですが、豊臣家のことを誰よりも考え、最後まで果敢に戦った彼の姿には、胸が熱くなります。三成の周りを固める登場人物たちも、とても魅力的に描かれ、歴史の中で、あまりスポットが当たることのない、“敗者たち”の散っていく姿に目頭が熱くなります。
歴史のロマンが詰まったこの一作。司馬遼太郎を読んだことがないという方でも、充分楽しんで読むことができるでしょう。歴史に名を残した男たちの、壮大な人間ドラマに触れてみてはいかがでしょうか。
越後長岡藩の家老・河井継之助を主人公に、幕末の動乱を描いた長編小説『峠』。上・中・下の3巻からなるこの作品は、時代の流れに翻弄され、望まぬ戦争を戦うことになる、才ある武士の生涯の姿が描かれています。
時は幕末。若い時から日本のあちこちを放浪し、日本の姿を見てきた継之助は、時代の流れを敏感に感じ取り、早くから武士の時代が終わることを予期していました。決して家柄が良いとは言えませんが、自分がやがて家老となり、藩を率いていくことになるだろうとも考えています。先を見通す力に、とにかく長けていた継之助の予想通り、大政奉還によって幕府はなくなり、継之助は家老まで登り詰めることになるのです。
迎えた戊辰戦争。河井継之助率いる長岡藩は、新政府軍にも幕府軍にもつかず、中立な立場である一藩独立を目指すことを決意するのでした。
- 著者
- 司馬 遼太郎
- 出版日
幕末の明治維新といえば、坂本竜馬や西郷隆盛、新撰組などが真っ先に思い浮かびます。そうした歴史上の人物や組織と比べると、非常に影の薄い河井継之助。ですが、この作品を読んでいると、その人並外れた行動力や、優れた先見の明に驚かされ、こんな有能な侍が隠れていたのかと、認識を改めることでしょう。
なんとか戦争を回避しようと奮闘するも、悲しいほど時代に流されていく様子には胸が痛みます。志を常に高く持ち、藩の民のことを思い、全力を尽くした幕末の武士・河井継之助。彼の選択が正しかったのかはわかりませんが、そのかっこいい生き様と、切なさの漂う結末には、本当に引き込まれます。幕末という時代に思いを馳せ、深く考えさせられる司馬遼太郎の傑作時代小説です。
2人の戦国武将、斎藤道三と織田信長を主人公に置き、戦国時代の世を軽快なタッチで描いた司馬遼太郎の長編小説『国盗り物語』。全4巻からなるこの作品は、前半の主人公が斎藤道三、後半の主人公が織田信長となっていますが、この2人の物語を繋ぐ重要な人物として、明智光秀の姿も魅力的に描かれています。
世はまさに下剋上の時代。後に斎藤道三となる庄九郎は、野心の塊のような男です。持ち前の行動力と計算高さを活かし、どんどんのし上がっていき、やがて“美濃の蝮”と呼ばれ、恐れられるほどの戦国大名・斎藤道三へと成長するのですが、その様子がたいへんスリリングで面白く、テンポよく描かれています。
- 著者
- 司馬 遼太郎
- 出版日
- 1971-12-02
斎藤道三の家臣の中には、当時明智光秀がいました。そして、斎藤道三の娘・濃姫は織田信長のもとへと嫁ぐことになります。こうして3人の男の人生が、緩やかに絡み合い、信長がめきめきと頭角をあらわしはじめた頃から、物語はさらに加速して面白くなっていくのです。
何と言っても、ともに斎藤道三に影響を受けた、光秀と信長の、真逆の性格が印象深いものになっています。影の主役とも言える明智光秀から見た、織田信長の型破りな姿には興味をそそられ、どうにも噛み合わない2人の様子には、やがて訪れる「本能寺の変」を、予感させるものがあります。
明智光秀といえば、“裏切り者”のイメージがすっかり定着してしまっていますが、この作品を読むと、とても真面目で賢い人物だったことがわかります。光秀の抱いていた苦悩も知ることができるでしょう。
時代小説で、特に描かれることの多い戦国時代。明智光秀の意外な魅力を感じることができ、お馴染みの武将たちも続々と登場する、読み応え充分な物語です。歴史の勉強にもなる司馬遼太郎の作品なので、この時代に詳しくない方も、挑戦してみてはいかがでしょうか。
新選組の組員たちを描いた短編集となっています。そのいくつかは実写化・演劇化もされていて、見る人読む人の心をつかんでやみません。
構成としては全15編で、作者のお気に入りは沖田総司だと思われます。そこで、ここでは沖田のエピソードにスポットを当てて紹介いたします。
- 著者
- 司馬 遼太郎
- 出版日
- 2003-11-22
「沖田総司の恋」
結核を患った沖田が、医者としてきた娘に惚れてしまう……という恋愛物になっています。新選組×淡い恋物語、とはなんだかギャップがありますが、まっすぐな恋心を持ち続ける沖田の姿に甘酸っぱい気持ちにさせられるお話です。
「菊一文字」
沖田はよく通っている刀屋で名匠一文字宗則の刀・菊一文字に出会います。ひょんなことから普通であれば持てないような名刀を手にする沖田でしたが、彼とその名刀の運命やいかに・・・。
もちろん、沖田総司以外にも色々な人物を取り上げたお話が盛り込まれています。手広く手っ取り早く新選組、司馬遼太郎の世界を知るにはとてもおすすめの一冊です。
「坂の上の雲」というタイトルには、『雲の上のような存在である欧米列強に追いつき追い越すべく、坂を駆け上がるように日夜奮闘する男たちの姿・・・』という想いが込められています。
時代は明治後期。鎖国体制を廃止した日本は、世界の広さを痛感するようになります。欧米の国々の進出と、対する日本の出遅れを目の当たりにしたのでした。次第に日本はその狭い島国を出て、諸外国との戦争に明け暮れるようになっていくのです。
物語の鍵を握るのは、3人の日本男児。貧乏ゆえ、お金をかけることなく陸軍の騎兵学校に入学することになった秋山好古。好古の弟であり、海戦戦術を極めることになる秋山真之。そして、文学の道からこの激動の諸相を見つめた正岡子規。
明治38年、日本海にロシア軍のバルチック艦隊が姿を現します。いよいよ切って落とされる戦いの火蓋。3人の運命やいかに-。
- 著者
- 司馬 遼太郎
- 出版日
- 1999-01-10
司馬遼太郎の他の作品に比べると登場人物がマイナーな感じがしますが、それだけに作者の歴史への造詣の深さを味わうことができる一冊です。また、戦争の最前線に立つ者とそこから一歩引いて違った角度から時代を見る者という構図は、他の作品と一線を画す点です。
俗に司馬史観と呼ばれる司馬遼太郎の歴史観(日露戦争など明治期の日本に対する肯定)が最も色濃く表れている作品であり、歴史小説ファンであれば避けては通れぬ作品のひとつと言えるでしょう。
幕末の立役者、坂本竜馬を主人公とした物語です。
司馬の作品全体にわたって言えることだと思いますが、彼の小説は登場人物の人間性に強くスポットが当てられたものが多いです。この本も例外ではありません。
幼いころには頼りなかった竜馬が、19歳の時に剣術修行で江戸へ旅立っていくことから物語は動き始めます。不器用ながらも人に対してまっすぐな関心と優しさを向ける竜馬のもとには、様々な人物が集うようになります。明治維新に関わることになる同志などから、親の仇討ち、泥棒など、色々な背景を持つ人物とのやり取りを通して、竜馬は日本を変えていくことになります。
- 著者
- 司馬 遼太郎
- 出版日
- 1998-09-10
坂本竜馬といえば大変有名で知らない人は少ないと思いますが、彼の人となりまでよく知っている人は少ないのではないでしょうか。この本はそんな実はよく知らない竜馬のことがとてもよく分かる作品となっています。
天真爛漫な竜馬と登場人物との会話は軽快で、ページをめくる手が止まりません。豪胆で時に繊細な竜馬の世界観にどっぷりと浸かってみてください。
この2人は師弟関係にあるのですが、その性格は全然違います。師・吉田松陰の性格は極めてストイック。不器用かつ愚直で、いったん信じた事はけして疑わないところがありました。尊王攘夷思想の持ち主で討幕を企てますが、結局軟禁されることに。しかし、囚われの身でありながらも設立した私塾「松下村塾」で優秀な弟子を育てることになります。
その弟子の1人が高杉晋作です。師の松陰とは違い、高過ぎは遊び人でした。器用であらゆる物事に長けていたのですが、信念を守る強さと行動力は松陰に通ずるものがありました。欧米列強と日本の力の差をまざまざと感じさせられた高杉は、討幕への決意を固めます。
- 著者
- 司馬 遼太郎
- 出版日
- 2003-03-10
物語は前半と後半に分かれ、前半部では松陰の活躍から死罪に処されるまで、後半部では跡を継ぐ形で討幕へと突き進んでゆく高杉の姿が描かれています。そこには古きよき義理人情、師弟の絆を感じさせられます。
表題の「世に棲む日日」は、高杉の辞世の句である「おもしろくなき世の中をおもしろく」に由来するそうです。この言葉を口にするまでに高杉に何があったのか、それを知ることでこの言葉をより深く理解することができるでしょう。
「竜馬がゆく」とはまた違った視点で、明治前後の日本を捉えることができる小説です。
1位は「燃えよ剣」、こちらも幕末の小説。主人公は新選組の副長であった土方歳三です。
土方は百姓のせがれとして、武士世界とは程遠い世界に生まれ落ちました。しかし喧嘩にめっぽう強く、厳しい生活から反骨精神を養った土方はやがて、新選組に加わるようになります。そして、素人同然の集団であった新選組を幕末随一の剣豪集団にまで昇華させるほどの先導力を発揮しました。
- 著者
- 司馬 遼太郎
- 出版日
底辺から力で登りつめた土方には、竜馬や高杉のような人当たりのよさ、柔和な感じはありません。ひたすら何事にも厳しく、冷徹なまでの人間性が彼の性分です。しかし、その頑ななまでの芯の強さは、かえってこの人物と物語の華麗ささえ感じさせます。漢・土方歳三の生き様には、ある種の美学があるのでしょう。
また、全体的に司馬遼太郎の作品は巻数の多いことがよくありますが、当作品は上下巻で比較的手軽に読める点が人気の秘密でしょう。そうしたことから、初めて読む方でも気軽に読み始められる入門として第1位に輝いています。
以上、司馬遼太郎を初めて読む方に向けて、代表作のおすすめをご紹介しましたがいかがでしたでしょうか。激動のさなかであった近代日本には様々な人達の想いが折り重なって、重厚なロマンが詰まっています。これを機に、司馬遼太郎の歴史文学の世界を味わってみませんか。