「ヒロアカ」でお馴染みの『僕のヒーローアカデミア』。登場する人物は素晴らしいヒーローばかりですが、我々を魅了するスーパーヒーローはそれだけに留まりません。今回はヒーロー漫画に焦点を当てて、おすすめの5作品をご紹介していきます。
物語から遡ること3年前、ひとりの青年が就職活動に勤しんでいました。惰性で無気力に生きていた彼は、子供を狙う怪人とたまたま遭遇したことで、幼い頃の夢を思い出します。彼は、世の中の悪者をぶちのめす、正義のヒーローになりたかったのです。
そして現在。あれから世の中には怪人が溢れ、そこかしこでヒーローが活動していました。そのなかに、コスチュームに身を包んだあの時の青年もいたのです。どんな強敵も一撃(ワンパン)でやっつける、その名も無敵のヒーロー「サイタマ」。
あまりにも強すぎてあっというまに事件が片付いてしまい、知名度が恐ろしく低いのが彼の悩みです。
- 著者
- 村田 雄介
- 出版日
- 2012-12-04
本作は2012年からWEBコミックサイト「となりのヤングジャンプ」で連載されている、ONE原作、村田雄介作画の作品。元々は同タイトルでONEがネット投稿していたものをベースに、商業化されました。
サイタマのコスチュームと容姿は、色違いとはいえ一見して「そのまんま」なのは大丈夫なのでしょうか……思わず心配になってしまいます。タイトルからおわかりでしょうが、国民的菓子パンヒーローのパロディになっているのは間違いありません。そこから察することができるように、本作は基本的にはギャグ漫画となっています。
注目すべきはサイタマというキャラクターでしょう。主人公なのに、他のキャラに比べて明らかに手抜き……もとい描線がヘロヘロで、ちっとも強そうではありません。作画担当の村田は、男性は力強く、女性はセクシーに表現する優れた描き手で、サイタマ以外はその手腕をいかんなく発揮しています。ヒロアカのオールマイトとはまったく異なる意味で、画風が違うキャラです。
そんなサイタマですが、彼が1度動けば、向かうところ敵なし。文字通り、一騎当千なのです。
本作には敵味方ともに強力なヒーローやモンスターが登場します。彼らは死闘をくり広げ、作画入魂の緻密にしてど派手なアクションが展開されます。手に汗握る激闘の数々、そしてそこに訪れる絶体絶命のピンチ!……を、サイタマはあっさりワンパンで決着させてしまうのです。
当初は1話完結の勧善懲悪スタイルでしたが、連載が進むに従って、味方にヒーロー協会、敵方には怪人協会が現れ、ストーリー性が増していきます。敵味方それぞれに個性豊かなキャラクターたちが増えていくるのです。
しかし、どんな強ヒーローがどれだけ手こずったとしても、最後に決めるのは、ゆるいハゲ坊主のサイタマ。シリアスな緊張を絶妙なゆるさで断ち切るのが彼の魅力です。そのギャップによる面白さは、他の作品では見ることができません。
西暦2XXX年。人類社会はあらゆる困難を乗り越えて発展してきました。たとえば長引く不況、経済危機、金融危機……人類の発展はビジネスの発展と言っても過言ではないのです。そんななか、近年とある企業の業種が、目覚ましい活躍を遂げていました。
それは、「ヒーローカンパニー」社の正義の味方です。事故でも、事件でも、急病でも駆けつけてくれます。困ったことを解決してくれた彼らが、すかさず書類を取り出して要求するのは、サインか捺印。正義の対価に必要なのは領収書なのです。ヒーローは超が付くほど事務的で、現実的なのでした。
職業ヒーローが注目される世の中で、主人公のアマノ・ギンガはヒーローを志望し、青臭い正義感のままシビアな世界に飛び込んでいきます。
- 著者
- 島本 和彦
- 出版日
- 2012-09-05
本作は2011年から「月刊ヒーローズ」で連載中の島本和彦の作品。アニメ特撮にこだわりのある島本による、変身ヒーローのお約束をパロった漫画となっています。
しかし、単にパロディに終始しないのが島本節です。実際にヒーローがいる社会について、鋭く斬り込んでいます。
架空の企業、ヒーローカンパニーでの出来事が物語の中心です。同社の社員であるヒーローが、事務方から回されてくる仕事を適性別で引き受け、出動します。出動対象は事件や事故に限らず、なんでも屋的な警察か消防みたいなものと考えればよいでしょう。
面白いのが、このヒーローカンパニーが公的行政機関ではなく、一般企業であるということです。やっていることは人助けなのに、要所要所は実にビジネスライク。ヒーローであっても割の良くないことはしたくない、時間外の事件には関わらないなど、驚きの連続です。
しかもヒーローカンパニーの敵となる悪役たちも、悪の企業に所属するサラリーマンなのです。お互いにそんな身分なので、戦闘も無駄に被害を出さないようにおこない、対決もなあなあになりがち……いわゆるヒーローモノのお約束展開を痛快にパロっています。
そして、そんな職業ヒーローが当たり前の世界に登場するのが、典型的な正義の味方気質で島本特有の熱血キャラである、アマノ・ギンガです。彼の個人的嗜好と世間とのギャップが面白おかしく、ヒロアカとはまたひと味違う、ヒーローが日常にいる社会が見事に描かれています。
クラーク・ケントは普通の人と同じように成長し、普通の人と同じように暮らす男性です。しかし、彼は普通ではありませんでした。空を飛び、透視を可能とし、あらゆる物体を燃やす……彼は地上に生きる、神にも等しい超人だったのです。
クラークはやろうと思えばなんでもできましたが、そんな自分に価値を見出すことができません。
都会へ出て自分探しをするクラーク。そんな時、異星人の侵略者が地球を襲います。
その侵略者は、クラークの正体である「クリプトン星人」の母星を滅ぼした者たちでした。失われた故郷と同じ運命を地球が辿りそうになったその時、「地球人」であるクラーク・ケントは……。
- 著者
- J・マイケル・ストラジンスキー
- 出版日
- 2013-03-23
本作は2010年からDCコミックスの「アースワン」シリーズのスーパーマン編として発表されている、J・マイケル・ストラジンスキー原作、シェーン・デイビス作画の作品。ストラジンスキーはコミック版『アメイジング・スパイダーマン』の原作者で、「アメコミ界のアカデミー賞」といわれるアイズナー賞を受賞したこともある人気ライターです。
スーパーマンとは、誰もが知るスーパーヒーローの代名詞。ヒーローの象徴と言っても過言ではありません。その初出は1938年というのだから驚きです。本作はそんなスーパーマンのリメイクとなっています。
アメコミでは原作と作画の分業が進んでおり、同じタイトルでも日々膨大なシリーズ、物語、設定が生産されています。それら肥大化した設定を白紙に戻し再スタートさせるのが、いわゆる「リブート」(再始動)というもの。DCコミックスは2011年に連載中の全作品を終了させ、全タイトルをリブートさせる「ニュー52」という大がかりな刷新を行いました。
本作はそのニュー52とも少し違って、語り尽くされたヒーロー譚を現代的解釈でリメイク(再構築)した「アースワン」シリーズの一角です。まったく新しい物語のリブートに対して、オリジナルの原型を残すのがリメイクです。
誰もが知るスーパーヒーロー、スーパーマンに悩める現代青年のペルソナを与え、現代社会の様相と対比しつつ、己の存在を見つめて使命に目覚める様子を描いていきます。新世界のスーパーマンのオリジン(起源)と言っていいでしょう。
最古のヒーローのアイコンのもとに描き出される「アースワン」という新たな世界、新たな時代のヒーロー像の物語です。
警察や国家を相手どり、世界中で悪逆をくり広げる男がいました。その手段は非道そのもの。ターゲットは有能な警官ばかりで、たったひとりを仕留めるために高層ビルを爆破し、無関係の市民を巻き込むことを一切躊躇しない外道です。人知を越えた暴力と圧倒的資金力を背景とするその活動に、当局は後手に回り続けていました。
男は世界の敵、スーパーヴィラン「ネメシス」。彼が次に獲物として選んだのは、アメリカのブレイク・モロウ本部長でした。ネメシスに挑まれたブレイクは、ヴィランの凶行を食い止めることができるのか……!
- 著者
- マーク・ミラー
- 出版日
- 2015-04-22
本作は2010年から発表されたマーク・ミラー原作、スティーブ・マクニーブン作画の作品。日本では2015年に小学館のアメコミ出版部門、ShoPro Booksから発売されています。
マーク・ミラーといえば、マーベルの数々の作品を手がけ、自身のオリジナル作品『キック・アス』や『キングスマン』を生み出したヒットメーカーです。そのパートナーとなるスティーブ・マクニーブンは、ヒーローチーム「アベンジャーズ」の内紛を描いた『シビル・ウォー』を手掛けた実力派。この強烈なタッグで、凡作となるはずがありません。
本作のコンセプトをひと言で表すならば、「善玉バットマンの人格が、悪玉ジョーカーだとしたら?」というものです。バットマンの実力と財力に、ジョーカーの悪魔の頭脳と計画。そんなものがいたとしたら、最大最悪のスーパーヴィランになることは疑う余地がありませんよね。
本作に登場する悪役、ネメシスが、まさにその悪夢が具現化した姿なのです。彼が狂気の行動で人々に恐怖を振りまいていきます。そこにはなんの正義もありません。悪役が主人公で、正義の味方たる警察ブレイクが敵という、通常のヒーローモノとは逆転した構図です。
一貫して狂気にまみれたネメシスの言動は、「ヒロアカ」の死柄木弔のそれを連想させます。
ネメシスの凶行の目的や、彼がブレイクにこだわる理由は何なのでしょうか。死力を尽くす2人の男の戦いです。
1930年代にヒーローが誕生した影響で、我々が知るものとは異なる歴史を歩む世界がありました。時は1985年10月、米ソ冷戦の緊張が最高潮に高まった時代です。
政府公認ヒーローのひとりである「コメディアン」の死で物語は幕を上げます。非公式でヒーロー活動をおこなう男「ロールシャッハ」ことウォルター・コバックスは、かつての仲間の死に様に不審なものを感じていました。
そして彼は、コメディアンの一件は偶発的なものではなく、ヒーローを直接狙った殺人事件だと推察します。独自に調査を進めるロールシャッハ。事態は彼の予測を超えて、史上類を見ない恐るべき展開をしていくのです……。
- 著者
- アラン・ムーア
- 出版日
- 2009-02-28
本作は1986年にDCコミックスから発表されたアラン・ムーア原作、デイブ・ギボンズ作画の作品。日本では翻訳版が長らく絶版となっていましたが、2009年にShoPro Booksから再版されました。同時期に実写映画も公開されています。
本作の評価は国内外を問わず非常に高く、アイズナー賞やSFの権威であるヒューゴー賞だけでなく、かの「TIME誌」によって長編小説ベスト100にも選出されたほどです。
物語の舞台となる世界は、ヒーローが自警活動をおこなうパラレルワールドとなっています。ただし、劇中時間ではすでにキーン条例というヒーロー規制法が施行されており、政府公認ヒーロー以外の活動は禁止状態です。
米ソ冷戦、核戦争の危機という連載時期の時勢を反映して、本編も非常に終末感漂う暗めの内容となっています。実際に作中では、核戦争1歩手前という状況です。
この世界のヒーローはすべて、特殊能力を持たないただの人間ばかり。極論すればコスプレ自警団と言ったところでしょう。例外なのは、核実験事故で存在が変異してしまったDr.マンハッタンだけです。
物語には3人の超人が登場します。1人目は先ほど述べた、限りなく神に近い全知全能の「本物の超人」Dr.マンハッタン。2人目は比類なき財力と行動の「超人的頭脳」オジマンディアス。そして3人目が、本作の狂言回しにして主人公、決して揺るがない絶対的正義を持った「精神的超人」ロールシャッハです。
特にロールシャッハの人気は絶大。彼は自身の正義を確立しており、それに反することは一切許容しません。妥協なき信念の男なのです。正義を貫くためにはあらゆる違法行為に手を染めることを厭わない、ある種の狂人でもあります。
手段を問わない正義のキャラクターとしては、「ヒロアカ」に登場した反英雄的ヴィラン、ステインの原点に当たるでしょう。他にも、ヒロアカのスピンオフ『ヴィジランテ』主要人物のひとり、ナックルダスターの印象とも重なります。自己中心的な正義、能力を持たないのに自発的に戦う、というところが共通点です。
コメディアンの死に端を発する、元ヒーローの周辺で起こる異変。それは巨大な陰謀の一部でした。刻一刻と迫る核戦争による終末で、ヒーローの、そして世界の運命やいかに……。アメコミ史上最高傑作の呼び声も高い本作の結末は、ぜひご自分でお確かめください。
いかがでしたか?「ヒロアカ」がヒーローの構造に切り込んでいたり、アメコミに強い影響を受けていたりすることから、今回はこれらのタイトルをご紹介しました。しかし、ヒーローと言えば日本にもウルトラマンや仮面ライダーがいます。前者なら『ULTRAMAN』、後者は『仮面ライダーSPIRITS』や『風都探偵』など。そもそも本を正せば、仮面ライダーは漫画家石ノ森章太郎が生み出したものなわけで……。まだまだ語り尽くせませんが、いずれこれらの作品も別の機会にご紹介できればと思います。