『ぼくらのへんたい』が無料!切なくて泣ける隠れた名作を全巻ネタバレ紹介!

更新:2017.10.22

女装を共通点とするパロウ、まりか、ユイの3人。彼らの心の闇と葛藤を描いた『ぼくらのへんたい』を、ネタバレ含めて全巻紹介していきます。スマホの漫画アプリで無料で読むことができますよ。

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『ぼくらのへんたい』が無料!ジェンダーを描ききった名作を全巻ネタバレ紹介!

著者
ふみふみこ
出版日
2012-08-10

 

男を好きになり、男として女装を始めたパロウ。自分は女の子で、いつかお姫様になるんだと夢見るまりか。母のために自分を捨て、死んだ姉を演じ続けるユイ。

「女装」という共通点を持った3人が出会い、恋をし、前向きに成長していくさまを描いた作品です。

それぞれが胸に秘めた思いや葛藤を抱き、恋のライバルの出現や同級生たちからの心ない言葉にも負けずに、しっかりと自分らしく生きていくようになります。

彼らに勇気をもらえること間違いなしの『ぼくらのへんたい』の魅力を全巻紹介していきます。ネタバレも含みますので、未読の方はご注意ください。

 

『ぼくらのへんたい』で3人の少年は大人になっていく【あらすじ】

『ぼくらのへんたい』で3人の少年は大人になっていく【あらすじ】
出典:『ぼくらのへんたい』1巻

とあるインターネットサイトで知りあい、「オフ会」と称して会ってみたことが3人の出会いでした。

「女装をしている」という点では同じだけれど、その理由も性格もまったく違う、パロウ、まりか、ユイ。

3人の中で芽生える複雑な恋愛感情と、それに振り回される彼らの葛藤が描かれます。

また、幼馴染や学校の同級生、「女装」に理解を示す人や理解できない人などさまざまな人たちとの関わることで、彼らは悩み、苦しんで、大きく成長していくのです。

『ぼくらのへんたい』女装男子 ①まりか

『ぼくらのへんたい』女装男子 ①まりか
出典:『ぼくらのへんたい』1巻

本作では4人ほど女装をする少年が登場しますが、その中でも、性同一性障害という自分の特徴に苦しみ続けたのがまりかです。中学生の少年で、本名は青木裕太といいます。

もともと見た目が少女のようで、女装をしていても違和感のない彼。幼い頃から自分は女の子であると思っていて、普段の姿のほうを男装だと感じていました。

性格はかなり乙女チックで、たびたび脳内では、お花畑にいるかのようなロマンチックな妄想を膨らませています。しかしそれは単なる空想遊びではなく、自分の成長していく男としての体や、周囲からの男性として振舞って欲しいという圧力のようなものから避難するための彼女なりの防御策にも思えるものです。

自分の性をどうとらえていくのか、折り合いをつけていく様子を見守りたい人物です。

『ぼくらのへんたい』女装男子②ユイ

『ぼくらのへんたい』女装男子②ユイ
出典:『ぼくらのへんたい』1巻

もともと顔が整っていて、女の子として違和感がないほど馴染んでいるのがユイ。本名は木島亮介と言い、物語の途中で彼女をつくるなど、恋愛対象は女性です。やや気性が荒く、人に強く当たってしまうこともある性格で、「男の子らしい」とも言えるかもしれません。

そんな彼が女装をしている理由は、姉・唯が亡くなってしまったことにありました。精神的に不安定になってしまった母親が、いつも亮介としては存在を認めてくれず、唯として女装しなければ無視するような態度をとるのです。

そのせいか亮介自身も精神的に追い詰められ、自分の存在価値に疑問を持ってしまいます。家で女装している時など、唯の霊が見えてしまうようになり、彼女からの核心を突くような言葉に悩まされているのです。

そんな彼が、姉の死を乗り越え、母とも自分として向き合うようになる姿は読者の胸を熱くさせるものがあります。

『ぼくらのへんたい』女装男子③パロウ

『ぼくらのへんたい』女装男子③パロウ
出典:『ぼくらのへんたい』1巻

メガネをかけていて、年齢よりも大人びて見えるのがパロウ。男としての自分は認めており、恋愛対象が男性という特徴を持った人物で、本名は田村修といいます。

彼の女装のきっかけは、好きな人に女装姿なら付き合ってもいいよ、と言われたことでした。それ以降パロウは女装をしながら彼と性的関係を結びます。

しかしそれはパロウ自身を愛してくれているからではなく、相手からすると歪んだ性欲をただ発散しているだけ。男としての自分を本人は認めているものの、好きな相手からは認めてもらえない、それでも好きな気持ちは変えられないという辛い日々を送ります。

そのときの経験によって変化したパロウは、たびたび性欲に溺れてしまうように。のちにまりかから好意を寄せられたときも、性交渉を求めて襲いかかってしまいます。

友情、愛情、性欲など、さまざまな要素を複雑に絡み合わせてしまうのが彼。最もこじらせているとも言える人物です。

『ぼくらのへんたい』女装男子④トモち

『ぼくらのへんたい』女装男子④トモち
出典:『ぼくらのへんたい』2巻

9話で突然裕太に話しかけてくるのが、一見普通の女子中学生・トモちです。本名は夏目智で、男の子ですが、女装のほうが似合うことから普段はセーラー服を着ています。

女だらけの家庭で育ったこともあり、女装に対してあまり抵抗はない様子の彼。そんな自由な過ごし方をしている彼に、まりかは羨望の眼差しを向けます。

あくまで女装は自分に似合う格好だからという「一般的」には変わっているのかもしれないものの、理屈的には自然な考えで行動する彼。まりかの良き相談相手として活躍する人物です。

まりか、ユイ、パロウ、3人の出会い【1巻ネタバレ注意】

物語は、パロウこと田村修、まりかこと青木裕太、ユイこと木島亮介の出会いから始まります。ネットで知り合った3人は、女装しているという共通点を持っており、「オフ会」と称して対面することになりました。

それぞれ女装をして集まった3人ですが、趣味で女装をしているパロウとまりかに対して、ユイは「気持ち悪い」と言い放ち、オフ会を途中で抜けてしまいます。なぜならユイは、好きで女装をしているわけではなく、姉が死んだことを受け入れられない母のために自分を捨てて女装をしているからでした。

しかし数日後、彼の在学する中学校にまりかが入学してきて、さらにパロウから連絡があったことで、3人は再び集まることとなるのです。

著者
ふみふみこ
出版日
2012-08-10

ユイは普段は「亮介」として生活していますが、家に帰ると女装をし、母とは亡くなった姉・唯として接しています。女装をしている間は死んだはずの姉が見え、さらには彼女と会話もできるです。

パロウは、好きになった男の先輩に、「女装をするなら付き合ってもいい」と言われ、そうしていると告白しました。2人はこれまで誰にも言えずにいた思いを口にし、理解し合える関係となります。

そしてその後も女装の情報交換のために、まりかの家で集まることとなりました。

3人の関係が始まる1巻では、それぞれがおそるおそるこの新しい関係を築いていく様子が伺えます。彼らは今まで自分の悩み、女装にまつわる秘密をほとんど誰にも打ち明けられずにいました。

そんな折に同じような苦しみを抱えた、いわば同志のような相手に出会い、会ったばかりとはいえ、そこにある種の安らぎのようなものを見つけるのです。

しかしまりかはもともと性格がまっすぐなため、この関係を素直に喜びますが、その他のふたりは腹に一物抱えています。

ユイは女装をするなんて変だという世間の目と家庭での習慣に悩んできたので、自ら進んで女装をするふたりに奇妙なものを感じており、パロウは一筋縄ではいかない人物なので、この関係にものめり込まないように斜に構えて見ているところがあるのです。

不安定ながら物語の火蓋が切って落とされた1巻。3人の恐々とした関係の始まりに読者も感化される内容です。

3人の恋と、まりかの夢が終わる時【2巻ネタバレ注意】

2巻では、お互いを理解しあった3人の関係がいとも簡単に崩れ落ちてしまいます。その理由は、まりかがパロウに恋をしたことがきっかけでした。

パロウは己の性欲を満たすため、自分に好意があると知った途端まりかに襲いかかろうとします。嫌がるまりかとそれを無視するパロウ。その光景を目撃したユイはすぐに状況を理解し、パロウを殴り、責めたてます。

その日から、パロウはまりかの家に来なくなりました。

しかしまりかは、そんなことをされてもパロウを好きだと言います。ユイはまりかを傷つけたパロウを許せません。一方のパロウも、自分の勝手な行動でまりかを傷つけたと涙を流すのです。

著者
ふみ ふみこ
出版日
2013-01-12

そこからまりかはパロウに、パロウはユイに、ユイはまりかに恋をするという切ない展開がなされていきます。

やっと理解してくれる相手に出会ったと思ったものの、その安息の地はすぐに姿を変えてしまうのです。

そしてさらに3巻で衝撃的なのが、まりかの空想が終わりを告げるということ。パロウにいたずらされたことによって、まりかは男性器を触ると気持ちいいという快楽を知ってしまいます。

今まで自分の体が嫌いで邪魔なものがついていると思っていたのですが、その欲には抗えません。でもそれをしてしまうと男性の体に入っていることをまざまざと意識させられる。

精神的に板挟みな状態で自慰行為をしたまりかは、その後からぬいぐるみたちの言葉が聞こえなくなってしまいます。今まで避難場所にしていた空想の世界は、現実の認識によって壊されてしまったのです。

しかもそれを壊したきっかけは大好きな人なのでした。

3人の心境の細かな描写、まりかの夢の終わりなど、切ない展開が続きます。ちなみにトモちは2巻から登場。まだこの時点ではつかみどころのないキャラにも思えますが、彼の飄々とした様子が今後まりかを助けることになっていきます。

パロウの過去と、まりかにとっての性別【3巻ネタバレ注意】

3巻ではパロウの過去が明らかになり、さらに重い展開へと続いていきます。

パロウは自身で記憶から消していましたが、近所の女性からの話でそのことを思い出してしまいます。実は彼は幼少期に親しくしていた近所のお兄ちゃんから性的虐待を受けたことがありました。

それも今の恋人との関係のように、女装をさせられて。

パロウが思い出したのは、おにいちゃんに覆い被さられた状況から見える彼の体と、天井。生々しい記憶に読者まで心が重くなっていきます。

そんな過去から彼自身が性行為へ依存するようになったと思うと、胸が痛みます。しかも彼はまりかにいたずらをした時も、恋人に抱かれている時も、そんな自分への嫌悪感をさらに強めているようにも見えるのです。

著者
ふみ ふみこ
出版日
2013-06-13

一方まりかは辛い思いをしてもパロウを好きでい続けています。

その気持ちと、自慰行為をやめられない自分に辟易とする彼女。自分のことを「覚えたての猿みたい」だと揶揄します。

そんなある日、2巻で登場した女装をした同級生・トモちこと夏目智が現われ、まりかのことを好きだと言ってきます。失恋をしたというまりかに自分と付き合わないのかとも言ってくるのです。

そしてトモちは柔軟すぎる考えゆえに、まりかにまっすぐで、残酷とも言える問いかけをしてきます。「男とか女とかってそんなのどーだってよくない?」、と。

まりかにとってはどうしてもそうは思えません。幼い頃からズボンよりスカートを好み、ぬいぐるみと会話をし、お姫様になることを夢見ていたまりかは、「自分は女である」と思いながら生きてきたのです。

でも成長するにつれて男と女の違いが顕著になり、同時に「自分は男だ」という現実に突き付けられ、ずっとずっと性別というものに悩まされ、入れ物と中身を一緒にしたいとずっと思ってきた彼女。

まりかは「男か女かは私にとってとても大切なことだわ」「私は女装じゃないの。こっちが男装をしているの」とはっきりと告げます。彼女の勇気と、女じゃない自分を責める葛藤に心が動かされます。 

パロウも、まりかも、どちらも幼い頃から性というものに苦しまされ続けた人物だということがさらに明らかになった3巻です。

まりかの闇と告白【4巻ネタバレ注意】

自分はお姫様になれないという現実をつきつけられ、心の闇が深くなっていた頃、まりかはユイとケンカをしてしまいます。ユイにパロウとの関係を言えず、それを知らずにふたりが普通に話していることに人知れず苦いものを溜め続けていたのでしょう。

そんな時に同級生の白河がまりかを「オカマ」だと冷やかしにきました。それを聞いたまりかは静かに、しかし恐ろしい様子で「黙れゴミ」と言い放ちます。

著者
ふみふみこ
出版日
2013-12-13

そして言い合いになり、多くの同級生が野次馬として集まっているなか、まりかは「そうだよ。私はオカマだよ」と告白をするのでした。

そこにまりかの幼馴染で、彼の「性同一性障害」も理解している親友のあかねが駆けつけます。そして「存在がキモい」と白河から罵倒されたまりかの前に立ちふさがり、こう言うのです。

「キモくなんかない。
小さい頃から女の子になりたくて、こんなにも頑張ってる」
(『ぼくらのへんたい』4巻より引用)

まりかのカミングアウトという勇気もさることながら、あかねが泣きながら彼の努力を必死に伝えるさまは、心に沁みるシーンのひとつです。

またまりかの衝撃的な告白に、「全然ありだよね」と同級生たちが理解を示したひと言にも、胸が熱くなるでしょう。まりかの勇気の告白に変わっていく環境に少し安心感を覚えます。

また、そんなまりかにトモちが彼女の存在自体が好きだと告げる場面もきゅんとしてしまうもの。性別など関係ないという考え方は変わっていないようですが、彼なりにまりかを真摯に思っていることが伝わってくる言葉です。

しかしユイはそんなまりかに今までとは異なる距離感のようなものを感じ、寂しい思いをしていたよう。流れで付き合うことになったはっちこと蜂谷とそのまま関係を結んでしまいます。

自分への気持ちが本当にあるのか心配になっていたはっちからすると嬉しい出来事なのかもしれませんが、今後ますます他の子に気があるということを自覚させられて苦しくなってしまうのではないでしょうか……。彼女目線でのエピソードも切なく引き込まれるものなのでぜひご覧ください。

それぞれの苦しみ【5巻ネタバレ注意】

5巻ではそれぞれの苦しみが表出し、さらにドロドロの展開になっていきます。

約1年ぶりにパロウと再会したまりかとユイ。年頃の3人は、自分たちがどんどん男になっていく現実を思い知ります。

その現実を1番強く感じているまりかは、パロウやユイが「まりかはまだ大丈夫。むしろ女の子っぽくなった」と言ったことに対し、つい「私も男だよ」と行き場のない怒りをぶつけてしまいました。

男として成長していることに誰よりも敏感で誰よりも傷ついているからこそ、彼女は怒りを抑えられなかったのでしょう。

著者
ふみふみこ
出版日
2014-02-13

さらにユイに対して、「女装をしても明らかにもうお姉さんとは違う」「ちゃんと唯さんを見ていればお母さんも気付くはずだ」と冷たく言い放つまりか。

それを聞いたユイは「オレのことなんて見てねぇーからこういうことやってんだろうが」と怒りを露わにします。

ユイ自身も、この頃かなり苦しんでいました。 死んだ姉の格好をしていれば母に自分を見てもらえると信じて女装をしていたけれど、母は彼のことなんて見ていなかったのです。

女装をしていても、裸で母の前に立っても、母は彼のことを「ユイちゃん」と呼びます。姉が死んで落ち込む母に元気になってほしいと始めたことが、彼自身を追い込んでいくのです。

一方パロウは、性的虐待を受けていた過去をついに2人に打ち明けました。

恋人にも捨てられた彼の精神は崩壊寸前で、突然笑いだしたり泣き出したり、まりかに暴言を浴びせたりと、狂気にも近いものを感じます。しかし彼はただ、同じように秘密を抱えているまりかとユイに助けてほしかっただけなのです。

性行為に依存してしまう……こうなってしまったのは自分のせいではないと思いながらも、その汚い欲望に飲まれる自身を許せず、そこから救いだしてくれる仲間を求めていました。

さらにこの3人の関係に、亮介(ユイ)が関係を結んでしまったはっちも登場。彼女は今まで切なく、優しい人物として描かれていましたが、まりか目線での彼女は一方的に自分の意思を押し付けてくる身勝手な人物でした。

亮介と上手くいかないから暴走してしまったようですが、これがまりかの思う女性像ならば、あまりに偏っていて悲しいです。

それぞれがそれぞれの理由で苦しみ、その苦しみを理解し合えずまた苦しむ3人に、いたたまれない気持ちになってしまいます。そのうちのひとりであるユイを好きになってしまったはっちのエピソードがさらにその切なさを強くさせていきます。

3人に射す、希望の光【6巻ネタバレ注意】

6巻では3人それぞれに希望の光が射すような展開となりました。

まりかのきっかけは体調を崩し、うまく声を出せなくなったこと。本人は風邪だと思っていたのですが、トモちの家に招かれ彼の家族に指摘されたことで、それが声変わりだと気付きました。

そのことに落ち込むまりかでしたが、トモちの姉に医者を紹介してもらい、今の苦しみを母親にも相談してカウンセリングを受けることに。そしてセーラー服で中学校に通うなど、新たな決意をしていくのです。

成長という、自分の力だけではどうしようもないことを、家族や友人、医者に頼る勇気を出したその姿に勇気をもらえます。今までかなり内にこもった狭い世界での物語でしたが、徐々に広がりを見せていくようです。

著者
ふみふみこ
出版日
2014-08-12

ユイもまた、大人に頼るという決断をしました。母親が精神的に安定せず、もう彼ひとりの力ではどうしようもなくなっていたからです。

姉が死んだことを今でも受け入れず泣きわめく母に、ユイは本来の「亮介」の姿で声をかけるも、「だれだお前」と言われてしまいます。もちろん母親も苦しんでいるのですが、「オレのことなんて見てねぇーから」と母のことを語るユイの心に、どれほど深い傷が刻まれたかと思うと切なくなります。

しかし彼は大人に頼る決断をしたからこそ、母を病院に入れることができました。もう「ユイ」を演じる必要もなくなり、少し前に進めたのではないでしょうか。

そしてパロウも、あかねの明るいあっけらかんとした性格に救われ、暗かった世界に変化の兆しがみます。

そして6巻のあとがきには実際に精神科の先生が登場。専門的な見地からの話がためになり、より作品での表現を深く読み解くことができます。

女子として生きるまりかと、パロウの決意【7巻ネタバレ注意】

学校に公式に認められたことで、セーラー服で女子生徒として学校に通いはじめたまりか。髪も伸び、すっかり女の子です。周囲からも比較的暖かな視線が送られているようで、後輩女子からはやっぱり似合う、とまで言われています。

自信がついたまりかは、再びパロウと会うことを決意しました。彼女の今の生き方を知ったパロウは、「あなたは強いね」とこぼします。 

強くなりたいけど強くなれないパロウの心情がよく表れたひと言です。まりかはその言葉を最初は否定したものの、確かに自分は打たれ強いのかもしれないと、自分に自信を持ちました。

そしてパロウに「嫌がられても、馬鹿馬鹿しいって言われても、最初からずっとこの気持ちは変わらないみたい」と好きだという伝えます。いくら叶うことが難しそうでも、自分の気持ちを伝えて彼を救いたいという思いがひしひしと伝わってきます。

著者
ふみふみこ
出版日
2015-02-13

しかしそんなまりかの気持ちに便乗し、パロウはまたしても性行為に及ぼうとするのです。彼が満足するのならと受け入れようとするまりかでしたが、吐き気をもよおして中断したのは、パロウのほうでした。

そんな彼の姿を見て、幼いパロウに性的虐待を加え今もなお苦しめている男に対し、まりかは泣きながら怒りを露わにします。そしてパロウは、自分のためにそこまで思ってくれるまりかを見て、変わろうと動きだすのです。

女装をするきっかけになった、好きになってしまった先輩。彼に会いに行き、関係を断つことを決意しました。

おそらくもうストーリーには登場しないであろう渋谷というその人物。どうしようもない人物とパロウはどんな別れをするのでしょうか?

ちなみに7巻は、同じくパロウを好きになってしまったあかねとまりかのやりとりも収録。まりかのカムアウトの時といい、今回といい、どこまでもいい子で、まりかのことを応援してくれる優しい人物だと感じさせられます。

ユイが亮介であること【8巻ネタバレ注意】

亮介の母は6巻で病院に連れて行かれた後、岡山の実家で療養生活を送っていました。

彼自身は離れて暮らしていた父親の家に住むことになり、「ユイ」としての人格に縛られずに暮らしていたのですが、ある日母親が倒れたという連絡が入ります。そして、「亮介に会いたい」と言っているそうなのです。

しかし亮介には、これまで自分を見てくれなかった母に会う勇気がありませんでした。そこで彼の背中を押したのが、まりかです。「私も一緒に行くから」と、亮介とともに岡山に行くことを決め、新幹線の手配などをしてくれました。

著者
ふみふみこ
出版日
2015-07-13

そして岡山の病院で母と再会した亮介。「ユイ」ではなく、「亮介」として対面します。すると母は、「亮介」と彼の名前を呼び、涙を流すのです。

「本当はわかっていた」
(『ぼくらのへんたい』8巻より引用)

精神的にかなり落ち着いた母は亮介に対し、 彼が姉を演じていたことをわかっていながらも「ユイ」として接していたと告白します。それを聞いた亮介は、「もういいって」と優しく言いました。

親子のわだかまりが解けてひと安心、と言いたいところですが、果たして本当にそうでしょうか。亮介はきっと、もっと伝えたいことがあったはずです。もっと母親を責めたかっただろうし、もっと自分を見てほしかったと言いたかったでしょう。

しかしそれを口に出さなかったのは、彼が母の心の痛みも精神的な弱さも理解しているからではないでしょうか。和解したものの、彼の押さえ込んだ思いに胸が痛むシーンです。ちなみにここからは彼をユイではなく、亮介と呼ばせていただきます。

そして母親との再開の流れで気が緩んだのか、ついに亮介はまりかに告白をするのです。全員片思いという切ない状況を変化させることはできるのでしょうか。

苦難を超えて【9巻ネタバレ注意】

8巻のラストで、亮介はまりかに「お前が好きだ」と告白しました。9巻の物語はそんな2人を中心に始まるかと思いきや、まりかが返事をする場面がないまま、時は過ぎています。

亮介は中学を卒業し、パロウの通う男子校に入学していました。 それまであまり仲がいい印象がなかった2人ですが、亮介がパロウに付きまとうようになります。

初めは嫌がっていたパロウも、亮介のさっぱりした性格や自分の心の闇を受け入れてくれる優しさに触れ、徐々に心を開いていきます。

著者
ふみふみこ
出版日
2015-11-13

一方、亮介の告白に対するまりかの答えは、しばらくしてやっと明かされます。やはり答えは「パロウさんが好き」というものでした。

亮介はそれを知っていたし、ただ気持ちを伝えたかっただけなんだと話します。けじめとしての告白で、前に進もうとしていたんですね。

恋愛感情が複雑に絡み合う3人でしたが、傷つき傷つけあっても絆は深く、集まって話している場面も見られます。

パロウはこれまでとは打って変わっていい顔をして笑うようになりました。まりかもさらに女の子らしく、まぶしい笑顔を見せます。亮介はもう「ユイ」にとらわれることなく、「亮介」として本来の男の姿で前に進んでいます。

3人の明るい未来がようやく見え始めた9巻です。

3人の結末。そしてこれから【10巻ネタバレ注意】

まりか、ユイ、パロウがそれぞれ中学1年、2年、3年から始まった本作は、4年に及ぶ連載を経て10巻で完結しました。物語は2年の月日が流れ、まりかは中学3年生、ユイが高校1年生、パロウが高校3年生となります。

最終巻の内容は、それまでの重く苦しい展開をずっと見てきた読者からすると感慨深いものがある展開です。嵐が過ぎ去った後の静けさ、安心感のある雰囲気となっています。

著者
ふみふみこ
出版日
2016-03-12

作者のふみふみこはあとがきで、どうしても3人を好きになることができなかったと振り返っています。作者自身が彼らのことを好きになろうともがき、その苦しみを丁寧に描いたことで本作はより魅力的になったのではないでしょうか。

それが実って最も「変態」したのは、やはりまりかでしょう。流されやすく気弱だった彼女ですが、女性としての自分を認めてもらったことで、さらに強く、毅然とした態度で周囲に接していけるようになります。

そして最終回では、さらに3年後の世界が描かれています。まりかは高校の卒業式を迎えて就職する様子、亮介は大学の研究室に通い、学生生活の中ではっちと再開する様子、パロウは劇団に所属し、女装をして舞台に立っていてる生き生きとした姿が描かれます。

また、そこでそれぞれのキャラの身体的特徴や、性格がリアルに描かれているのも本作のいいところを象徴しているよう。男っぽくなっているまりかの脚や、何だかんだリア充感が漂う亮介とはっち、実は一番一途なパロウの様子に、このキャラはやっぱりこうだよなーと時間がたっても変わらないそれぞれの核のようなものを感じて安心します。

3人がそれぞれの苦しみを抱え、傷つけ合いながらも助け合い、これからは自分の道を力強く歩んで行くことが感じられる最終巻の内容。ぜひ彼らの詳しい現状や、今だからこその表情を作品でご覧になってみてください。

無料で読める『ぼくらのへんたい』で、苦しくも美しい「変態」の様子を見届けよう

著者
ふみふみこ
出版日
2012-08-10

成長というのは体においても、心においても痛みをともなうものですが、本作はまさにその痛みをマイノリティ、ともすれば弱者とも言える少年たちの立場から見事に描き切っています。

ある少年は差別に泣き、ひとりでこもりがちでしたが、ありのままで生きられる強さを学びます。

ある少年は姉の影に埋もれたまま生きる意味を見失いますが、初めての恋をし、そのままならぬ思いを超えてアイデンティティを獲得します。

ある少年はトラウマとも言える初恋に傷つき、周囲も傷つけてやろうと狡猾に立ち回っていたましたが再び恋に落ち、今度は自分から能動的にその恋を終えます。

3人の少年の痛みだらけの青春は見ていて胸が苦しくなりますが、それが苦しい分だけ、成長の大きさを感じられ、ともにその達成感を味わうことができるのです。

彼らの痛み、成長の詳しい様子はぜひ作品でご覧ください。絵柄の可愛さを裏切る重々しく、骨太な内容に引き込まれること間違いなしです。

本作はスマホアプリで無料で読むこともできるので、そちらから彼らの日々を覗いてみるのもいいかもしれません。

「女装」という共通点をもった3人の悩みや生き方に涙すること間違いなしです。ジェンダーということについてとても考えさせられる『ぼくらのへんたい』、ぜひ本編をご覧ください。

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