秀逸なストーリー展開で、読者を独特な世界観の中に引き込んでいく作家、乙一。ここでは、そんな彼の作品を好きな方にぜひ読んでいただきたい、おすすめの小説を5つご紹介していきましょう。
表題作の主人公、長島は、二浪中の予備校生。屋上でさぼっていたところ、なんと空からセーラー服姿の女の子が落ちてきました。高校時代に好きだった広崎ひかりにそっくりなその女の子は「ピカリ」と名乗り、自分は人間ではなく爆弾だと言うのです。
胸に時計のようなものが埋め込まれている彼女は、ドキドキすると針が進み、12時を指した時点で爆発すると説明しました。
さらに長島はデートに誘われ、ピカリと一緒に出かけることになったのですが……。
- 著者
- 古橋 秀之
- 出版日
- 2017-04-25
SF的で奇抜な設定でありながら、青春の恋の物語を堪能できる作品です。真相が明らかになった後の主人公の選択には、なんとも言えない切なさを感じ、胸がキュンとしてしまうのではないでしょうか。
その他の短編でも、素朴な少年と不思議な少女との恋の物語が綴られており、楽しいものからちょっと怖いものまで、その世界観はさまざま。どの作品もテンポが良くて読みやすく、それぞれに時間を使った巧みなトリックが仕掛けられているのでワクワクしてきてしまいます。
ひとつひとつが読み応えのある短編になっているので、丸々一冊、最後まで堪能できることでしょう。
本多孝好の連作短編集『MOMENT』では、主人公の元に、死を間近に控えた入院患者からの最後の願いが寄せられます。
大学4年生の神田が清掃員のアルバイトとして働いている病院では、死ぬ前に願いをひとつだけ叶えてくれる黒衣の男「必殺仕事人」が存在するという噂が、末期患者の間で囁かれていました。神田はあることをきっかけにその伝説を受け継ぐ形となり、噂の「必殺仕事人」は黒衣の男から掃除夫へと姿を変えたのです。
第1話となる「FACE」で神田は、喉頭癌で余命わずかの老人から、戦時中に自分が手にかけてしまった男の息子の家族について調べて欲しい、と依頼を受けることになります。
- 著者
- 本多 孝好
- 出版日
- 2005-09-16
物語は4つの短編で構成されており、さまざまな事情を抱える患者たちとの交流をとおして、徐々にたくましく成長していく主人公の姿が描かれています。一貫してクールに淡々と患者や周囲の人々と接してくのですが、その端々に優しさや純粋さを感じることができ、好感が持てるでしょう。
「死」をテーマに、人間の狡さや悪意までもリアルに綴られている本作は、生きること、死ぬことについて思いを馳せたくなる作品です。どの短編でも意外な真実が明かされ、現実の恐ろしさや切なさを感じてしまいますが、決して重くなることはなく、どこか爽やかで暖かさを感じることができる一冊となっています。
切なすぎるストーリーが話題を呼んだ『プシュケの涙』は、柴村仁によって描かれたライトノベルです。
夏休みの補修時間、高校3年生の榎戸川は、窓の外を女生徒が落下していくのを目撃しました。死亡した女生徒の名前は吉野彼方。警察は、吉野が自殺を図り、校舎の4階から飛び降りたと結論づけます。
彼女の自殺に疑問を持ったのが、学校で変わり者扱いされている同級生の由良でした。彼は目撃者の榎戸川を巻き込んで、吉野の死の真相を暴くべく調査に乗り出します。
- 著者
- 柴村 仁
- 出版日
- 2014-10-15
本作は2部構成となっており、第1部では榎戸川の視点から、由良を探偵役とした事件の謎解きがおこなわれていきます。息を呑むようなスリリングな心理戦が展開され、読む手が止まらなくなることでしょう。
そして物語は、なんとも切ない第2部へ。生前の吉野が語り部として登場し、由良と過ごした日々が綴られていくのですが、第1部での出来事が頻繁に脳裏を過ぎり涙が止まらなくなってしまいます。
由良のキャラクターがとにかく魅力的で、それぞれの登場人物たちも非常に印象深く描かれています。くり返し読みたくなる心に残る物語を、ぜひ読んでみてください。
背筋がぞくりとするような短編6つが収録されている『満願』は、山本周五郎賞を受賞したほか、ミステリーランキングで軒並み1位を獲得した米澤穂信のミステリー短編集です。
表題作「満願」の主人公藤井は弁護士です。まだ学生だった頃に世話になっていた下宿先のおかみ、鵜川妙子が殺人の罪で服役してから8年の歳月が流れ、今日でその刑期が終わり、出所することとなります。
- 著者
- 米澤 穂信
- 出版日
- 2017-07-28
当時藤井は、妙子の弁護を担当していました。裁判の判決を不服として控訴を望んでいた妙子が、なぜか急に罪を認めて控訴を取り下げたことを、8年間ずっと疑問に思っています。しかし藤井はある考えに至り、そこに驚くべき理由が隠されていたことに気づくのです。
妙子が、他のすべてを犠牲にしてまでも守りたかったものとはいったい何なのか。真相が明かされた時、人間の怖さや思いの強さに戦慄し、同時にそこはかとない哀愁を味わうことになります。深い余韻に浸りながら、自分自身のことについて思いを巡らせたくなることでしょう。
収録されているそれぞれの短編が、バラエティに富んだ読みやすいストーリー展開となっており、伏線とその回収も鮮やかで魅力的。訪れる結末には本当に驚かされ、濃密な読書時間を満喫することができます。乙一作品が好きな方だったら、夢中になって楽しめるのではないでしょうか。
花をテーマとして、さまざまな男女の悲哀に満ちた情愛を美しく綴る、連城三紀彦の「花葬」シリーズ。短編集『戻り川心中』には5編が収録されています。天才歌人の死の真相を描く表題作は、日本推理作家協会賞を受賞しました。
語り部の小説家は、かつて友人でもあった歌人、苑田岳葉について回想します。岳葉は生前、2度の心中未遂事件を起こしており、いずれも失敗して相手の女性だけが亡くなっていました。
その後、岳葉は心中に関しての歌を遺し、自ら命を絶っています。事件のあった場所を訪れ彼の死について調べる小説家は、新たな事実を次々と知ることになり、岳葉が自害した本当の理由が浮かび上がってくるのです。
- 著者
- 連城 三紀彦
- 出版日
本作の1番の魅力は、なんと言っても日本語の美しさではないでしょうか。二転三転するストーリーもさることながら、作中作となるいくつかの歌も綴られており、その芸術性の高さにはうっとりさせられるはずです。
全編をとおしてどこか仄暗く儚い世界観が広がり、物語にどんどん惹きつけられてしまうことでしょう。明治末期から昭和初期までを舞台とした、浪漫溢れる短編の数々に心を揺さぶられてしまいます。鮮やかなトリックも光る不朽の名作となっていますから、未読の方はぜひ読んでみてください。
乙一の小説が好きな方にぜひお試しいただきたい、おすすめの作品をご紹介しました。巧みな伏線回収と、濃密な人間ドラマが楽しめる傑作ばかりですから、興味のある方はチェックしてみてくださいね。