『私と彼女のお泊まり映画』は映画を題材にした緩い雰囲気の百合漫画です。映画ファンじゃなくても楽しめる本作の魅力を紹介していきます。
『私と彼女のお泊まり映画』は、安田剛助によるウェブ漫画。新潮社が運営しているウェブサイト「くらげバンチ」で連載しています。
毎週金曜日にお泊まり映画鑑賞会を開いている女子大生の微百合漫画で、その非常にゆるい百合要素が本作の醍醐味でもあります。
作中で言及される映画は「マッドマックス 怒りのデス・ロード」から始まり、ディズニー作品や「呪怨」といった有名作ばかり。あくまで映画好きなだけの女子大生の感想がメインなので、深く突っ込んだ考察のようなものはほとんどされません。それゆえ、コアな映画ファンでなくても楽しむことができるものとなっています。
各話のラストにはあとがきとして、その回で紹介された映画の簡単な概要やあらすじが書かれています。さらに本編で紹介された映画と同ジャンル、または同監督のおすすめ作品が挙げられていることもあり、映画紹介漫画としても非常によくできていると言えるでしょう。
映画好きにも百合好きにもおすすめできる『私と彼女のお泊まり映画』。気になった方はチェックしてみてください。
- 著者
- 安田 剛助
- 出版日
- 2016-12-09
女子大生の佐藤小春(さとうこはる)と黒澤麻由美(くろさわまゆみ)は、麻由美の家で毎週金曜日の夜にお泊まり映画鑑賞会を開いています。
2人が高校生の頃にちょっとした偶然から始まったこの鑑賞会は、彼女たちの距離を少しずつ縮めていくのです。
さて、今週はどんな映画を観て、どのようなやり取りがくり広げられるのでしょうか。
- 著者
- 安田 剛助
- 出版日
- 2017-08-09
百合漫画である『私と彼女のお泊まり映画』ですが、小春と麻由美の関係はあくまでも友人以上恋人未満といった微妙な関係。キスなどの肉体的な関係性を示す場面は皆無で、映画を鑑賞し終えた2人の、ほのぼのとしながらも、相手を特別だと認めている会話劇がメインとなります。
ホラー映画を観た後にひとりで寝られなくなった小春と、一緒のベッドに入り手を握ってあげる麻由美など、微笑ましくなるようなゆるい百合描写が中心です。そのゆるさがかえって2人の関係性に現実感を与えていて、本作の魅力に繋がっています。
キャラ同士の掛け合いや関係性を描いた百合漫画が好きな方には、ぜひ読んでいただきたい作品です。
しかし、2人のもっと進んだ関係性や、もっとがっつりとした百合描写が見たい、という方はぜひ作者の安田剛助のTwitterアカウントを確認してみてください。社会人となり晴れて恋人同士となった彼女たちの日常を描いた漫画を、作者自身が投稿してくれています。
Twitterで投稿されているこの後日談では性描写も描かれており、本編とは打って変わって濃密な百合描写が展開されています。恋人同士になったため、彼女らのニヤニヤとさせられるような掛け合いも増え、百合好きにはたまらないでしょう。
本作は百合漫画であると同時に、映画紹介の漫画でもあります。しかし、作中で映画を鑑賞しているのはあくまでも女子大生2人。観終わったあとの感想は「面白かった」のような簡単なもので、そこにキャラ独自の考察や自論はありません。
また本作で取りあげられる映画は、「マッドマックス 怒りのデス・ロード」やディズニー制作の作品、「チャーリーとチョコレート工場」、「呪怨」のような、有名作かつ万人受けするような作品ばかり。観たことはなくても聞いたことのある作品ばかりなので、紹介された映画に対する興味が一層引き立てられます。
とはいえ、あとがきの映画紹介の欄は「スティング」のような古典的名作が引き合いに出される形で紹介されていたり、少しだけ突っ込んだ感想が書かれているなど、ゆるすぎないのもポイントです。
見どころやなぜおすすめなのかが非常に解りやすく書いてあるので、ライト層の映画導入漫画としてもおすすめできる作品となっています。
また回数こそ多くないものの、「セブン」や「ソーシャル・ネットワーク」など数々の名作で知られる監督、デヴィット・フィンチャーが制作した「ハウス・オブ・カード」のように、テレビドラマが話題となることもありますよ。
映画紹介漫画としても、百合漫画としても、いい塩梅でゆるいけどゆるすぎないところも、本作の魅力のひとつです。
上述したように、作品全体からただよっている、ほどよくゆるい雰囲気が『私と彼女のお泊まり映画』の最大の魅力です。しかし本作はゆるいだけでなく、偶然にお泊まり映画鑑賞会を始めた小春と麻由美の、関係性の変化もしっかりと描かれているのです。
「真由美はさー
いつも表情変わんないから
気に入ってくれたんかいつもわかりづらいのよね」(『私と彼女のお泊まり映画』1巻より引用)
うまく麻由美が気に入る映画を選ばないと、捨てられてもう会えなくなるのでは、と小春が冗談交じりですが語るような、少し不安定な間柄だった2人。
ここから回を追うにつれて、真由美が就活でナーヴァスになっていた小春を抱きしめながら励ましたり、レンタル店で同じ映画を偶然選んでしまったりと、少しずつですが距離が近づいていきます。
その様子に読者はニヤニヤしてしまうこと必須。各話ごとにの2人の描写はほのぼのとしたゆるいものですが、全編をとおしてみると、そのゆるい2人の関係にも徐々に変化が訪れていることが見て取れるのです。
毎週金曜日に映画観賞会をはじめた2人が、作者のTwitterで公開されているようなお付き合いをする関係に至るまで、どのような物語を辿るのか、今後の注目ポイントでしょう。
1巻には1〜10話まで収録されていて、各話で1作ずつ映画が取りあげられています。
真由美と小春が交互に映画DVDをレンタルしてきて、真由美の部屋で鑑賞するというのがお決まりのパターン。話によっては鑑賞前だったり、観た後の2人のやりとりだったりが描かれています。
- 著者
- 安田 剛助
- 出版日
- 2016-12-09
この2人の関係は、終始ほのぼのしていて癒されるでしょう。エプロンをつけたままの真由美が玄関を開けて小春を出迎えたり、映画を鑑賞するときは仲良く広いソファで隣同士座ったり。2人のやりとりでも、お互いに思い合っていることが感じられるのです。
さらに2人の仲の良さを感じ取れるのが、各話締めのレビュー。お互いの評価についてコメントを入れていて、時に意見が分かれることもあるのですが、「続編も一緒に見よう!」など可愛らしい反応を見ることができるのです。
気になる映画に出会えるだけでなく、2人が可愛らしい百合漫画でもあり、1度で2度美味しい作品です。
1巻からゆるゆると映画鑑賞をしてきた2人。2巻の初っ端では、「ハリー・ポッター」のシリーズ作を観るかどうかでややもめています。
「4作目、借りてきたから」
真由美がこう言うと、小春はわなわなと玄関に倒れこんでしまうのです。
- 著者
- 安田 剛助
- 出版日
- 2017-08-09
どうやら、原作を読んでから観たい!というのが彼女の主張。しかし、真由美からは「どうせ1年待っても読まないでしょ」と言われてしまいます。
読む読む、といってあっという間に時が過ぎていること、よくありますよね……。特に人から借りた本、漫画、DVD。ここまで長い間借りておいて、読んでない・観てないなんて、口が裂けても言えません。
小春もきっと積ん読タイプなのでしょう。真由美はそれを見越して、4作目である「炎のゴブレット」を借りておいたのです。
さて2人の攻防戦、決着はいかに!結末は本書でお楽しみくださいね。
- 著者
- 安田 剛助
- 出版日
- 2016-12-09
軽めの映画チョイスにゆるーい感想、日常を描くことがメインということで映画漫画でありつつも、作品を考察するのではなくじんわりと楽しめるところが魅力の本作。
作者のツイッターで性的描写も含む、より百合百合しいふたりの様子が見られると前述しましたが、エッチなシーンが苦手でないなら、そちらもぜひ読んでいただきたいものです。
まず作品を読んで、ツイッターでのおまけ漫画を読んで、さらにもう一度読むという流れがおすすめ。それを読むことでふたりは将来あぁなるのかーと、その過程をにやにやして楽しむことができるからです。
彼女たちの見た映画作品に、本編の後日譚と、単行本単体から離れていろいろと楽しめる本作。気軽に、そして幅広く楽しめる作品なのでどんな人にもおすすめできます。
ぜひそんな魅力をご自身で感じてみてください。
『私と彼女のお泊まり映画』は軽い気持ちで読めますが、読みごたえはしっかりしている作品です。映画ファンや百合漫画ファンだけでなく、さまざまな人におすすめです!