恋愛経験のない編集者と、恋ができない小説家の歪な恋を描いた漫画『文学処女』。この記事では、主に登場人物の魅力をご紹介していきます。最新4巻のネタバレも含みますので、未読の方はご注意ください。
- 著者
- 中野まや花
- 出版日
- 2017-01-16
恋愛経験ゼロの主人公月白鹿子(つきしろかのこ)と、恋ができない小説家加賀屋朔(かがやさく)。『文学処女』は、歳の離れた2人の恋愛を描いた、胸キュンシーン満載の恋愛漫画です。
今回は、そんなドキドキの物語を彩る登場人物たちの魅力を中心に、作品のみどころをご紹介したいと思います。
最新4巻のネタバレも含みますので、まだ読んでいない方はご注意ください。
文芸書担当の編集者として、思うような成果をあげられない月白鹿子はある日、売れっ子ミステリー作家加賀屋朔の担当に抜擢されます。その加賀屋は、作品を書き上げるたびに付き合う女性を変えることで有名なクセのある作家でした。
一緒に面白い作品を作り上げるために協力していこうとしていた鹿子でしたが、加賀屋は「出来上がったものだけ取りに来れば、あとは何もしなくていい」とドライな姿勢を見せます。
近づけば遠ざけられ、遠ざければ近づかれるような彼の態度に翻弄される鹿子。加賀屋が時折見せる悲しそうな顔に気づいた彼女は、徐々に心惹かれていくのでした。
本作の最大の魅力は王道の少女漫画展開ではないでしょうか。タイトルのインパクトから少し距離を置いた人も多いかもしれないですが、キュンキュンが止まらない展開となっています。
恋愛経験ゼロの鹿子と、そんな彼女に余裕を持って接する女慣れした加賀屋の恋。彼は少し信用できない面もあるものの、それは過去にある傷を抱えているからで実は一途という設定はまさに王道。加賀屋が様々な女性たちと付き合う面は、嫌だと思いながらもモテ男ならではの色気を感じる部分でもあります。
また、そんな彼に振り回される鹿子がまっすぐなのも共感できるポイント。彼女に共感し、先生の言動にさらにドキドキしてしまうこと間違いなしです。
そしてふたりが仲を深めていく展開も王道。いきなりホテルに誘われるという急展開に、怪我をした加賀屋のために半同棲状態など、大人バージョンの王道少女漫画展開がなされています。
しかしそんな王道の胸キュンだけではなく、大人の恋の難しさが描かれてもいます。それは加賀屋の過去。
大人になれば今までに大恋愛をしていたり、忘れがたい人がいてもおかしくはありません。加賀屋もそのひとりなのですが、彼女を乗り越えられないほど純粋なのです。
そしてそこからは王道少女漫画展開だけでなかう、大人ならではのビターな展開になっていきます。その恋の難しさは、読者までをも切なくさせるもの。
その心理描写が丁寧になされているので、さらに胸が痛くなります。加賀屋が徐々に鹿子に惹かれ、過去の傷との間で悩んでいくのです。
大人になって経験があるからこそかっこいい部分がある加賀屋ですが、それがあるから次にいけない。そんな彼をどう鹿子が変えていくかも見所ですね。
幼い頃から何をしても中の中だった月白鹿子が唯一夢中になったのは、物語を書くことでした。そこから本だけにのめり込むようになってしまった彼女は、青春も恋愛も経験しないまま学生時代を終えてしまいます。
作家への道は諦めたけれど、どうしても本に携わる仕事がしたかった彼女が選んだ職は出版社の編集者でしたが、成果は出せない、新人作家とはうまくいかないなどといったことで足踏みし、編集者としての自信も失いかけていました。
そんななか人気作家加賀屋朔の担当に抜擢された彼女は、加賀屋の冷たい対応に出鼻をくじかれながらも、「作家さんと真剣に向き合う」というモットーを胸に前を向きます。どんなにつまずいても、作家と一緒に素敵な物語を作り上げたいという目標を失うことはなかったのでした。
そんな彼女が、体を張って加賀屋の名誉を守るシーンは必見です。加賀屋たちとともにバーを訪れていた際、「加賀屋なんて名前だけ」「美人で巨乳の編集者つければ簡単に原稿を書いてくれる」という悪口を耳にした彼女は、その人物に頭から水を浴びせたのでした。
「…確かに 加賀屋先生は人として最低れす!けどあんた達はもっとサイテーよ!」
「あんた達も編集のはしくれなら 一緒に面白い作品作ること考えらさいよ!」(『文学処女』1巻から引用)
酔っ払ってはいたものの、彼女のまぎれもない本心です。この荒々しくも加賀屋を励ますこととなった行動を本人に気に入られ、初めて優しい笑顔を向けられたのでした。
まっすぐな純粋さが魅力の鹿子。そのまっすぐさが時々彼女を空回りさせる原因でもありますが、作家のために自分のできることはすすんで引き受ける、ひたむきな姿勢は応援したくなります。
編集者としての仕事も、加賀屋との恋も、等身大で挑む彼女の姿を見守りましょう。
鹿子が担当することとなった作家の加賀屋朔。人気ミステリー作家として名を馳せている彼ですが、全盛期を過ぎた彼の本が未だに売れるのは顔がいいおかげだといわれています。
それほどまでに整った顔を持つ彼は、新しい作品を書くたびに付き合う女性を変え、その人をヒロインのモデルとし、完成したら関係を断つという噂までたっていますが、これはあながち間違いでもないようなのでした。
担当編集者を「お手伝いさん」程度にしか思っていない加賀屋は、鹿子が初めて自分の元を訪れたときも、まったく頼りにしていないといった様子で対応します。それでも、飾らない鹿子の様子を見て徐々に興味を持ち始めた彼は、彼女の目をみてこういうのでした。
「今夜は彼女と打ち合わせしたい気分になった」(『文学処女』1巻から引用)
鹿子が他社の編集者の頭に水を被せた、その後のセリフです。「打ち合わせ」と言いながら加賀屋は彼女をホテルのスイートルームへと連れ込みます。
まるで息をするように女性を誘う彼が、過去にどれだけの女性と関係をもったのかは計り兼ねますが、甘い顔で甘い誘い文句を囁く彼を見ると、付いて行ってしまう女性が多数いるのも頷けます。
そんな恋愛経験豊富な加賀屋が、なぜ「恋ができない男」なのか。それは彼が慕っていたある少女との過去に理由がありました。見た目だけでなく、ミステリアスな雰囲気すら魅力となっている加賀屋の秘密が明かされる、今後の展開に注目です。
鹿子がはじめて加賀屋の元を訪れた時、ベッドで眠る彼の傍には下着同然の姿の美女がいました。彼女は有明光稀(ありあけみつき)。鹿子とは別の出版社で編集者をしている女性です。
セクシーな姿での登場から、加賀屋との深い仲を感じさせるやり取り、そして「一度寝たら終わり」ともっぱらの噂の彼が唯一、シリーズの連載を引き受けている編集者でもある彼女は、どう見ても友達以上の関係を加賀屋と築いています。
常にゆったりとした余裕のある振る舞いで、加賀屋すら頭が上がらない様子を見せる彼女は、加賀屋に恋し始めた鹿子の不安の種となります。さらに、加賀屋が隠す過去についても知っている様子で……。
加賀屋に最も近い女性にも見える光稀は、いったいどんな人物なのでしょうか?魔性の魅力を放つ彼女も要チェックです。
鹿子と同期の望月千広(もちづきちひろ)。顔と人当たりのよさで女性に人気の彼は、ヒット作を抱える優秀な編集者でもあります。
そんな望月は鹿子に思いを寄せています。元気のない彼女を食事に誘い、加賀屋の担当になると聞いた時には彼女の身を心配しました。彼女を見つめる彼の視線は優しさに溢れていますが、恋愛経験が無いうえに鈍感な鹿子はその好意になかなか気づきません。
鹿子の心の動きをよく察し、本好きな彼女が喜ぶこともよく知っている望月は、もし恋人になれば、優しさと包容力をもってしてきっと鹿子の支えになってくれるでしょう。
この先加賀屋との一筋縄ではいかない恋に身を投じることとなる鹿子に、彼はどんなアプローチをかけるのでしょうか?「こんな同僚が欲しい」と思わせてくれる彼は、この物語にいなくてはならないキャラクターです。
鹿子たちと同じ会社であり、同期の七星。校閲の部署におり、望月を狙っており、何かと彼に絡むオネェ言葉の男子です。
当初は恋の相手として望月に迫って逃げられましたが、徐々に友人として仲良くなります。そしてよく飲みに行くようになり、彼が鹿子に思いを寄せていることを知って応援するようになりました。
望月の担当作家であり、彼に思いを寄せているのが三島暁里(みしまあかり)です。暁里はデビュー前の新人で、編集長の娘でもある現役の女子高生。
彼女は自分の可愛さをわかっており、それを利用して周囲を動かすようなところのある小悪魔です。
しかも何やら加賀屋のことを朔ちゃんと呼ぶ間柄らしく、彼が女性をとっかえひっかえしていることや、鹿子のようなタイプとは普通付き合わないだろうということを知っています。
そしてぽつりと、「朔ちゃんは千夜香さん以外本命は作らないから」とつぶやくのです。のちのち明らかになる彼女の存在ですが、それを知っている暁里は何者なのでしょうか?
モテることから鹿子に恋愛のアドバイスもする彼女。加賀屋の過去を知っており、恋愛経験も豊富で、と女子高生なのにどこか達観したところのある人物です。
幼い頃から物語を書くことが好きだった鹿子は、小説家にはならなかったものの、文芸部作品の編集者となって本に携わっていました。
思うような成果をあげられないでいた鹿子は突然、人気ミステリー作家加賀屋朔の担当に抜擢されます。期待されているのかもと喜んだ彼女は二つ返事で担当を引き受けますが、加賀屋が彼女に任せたのは、出来上がった原稿を取りに来るだけという、まるで雑用のような仕事なのでした。
期待されていたわけじゃなかったと築いた鹿子は落胆します。しかし彼女はくじけず、積極的に加賀屋とコミュニケーションを取り始めるのでした。
- 著者
- 中野まや花
- 出版日
- 2017-01-16
「何でも手伝います!」と加賀屋に申し出た鹿子は、スイーツと雑誌を買ってこいだの、クリーニングに出したものを取りに行けだの、家政婦となんら変わらない仕事を頼まれますが、よい本を作るためだと自分に言い聞かせて指示に従います。
指示の一つで自分の新作の紹介されている雑誌をすべて買ってこいといわれていた鹿子は、その冊数の多さに驚きながら、こんなことを思うのでした。
「才能も人気もあって 何の悩みもないんだろうな 私はまだ何の結果も出せてない…」(『文学処女』1巻から引用)
彼女の目には成功者として映る加賀屋へのささやかな嫉妬です。どんなに前向きに頑張っても、心の片隅ではずっと落ち込んでいた彼女の人間らしさを表したこのシーンに、共感できる人は多いのではないでしょうか。
彼女に感情移入することで、これから始まる加賀屋との恋愛に一層のドキドキを感じられることでしょう。目をつけられてしまった恋愛初心者の鹿子はどうなってしまうのか、まさかの展開に注目です!
ある一件で利き手に怪我を負い、執筆活動ができなくなってしまった加賀屋。鹿子はそれに責任を感じ、謝罪と見舞いを兼ねて彼の元を訪れていました。
約束もせず突然きてしまったことでドアを叩くに叩けず、庭先でウロウロしていた鹿子でしたが、突然ドアが開かれます。
中から出てきたのは、加賀屋とのただならぬ関係を醸す美女・有明光稀だったのです。
- 著者
- 中野まや花
- 出版日
- 2017-06-15
彼女の背後から現れた加賀屋の姿に動揺した鹿子は、差し入れだけ渡してその場を後にしようとしますが、光稀に招かれて部屋にあがってしまいます。
空腹なのがバレて、食事までご馳走になってしまった鹿子。その食卓でもくり広げられる加賀屋と光稀の仲睦まじいやりとりに、鹿子はおもわず「2人は付き合っているのか」と聞いてしまうのでした。
「…えぇ そうね 私と加賀屋は大学から付き合ってるわ」(『文学処女』2巻から引用)
光稀の口からはっきりとその言葉を聞いた鹿子は、静かにその真実を受け入れようとします。しかしその直後に明かされた光稀の正体に、鹿子は驚くのでした。
2巻で注目してほしいのは、ここまで秘密に包まれていた美女光稀の新たなる一面です。優雅な印象のあった彼女がここで見せた顔は意外性抜群で、思わず力が抜けてしまいそうになります。
そして、ドキドキの展開は光稀がいなくなった部屋でおこります。2人きりとなった部屋で光稀の話をする加賀屋にジェラシーを感じた鹿子は、右手が使えない彼のために何でもすると申し出ます。その言葉をどう受け取ったのか、挑発的な表情をした加賀屋は簡単に鹿子を押し倒すと、その片足に手をかけたのでした。
恋愛経験のない鹿子がわからないなりに加賀屋に気持ちを表す様子は非常に可愛らしく、女性らしくもなった彼女をさらに魅力的に見せます。しかし、この時点でもまた加賀屋がかかえる秘密に踏み込むことができません。
鹿子は、どこか冷たさの残る加賀屋の心を解きほぐし、恋をさせることができるのでしょうか?
3巻では、これまで事情があって恋できなかった加賀屋朔の過去編が描かれます。彼の過去に、何があったのでしょうか?物語は、駆け出しの小説家時代までさかのぼります。
当時加賀屋と一緒に暮らしていた千夜香は、本人に内緒でこっそり作品を新人賞に送っていました。その結果、作品が大賞を受賞。小説家としてデビューが決まります。
- 著者
- 中野まや花
- 出版日
- 2018-09-01
しかし、小説家は彼が一番なりたくない仕事でした。
その理由は、彼の父親にありました。彼は小説家で、執筆活動に没頭するあまり妻を苦しめていたのです。そんな様子を見ていて、加賀屋朔は父親を軽蔑していました。
しかし小説家として進んでいけるのか思い悩む彼に、千夜香がこう言うのです。
「朔さんはお父さんとは違う
だって私 朔さんといて幸せだもの」(『文学処女』3巻より引用)
彼女の優しさ、包容力によって自分に自信を持てるようになった加賀屋。その後は小説家として、活躍していくようになりました。
しかし月日は流れ、次第に彼は「物語」に心が支配されていくようになります。千夜香と過ごす時間よりも、執筆活動に没頭するようになってしまうのです。いつからか、彼女が笑わなくなってしまったことに気づけないまま。
心の中で、彼女を大事に思う気持ちはあったでしょう。しかし仕事の忙しさから、相手を思いやれなかったのも事実です。そのすれ違いが、後に大きな事件を引き起こしてしまうことになるとも知らず……。
加賀屋が恋することができなくなってしまった本当の理由とは何なのでしょう?
加賀屋が恋愛に本気になれない理由が明かされた3巻。4巻では、未だそのその古傷が痛み、なかなか前へと進めない彼の姿が描かれます。
実はまだそれを知らされていない鹿子ですが、周囲の噂から何か辛い傷を彼が抱えていることには気づいていました。しかしどう距離をとっていいのか迷っていた時に、大物作家の鶴賀昴に呼び出され……。
- 著者
- 中野まや花
- 出版日
- 2018-09-01
付き合うことになったものの、ぎこちない距離感の2人。そんな彼らの事情を見透かしているかのように、いきなり鹿子を呼び出した大物作家の鶴賀。そこで必死に加賀屋の作品をフォローする彼女に、鶴賀はこんなことを言います。
「君みたいな編集と巡り会えて加賀屋君は幸せだな」
(『文学処女』4巻より引用)
しかしそれを聞いた鹿子は、逆に自分の不甲斐なさを感じ、何もできないことが悔しいのだと語るのでした。そんな彼女を見て、鶴賀は優しくこう言うのです。
「…君は 加賀屋君の事を愛しているんだね
ーー別に 『愛』というのは男女のセクシャルだけの事ではないよ
作家と編集の関係は愛で成り立っていると私は思っている
物語というのは作家自身の恥部を晒すみたいなものだ
そして編集はそんな作家の恥部を更にこじ開け 引き出そうとする
これを『愛』と言わずに 何と言おう
もっと自身をもって愛してあげなさい」
(『文学処女』4巻より引用 中略あり)
作家と編集の関係性について学ぶところのあった鹿子は、女として、編集者として加賀屋を「愛す」ことを決めるのですが……、物語は簡単には進みません。
加賀屋はやはり過去に事件から臆病になっていて、鹿子にあることを告げるのです。傷ついた鹿子はこのあとどう行動を起こしてくのでしょうか?
- 著者
- 中野まや花
- 出版日
- 2018-09-01
色っぽさがあり、読者までをも虜にする加賀屋に、そんな彼に振り回されながらもまっすぐに気持ちを表現しようとする鹿子。恋愛経験では圧倒的に加賀屋が上であるにも関わらず、人としての強さは鹿子の方があるようにも思え、ふたりのちぐはぐなように見えてバランスの取れている関係性は納得感とリアリティがあります。
王道の少女漫画に文学的表現、ちょっと大人な要素をいれた本作はキュンキュンする女子が多いことも頷ける内容です。それぞれの登場人物の設定や言動の細やかさ、過去を踏まえて進んでいく進行形の恋愛を、ご自身でご覧になってみてはいかがでしょうか?
鹿子の可愛さと加賀屋の妖艶さにドキドキがとまらない本作。漫画を読んでキュンキュンしたいという方におすすめです。ぜひこの機会に読んでみてください!