
茨木のり子とは?
茨木のり子は、1926年に大阪府大阪市で生まれました。高校時代まで愛知県で過ごし、上京します。その後、戦争に巻き込まれ、空襲の恐怖や飢餓の苦しみを体験し、19歳のときに終戦を迎えました。
1950年、24歳で結婚した茨木は、家事の傍ら詩の創作をするようになります。その後、「いさましい歌」が雑誌「詩学」に掲載されました。1953年には詩人仲間に誘われて、同人誌「櫂」を創刊します。第二次戦後派となる、数々の詩人たちを輩出するようになりました。
代表作「自分の感受性くらい」をはじめ、多くの名作を発表しています。1991年には、韓国語を学んで発表した詩集『韓国現代詩選』が読売文学賞を受賞。1999年、晩年になって刊行された詩集『倚りかからず』は、詩集では異例となる大ヒットを記録しました。「私が一番きれいだったとき」は、多くの国語の教科書にも掲載されています。茨木のり子は2006年、くも膜下出血のため、79歳でこの世を去りました。
ストレートな言葉が胸を打つ、茨木のり子の生前最後の詩集
茨木のり子の、生前最後の詩集となった本作。表題作のほか、厳しくも優しい語り口で綴られた、数々の作品が収録されています。
「もはや いかなる権威にも倚りかかりたくはない
ながく生きて 心底学んだのはそれぐらい
自分の耳目 じぶんの二本足のみで立っていて
なに不都合のことやある」
(『倚りかからず』表題作より引用)
難解な言葉はひとつもなく、ストレートに胸に響く詩ではないでしょうか。何にも依存することなく、しっかりと自分の足で立つ。 茨木のり子のその力強い言葉に圧倒され、ピンと背筋が伸びる思いがします。それと同時に、自分はこのような人生が送れているのかと、我が身を振り返りたくなるでしょう。

作者 | 茨木 のり子 |
---|---|
出版社 | 筑摩書房 |
出版日 | 情報なし |
ユーモアを交えながら書かれた「行方不明の時間」や、ズシリと厳しい言葉で綴られた「苦しみの日々 哀しみの日々」。マザー・テレサの最後の言葉が印象的な「マザー・テレサの瞳」など、どの詩も簡単でわかりやすい言葉で綴られていて、真っ直ぐと心に迫ってくるのです。
生きることについて鋭い感性で表現されているため、何度でもくり返し読みたくなる作品です。興味のある方はぜひ手に取ってみてくださいね。
茨木のり子の名作が揃った傑作詩集
こちらは、詩人、谷川俊太郎によって厳選された、茨木のり子の詩集。「私が一番きれいだったとき」や「自分の感受性くらい」などの代表作が、揃って収録されています。
「駄目なことの一切を
時代のせいにはするな
わずかに光る尊厳の放棄
自分の感受性くらい
自分で守れ ばかものよ」 (『茨木のり子詩集』「自分の感受性くらい」より引用)
バシッと背中を叩かれたような、鋭い言葉がいつまでも心に残る作品です。思春期を戦争の真っただ中で過ごし、戦後の混乱の中を生き抜いた著者の生きざまを、垣間見ることができるでしょう。うまくいかない時は、自分以外の何かのせいにしたくなる、という方には、ドキっとさせられる詩かもしれません。

作者 | |
---|---|
出版社 | |
出版日 | 情報なし |
自身の戦争体験を綴った詩もたいへん有名で、これまで多くの人に読まれてきました。
「わたしが一番きれいだったとき
わたしの頭はからっぽで
わたしの心はかたくなで
手足ばかりが栗色に光った
わたしが一番きれいだったとき
わたしの国は戦争で負けた
そんな馬鹿なことってあるものか
ブラウスの腕をまくり卑屈な町をのし歩いた」
(『茨木のり子詩集』・「私が一番きれいだったとき」より引用)
シンプルながらも、率直な言葉のひとつひとつが沁み入り、心が揺さぶられるでしょう。
そのほかの詩も、厳しいなかにも、どこか優しさを感じることができる素敵な作品ばかりです。人生観を変えられるような、大切な詩に出会えるかもしれません。作品を選んだ谷川俊太郎からの言葉や、小池昌代による解説文なども収録されていて、とても読みごたえのある一冊となっています。
亡き夫への愛を綴った心揺さぶられる一冊
『歳月』は、茨木のり子が49歳のときに他界してしまった、夫への想いが綴られている詩集です。「照れくさい」という理由で、生前は出版されなかった作品ですが、亡くなった後に自宅から発見され刊行に至りました。
「あなたのもとへ
急がなくてはなりません
あなたのかたわらで眠ること
ふたたび目覚めない眠りを眠ること
それがわたくしたちの成就です」
(『歳月』「急がなくては」より引用)
亡き夫への、切ないほどの愛が綴られています。強くたくましいイメージのある茨木のり子の、違った魅力を感じることができるでしょう。生々しくも、美しく輝く恋の詩が多数収録され、心底酔いしれてしまう作品です。

作者 | 茨木 のり子 |
---|---|
出版社 | 花神社 |
出版日 | 2007年02月01日 |
「真実を見きわめるのに
二十五年という歳月は短かったでしょうか
けれど 歳月だけではないでしょう
たった一日っきりの
稲妻のような真実を
抱きしめて生き抜いている人もいますもの」 (『歳月』表題作より引用)
生前にはこれらの詩の数々を、25年間連れ添った伴侶への「ラブレター」だと語っていたそうです。こんなにも誰かを深く愛せることは、とても幸せなことなのかもしれない、と感じさせられてしまいます。
激しくも強い愛情に圧倒されるとともに、伝わってくる喪失感に胸が締めつけられます。どこまでも一途な想いに、思わず涙してしまうほど、印象深く心に残ることでしょう。
生前の暮らしぶりがわかるファン必見の作品
茨木のり子が生前に暮らしていた家の様子が、たくさんの思い出の写真や詩とともに収録されています。家具や食器、自筆の原稿、ポートレート写真などが紹介され、その気品ある暮らしぶりを、垣間見ることができる作品です。
昭和の雰囲気を感じさせる室内は、一切の無駄がなく整えられており、家の主がいなくなってもなお、温かみを失わない素敵な空間になっています。広々と飾られた家族写真や、花々が咲く美しい庭を眺めていると、なんとも居心地のよい気分を味わえることでしょう。

作者 | 茨木 のり子 |
---|---|
出版社 | 平凡社 |
出版日 | 2010年11月26日 |
作品には、茨木のり子が生前に準備していた、自筆の死亡通知も収録されています。
「弔慰の品はお花を含め、一切お送り下さいませんように。
返送の無礼を重ねるだけと存じますので。
あの人も逝ったかと一瞬、
たったの一瞬思い出して下さればそれで十分でございます。」
(『茨木のり子の家』より引用)
自分の感性を大事にし、清々しく凛とした人柄がそのまま表れているような言葉ではないでしょうか。彼女の詩集をより深く楽しみたいという方は、ぜひ目を通してみてください。
茨木のり子が詩の楽しみ方を教えてくれる
多くの詩を書きあげてきた茨木のり子が、他の詩人の作品から好きなものを選りすぐり、解説文とともに紹介しています。
誰でも、もやもやとした言葉にできない感情を抱えることはあるでしょう。そんな感情を的確な言葉で表している詩に出会えた時、それは忘れられない一遍となるものです。

作者 | 茨木 のり子 |
---|---|
出版社 | 岩波書店 |
出版日 | 1979年10月22日 |
さまざまな詩人の作品は、「生まれて」「恋唄」「生きるじたばた」「峠」「別れ」の5つのテーマに分けて取りあげられています。その詩の楽しみ方や、どのような素晴らしさがあるのか、丁寧に分かりやすく説明されています。
「若い人たちにとって、詩の魅力にふれるきっかけにもなれば」という思いから製作されたこの作品は、詩が好きな方はもちろん、これまで詩を苦手としてきた方たちにとっても、興味深い一冊となるのではないでしょうか。豊かな表現力で綴られている、バラエティーに富んだ自由詩の世界を堪能することができます。
大人が読んでも十分に感銘を受けることができる作品ですから、ぜひ多くの方に読んでみていただきたいと思います。
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