今回ご紹介するのは、癒し系ほのぼの百合漫画『まんがの作り方』。かっこいい系&かわいい系のなカップルがおくる心温まる日常が描かれています。
13歳の頃漫画家デビューするも、その後鳴かず飛ばずで仕事もなくなり、再び振り出しに戻ってしまった少女川口(かわぐち)。最近流行りのガールズラブ漫画を描くため、という軽い気持ちで後輩の森下(もりした)に交際を申し込みますが、川口に本気の恋をしている森下の健気な愛を受け、徐々に真剣になっていきます。
さらに、森下は「さち」というペンネームで活動中の現役漫画家なのでした。
元漫画家の少女と、現役漫画家の女子高生による、女の子同士の恋を描いた『まんがの作り方』は、ゆったりとしたペースで深まっていく関係から幸せを感じられる百合漫画です。この記事では物語の魅力と、見どころについてご紹介いたします。
- 著者
- 平尾 アウリ
- 出版日
- 2009-02-20
中学生にして漫画家だったという経歴を持つ川口は、スランプに陥って以来ヒット作に恵まれず、仕事もなくなり、気づけば19歳になっていました。高校も卒業し、漫画家としての再起を狙うこととした彼女はバイトも辞め、あらためて漫画に打ち込もうとします。
そんな川口の元を訪れて泣きながら抱きついたのは、後輩の森下。同じ書店でアルバイトをしている彼女は、大好きな川口が突然バイトを辞めてしまったことがショックで仕方がなかったのでした。
そんな森下を見て閃いた川口は、「森下、私と付き合っちゃう?」と提案します。さっきまで執筆作品のジャンルに悩んでいた川口は、森下との疑似恋愛を参考に「ガールズラブ」作品を描こうとしたのです。
前述の通り、川口ははじめ漫画のネタ集めのために森下と付き合いはじめました。そのため、自分に熱烈な好意を寄せてくる森下との間には温度差が生じます。過去にも一度森下から気持ちを伝えられた時、本気か冗談か測り兼ねながらも「森下は、そういうのじゃない」ときっぱり断っていたのです。
漫画を描くための手段として森下に交際を申し込んでしまった川口は、少しずつ罪悪感を抱きはじめます。森下は確かに可愛い女の子ですが、自分が同性と恋をするイメージが川口には湧きません。
そんな中森下と書店に立ち寄っていた川口は、自分の好きな「さち」という漫画家を批評した森下に怒り、彼女が楽しみにしていたデートを切り上げてしまいます。しかし、この事件がきっかけで彼女は、「さち」と森下が同一人物であることを知ったのです。
- 著者
- 平尾 アウリ
- 出版日
- 2009-08-20
さらに森下が、学校にバイト、原稿とで寝る間も惜しむほど多忙な生活をしていたにも関わらず、自分とデートする時間を捻出していてくれたことに気づいた川口は、いてもたってもいられず森下の元へ向かうのでした。
「漫画」を通して¬2人の距離は徐々に狭まっていき、川口も自分なりの誠意をもって森下の気持ちと向き合いはじめます。「本当に好きでいてもらえたことが嬉しい」「けど今は、私が森下を好きかどうか、考えてもわからない」「これから描く漫画が描き終わったら、きちんと返事をするから」。両思いを伝える返事ではありませんでしたが、森下はこの言葉に喜んだに違いないでしょう。
時間をかけてお互いを知り、絆がゆっくりと深まっていく様子はとても優しく、心地いいもの。百合漫画を普段読まない方にもおすすめの心温まる人間ドラマとなっています。
森下に深い愛情を注がれる先輩、川口。13歳の頃から「川口明日香(かわぐちあすか)」というペンネームで漫画家活動をしていましたが、スランプをきっかけに漫画の仕事を失います。その後は女子高生兼アルバイターとして生活していましたが、高校卒業を機にバイトも辞め、漫画家として返り咲くために創作活動に打ち込みはじめました。
森下と付き合いはじめた経緯にも言えますが、結構ヒドい女の子だと思いませんか?相手の気持ちが本気かどうか分からなかったとはいえ、ネタとして誰かと付き合うだなんてなかなか魔性です。
川口の弟政人(まさと)は森下に恋していますが、彼が秘めていた気持ちを「政人が森下のこと好きみたいなんだけど」と本人にバラしてしまったり、森下のことで政人が落ち込んでいたのに気づいても「政人の失恋が森下の漫画の糧になるならいいや」と見捨てたりと、身内に対しては特に厳しさを見せます。
しかし森下との交際も弟への対応も、言い換えれば全て「漫画のため」です。一度挫折した夢をもう一度追いかけるというのはとても勇気がいる行動ですが、過去に自分が描いたネームに反省点を見つけたり、他の漫画作品をきちんと観察したりするなど、つまずいてもなお川口の情熱は漫画に向けられています。
現役の漫画家である森下を技術の面でも気持ちの面でも支え、励まし続ける川口。今後の彼女自身の漫画家としての成長と、森下との関係の進展に注目です。
先輩の川口に猛アタックをしかける現役漫画家女子高生の森下。ペンネームは「さち」です。タックルのような勢いで川口に抱きついた登場シーンや、交際の提案にハート形の吹き出しで「はい」と返事したところから、どれだけ川口を愛しているかがわかります。
彼女の魅力は何と言ってもその可愛さ。外見はもちろん、行動、性格、どれを取っても「可愛い」という感想が浮かびます。なかでも森下が最も可愛くなる瞬間はやはり、川口と一緒にいる時です。
初デートの日、2人は書店にきていました。せっかく百合要素を体感するためにデートしているのに来なれた書店では新鮮味にかけ、会話も普段と対して変わらないものであることに気づいた川口は「もっとデートらしいことしようよ」と提案します。すると森下は川口の手を取って、こう言ったのでした。
この、手を握る時のちょっとおずおずした感じがたまりません。普段は恥ずかしげもなく愛情表現するくせに、この時は赤くなって川口の目も見られないほどに照れています。胸キュン必至のシーンです。
川口が森下の家に締め切り間近の原稿を手伝いに来た時は、こんな言葉を言いました。
「わたしは 先輩に会えるためなら落としてもいいと思ってるんです 原稿なんか」(『まんがの作り方』1巻から引用)
川口が漫画を大好きなのと同じくらい、森下は川口のことが大好きなのです。さすがにこの発言は漫画第一な川口に怒られてしまいましたが、この言葉は彼女の胸にじんと響いたようでした。
こんなに可愛い少女に一途な愛を向けられる川口が羨ましくなってしまいそうですが、川口を好きだからこそ、森下は輝くのかもしれません。
- 著者
- 平尾 アウリ
- 出版日
- 2014-05-13
劇的な展開はないものの、川口と森下の関係は着実に「恋人」へと変わっていきました。漫画家を志す者同士としても、時に協力し、時に厳しく意見しあいながら成長していきます。森下と同じように、川口も森下への愛が溢れている様子が見て取れるようになり、ラブラブ度は増すばかりです。
人気漫画家として活動していた森下に続くように、少しずつ軌道に乗ってきた川口。担当編集者やアシスタントなど、それぞれの人間関係が広がっていくうちに、新しい恋の可能性も芽生えます。中には、川口と森下を別れさせようと画策する人物も……。
甘くほのぼのとした中で時々ひやりとくる、ゆるい緩急をもった展開でさらに夢中になってしまう物語。川口と森下がゴールにたどり着く瞬間を、ぜひ見届けてください。
いかがでしたか?百合漫画として楽しみながら漫画の書き方も勉強できてしまう、1冊で2度美味しい作品です。気になる方はこの機会にぜひ読んでみてください。