絶望と隣り合わせだった超能力少女を救ったのはエロスの力だった!?『琴浦さん』は、人の心を読むことができる少女を中心にくり広げられる、学園ラブコメストーリーです。この記事では本作の魅力や、アニメ以上に酷なストーリーについて、ネタバレを交えてご紹介していきます。
『琴浦さん』はえのきづによって描かれた漫画で、Webコミック投稿サイト「マンガ★ゲット」主催の「Manga Of The Year 2009」で最優秀賞を受賞した実績のある作品です。
最大の魅力は、人間関係を中心に非情にも思える描写が多々見受けられ、物語がとても冷酷なこと。人によって表と裏をうまく使い分けて人間関係を築いているところに、突然心を読み取れる人が現れたら、どうなるのでしょうか。
『琴浦さん』は、あまり想像したくないそんな状況を、妙に現実味をもって描いているのです。
- 著者
- えのきづ
- 出版日
- 2010-07-30
2013年にはアニメ化もされました。ストーリー構成は原作コミックと同じですが、所々に組み込まれているブラックさが見事にオブラートに包まれてしまい、使用されている楽曲も明るいイメージで、あくまで超能力少女が主人公の学園ラブコメという作りでした。
そちらももちろん面白いのですが、原作にしかないブラックでシリアスな展開が本作の魅力でもあるのです。この記事では、そのブラックさ満載の描写に注目してご紹介していきましょう。ネタバレを含みますので未読の方はご注意ください。
本作の主人公である琴浦春香(ことうらはるか)は、人の心を読むことができる特殊能力をもって生まれました。しかしその能力は、自らの意志とは関係なく無差別に他人の心を読んでしまうばかりか、実際の声なのか心の声なのか区別することができないものだったのです。
そのせいで、周りの人間の心の声を無意識に口走ってしまう琴浦は、徐々に孤独の道を歩むことになります。両親からも見捨てられ、自分の人生に絶望していましたが、新たに転校した高校で真鍋義久(まなべよしひさ)と出会い、彼女の人生は大きく変化していくのです。
- 著者
- えのきづ
- 出版日
- 2010-11-28
本作で欠かすことのできないキャラクターのひとりである森谷ヒヨリは、真鍋義久に好意を抱いていました。積極的なアプローチを重ねていましたが、鈍感な真鍋は彼女の気持ちにまったく気が付きません。
それどころか、森谷の実家が宗教家のため勧誘しているのではないかと、疑われてしまいます。
そんななか、突然転校してきた琴浦と真鍋が仲良くしているところを見て気持ちが収まらなかった森谷。琴浦のことを化け物呼ばわりしたあげく、自分の家の信者たちに呼びかけて真鍋を襲わせてしまいました。
アニメでは森谷の家は「道場」として描かれており、琴浦や真鍋にしたことも全体的にソフトになっています。しかし原作の森谷は悪役そのもののような立ち位置で、信者に襲われた真鍋は流血するほどの出来事になっていました。
この事件をきっかけに琴浦は責任を感じて学校から姿を消してしまうのですが、それを見過ごす真鍋ではありません。彼女の今後は一体どうなってしまうのか、気になる方はぜひ原作をご覧ください。
- 著者
- えのきづ
- 出版日
- 2011-09-03
森谷ヒヨリという宗教娘の歪んだ一面を紹介しましたが、他のキャラクターたちもそれぞれにクズな性格をしています。
まず真鍋義久ですが、彼は琴浦の人生で初めて、その能力を知りながらも恐怖を感じずに歩み寄ってくれた人でした。一見クールな表情から、森谷をはじめクラスの女子から好意を持たれていますが、実はところかまわずエロい妄想をしてしまう「エロスの貴公子」です。
琴浦のエロいポーズを想像し、彼女の能力を利用してその映像を見せるイタズラをすることもしばしば。
また、母親の超能力の証明をするためにESP研究会を立ち上げた御舟百合子(みふねゆりこ)は、琴浦の能力を利用しようと半ば強制的に部活に勧誘します。
彼女の母親は「千里眼」という遠くを見通す力を持っていましたが、世間からのバッシングに耐え切れず、自ら命を絶ってしまっていました。そんな母の無念を晴らすために、琴浦を使って母の力が本物であると立証しようとするのです。
この他にも、クズな性格をしたキャラクターが多数登場します。琴浦の能力を利用しようとする者はもちろんですが、彼女の存在を邪魔に思う者、自分のことしか考えていない自己中な者など、思わず怒りを感じてしまうような場面もあるでしょう。
しかし、人と人が生活していくなかで、このような一面があるのは当たり前なのかもしれません。現に彼らのクズっぷりが表面化する時は、いつもその中心に琴浦がいるのです。彼女と関わることで周りの人間がどのように変わっていくのか、見どころになっています。
琴浦は生まれもった特殊能力のせいで、周りの人間から常に不快な目で見られる人生を送ってきました。それは学校の友人だけでなく、親戚や、両親も同様です。
誰にでも隠し事のひとつやふたつあるものですが、琴浦は心の声と実際の声の区別がつかず、またまだ幼かったことから、相手の心の声もすべて口に出して喋ってしまっていたのです。
両親の関係は崩壊し、彼女を叔父に預けた母親は、「あんたなんか産むんじゃなかった」というひと言を放ち去っていきました。
アニメでは多くの視聴者が楽しめるように、ブラックな要素を補正しながら物語が構成されていましたが、原作はほとんどが4コマ漫画ということもあり、この非情なストーリーが淡々と展開されていくのです。
だからこそより残酷さが際立ち、胸に響く物語として、感情移入をしながら作品を楽しむことができるでしょう。
- 著者
- えのきづ
- 出版日
- 2015-04-30
『琴浦さん』は全7巻で完結しています。そしてその最終回は、これまでの酷すぎる琴浦の人生を新しい色で塗り替えるような物語となっているのです。
すべてのキャラクターたちにハッピーエンドといえる展開を描き、それと並行して琴浦と真鍋、百合子の恋愛ストーリーにも決着がつきます。
もっとも見逃せないのは、文化祭での出来事でしょう。ESP研究会はチア部に部室を貸していましたが、そこから隠しカメラが見つかったという報告があり、冤罪で追い詰められてしまうのです。しかしそこには、ある人物からのSOSが隠れていました。
人の心を読める琴浦にしかできない推理に、彼女はどう向き合うのでしょうか。自らの能力を嫌っていた彼女の心が変化する様子は見逃せません!
『琴浦さん』のスピンオフ漫画『とっても琴浦さん』について紹介した<スピンオフ漫画『とっても琴浦さん』が面白い!魅力をネタバレ紹介!>もおすすめです。気になる方はあわせてご覧ください。
- 著者
- えのきづ
- 出版日
- 2010-07-30
アニメ作品よりもブラックだということで話題になり、人気もある漫画原作。アニメでは見やすいように、尺的に、と削られていたキャラそれぞれの個性が楽しめ、より彼らのストーリーに深みを出しています。
4コマということが活きた、淡々としながらも引き込まれる心理描写や人間関係、しかし緩急が細かくついていることのよってサクサクと読めてしまうラフさが上手く混ざり合った良作です。
琴浦さん含め登場人物たちがそれぞれ自分とどう向き合い、他人と関わるようになるのか。笑いながらも心にじんわりと沁みるストーリーをぜひご自身の目でご確認ください。
『琴浦さん』の魅力をアニメと原作で比較しながら紹介させていただきました。両者でターゲット層が異なっているため、それぞれに善し悪しがあります。共通して言えるのは、琴浦と真鍋のエロスな絡みに思わず笑ってしまうこと。