コミックス累計発行部数7000万部を超えた『鋼の錬金術師』。この記事ではそんな名作少年漫画の綿密に練られた設定と、魅力溢れるキャラたちの13の秘密についてご紹介します!ネタバレも多く含みますので未読の方はご注意ください。
- 著者
- 荒川 弘
- 出版日
『鋼の錬金術師』は、序盤から衝撃のシーンで読者を引きつけ、緻密な世界観やストーリー、魅力的な登場人物で人気を博した荒川弘の代表作とも言えるダークファンタジーストーリーです。
今回はそんな本作の知られざる裏話をご紹介!登場人物たちのあまり知られていない設定をご紹介します。雑誌「ユリイカ」の「2008年6月号 特集=マンガ批評の新展開」、「2010年12月号 特集=荒川弘『鋼の錬金術師』完結記念特集」の一部からの内容ですので、さらに詳しく読みたい方はそちらからも「ハガレン」の裏話を読んでみてはいかがでしょうか。
ちなみに本作はアプリで無料で読むこともできるので、実際に漫画で裏話を検証するのもおもしろいかもしれません!
- 著者
- 荒川 弘
- 出版日
- 2008-05-26
- 著者
- ["荒川 弘", "三宅 乱丈", "藤田 和日郎", "小泉 義之", "佐藤 亜紀"]
- 出版日
- 2010-11-27
とある片田舎に生まれたエルリック兄弟は、幼いながらに錬金術師としての才能に溢れた人物。しかし彼らの家庭環境は決していいものとは言えず、父は失踪、母が女手一つでふたりを育てますが、病気で帰らぬ人となってしまいます。
そこで兄のエドワード(以下エド)が考えついたのは、錬金術で母を蘇らせること。人を蘇らせる人体錬成は禁忌であるものの、幼い彼らはただもう一度母親に会いたいという一心で錬金術の鍛錬に励みます。
- 著者
- 荒川 弘
- 出版日
- 2002-05-22
しかし、錬成は失敗。
等価交換という原則からエドは左足を奪われ、弟のアルフォンスは身体すべてを「持っていかれて」しまいます。
しかも出来上がった母親は人間とも呼べないもので、エドは血まみれになりながら呆然とします。
しかし、アルフォンスまで失ってしまうことに耐えきれなかった彼は、自分の右腕と引き換えにアルフォンスの魂を近くにあった鎧に定着させます。
一度は希望を失い、廃人のようになってしまったエドでしたが、国家錬金術師のマスタング大佐に喝を入れられ、再燃。
そこから自らも国家錬金術師として軍に入り、アルフォンスの元の体を取り戻すための材料「賢者の石」を探す旅を始めます。
しかしその賢者の石には様々な人物の思惑が絡んでいて……。
アルフォンスについて紹介した<漫画『鋼の錬金術師』アルフォンスの魅力を徹底紹介!最終回ではどうなる?>の記事もおすすめです。
- 著者
- 荒川 弘
- 出版日
- 2005-03-11
当初は読み切りとして始まったという『鋼の錬金術師』。そのストーリーは、旅をしていたエドとアルフォンスが砂漠の街に寄って、そこに悪い領主がいて……という流れの勧善懲悪の水戸黄門のような話だったのだとか。
そこで手に入れた賢者の石を街の人のために使ってしまい、でもまた探せばいいよ、という結末の話だったそうです。
- 著者
- 荒川弘
- 出版日
- 2005-07-22
読み切りから連載の話を持ち出された荒川。その時には等価交換という発想はあったものの、それが物語全体を支配するような重みはなかったと言います。
つまり、そこから連載を開始するまでの2ヶ月弱で、この緻密で独自性の高い世界観を作り上げたということになります。しかも、その時点から最終回までの構想は、多少の変更はあれどほとんど変わっていないのだとか。
さらに、荒川は打ち切りのことまで考え、「5ヶ月バージョンの話運び」「10ヶ月バージョンの話運び」まで考えていたそうです。どこまでもストイックで準備のいい漫画家なんですね。
- 著者
- 荒川 弘
- 出版日
- 2006-03-22
少年漫画(とりわけ週刊少年ジャンプ)の王道をつくるキーワードが「友情・努力・勝利」というのはもはや多くの人が知っているところかと思いますが、実は主人公のエドはそれをまったく体現しない人物だと荒川は語ります。
そもそも、ひたすらに努力を重ねて母親を錬成し、失敗するというところから始まるストーリーなので、その過程を見せ場にすることはできません。
また、当初荒川の頭に浮かんだイメージにほとんど子供が登場しないことから、エドには友達があまりいないだろうということで、友情を描くのも困難です。
ここまでで王道は無理だと判断した作者は、なんと勝利の要素まで無くしてしまったというのです。
確かにエドが大活躍して敵を倒すという場面は少なく、大抵は他の登場人物の力がありますし、最強ポジションはマスタング大佐です。
そしてその展開も白黒ついて勝利というものではなく、荒川いわく「グダグダ」。
しかしそんな非王道の物語がここまでヒットしたのですから、作者の力量には驚かされます。
- 著者
- 荒川 弘
- 出版日
- 2006-07-22
荒川はインタビュー時に「等価交換の不可分性がバブル経済に似ている」とインタビュアーに指摘され、確かに似ている面があると返します。
そもそも荒川は農家出身なので、日本のバブル経済期にはあまり関わりがなかったそうなのですが、外から見ていて「これだけ大きな経済の動きがいいことだけで終わるはずがないだろう」と不自然に思っていたそう。
そして、確かにその後バブルは崩壊するのです。
エドたちも母親を生き返らせるという禁忌の代わりに、それぞれの体を失います。確かに、そんな等価交換の残酷なまで不可分性が、バブルという社会現象に通じるところがありますね。
- 著者
- 荒川弘
- 出版日
- 2007-03-22
物語の冒頭でエドたちが錬成した母親のエピソード、そして錬金術師の父親によって愛犬と錬成されてしまったニーナという少女のエピソード。実はこのふたつのエピソードは、荒川がクローン牛に対する違和感を持ったことから生まれた内容でした。
荒川が実家の農家にいた頃はクローン牛の飼育が全盛期で、彼女の家はその地域でも特に力を入れていたそう。
もともと、自分たちで育てた牛を自分たちで殺すという商売をしている彼女は、命を扱うことへの罪悪感は薄かったものの、クローン牛の生後1週間の死亡率が高いことから、生命の操作は何か不自然なものなのだろうと感じていました。
そんな技術の凄さと恐ろしさを表現したかったと語る彼女。その思惑どおり、人体錬成に関するエピソードからはさまざま教訓が読み取れるでしょう。
- 著者
- 荒川 弘
- 出版日
- 2007-12-22
本作に登場するホムンクルスたちですが、お父様と呼ばれるものから生み出され、それぞれの感情を持ち、変化しながら生きるというところではあまり人間と変わりありません。
この人間とホムンクルスの違いという曖昧な線引きは、荒川が農家だった時に感じた疑問からきています。
牛や馬でもペットになるものもいれば、肉として殺されるものもいる。彼女は、中身は同じなのに曖昧な人間の線引きで生死が分かれることが不思議だったと言います。
その線引きに対し、荒川はインタビューである考えを語っていますが、あなたはその線引きをどうつけているでしょうか?この機会に考えてみるのも面白いかもしれません。
ホムンクルスについては<漫画『鋼の錬金術師』ホムンクルスを徹底考察!生まれた順番で一覧紹介!>の記事で紹介しています。
- 著者
- 荒川 弘
- 出版日
- 2008-03-22
はじめからまとめて7人キャラ付けをしていたらしいホムンクルスたち。しかし、そのキャラ付けもそれぞれシルエットが出た時に分かればいいのでは、というくらいのものだったそう。
そして、そのうちに「人型でなくてもいいのでは」と思ったところからセリムが生まれたと言います。その同時期に大総統ブラッドレイも完成。やはりトリを飾るホムンクルスたちは似た時期に生まれたのですね。
そんな彼らの能力もまた、それぞれのストーリー展開に合わせて徐々に決めていったそうです。このような形でキャラクター設定を構築しながらも決して破綻させず、むしろ面白さを生み出す作者の手腕に感心してしまいます。
- 著者
- 荒川 弘
- 出版日
- 2003-01-22
エンヴィーの最後といえば、潔い自害だというのが記憶にありますが、実は彼は荒川いわく「けちょんけちょん」にしてやろうと思っていた存在でした。
当時の荒川はマスタング大佐の気持ちに強く感情移入していたらしく、ヒューズを殺したこと、そしてそれを悪びれもせず語るエンヴィーがとても憎らしかったのだとか。確かにヒューズの最期は「奥さんに化けたエンヴィーに殺される」というあまりにも悲しい結末で、作者の気持ちもよく理解できます。
しかし、ストーリーでリザがマスタング大佐を止めたように、荒川がそうしようとしたところ、他のキャラたちが止めに来たのだとか。キャラたちが作者の意図を飛び越え、もともと想定したストーリーを軌道修正させたという面白い一例です。だからこそ、本作のキャラクターたちはあれほど生き生きとして魅力的なのでしょう。
エンヴィーについて紹介した<漫画『鋼の錬金術師』エンヴィーの正体を徹底紹介!本体に隠された秘密とは?>の記事もおすすめです。
- 著者
- 荒川 弘
- 出版日
- 2009-12-22
「ラスボスよりもラスボスらしい」と称されるブラッドレイですが、彼に対しての展開は自分でも予想外な部分があったよう。大統領については、こんな風に語っています。
「大統領はラスボスみたいでしたね
もうこいつラスボスでもいいや、と思いながら描いてました」
(「2010年12月号 特集=荒川弘『鋼の錬金術師』完結記念特集」より引用)
あまりにゆるい考え方に、おもわず笑ってしまいます。
「おじさん好き」ということについて熱く語ることも多い荒川ですが、設定に関してはこんなゆるい一面もあるんですね。
- 著者
- 荒川 弘
- 出版日
- 2004-11-22
マスタング大佐の部下であり、くわえタバコがトレードマークのハボック。実は、彼は当初死ぬ予定の人物だったとか。
しかし、担当編集との「人の死は簡単に感情を動かせるけれども、生かすことでもっとすごい感動を与えられるかもしれない」という話し合いを受けて、最後まで生きることになったんだそうです。
漫画家だけでなく、優秀な編集者の力も相まって素晴らしい漫画が生まれていることを再認識させられます。
- 著者
- 荒川 弘
- 出版日
- 2007-08-11
自身が一番近いキャラについて聞かれた荒川は、「スカーやイズミ、エドに似ていると言われたことがある」と話します。一方、アームストロング姉(オリヴィエ)については「これは荒川さんから出てくるキャラだと言われた」と語ります。
もともとオリヴィエは、「感情的だと言われがちな女性から感情を取り払ったらどういう人物になるのだろうか」という実験から生まれたキャラだそう。たしかに、彼女はひたすらに合理的で芯の強い女性として描かれており、作中の女性キャラクターの中でも異質の存在感があります。
荒川自身も物事が一気に押し寄せて来た時、本当に必要なものはなにかという優先順位をつけ、それで不要なものはどんどん切っていく、合理的なタイプなのだとか。
たとえば、連載が決まった時にはやりかけのRPGをバッサリとやめ、それ以降ゲームはしていないと言います。すさまじい意思の強さを感じます。確かにオリヴィエに近い部分があるように感じますね。
- 著者
- 荒川弘
- 出版日
- 2005-11-21
シン国皇帝の後継問題でエドたちの国にやってきたリンやメイ。当初は皇位継承のために賢者の石を求めていましたが、アメストリスでは、結局賢者の石よりもいま目の前にある危機を排除することを選びました。
選択に迷う場面ですが、荒川はこれについて「王としての器を試されるものだった」と語っています。また、部下に任すことなく自分の命を張って目的を果たそうとするところも、現皇帝から評価されたという裏設定もあるそう。
シン国の現皇帝は、結果だけでなく過程も評価する優秀なリーダーだったのですね。
一般人が頑張るのが好きだと語る荒川。そんな彼女のつくる物語で、脇役にも関わらず1巻から登場し、いい具合に小狡い味を出しているのがヨキ。
荒川も「まさかこんなに頑張ってくるキャラになるとは……」「贔屓にしちゃってるのかも」と彼を評します。
たしかにヨキは狐のような小狡さはあるものの、どこか憎めない雰囲気があるんですよね。狡くても、主人公になれなくても頑張る彼は、もしかすると読者が一番共感しやすい人物なのかもしれません。
以上、『鋼の錬金術師』の裏話をご紹介させていただきました。これらの裏話をふまえて作品を読んでみるのもおすすめです。全27巻の濃厚な旅をあなたの手で紐解いてみてはいかがでしょうか?