漫画『鋼の錬金術師』の主人公であるエドワード・エルリックの弟、アルフォンス・エルリック。作中ではほとんど全身鎧で登場し、見た目の印象が強い彼の魅力を徹底紹介していきます。ネタバレを含みますので、未読の方はご注意ください。
- 著者
- 荒川 弘
- 出版日
アルフォンス・エルリックは、『鋼の錬金術師』の主人公である国家錬金術師・エドワード・エルリックの弟。2m以上の巨体で全身鎧という見た目が特徴的な人物です。
見た目の武骨さに反して、心は少年のままであるため、見た目と性格のギャップが激しく感じられるかもしれません。
兄同様に錬金術師としての才能を持っており、見た目も相まってか、作中では何度か彼が「鋼の錬金術師」の二つ名を持つ錬金術師であると勘違いされています。
そんなアルフォンスですが、テレビアニメと劇場版アニメの声優は釘宮理恵が、2017年12月から公開される実写映画では俳優の水石亜飛夢がそれぞれ演じています。
大柄で全身鎧というインパクトの強い姿をしているアルフォンスですが、彼がこのような格好をしているのには理由があります。なんと彼には肉体がなく、魂だけが鎧に定着した状態にあるのです。つまり大きな鎧の中身は空洞で、鎧だけが動いて喋っている状態ということです。
このような体になってしまったのは、彼らエルリック兄弟が幼い頃に実行した「人体錬成」が原因でした。2人は亡くなった母親を生き返らせるために錬金術において最大の禁忌である人体錬成をしようとしましたが失敗。その対価として、エドワードは左足、アルフォンスは体すべてを失ってしまったのです。
失意のエドワードはなんとか弟の魂だけでも取り戻そうと、自らの右手を犠牲にしてアルフォンスの魂を錬成、鎧に定着させることになりました。そしてそこから体を取り戻すためのふたりの旅が始まるのです。
それ以来、アルフォンスは全身鎧で生活することとなりましたが、この見た目がなかなかカッコいい。武骨ながらもシャープでキレのある印象を与えるデザインです。
ただ、なぜか腰元にふんどしのような布が巻いてあり、それがどこか抜けているようにも思えます。しかもその中に物を収容することが可能という謎の機能を携えているよう。
また鎧に人間を入れることができるのも知られている彼ですが、女性と猫しか入れないということも公言しています。大の猫好きであり、作中でも鎧の中に猫を匿ってエドワードに怒られるというエピソードが描かれていました。どちらにせよ、何かと収納に便利な体のようですね。
そんなアルフォンスは性格が温厚であるものの、時に少年らしい面も見せ、怒るとエドワードよりも怖いという特徴があります。ただし基本的には男女問わず優しく、それゆえに荒川弘公認の天然タラシの称号も。
また、ギャグパートなどでデフォルメして描かれる際には可愛らしいマスコットのような見た目になり、随所で読者を癒してくれることも。特にその可愛らしさについては、アニメ作品の声優が人気の釘宮理恵だといこともあり、多くのファンから折り紙つきの評価です。
エドワードについては<漫画『鋼の錬金術師』エドワードの魅力を徹底紹介!最終回ではどうなる?>の記事で紹介しています。気になる方はぜひご覧ください。
- 著者
- 荒川 弘
- 出版日
- 2011-06-22
鎧になってからの生活は、睡眠、食事、排泄といった生物に必要な行為が不要となるため、一見すると便利なようにも感じられます。しかし当のアルフォンスは、生物としての実感を得ることができない自分の体に対し、言い知れぬ不安を抱えていたようです。
実際に作中でも、夜にひとりでいることに対する不安を何度も口にしている場面が描かれていました。
彼と同じく鎧に魂を定着されたバリー・ザ・チョッパーから、人格と魂が人工的に作られたものであると指摘され、自分の人格や記憶がすべて偽物なのではないかと考えてしまうようになります。
ある時、エドワードも同じ疑念を抱き、その確認のために、ピナコに手伝ってもらって自分達が錬成した母親のようなものを掘り出し、それの髪色や推定身長から母親とは異なる人物だったことが判明してしまいます。
しかしそれはあくまで一度死んでしまった人間に関する事実。このことからエドワードは、幼馴染のウィンリィとの自分の知り得ない記憶や、体がなくなってからの情報を彼が溜め込んでいることから、どこかでアルフォンスの体は生きているという推測をたてます。その結果が出た後、アルフォンスはこう言いました。
「あの錬成の日から今日この日まで ボクは自分の事を責め続けていた
でも口に出すのがこわかった 母さんを……
母さんをあんな姿にして殺したのはボクだ…と!
ずっとずっと怖くて言えなかった…!!
兄さんありがとう
ボクは母さんを殺していなかった…………!!」
(『鋼の錬金術師』11巻より引用)
そんなアルフォンスの言葉を聞き、「オレもだよ」と打ち明けるエドワード。そしてそのまま今の自分の気持ちを正直に兄にぶつけるのです。
「……ヒューズさんが死んだ時 他の人が犠牲になるくらいなら
元の身体に戻らなくていいって…正直思ったよ
人ならざる身体を持ってても
自分の存在に意義を持って奔放に生きてる人達を見て
そういう生き方もあるんだと思ったし…
周りの人もこんな身体のボクを人間として扱ってくれる(中略)
…でもやっぱりダメだ
もう…… もう……
一人の夜はいやだよ…!!」
(『鋼の錬金術師』11巻より引用)
ひとりで孤独に過ごす夜の辛さをずっと耐えてきたアルフォンス。それまでずっと自分が失敗作とはいえ母親を殺してしまったのではないかという疑問や、ひとりの寂しさが永遠に続くのではないかという恐怖と戦ってきたのでしょう。
やはり肉体が無いという事実は、ひとりの少年が抱えるには大きすぎる出来事だということが実感できるエピソードです。普段は暴走しがちなエドワードを止める役割が多いアルフォンスですが、年相応の弱さにきゅんとしてしまいます。
全身が鉄の身体となったアルフォンスですが、その魂は優しい少年の心そのものです。そのため物語の初期は、立ちはだかる試練と悲劇の数々に嘆き悲しみ、弱音を吐いてしまうことも少なくありませんでした。
しかし様々な経験をして成長していくことで、いつしか兄を支えることができるまでに強く逞しくなっていくのです。
そんなアルフォンスの成長を感じることができる名言を3つご紹介しましょう。
- 著者
- 荒川弘
- 出版日
- 2005-07-22
1つ目は、ハボック少尉もマスタング大佐もホムンクルスのラストにやられ、彼らがやられたと思って我を忘れたホークアイ中尉を守ろうとして放った言葉です。
ホークアイ中尉が、敬愛するロイ・マスタング大佐が殺められたと思い戦意を失ってしまうと、彼女とラストの間に割って入り、ホークアイ中尉に立って逃げるんだ、と諭します。
しかし彼女が逃げる事もせず、ラストにも「その女は死にたがっているんだから!」と言われて攻撃を受けますが、「いやだ!!」とその場を離れません。そしてこれまで守ることができなかった人々への悔恨の念を込めてこう叫びました。
「いやなんだよ!! ボクのせいで…
自分の非力のせいで人が死ぬなんてもうたくさんだ!!
守れたはずの人が
目の前で死んで行くのを見るのは我慢できない!!」
(『鋼の錬金術師』10巻から引用)
アルフォンスという少年の優しさが前面に出た場面だといえるでしょう。自分が無力だったせいで人々の命が失われてしまった経験があり、もうこれ以上同じ悲劇をくり返さないという強い意思が表れています。
これはホークアイ中尉に向けられたものではありますが、彼自身を奮い立たせようとしているようにも感じられるのです。
2つ目は、過去におこなった人体錬成の結果から、アルフォンスの身体を元に戻すことができると確信したエドワードとの会話です。
「この体になってからの不安」のセクションで説明させたいただいように、不安をぶちまけたアルフォンス。しかし彼はそんな弱音を吐くだけで終わるような人物ではありません。最後にこう宣言するのです。
「だから兄さん
ボクは周りの人を守れるくらい強く在りたい!
もう誰一人失わない道を進んで身体を手に入れる!」
(『鋼の錬金術師』11巻から引用)
自分の身体を取り戻すために多くのものを犠牲にしてきたアルフォンスが、それでもなお前に進む決意を新たにした場面です。これまでのすべてを無駄にしないために、そして兄の想いに応えるために、体を取り戻すことを迷わないと決めた彼の強い決意を感じることができる、感慨深いひと言でしょう。
3つ目は、物語も終盤に差しかかった頃、ホムンクルスのプライドと紅蓮の錬金術師であるキンブリーを相手に交戦した際の言葉です。
このままでは勝ち目がないという時に、アルフォンスは賢者の石を渡されます。しかしそれが人間の命からできているということに躊躇する彼だからこそ渡すのだと言われ、アルフォンスは「一緒に闘おう」とその石を使って応戦するのです。
そしてその最中にキンブリーになぜ石を使わないのか、それではみんなが救えないと言うが、何かを得るためには何かを切り捨てなければならないのではないか、と言われます。
しかしアルフォンスはそんな正論のような言い分に、こう力強く返すのです。
「あのさぁ なんで二択なの?
『元の身体に戻って皆を救えない』のと
『元の身体をあきらめて皆を救う』のふたつだけじゃないだろ
なんで『元の身体を取り戻して かつ皆も救う』が選択肢に無いんだよ」
(『鋼の錬金術師』23巻から引用)
1つ目、2つ目の名言とも関連しますが、自分たちの目的である身体を取り戻すことと、誰も犠牲にしないこと、両方とも成し遂げようと言い放ちました。
自分たち兄弟の目指すべき目標に対してもはや何の迷いもなく、幾多の困難を乗り越えてきた経験から、人として着実に成長していると感じられる場面です。
アルフォンスのことを語るうえで触れなくてはならないのが、メイ・チャンという少女の存在です。彼女は物語の途中から参戦したキャラクターで、錬丹術と呼ばれる医学に特化した錬金術を用います。
当初はエドワードの噂に惚れ込んで彼らを探していたメイですが、やっと出会えたその場で幻滅。その落胆で八つ当たりしてしまい、口も良いとは言えないエドワードには愛想をつかします。
そしてその時に優しくしてくれたアルフォンスに一目惚れ。鎧だけで肉体のない彼の姿を美形少年であると妄想したメイが、一方的に憧れたことから、ふたりの関係は始まりました。
その後しばしば両者が偶然出会うことが続くのですが、他愛のないやりとりをしながらもメイのことを気遣うアルフォンスの人柄の良さに惹かれていったのでしょう、仲が深まっていきました。
最終決戦時には、アルフォンスが「メイにしか頼めないこと」として、彼女にある重大なお願いをします。ここでは具体的な内容は伏せますが、旅を続けていくうちにお互いを大切な存在として確立していった結果が表れていました。
そんなメイとアルフォンスが、物語の最後ではおそらく結婚したと思われる写真が描かれています。その写真には子供をふたりもうけたエドワードとウィンリィ、そしてアルフォンスとメイがいるのです。
確定的な証拠はありませんが、おそらくこの並びでいうとふたりが結ばれたと思われます。物語が新たな旅をするエルフォンスとエドワードを描いていますが、アルフォンスが東方まわりでその旅を始めることからそこで再会した時に何かロマンスがあったのかもしれません。そこを妄想するのもまた楽しいですね。
- 著者
- 荒川 弘
- 出版日
- 2008-12-22
エドワードにも負けない錬金術の実力を誇るアルフォンスですが、実際はどの程度強いのでしょうか。
全編をとおした描写から考察するに、それほど上位というわけではなさそうです。というのも、作中でバリエーションに富んだ相手と対戦をしていますが、敗戦の比率がやや多いのです。さらに、負けた際はこっぴどくやられている場面が多いため、明らかな戦闘力上位陣と比べると見劣りしてしまいます。
たとえば「傷の男」スカーを相手にした際は、兄弟揃って挑んだにも関わらず負けてしまいましたし、それを凌ぐ最強クラスの大総統やマスタング大佐相では、とてもじゃないですが分が悪いでしょう。
またホムンクルス相手でもラストには防戦一方と、強敵との戦闘ではイマイチ活躍できていません。
もちろん相性もあるのでしょうが、基本的に得手不得手がない代わりに突出した武器がないのも特徴だといえます。作中における戦闘力は、中の中程度ではないでしょうか。
アルフォンスの肉体を取り戻すことは、本作における終着点とも言うべきものでした。そして最終決戦を経て、兄弟は目的を達成するのです。
ホムンクルスたちの親玉である「お父様」戦では、あまりにも強力な敵の力を前に味方が成すすべもなくなり、徐々に力を消耗していきました。
そんななかで、アルフォンスがメイの協力を得て打ったある一手がエドワードの力となり、お父様を打ち倒すことに成功するのです。その後エドワードは無事にアルフォンスの肉体を取り戻し、彼らの長く険しい旅は終わりを迎えたのでした。
平穏が訪れた世界で、アルフォンスは生身の肉体で生活をし、筋肉の軋みなどを体感しながら、生きているという実感を噛みしめていきます。
その後彼らは、困っている人たちを助けるために役立つ錬金術の知識をつけるため、再び世界を旅することを決めるのです。アルフォンスは東方から学問を学び始め、エドワードが西方から学問を学び始めることで世界の学問を吸収しようという新たな旅が始まります。
これまでさまざまな苦難を乗り越え、強く逞しく成長した兄弟の今後の人生が、希望に満ちたものであることを予感させるラストで、百点満点の大団円だといえるでしょう。
『鋼の錬金術師』の裏話を紹介した<漫画『鋼の錬金術師』の知られざる13の裏話!登場人物たちの隠れた設定も!>の記事もおすすめです。
本作の終着点ともいえる最終目的のキーとなる人物、アルフォンス・エルリックを紹介してきました。ぜひ実際に作品を読んで、彼らと一緒に旅をしてその成長を感じてみてください。