冲方丁のSF小説おすすめ5選!『天地明察』だけじゃない!

更新:2021.12.13

5つの賞を受賞し映画化もされた『天地明察』で、更にファンを増やした冲方丁ですが、もともとはSF作品を多く執筆しており、アニメの脚本やゲームのシナリオを手掛けるなど、幅広い活動を展開していることでも有名な作家です。 今回は日本SF大賞を受賞している『マルドゥック・スクランブル』をはじめとする、SF作品を中心にご紹介いたします。

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スマートに時代を泳ぐ作家・冲方丁

冲方丁は1977年岐阜県生まれの作家。生後間もなく、千葉に移り、そのあともシンガポール、ネパールと世界を転々とし、同じ場所に4年以上住んだことがないという幼少期を過ごしました。

その海外生活の中で日本語に飢えたという冲方は、英和和英辞典をひたすら読み込んでいたと言います。日本から来た大人たちが残していったものを好き嫌いなく読んだそうで、ジャンルも週刊誌からファンタジーまで様々。そして自分で買った本ではないので途中からだったり、尻切れになっていたりしたそうです。

その限られた中で楽しんでいた読書体験が今の仕事に活かされていると言い、断片的な物語を自分でつくって進めていくことは、現在の想像力の原体験になっていると言います。

様々なジャンルの作品を分け隔てなく読んでいた原体験もあってか、彼は柔軟な発想ができる人物。18歳で作家デビューをした彼は文筆業を進めながら、大学に進学し、何とゲーム会社でも働くという3足のわらじを履いて生活していたのです。

そして2014年には二次創作を認める、というブログでの声明が話題になりました。出版業界では長らくグレーゾーンだった二次創作のジャンルですが、それを作家として公に認めたのです。

彼は「時代の流れ」に沿った決意だとし、海賊版の撲滅、人材育成、広告効果の効果が見込めると語ります。

彼のそのスマートさと柔軟な発想は作品でも大いに活かされており、読者を予想外の世界へと誘ってくれます。

冲方丁のSF傑作3部作『マルドゥック・スクランブル』

日本SF大賞受賞作であり、2003年に「SFが読みたい!」国内篇ランキングの1位を獲得した作品。サイバーパンクアクションで、SFならではのルビや、敢えて海外SF小説を翻訳したような文体となっています。漫画化、映画化もされていますので、そちらをご覧の方も多いかもしれません。

「死んだほうがいい」とつぶやいた少女娼婦バロットを爆炎から瀕死の状態で救出したのは、ネズミ型万能兵器のウフコックでした。法で禁じられた科学技術で一命をとりとめたバロットは、人工皮膚<ライタイト>と電子攪拌<スナーク>を手に入れます。それからバロットはウフコックと組んで、賭博師シェルの犯罪を追います。そこに立ちふさがるのは、かつてウフコックと手を組んでいた委任事件担当捜査官ボイルドで……。
 

著者
冲方 丁
出版日
2010-10-08


一作目ではアクション要素が強く、二、三作目ではカジノでの心理戦が繰り広げられるSFアクション作品ですが、テーマは”個人の孤独”です。卵料理に由来する名前を持ったバロット、ウフコックが自分探しをしていく中で成長していく様子は、感動すら覚えます。ただのSFだけではない、深いテーマを持った作品ですので、どうぞじっくりお楽しみください。

なお、3部作と書きましたが、『マルドゥック・ヴェロシティ』という続編が出版されており、ボイルドに焦点を当てた『マルドゥック・スクランブル』の前日譚となっていますので、そちらも併せてどうぞ。

自分で世界を作り上げる楽しさ『ばいばい、アース』

角川書店からは上下巻で、角川文庫からは4冊で出版されている大作です。造語やルビがたくさん使われており、独特の世界設定や言語センスが楽しめる壮大なSFファンタジーとなっています。

月歯族、ユリ科の鉄、時計石などの造語が非常に多く出てきますが、それがどういったものであるかという説明はないので、読者が想像力を自由に膨らますことができる、非常に読んでいて楽しい作品です。

この世界の人々はみな、半人半獣のような姿をしているのですが、主人公のラブラック=ベルは牙も毛皮もない無形にして異形の「のっぺらぼう」として生まれました。そんな彼女は自分と同じ存在を探す旅に出るためにEREHWONという名の剣とともに、<都市>と<外>の戦いに赴きます。そこで様々な試練を乗り越えて、ベルは成長し、最後に目にしたものは……。
 

著者
冲方 丁
出版日
2007-09-25


『マルドゥック・スクランブル』と同じように、闘う少女の自分探しがテーマとなっていますが、不思議の国のアリスのモチーフが出てくるなど、ファンタジー寄りな世界となっており、まったく違う世界観を味わうことができます。

文章で書かれた完全なる異世界を、読みながら自分の想像力で立ち上げていく楽しみは、他ではなかなか味わうことはできないでしょう。

SFサイキックアクション『微睡みのセフィロト』

『ばいばい、アース』に続く3作目であり、のちに続く「マルドゥック」シリーズや「シュピーゲル」シリーズの原型ともいうべきSFハードボイルド作品です。本作品でも、ルビや造語が多く出てきますが、英語だけではなく、ドイツ語などの読み方が出てくるため、より混沌とした世界観が楽しめます。
 

著者
冲方 丁
出版日
2010-03-05


超能力を持つ第四次元感応者<フォーづ・ディメンショナー>と、それを持たない第三次元感覚者<サード・ディメンショナー>との戦争から17年。未だ確執はありながらも、共存していました。ある時、世界政府準備委員会<リヴァイアサン>の高官の一人が、混断<シュレッディング>で殺されます。世界連邦保安気候<エルフ>の捜査官パットは、感応者育成組織「ヴァティニシアン」からの派遣された感応者ラファエルと捜査にあたります。捜査のなかで、様々な超能力での戦闘シーンがあり、『マルドゥック・スクランブル』とは違うSF感を味わうことができます。

冲方丁本人も書いていますが、『マルドゥック・スクランブル』とキャラクターのアイデア等で多く重なるところがあり、ラファエルとバロット、パットとボイルド、忠実なペットであるヘミングウェイとウフコックなど、比較しながら読んでみても面白いかもしれません。

近未来SFハードアクション『オイレンシュピーゲル』

「シュピーゲル」シリーズとして3作出版されています。「/」や「=」を用いたクランチ文体が使われており、本を開いた瞬間から異質な空間を感じることができます。
 

著者
冲方 丁
出版日


「なーんか世界とか救いてぇ――」という台詞から物語は始まります。かつてウィーンと呼ばれた都市ミリオポリスを守るのは、遊撃招待<猋>。すなわち三人の特攻少女たちが、機械の手足を自在に操って戦うSFサイボーグアクションです。国際問題やテロなども盛り込まれており、内容は重厚感があるのですが、オイレンシュピーゲル<死に至る悪ふざけ>というタイトルと、クランチ文体とが相まって、疾走感のある展開となっています。

冲方丁によるセルフオマージュ『OUT OF CONTROL』

『天地明察』の原型ともいうべき「日本改暦事情」や、寿命が300年に伸びた世界での親子の普遍的な愛情を描いたSF「メトセラとプラスチックと太陽の臓器」など、SFやホラーを含む7編からなる短編集です。ここでは表題作でもある最終話「OUT OF CONTROL」をご紹介いたします。
 

著者
冲方 丁
出版日
2012-07-20


本編は、作者が実際に体験した出来事に基づいた話で、ある作家が作品制作に行き詰まり、ジョギングに出るところから始まります。そこから不思議な恐ろしい体験をするのですが……。

前に挙げた作品と比較すると非常に異質な作品です。異世界や近未来を描いているわけではなく、日常が舞台です。この作品が面白いのは、その世界観ではなく、ストーリー自体の成り立ちです。多用されるクランチ文体は、「シュピーゲル」シリーズをほうふつとさせますし、また、「死んだほうがいい」「世界とか救いてえ」「NOWHERE(逆から読むと?)」など、これまでにご紹介した作品に出てくるワードや、この本自体の他の短編に出てくるワードがたくさん現れるセルフオマージュとなっています。

もちろんここでご紹介していないワードも出てきますので、他の作品を読みながら探してみても楽しいのではないでしょうか。

ガラケーが少なくなってきた今、スマホの次に出てくる新しい通信端末はどんなものでしょうか。SFはそんな身近なところから始まっています。SF好きな方はもちろん、今までSFというジャンルに触れたことのない方にもおすすめの作品ばかりです。どうぞお楽しみください。

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